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アメリカはなぜ台湾を支援するのか――背後に米中ハイテク競争
2021年4月25日
半導体ファウンドリ世界最大手TSMC(写真:ロイター/アフロ)
半導体ファウンドリ世界最大手TSMC(写真:ロイター/アフロ)

アメリカの台湾融和政策は、台頭する中国を抑え込むことが主目的だが、中でもハイテク競争において中国に負けてはならないという強い動機がある。世界最大手の台湾の半導体ファウンドリTSMCを中心に考察する。

◆トランプ政権が台湾に手を差し伸べたのはファーウェイへの制裁が始まり

そもそもトランプ前大統領が台湾に温かなエールを送り始めたきっかけは、何としても中国のハイテク国家戦略「中国製造2025」を潰してやりたかったからだ。中でも5G で世界最先端を行っていたファーウェイを潰したかった。

しかし、あの手この手を使ってもファーウェイがなかなかへこたれない。

そこで命綱のファーウェイの半導体チップ製造を請け負っているTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company=台湾積体電路製造=台積電)をアメリカ側に付けることにした(「積体電路」は日本語の「集積回路(Integrated Circuit)」という意味)。

基本的なご説明をすると、すべてのハイテク製品には半導体が必要だが、技術の進歩とコストの膨張などに連れて、半導体チップを製造する企業は自社で製造ラインまでをも保有することが困難となり、半導体の回路設計のみを行う企業(ファブレス=製造工場を持っていない。デザインだけを担う企業)と、その設計図(デザイン)を基に半導体チップを製造する企業(ファウンドリ)に分かれるようになっている。

たとえばファーウェイを例にとるならば、ファーウェイにはハイシリコンという半導体チップを設計するファブレスがあり、そこで設計されたデザインを基に、スマホなどのハイテク製品に使える半導体チップを製造してくれるのがTSMCであった。

このTSMCが「ファーウェイのために半導体チップを製造しません」と言ったら、ファーウェイはお手上げだ。しかしTSMCは「愛国主義者」という国家機関ではなく「商売人」だから、「商売をして儲かる相手と取引をしたい」。アップル同様、TSMCにとってファーウエイは「儲けさせてくれるお得意さん」だった。

そこでトランプは台湾の蔡英文(中華民国)総統に対してエールを送り、台湾にあるTSMCを中心としたファウンドリに「アメリカを向きましょう」という政策を進めるように台湾政府にエールを送り始めたわけだ。

アメリカには国防予算の大枠を決めるための「国防権限法」というのがあるが、2018年8月に成立した19会計年度「国防権限法」は、中国に情報や技術が流出するのを防ぐため、輸出規制を強化したり対米投資の審査を厳しくしたりする対中強硬策を多く盛り込んだ。こうしてファーウェイを含むエンティティ・リストが出来上がったいったわけだが、それでも完全にTSMCなどをアメリカ側に取り込むには、「台湾ごと」アメリカを向いていないと困る。

だからトランプは台湾にエールを送り続けた。

トランプのこの戦略は成功し、ファーウェイの5Gスマホ等の勢いは鳴りを潜める結果となった。

◆世界で圧倒的に強い、一人勝ちのTSMC

TSMCがどれだけ圧倒的に強いか、世界のハイテク市場の最新情報を提供する台湾の調査会社として信用が高いTrendForce(トレンドフォース)が調べた情報から考察してみよう。

以下に示すのは「TrendForce 2020年12月データ」の一部で、「国別・企業別ファウンドリのマーケット・シェア」である。

TrendForceが調べた「国別・企業別ファウンドリのマーケット・シェア」(2020年12月データ)

TrendForceが調べた「国別・企業別ファウンドリのマーケット・シェア」(2020年12月データ)

図表はオリジナルのママにしてある(たとえば、国別の灰色の「Others」の区切りで「7%+7%」が13%になっていたり12%になっていたりするが、それは誤差範囲か何かとみなして無視する)。

注目したいのは、台湾が2020年も2021年(予測値)も全世界の64%を占めていることだ。おまけに、その内TSMCが占める割合は54%である。この圧倒的シェアの前には誰もがひれ伏すとしか言いようがない。

仮にこれを全て中国大陸に持って行かれたとしたら、米中覇権競争において文句なしに中国が勝つことになるだろう。

しかし中国が「一つの中国」原則で台湾(中華民国)の尊厳を激しく傷つけるため、その尊厳を認めてくれるアメリカに台湾側がなびくのは当然のことだ。

もちろんアメリカがエンティティ・リストによって「アメリカ原産品目の組み込み率25%」を基準値としてファーウェイなど中国大陸のハイテク企業への半導体製品提供を禁じているので、半導体製造プロセスにおいて「アメリカ原産品目」を25%以上使用しているTSMCにとっては、アメリカが台湾に近づいてこなくても「制裁を受ける」ことからファーウェイへの半導体製品提供はできない。それが基本にあるにはあっても、いくらでも抜け道は探せるので、「台湾ごと」抱え込みましょうというのがトランプの戦略だった。

中国大陸とのサプライチェーンのディカップリングを徹底させるということである。

その姿勢はバイデン政権になっても変えることができないのが、4月23日のコラム<米上院の「中国対抗法案」に中国激怒!>に書いた「2021年 戦略競争法案」なのである。

これによりアメリカは今後「台湾」を「中華民国」と呼ぶことになる可能性が大きい。

但し、「一つの中国」原則は守りますというのが、この法案の言い分である。

◆アメリカや日本にシフトしていくTSMC

TSMCはトランプの強烈な誘いにより、アメリカのアリゾナ州に工場を新しく建設することになった。これは昨年5月に発表されたが、昨年12月にアリゾナ州工場建設許可が下りて、2024年から生産開始されることが決まった。台湾の中央行政省庁の一つである経済部が12月22日に発表した。初期投資35億ドルでアリゾナ州フェニックスに工場を建設し、12インチの半導体ウエハーを生産する。

その建設費が初期の予想の6倍もかかるとして、今年2月11日、TSMCは日本のつくば市にも拠点を新設しリスクを回避するようだ。ただしつくば市に予定しているのは、あくまでも研究開発を目的とした子会社設立で投資額は最大で186億円。高性能な3次元(3D)集積回路の製造技術開発を目指すとのこと。

◆半導体が世界の趨勢を決める

拙著『「中国製造2025」の衝撃』にも書いたように、中国は2025年までに中国で使用する半導体の70%を中国国産に切り替えようという目標を立てているが、今のところその目標達成は遠のいている。

今や半導体は軍事産業を始めとした全てのハイテク製品に隙間なく使われているので、この半導体製造を米中のどちらが握るかで、世界の趨勢は決まっていく。だからバイデン政権もハイテク産業への投資に重点を置き、「エンドレス・フロンティア法案」(Endless Frontiers Act)なるものを打ち出している。アメリカ国内の技術発展のために5年間で1000億ドルの拠出を求めるものだ。アメリカはかつて西部開拓のようなフロンティア精神で発展してきたが、それを今度はハイテク分野でもエンドレスに続けようという、国家の命運を賭けた「アメリカ半導体産業強化法案」なのである。

4月14日に開かれた公聴会で、シューマー上院院内総務は今後数週間のうちに法案パッケージについて採決を行う意向だと述べたと、ブルームバーグが報じている

アメリカは半導体設計ではまだ何とか世界をリードしているが、上記のTrendForceの図からも分かるように、半導体製造に関しては他の国に後れを取っている。グローバルファウンドリ(アメリカ)が2016年ころには11%のシェアで頑張っていたが、2018年には後退し、現在は図にある通り7%で、TSMC、サムスンに取って代わられている。インテルも頑張っていたのだがつまずいてしまい、脱落の危機に見舞われた。しかし今年3月24日にインテルはファウンドリとして200億ドルを投資しているという。

バイデンは2兆2500億ドル(約245兆円)規模のインフラ計画の中に半導体製造・研究予算500億ドルを盛り込んだ。この予算を中国への対抗を狙った「エンドレス・フロンティア法案」で具体化していくようだ。

台湾を丸ごと抱き込んだことにより、半導体に関しては現時点でアメリカに軍配が上がっている。

しかし米中覇権競争の分岐点となる日本は、中国経済に頼り切り、日米首脳会談でも「両岸問題」という中国政府の官製用語でしか意思表示をできなかったわけだ。

アメリカが明確に「台湾」に舵を切っているというのに、日本はいったい米中どちらに寄り添っているのかという印象さえ抱く。

本日のこのコラムまでが、日米首脳会談の真相を読み解くための、その背景にある考察である。4月20日のコラム<日米首脳会談・共同声明の「からくり」――中国は本当に「激怒」したのか?>でお約束した「体力的ゆとりがあれば考察を続ける」と自らに課した宿題は、一応ここまでとする。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.