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日米首脳会談・共同声明の「からくり」――中国は本当に「激怒」したのか?
2021年4月20日
日米首脳会談における菅総理の苦し気な表情(写真:AP/アフロ)
日米首脳会談における菅総理の苦し気な表情(写真:AP/アフロ)

日本のメディアでは、あたかも中国が激怒しているように書いているが本当だろうか?中国は実はそれほど怒っていない。なぜなら菅総理は「中国が許容する範疇内」の言葉しか使ってないからだ。その証拠をお見せする。

◆中央テレビ局CCTVのニュース番組では27分目にようやく1分強

まず4月17日の中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTV国際チャンネルのお昼のニュース番組の様子をご紹介する。

この番組は基本的に30分番組で、中国時間の12:00から12:30まで報道する。日本時間では13:00から13:30までだ。日米首脳会談後の共同声明が出されたのは17日の明け方頃なので、CCTV国際チャンネルの最初の報道になるとみなしていい。

私は数十年間この番組を考察してきたので、この番組でのニュースの扱い方によって中国政府の重要視あるいは抗議の度合いが分かることを知っている。そこで何時何分から何分間日米首脳会談問題を扱うかを調べようと、かじりつくようにCCTV国際チャンネルを観た。

ところが30分番組だというのに、26分過ぎてもまだ出てこない。何ごとかと思っていると27分になってようやく日米首脳会談の話題に入った。やっと来たと思って力を入れたところ、なんと1分半ほどで終わったしまったではないか。

日米首脳の様子を映した画像が1分間ほど、そして前日に中国外交部報道官が日米を非難した映像が30秒間ほど報道されただけで、次のイラン問題に入っていった。

これにより「中国は今般の日米首脳会談共同声明に対して本気では怒っていないな」ということが先ず見えてくる。これは、日本がそれほど踏み込んだ対中強硬姿勢に出てないことの裏返しである。

◆人民日報や新華網はスルー

激怒していない証拠に、本気で怒っている時には強い抗議声明を出す中国共産党機関紙「人民日報」も中国政府の通信社「新華通信」の電子版「新華網」も何も意思表示していない。

CCTV国際チャンネルお昼のニュースの時点までの情報としては、ただ単に人民日報の姉妹版・環球時報の電子版「環球網」ふざけたニュースが出ているだけだった。それは「両首脳がどんなマスクを付けてるか見てごらん」という内容で、ほかに言うことはないのかと思うほどのおふざけぶりだ。

同じく環球網の「日米双方にとって最も重要なのは、やっぱり中国なんだね」という、やはり「中国激怒」とは、およそかけ離れたものもある。むしろ自慢げだ。

あともう一つは「台湾の二文字があったために台湾が狂喜乱舞している」という、台湾メディアを引用して茶化したものも見られた。

◆日米に駐在する大使館に発信させる

中共中央あるいは中国政府が非難表明をしないのもよろしくない。何とかしなければとでも考えたのだろう。

中国政府は日米に駐在する中国大使館に抗議表明を出させた。すると日本メディアは飛びつくように(やっと批判声明を出してくれたと言わんばかりに)、「中国が激しく抗議しています!」と一斉に報道し、「中国激怒」の印象を日本国民に与えようと「涙ぐましいほどの努力」をしていることが窺(うかが)えた。

しかし、たかだか大使館だ。

中央はまだ「怒り」を露わにしていない。

◆中国外交部の「自作自演?」の「抗議表明もどき」

真夜中(日本時間の1時頃)になると、ようやく中国外交部のウェブサイトに一組の「問答」が公開された

すると、これを見つけた日本の大手新聞がネットで、中国外交部が抗議の「談話」を発表したという形で報道したので、他の日本メディアもそれに飛びついた。「遂に外交部が激怒してくれた」と言わんばかりだ。

ところが日本が「外交部談話」という形で報道したものの中身は、実は「自作自演」に近いものだった。

なぜなら、この一組の「問答」は「某記者が電話で質問してきたので外交部の発言人(スポークスマン)が電話で回答したものにすぎない」ことが、このページを詳細に見れば明らかなのである。

もし普通に定例記者会見などで回答する時には、必ずスポークスマンの居丈高な写真と、質問をしたメディアの名前が書いてある。たとえばこういう形でで公開される。もちろんこの日は土曜日なので定例記者会見がなかったということもあろうが、このような「誰かさんが電話で聞いてきたので、外交部スポークスマンが電話で回答しました」などというのは、自分が言いたいことを「誰かさん」に聞いてもらう形を取ればいいわけだから、「架空の人物」であってもいいわけで、「自作自演」の可能性が高い。

だというのに、某大手テレビ局は何としても「中国が激しく抗議している」ということを表したいために、一組の「問答」のページを、「問」と「答」の文字の部分が見えないようにぼかして、その番組が言いたい部分の文字だけを「ぼかさないで」報道した。

これはもはや「詐欺」と言ってもいいほどの程度まで至っており、なぜここまで「中国が激怒している」ということを日本のメディアは言いたいのか、理解に苦しむレベルだ。

◆4月19日に、定例記者会見で日本メディアの質問を受けて外交部が抗議表明

4月19日になると、中国外交部は正式の定例記者会見を開き、そのページにあるように日本のNHKと日本テレビの記者による質問を受け付け、その質問に対する回答として「初めて」意思表示をした。

もちろん、質問を受けたからには、ここで抗議表明をしなければならないだろう。それなりに激しい対日批判をしているが、それ以上の域を出ていない。中共中央や中国政府が「抗議声明」的に自ら積極的に発信するということをしていないのである。

◆中国の思惑通りに動いている菅総理の対中批判――「台湾海峡」と「両岸」という言葉

なぜこのようなことが起きているかというと、菅総理がバイデン大統領と会った時に表明した対中批判が、中国の「許容の範囲内」だったからだ。日本政府は中国と水面下で打ち合わせをしながら日米首脳会談を行ったものと推測される。

むしろ中国の「思惑通りに動いた」としか思われない言葉の選択が見て取れる。

その証拠に菅総理が言ったところの「台湾海峡の平和と安定」という言葉は、中国が長年にわたって使ってきた常套句で、同じ言葉を使わせたものと解釈するしかないからである。

たとえば2005年に全人代で制定された「反国家分裂法」(中国語では「反分裂国家法」)に関する説明には「制定《反分裂国家法》是為了維護台湾海峡的和平与稳定」(反国家分裂法を制定するのは台湾海峡の平和と安定を守るためだ)という説明がある。

そもそも「反国家分裂法」そのものの第一条にさえ、「維護台湾海峡地区和平稳定」(台湾海峡地区の平和と安定を守る)という文言があるのである。

「台湾」ではなく、「台湾海峡」という言葉を使って濁したところも見落としてはならない。何と言っても「台湾海峡」には「公海」の海域もあるので、いかようにも弁解できる。

その「台湾海峡の平和と安定を守る」のは「中国の理念」なので、その「コピペ」を菅総理が主張するのなら「大いに結構」というわけだ。

 

加えて菅総理が言うところの「両岸問題の平和的解決」はまさに中国で1988年に成立した「中国和平統一促進会」の主張そのものなのだから、中国として文句はあるまい。

むしろ日本では「両岸問題」などという言葉を使うことはあまりなく、これは一種の「中国語」であることに、お気づきだろうか?

中国では「中台問題」と表現すると「中国と台湾」という「国」があるようになるので、さんざん考えた挙句、「両岸」と表現することにした。私はその経緯を、まだ中国にいた頃に経験しているので、印象深く「両岸」という言葉を捕えている。

「中台関係」ではなく「両岸関係」とすれば、北京政府とすれば全世界の華人華僑にも呼び掛けられるとして創り上げた「専門用語」なのである。私はかつて、それを確認するためにサンフランシスコの華人華僑団体を長時間かけて取材したので、その実態を実感している。

日本のメディアでは「台湾を明記して中国を強くけん制」などという言葉が躍っているが、偽善も良いところだ。少しも「中国を強くけん制」などしていない。

「台湾」と単独で二文字を使わず、「台湾海峡」としたことに、どれだけ大きな意味があったかを、少なからぬ日本人は知らないだろうし、「台湾海峡の平和と安定」および「両岸問題の平和的解決」が中国政府のスローガンであることを理解すれば、日米首脳会談の共同声明が何を意味しているかが初めて明確になるはずだ。

ウイグル問題に関しても日本政府は「制裁をしない」ことを明らかにしたのと等しいのだから、中国が激怒するはずがないだろう。中国の抗議はポーズであり、日本の対中批判もポーズでしかない。

 

なお、中国が台湾を武力攻撃するか否か等、他の多くの問題に関しては、体力的なゆとりがあれば、続けて考察を発表していきたい。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.