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ハーバード大留学生を速攻で獲得しようと動く中国 全世界の対米留学ビザに規制を拡大する米国
中国のネットで流行っている「川建国」(トランプが中国を再び建国させる)のイラスト。革命的青年と共に毛沢東のスローガンの一つであった「社会主義新農村を建設しよう」と書いてある。

5月22日、米政権がハーバード大学にいる留学生や訪問学者を大学から追放し、同大学の留学生および訪問学者の受け入れ資格を取り消すと宣言すると、中国は素早く動いた。香港やマカオの大学にハーバード大学にいる留学生を破格的な好条件で受け入れると宣言させたのだ。すでに数十名のハーバード大留学生からの問い合わせが来ていると香港メディアは伝えている(国籍は不明)。

中国のネットでは、「トランプが中国を再び建国させる」という意味の「川建国」(川はトランプ=川普の意味)が再登場し、トランプ政権の留学生追放を大歓迎している有り様だ。

一方、5月27日、米メディアのPOLITICOは「マルコ・ルビオ国務長官が署名した電報によると、学生ビザ申請者のための新しい面接を一時停止するように全世界の米国大使館と領事部に命じた」とのこと。

「人材奪取に奔走する中国」と「人材を締め出そうとする米国」。

このままでは「川建国」が大活躍することになるではないか。

◆人材奪取に速攻で動いた中国

中国外交部の毛寧報道官は5月23日の定例記者会見で、「中国と米国の教育協力は互恵的だ。中国は、教育協力の政治化に常に反対してきた。米国側の関連する行動は、米国のイメージと信頼性を損なう。中国は、海外の中国人学生と学者の正当かつ合法的な権利と利益を断固として保護する」と述べた。

同日、香港科技大学は<世界的な学問的変化に対応して、ハーバード大学の学生に門戸を開く>旨の告知をした。

また5月24日早朝の「香港文匯網」は、<米国がハーバード大学留学生受入を禁止 香港の大学が火速(火のような速さ)で「人材収奪」:無条件入学+奨学金特設>という見出しで、香港の大学全体の対応を詳細に報道している。それによれば、香港科技大学以外に、香港城市大学、嶺南大学、香港中文大学、香港理工大学、香港大学など、ほぼ全ての大学がハーバード大学留学生受け入れに手を挙げ、それぞれ以下のような優遇策を打ち出している。

  • 無条件で編入を受け入れ、学業を継続できる措置を取る。
  • 単位互換などの手続きを含むあらゆる支援をする専門チームを設置。
  • 宿舎や特別奨学金を支給する。
  • ハーバード大学の指導教官ごと雇用し共同で指導に当たる。
  • ハーバード大学同窓会窓口を活用する。
    ・・・・

などなど、至れり尽くせりの厚遇を揃えて人材誘致に全力を尽くしている。特に拙著『米中新産業WAR』の【第四章 世界シェアの90%をいく中国のドローン】で書いたように、ドローンの王者DJIの創設者・汪滔(おうとう)は香港科技大学の卒業生だ。1980年に浙江省杭州市で生まれ、小さい頃に「赤いヘリコプターの冒険物語」という漫画に惹かれてドローンを造るようになり、中国を世界一のドローン大国に導いている。科学技術を目指す若者で知らない人は少ないほどのイノベーター精神がそこにはある。

香港メディアによれば、5月26日時点で数十名のハーバード大学留学生から問い合わせがあったとのことだ。国籍を明かしてないが、おそらく主として中国大陸あるいは香港からハーバード大学に行った留学生ではないかと推測される。

中共中央が管轄する中央テレビ局CCTVもまた5月25日に<香港マカオの大学が人材収奪合戦:米国留学生の転校を受け入れ用意>という見出しで、この現状を報道している。

◆中国のネットで活躍する「川建国(トランプが中国を再建国させる)」

中国ではトランプをその発音に漢字を当てはめて「特朗普」と書いたり「川普」と書いたりする。庶民の間では「川普」の方が多い。「川」一文字でトランプを表すこともある。冒頭に書いたように「川建国」は「トランプが中国を再建国させる」という意味である。タイトル画像にあるのは、「川建国」のイラストの一つだ。

中国のネットには再び「川建国」が現れ始め、たとえば5月27日には<トランプ政権はハーバード大学と戦争状態に! ハーバード大学は共産党と結託しているのか? トランプはハーバード大学の留学生資格を取り消すと脅した。表面上は党派や個人的な恨みの問題だが、実際にはトランプはアメリカ文化のソフトパワーの最強の拠点を直接破壊したのだ! 川建国に感謝!>という非常に長いタイトルのユーチューブ動画なども現れている。

あまりに長いし早口なので、このユーチューバーが言わんとしている概略を抜き出し、中国の現状説明も加えながら要点を列挙したい。

  • トランプはなぜハーバード大学を攻撃するのか。それはハーバードが民主党の拠点であり、知の殿堂であるからだ。反ユダヤ主義だろうと、反中国共産党だろうと、トランプにとっては、どうでもいいことだ。
  • トランプはエリートが大嫌いだ。トランプの支持者たちは小学卒かせいぜい中学卒の者が多い。農民であり、労働者であり、その岩盤支持層に歓迎されるには知識人を打倒することが肝心なのだ。知識人は民主党の岩盤支持層でもある。だから、知識人の象徴であるハーバード大学をトランプは狙う。
  • 毛沢東も知識人が大嫌いだった。トランプの「打倒ハーバード」は「文化大革命のアメリカ版」だ。
  • トランプの行動(奇行)は、すべて中国に有利に働く。やはり「川建国」だ。「川建国万歳!」(以上)

中国は毛沢東が農民を中心に革命を起こさせ建国した国なので、革命的闘士とトランプが肩を並べるイラストが流行ったものだ(参照:タイトル画像)。そのトランプの奇行がいつも中国に有利に働くとして、トランプは、毛沢東が中国を建国したように、中国を再建国してくれると中国のネット民は喜んでいる。その意味で中国人はトランプが大好きだ。

高関税を中国にかけておきながら、中国が報復関税で抵抗すると、トランプはいきなり115%も対中関税を引き下げた。これは「中国の大勝利だ」と中国人は拍手大喝采している。トランプはこのようにいつも中国に有利なことばかりやってくれるので、「川建国万歳!」なのである。

だから<中国と欧州が、ハーバードから追い出される留学生(エリート難民)を頂こうと「人材争奪合戦をしている」>という論評なども見受けられる。その冒頭には「川建国再出神操作!」(川建国が再び神の操作を始めた!)とある。そしてアメリカから科学者が脱走しようとしているとして、イギリスの科学誌ネイチャーの調査結果を取り上げている。

どうやら早くも3月27日に<アメリカの75%もの科学者がアメリカから逃げ出そうと思っている>(有料)という調査結果をネイチャーが出したようだ。

◆ルビオ国務長官が全世界の米大使館に新入生ビザ面接の一時停止を指示

そのような中、5月27日のアメリカのメディアの一つであるPOLITICO(ポリティコ)は、<ルビオ国務長官が署名した新たな学生ビザの申請受付を一時停止するよう全世界の米大使館に指示を出した>という趣旨の報道をしている。これは9月の新学期を迎えるに当たり、「新たに新入生としてビザ申請をする人たちの面接を一時中止せよ」というもので、理由は「審査基準厳格化の拡大」にあるらしい。

この電報は、将来のソーシャルメディア審査が何を選ぶのかを直接詳しく説明していないが、テロリストを締め出し、反ユダヤ主義と戦うことを目的とした大統領令をほのめかしているという。

だとすれば、中国にとって、またもや「川建国」現象が増えたことになりはしないか。

5月28日、中国外交部の毛寧報道官は定例記者会見で、トランプ政権が留学生のビザ取得のための新規面接予約を一時停止するよう指示したことについて、「正常な教育協力や学術交流が妨害受けるべきではない」と、もっともらしいことを言っているが、本心は違うだろう。本当は「トランプが中国に有利になることを又やってくれた」と喜んでいるのではないだろうか。

「川建国」がこれ以上活躍しないことを祈らずにはいられない。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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