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習近平の奇策か パキスタンを使い「トランプをノーベル平和賞候補」に推薦してイラン攻撃を阻止させる?
習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)
習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領がイスラエルを支援してイラン攻撃に参加するか否かに関して世界の関心が集まっている。習近平国家主席はプーチン大統領と電話会談をして「外交努力を」と通り一遍のことを言うのがせいぜいのところだろうと思う人が多いだろうが、どうやら、とんでもない「手」を打っているようだ。

先のインド・パキスタン戦争で、「トランプが停戦をさせた」ような話が出ていたが、実はインドが使ったフランス製の戦闘機が、パキスタンが使った中国製の戦闘機に惨敗している。

ところが習近平はこれを逆手に取って、「インド・パキスタン戦争を中止させたのはトランプだ」として、パキスタンに「トランプにノーベル平和賞を!」という売れ込みで、「ノーベル平和賞受賞候補者」に持ち込んで、トランプによるイラン攻撃を阻止させようと企てているようなのだ。

◆パキスタン政府はトランプを「ノーベル平和賞推薦」と発表

6月21日、午前5:30、パキスタン政府@GovtofPakistanは、「ドナルド・J・トランプ大統領を2026年のノーベル平和賞に推薦」という見出しのポストを投稿した

そこには概ね、以下のようなことが書いてある。

  • パキスタン政府は、最近のインド・パキスタン危機におけるドナルド・J・トランプ大統領の断固たる外交介入と極めて重要なリーダーシップを称え、2026年のノーベル平和賞に正式に推薦することを決定した。
  • 国際社会は、インドによるパキスタンに対する侵略行為を目の当たりにした。これはパキスタンの主権と領土保全に対する重大な侵害であり、女性、子供、高齢者を含む罪のない人々の悲劇的な犠牲をもたらした。パキスタンは自衛の基本的権利を行使し、ブニャナム・マルスース作戦を開始した。これは、抑止力の再構築と領土保全の確保を慎重に行い、民間人の被害を意図的に回避した、慎重かつ断固とした、的確な軍事対応だ。
  • 地域の混乱が激化する中、トランプ大統領は優れた戦略的先見性と卓越した政治手腕を発揮し、急速に悪化する情勢を緩和、最終的に停戦を実現した。この介入は、トランプ大統領が真の平和推進者としての役割を担い、対話による紛争解決に尽力してきたことの証しだ。
  • 2025年のパキスタン・インド危機におけるトランプ大統領のリーダーシップは、実利的な外交と効果的な平和構築という彼の伝統が継承されていることを如実に示している。パキスタンは、ガザで展開されている非人道的な悲劇やイランをめぐる情勢悪化といった中東における継続的な危機において、トランプ大統領の真摯な努力が地域および世界の安定に引き続き貢献することを期待している。 (以上)            

最後のフレーズ「イランをめぐる情勢悪化といった中東における継続的な危機において、トランプ大統領の真摯な努力が地域および世界の安定に引き続き貢献することを期待している」は、なんとも見事な締めくくりではないか。

これに対してトランプ自身も、概ね以下のようなポストを発表している

  • インドとパキスタンの戦争を止めたとしてもノーベル平和賞を受賞することはないだろうし、セルビアとコソボの戦争を止めたとしてもノーベル平和賞を受賞することはないだろうし、エジプトとエチオピアの平和を維持したとしてもノーベル平和賞を受賞することはないだろう。
  • また、中東でアブラハム合意を行ったとしてもノーベル平和賞を受賞することはないだろう。
  • いや、ロシア/ウクライナ、イスラエル/イランを含め、私が何をしても、結果がどうであれ、ノーベル平和賞は受賞しないだろうが、国民は知っているし、私にとってそれがすべてだ!(以上)

おやおや・・・。

トランプにしては少々斜めからの発言だが、「ほかにもこんなに多くのノーベル平和賞に値することをやっているよ」というのを、強調しているようにも読める。つまり、まんざらではないということになろうか。

流れとしては、

という傾向にある。

ちなみにインドは「インド・パキスタン紛争の停戦とトランプはいかなる関係もない」的なことを言っているが、インドが使用していたフランスの戦闘機が、パキスタンが使用していた中国の戦闘機に敗けたとも言っていない。

◆パキスタン軍が使用した中国製軍用機「殲10ce」が、インド軍が使用したフランス製軍用機「ラファール」などを撃墜

少し前のことになるが、今年5月7日、インドがOperation Sindoorを発動してミサイルを使ってパギスタン国内を襲撃した。さらに大量の戦闘機を使ってパキスタンを攻撃したが、パキスタンが反撃して、中国製の「殲10ce」などを使って、フランス製のラファール( 3機)、旧ソ連時代のMiG-29( 1機)、ロシアン製のSU-30MKI( 1機)を撃墜したと、パキスタン政府側は主張した(有料)。

パキスタン側は、「インドは70機くらい出動させ、パキスタンは28機を出動した。パキスタンはインドの戦闘機10機以上を撃墜できるが、事態を拡大さえたくないために5機のみを撃墜した」と発表した

インドは1機が2.18億ドルという高い価格でフランスの軍用機「ラファール」を調達しているが、パキスタンは1機4000万ドル程度の低価格で中国の軍用機「殲10ce」を購入していると言われている。これまで世界の評価では、ラファールは4.5世代の戦闘機で、殲10c(輸出用は殲10ce)はそれより遥かに性能が悪い戦闘機とされてきた。ところが、初めての戦闘で、殲10ceは全く傷を受けることなくラファールを3機も撃墜したことが、軍事分野で大きな話題になった。中国は実戦で軍用機を使ったことがないので、中国にとっても初めての実戦経験になったわけだ。

もっとも、インドは撃墜されたことを認めず、あくまでもインドが勝利したことと主張し、Operation Sindoorの勝利を10日間祝う活動を今やったほどだ。どうやらフランスの軍事評論家は、ラファールの性能が悪いのではなく、あくまでもインド軍の操縦レベルが低かったのだと主張したようだが、あやふやなまま、戦争は終えた。

◆習近平が「トランプのノーベル和賞候補」の手を使うのは二回目

2月22日の論考<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>で書いたように、習近平が「トランプがノーベル平和賞を欲しがっていることを利用して、トランプを落とそうとした」のは、これが初めてではない。

2月12日のウォール・ストリート・ジャーナルはExclusive | China Tries to Play the Role of Peacemaker in Ukraine(中国はウクライナに和平をもたらす役割を果たそうとしている) – WSJというタイトルで、タイトルからは推測しにくい内容の報道をした。そこには「習近平はトランプがノーベル平和賞を受賞したがっていることを知っているので、ウクライナ戦争の停戦問題をトランプが前面に出て解決してはどうか」という趣旨の提案を水面下で行なっていた」という趣旨のことが書いてある。

事実、トランプ2.0の国家安全保障担当補佐官マイケル・ウォルツは、今年2月21日、「すべてがうまくいくだろう。戦争は終わり、ドナルド・J・トランプの名前の隣にノーベル平和賞が置かれることになる」と言っている。

また1月23日のダボス会議にオンライン参加したトランプが「私は習近平が大好きだ。ずっと好きだった」と公言している。従って、習近平は1月20日の就任式までに、すでに水面下での米中間ビッグディールを画策していたのだろうことが、うかがわれる。

実は今般は、6月16日に、駐パキスタンの姜再冬・中国大使が、パキスタンのカマル商務大臣と会談し、二国間の経済・貿易協力の推進について意見交換を行った。パキスタンのアフザル首相調整官やポール商務省事務次官も出席している。それ以外にも細かな接触があるが、どうも、このあたりで、「習近平の奇策」が話し合われたのではないかと推測される。それが6月18日以降のパキスタン側の行動へとつながったと考えるのが妥当かもしれない。

◆核拡散防止条約も核兵器禁止条約も非合理的だが、イスラエルの横暴は目に余る

そもそも、「アメリカ、フランス、イギリス、中国、ロシア」という核保有5か国だけが核を保有してよく、他の国は核兵器を今後保有してはならないなどという「核拡散防止条約」もナンセンスであるなら、ましてや「核兵器禁止条約」もまた、あまりに核保有国に有利過ぎて、話にならないほど不合理な条約だ。このような不合理な条約に則って、イスラエルがイランに対して「お前は核兵器を製造してはならない」として、ガザに対するのと同じようなジェノサイドを断行しようとすること自体、あまりに非人道的で黙って見ていることが耐えられない。そこにトランプが、自国における選挙のためにユダヤ人ロビーを味方に付けようとしてイラン攻撃に加担するなど、「民主主義制度に基づく選挙」とは何なのかと義憤を感じ得ない。選挙に勝つために他国の無辜の民をゴミのように虐殺する行為と、民主主義制度の精神は一致するのかと、G7の決議にも納得がいかない。

習近平としては、せっかくイランとサウジアラビアの仲を仲介して中東諸国間の「和解雪崩現象」の流れを作ったのに、それを阻害されるのは面白くないだろう。しかし、誰とも敵対せずに、「ノーベル平和賞候補者」という「手」でトランプの戦争への道を防げるのなら、悪くはない選択と思っているかもしれない。

言論弾圧をする国として世界から警戒されている中国ではあるが、トランプ2.0の嵐によって、なにやら相対的に漁夫の利を得ているような感もなくはない。それが功を奏するのか否か、しばらく成り行きを見守りたい。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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