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米上院の「中国対抗法案」に中国激怒!
米議会議事堂(写真:ロイター/アフロ)
米議会議事堂(写真:ロイター/アフロ)

4月21日、米上院外交委が「2021年 戦略競争法案」を議決した。CCTVは特集を組み、中国全人代外交委が抗議談話を発表し、中国は対米抗議に燃え上がっている。日米首脳会談共同声明への反応とは対照的だ。

◆米上院外交委員会が可決した「2021年戦略競争法案」とは?

「2021年 戦略競争法案」は2021年4月8日に米上院外交委員会が提出した「中国対抗法案」で、バイデン大統領が「中国は競争相手だ」と言ったのに対し、それならその「競争戦略」を明文化せよと、バイデン大統領に迫ったものである。対中強硬政策は共和党と民主党の唯一の共通した政策であり、4月21日に米上院外交委員会で可決された。中国に対抗することを目的としている。

4月21日のコラム<「米軍は中国軍より弱い」とアメリカが主張する狙いは?>に書いた通り、同法案では中国の台頭に対抗してアメリカのプレゼンスを強化するために、インド太平洋における軍事的投資を優先することを先ず強調している。

と同時に際立っているのは、台湾との関係強化を訴えていることだ。

283ページにわたる長文なので読解は大変だが、たとえば同法の212条には「アメリカと台湾とのパートナーシップの強化」が謳われており、以下のような政策が列挙されている(8項目あるが代表的なものだけ拾い上げる)。

  • 台湾をアメリカのインド太平洋戦略の重要な一部として認識すること。
  • 台湾の防衛戦略に十分な資源を投入するために、(米軍の)防衛費を増やすこと。
  • 台湾の自衛能力、特に、対艦、沿岸防衛、対機甲、防空、海底戦、高度な指揮統制、通信、コンピュータ、情報、監視、偵察、弾力性のある指揮統制能力などの非対称能力を開発し、軍に統合するための努力を強化するために、台湾への防衛物品の定期的な移転を行うこと。
  • 国連、世界保健総会、国際民間航空機関、国際刑事警察機構、その他の国際機関への台湾の有意義な参加を適宜提唱し、積極的に推進すること。
  • アメリカ、台湾、およびその他の志を同じくするパートナー間の有意義な協力を促進すること。

これらは中国(北京政府)がひっくり返って激怒する内容ばかりだ。

第213条「台湾政府の扱い」には、以下のようなことが書いてある。

  • 国務省およびその他のアメリカ政府機関は、民主的に選出された台湾政府に対し、アメリカ政府が他の外国政府と関わるときと同じように、同じ名称およびプロトコル(外交上の儀礼)を使用して関わるものとする(筆者注:もし台湾政府が「中華民国」と名乗るのであれば、他の国に対するのと同様に、台湾政府に対しても「中華民国」という名称を用いる、という意味である)。
  • アメリカ政府は、国務省およびその他のアメリカ政府機関の職員が台湾政府のカウンターパートと直接かつ日常的に交流する能力に、いかなる制限も加えてはならない。
  • 本規定は、中華民国(台湾)との外交関係の回復を意味するものではなく、また、台湾の国際的地位に関する米国政府の立場を変更するものでもない(筆者注:台湾を外交儀礼に従って他国同様「中華民国」と称することにするが、これは決して「一つの中国」原則を逸脱するものではなく、「一つの中国」原則は維持するという意味)。

◆中国、「激怒!」

中国(北京政府)にとって、これは到底許されるものではないだろう。中国が言うところの「国家の核心的利益」にストレートに抵触する内容に満ちている。

法案が上院外交委員会で可決したのを受けて、中国時間の22日朝6時に中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版(海外情報を主として報道)「環球時報」電子版「環球網」が即時に「米議会がバイデン政府に中国に対抗するよう圧力を掛けたものだ」として伝え、中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTV国際チャンネルは同日お昼のニュース番組のほとんどの時間を使って「2021年 戦略競争法案」に対する抗議を表明する特集を組んだ。

その報道ぶりは尋常でなく、キャスターが目をキッと光らせて語気を強めるたびに体を震わせるほどの勢いで怒りを表明し、また解説委員が出演して、これも語気を荒げて激しくアメリカを非難した。

一方、全国人民代表大会外交委員会は、正式に「抗議談話」を発表し、それに合わせて、中国共産党機関紙「人民日報」電子版「人民網」中国政府の通信社「新華社」など、多くのウェブサイトが一斉に報道した。その主な内容を列記する。

  • この法案は、冷戦思想とイデオロギー的偏見に満ちており、中国の発展戦略や内外の政策を不当に歪曲・中傷し、中国の内政に著しく干渉しており、邪悪な意図を持っている。我々は強い不満と断固たる反対を表明する。
  • 中国は真の多国間主義を堅持し、国連を核心とする国際システムを守り、世界各国が互いに対等に接し、互いに尊重し、協力して困難な時代を克服することを主張している。
  • 台湾問題は中国の国家主権と領土保全の問題であり、中国の核心的利益に関わるものだ。法案の台湾関連条項は、「一つの中国」原則に著しく違反し、「台湾独立」勢力に非常に誤ったシグナルを送っている。「一つの中国」原則は中国のレッドラインであり、我々は米台のいかなる形の公式交流に対しても断固として反対する。新疆や香港に関する問題は、完全に中国の内政問題であり、いかなる国の干渉も許さない。
  • 我々は、米議会が中国の発展を合理的かつ理性的にとらえ、中国の主権と領土保全を尊重し、中国の内政に干渉することをやめ、法案のさらなる審議を停止することを強烈に求める。

◆日米首脳会談共同声明で日本は何も主張しなかったのに等しい

4月20日のコラム<日米首脳会談・共同声明の「からくり」――中国は本当に「激怒」したのか?>に書いたように、日本では、中国の外交部が自作自演した一組の電話の「問答」を外交部の「談話」として報道するなど、無理やりにでも「中国が激怒している」と強調したがったが、本当の「談話」というのは、こういう形で出されるものだ。

日米首脳会談共同声明に関する対日批判は30分間ニュースの27分目に1分強ほど報道されただけだが、米上院外交委員会の「2021年 戦略競争法案」は30分間ニュースのほとんどを使って特集を組み、専ら激しい抗議に終始した。

この違いは何を意味するかと言うと、「日本政府(あるいは菅首相)は何も主張しなかった」ことを証明しているのである。

<日米首脳会談・共同声明の「からくり」――中国は本当に「激怒」したのか?>でご説明したように、「台湾」とさえ言わずに「台湾海峡」あるいは「両岸」という、中国政府の官製用語しか使わなかったことに、全てが表れている。

「日米の強固な同盟」と言えば、あたかも日本がアメリカと足並みを揃えているかのような印象を日本人に与えるが、少しも足並みは揃っていない。

バイデン大統領は、4月8日に提出されていた「2021年 戦略競争法案」に対して自分の「対中強硬度」を示さなければならなかったので、菅首相には、もっと踏み込んだ対中強硬表現を盛り込んでほしかったものと推測される。

それを拒否した菅首相は、バランス外交においては「習近平への忖度」の方が強いと言わざるを得ない。残念だ。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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