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台湾武力統一に備えた中国軍の「ナゾの建物」に関する日本メディアの報道
頼清徳総統(写真:ロイター/アフロ)

5月19日、日テレニュースNNNが<「台湾統一」へ中国の“戦略” 砂漠にナゾの建物…意味するのは?【バンキシャ!】>という見出しの報道をした。「砂漠にナゾの建物」というのは、1年ほど前に台湾メディアが盛んに報道した情報なので、あの話とは違う新しい情報かと思い、その「ナゾの建物」だけに焦点を当てて、ネットで【バンキシャ!】を見てみた。

すると何のことはない、1年前の台湾メディアの焼き写しだし、台湾メディアの場合は、きちんと画像の出典を明示しているが、【バンキシャ!】の場合は出典を示さず、あたかも日テレが初めて発見したかのような番組の作りになっている。

しかも、なんと、【バンキシャ!】の記者は、最初に「ナゾの建物」を衛星画像で発見した台湾人の「@sfx_ewss」氏にXで質問している痕跡があることさえ見つけた。

筆者は【バンキシャ!】とはいかなる関係もないし、最近はそもそもテレビを見ないものの、昔は「なかなかいい番組を制作している」と思って見た記憶がある。この番組に関しては好感しかない。

それなのに、なぜあの【バンキシャ!】がこのような番組制作の姿勢になってしまったのだろうか?

そこには日本のメディアの怠慢が表れているように思われ、心が痛む。

◆【バンキシャ!】に掲載されている衛星写真

冒頭に書いた<「台湾統一」へ中国の“戦略” 砂漠にナゾの建物…意味するのは?【バンキシャ!】>の2分45秒(2:45)の所には、図表1に示したような画像がある。

図表1:【バンキシャ!】が示した衛星画像

【バンキシャ!】の動画のスクリーンショット

冒頭にある動画のリンク先をクリックしてお聞きになると、この画像の前置きとして番組は以下のように説明している。

――まず注目したのは、中国の内モンゴル自治区だ。広大な砂漠の一角に、突然現れた“街”。道路が交差し、大小さまざまな建物も確認できる。 実はこれ、中国軍が台湾のあるエリアを再現した、いわば“レプリカ”とみられている。そのエリアとは。台湾の地図で探してみると、台北市内に道路の配置がそっくりなエリアを見つけた。(以上、番組からの引用)

そして2分30秒(2:30)の所では、「この辺の縦の道路と、この三角っぽいところが似てますね!」という言葉がある。あたかもそれを発見したのが【バンキシャ!】の記者であるような説明ぶりだ。

その結果、図表1の上部にある衛星写真が、実は台湾の総統府の周辺であることを「突き止めた」という構成となっている。実地検証したのは初めてなのかもしれないが、「いや、待てよ」という気持ちが心をよぎった。

これは1年ほど前に台湾のメディアが報道したものだし、その出典は、ある「軍事オタク」らしい「@sfx_ewss」という台湾人が発見して2024年3月26日にXに投稿したものではないか。

◆「@sfx_ewss」が投稿した衛星画像と、それを転用した「@JosephWen」

まず、最初に衛星画像を見つけた「@sfx_ewss」の投稿画像と、それを引用した「@JosephWen」の投稿画像を見てみよう。

2024年3月26日午前3時49分に、台湾人の「@sfx_ewss」がXに衛星画像を投稿した。それを図表2として示す。

図表2:最初に衛星画像を発見して投稿した「@sfx_ewss」のX

「@sfx_ewss」のXのスクリーンショット

すると、すぐさま、「@JosephWen」がXに、「@sfx_ewss」がこんなのを投稿していると明記して図表3を投稿した。

図表3:「@JosephWen」のX(2024年3月26日)

「@JosephWen」のXを転載し、地点の和訳をするとともに画像出典を示した「@sfx_ewss」の文字を筆者が拡大した

図表3の下の方に小さな文字で出典が書いてあるので、それを見やすいように拡大した。この文字が肝心だからだ。ここにジャーナリストとしての姿勢の分岐点がある。

図表2と図表3を比べると、「@JosephWen」が、「@sfx_ewss」が見つけた衛星画像の下に貼り付けてある台北市の地図に、赤線を加筆したということが見て取れる。

赤線を加筆する際に、「@JosephWen」は非常に丁寧に、「出典は@sfx_ewssですよ」ということを明記している。広大な天空の衛星写真の中から、ここに注目して真夜中(明け方)まで努力して追跡した「@sfx_ewss」への敬意がにじみ出ているようではないか。

何という爽やかさ、何という正直さだろう!

その姿勢は神々しく、美しい感動を読む側に与えてくれる。

すると、たちまち台湾メディアは、同じように「@JosephWen」への敬意を表して、台湾のネットには爆発的にこの画像が転載されるに至った。

◆台湾メディアに満ち溢れた「出典を明記した」衛星画像

あまりに多いので、どれをご紹介していいか分からないが、かなり早かった、当日の3月26日12時6分に「自由時報 軍武チャンネル」が公開した情報<共産党軍は内モンゴル自治区に爆撃場を建設  JosepfWen:博愛特区マップ>を見てみよう。タイトルにまで出典者の名前が書いてあるほど、著作権を重視していることに、まず注目したい。そこに掲載されている衛星写真と台北市の当該エリアとの対応図を図表4に示す。

図表4:衛星画像に関する台湾メディアの報道

「自由時報 軍武チャンネル」の画像を転載の上、筆者が日本語注

こうしてたどって行けば、最初に衛星写真で内モンゴルの中国人民解放軍の軍事訓練用の「総統府周辺の模型」を発見したのは「@sfx_ewss」だということが明確になる。

そして図表1は図表3を模倣したものであることは誰の目にも明らかだろう。

【バンキシャ!】は、この事実を知らなかったと言えるのだろうか。

◆【バンキシャ!】はXで衛星画像発見者「@sfx_ewss」と交流していた

【バンキシャ!】の記者が、衛星画像の最初の発見者が「@sfx_ewss」で、彼が図表2に示した台北市との対応図をXに投稿していたことを知っていた証拠を見つけた。

図表5に示したのが、その証拠だ。

図表5:【バンキシャ!】の記者がXで「@sfx_ewss」と交流している画面

「@sfx_ewss」のX画面のスクリーンショット

【バンキシャ!】の記者は「真相報道バンキシャ!取材班」というアカウント名で「@sfx_ewss」に質問をしている。図表5に書かれている文言を日本語に訳して以下に示す。

●「真相報道バンキシャ!取材班」:こんにちは。私は日本テレビ報道番組真相報道制作部のスタッフです。現在5月18日に報道する台湾有事に関する番組を制作中です。あなたが以前、Xに投稿した内容に非常に深い興味を持っています。さらに詳細な情報があったら教えて頂けますか?まずは、あなたのXに私を追加して、その後プライベート・メッセージで連絡していただけますか?(【バンキシャ!】の記者の質問はここまで。)

Xで公けにやりとりすると、秘かに「@sfx_ewss」から情報を得ることができなくなるので、プライベート・メッセージをお願いしているのかと解釈できなくもない。いずれにせよ、この時点で既に、衛星画像の最初の発見者は「@sfx_ewss」で、彼が衛星画像に台北市の地図を対応させていることを【バンキシャ!】の記者は知っていたということになる。

さて、【バンキシャ!】に対して「@sfx_ewss」は、どのように回答したのかを和訳してお示しする。

「@sfx_ewss」:こんにちは。あの投稿は、たまたまGE(グーグル・アース)で見つけた画像を基にしたもので、(衛星画像にある)あの仮想ターゲットエリアは、たまたま私がよく知っている(台北の)エリアとそっくりだったので、そのエリアを最終的に確認して対応させる形で投稿したまでです。情報はこれだけで、これ以上の情報を提供することはできません。ありがとう。(「@sfx_ewss」の回答はここまで。)

 

なぜこの話にここまで深い興味を持ったかと言うと、このやり方は筆者にある事件を思い起こさせたからだ。

◆櫻井よしこ氏の執筆「手法」

2001年12月10日、日経BP社から『中国がシリコンバレーとつながるとき』という本を出版した。中国が全世界に散らばる中国人の博士たちに呼びかけて帰国を促すための「中国発出全球人材信息網(GLOBAL CHINA TALENTS NETWORK)」を形成しているのを発見したからだ。その実態を把握するためにアメリカだろうとフランスだろうと、どこまでも欧米に留学してその地に留まっている中国人博士たちを取材しまくり、中国政府が呼び掛けている「グローバル・チャイナ・タレンツ・ネットワーク」にどのように呼応しているかを徹底して考察した。特にシリコンバレーには深く潜り込み、シリコンバレーで創業している元博士たちの家の地下室にまで行って実態と苦しい心境まで抉りとって描いた。

中国で生まれ育ち、日本人として激しく虐められ、自殺まで試みた苦しい日々への仇討ちのように、心で泣きながら世界に散らばる中国人博士たちの世界に飛び込んでいった。まさに血と涙で書き上げた結晶のような本だ。

拙著が出版されると多くのメディアから取材を受けたが、その中の一つに「週刊新潮」がある。その記者は、ともかく拙著に書かれていることを初めて知り、「こんな素晴らしい本はない」と褒めちぎり、何日間にもわたって膨大な時間を使って筆者を取材した。

しかし、いつまで経っても、その結果どのような報道がなされたのかを知らせてこない。

電話して聞いてみたところ、別人のような口調で「あー、あれね。もう発売されました」と素っ気ない。2003年4月10日号に書いてあるので、読みたければどうぞ、と言わんばかりのトーンだ。

購入してみて驚いた。

なんと、そこにあったのは櫻井よしこ氏の「日本ルネッサンス拡大版」で、【「ゆとり教育」をあざ笑う中国の「超エリート主義」】という見出しの中で、まるで櫻井よしこ氏が自分で調べあげたようなトーンで扱われている。筆者のあの血と涙の結晶は、「ついでながら、遠藤誉もこんな感想を持っていますよ」という程度の位置づけだ。

あれだけ熱心に取材に対応してあげたのに、あんまりではないかと筆者を取材した記者に電話した。櫻井よしこは、こんな人なのか、とても信じられないので、彼女に会わせてくれと迫ったところ、「いや、そればかりは、どうか・・・」と、突然低姿勢になったではないか。

「なぜなんですか?なぜ櫻井よしこに会ってはならないんですか?私には彼女がこんな卑怯なことをする人とは思えないんですが…」と迫ったところ、「いえ、櫻井先生は何もご存じないので…」と言うではないか。

「えっ?これは櫻井さんが自分で書いたものではなく、あなたたち周辺の記者が書いたってことですか?」

あまりの驚きで語気は強かったと思う。

すると、「いや…、あの…、その……」とまるで返事になっていない。

大体のことは想像がついた。

しかし、このビジネス「手法」に納得したわけではない。まともに相手のするのも、こちらの格が下がると思って黙ってきた。多忙を極めており、正直、それにずっと関わっている時間もなかった。

そんなモヤモヤした思いを抱えながら、気が付けば、もう20年以上の年月が経っているではないか。そんな折に【バンキシャ!】の情報に出会ってしまったというわけだ。【バンキシャ!】には、気の毒な気がしないでもない。悪質さの程度はまるで違うのだから。

念のため、図表6と図表7に「週刊新潮」の記事と、そこに書いてある王立石氏に関する筆者の本の冒頭頁をスキャンしたものをお示しする。

図表6:筆者を何十時間にもわたって取材した結果の「週刊新潮」の記事

「週刊新潮」2003年4月10日号をスキャン

図表6の右側(p.56)には、まるで櫻井よしこ氏が王立石博士を取材したような流れになっている。しかし、その王立石は拙著の冒頭に出てくる人物だ。特に誰もが知っているような人物ではない。筆者が取材した内容がそのまま「週刊新潮」に櫻井よしこ氏の文章として書いてあるだけである。

図表7:拙著のカバーと書き出しにある王立石氏のストーリー

筆者が拙著をスキャンして作成

このような例は後を絶たず、これからさまざまなことに挑戦しようとする若者たちのために書いた次第だ。

ちなみに「台湾有事」が懸念される中、5月20日に行なわれた頼清徳総統の就任1年目の演説では、中国非難を避けている。【バンキシャ!】の記事は、この5月20日の頼清統演説を見据えて報道されたものと解釈されるが、どうやら「台湾有事」がすぐに起きるという状況は、トランプ関税のせいで当面は少しだけ抑えられているのかもしれない。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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