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【習近平・プーチン・金正恩】 トランプが会いたい3人が「反ファシスト祭典」で揃う その心は?
【習近平・プーチン・金正恩】の団結を指をくわえて見ているトランプ大統領(筆者作成 トランプ像は筆者AI作成)

9月3日に北京で挙行される「中国人民抗日戦争・世界反ファシスト戦争勝利80周年記念式典」に北朝鮮の金正恩総書記も参加することがわかった。中露朝という隣接する「非米陣営」の「巨頭」(独裁政権トリオ?)が一堂に会するのは異例なことだ。

皮肉にもこの3人はトランプ大統領が「会いたがっている」リーダー集団でもある。

おまけに「反ファシスト戦争勝利」と言うなら、旧ソ連を別とすれば、アメリカやドイツ・イタリアを除いたヨーロッパなど西側諸国が勝利者の主人公のはずではないか。その「世界反ファシスト戦争勝利80周年記念式典」に勝利者が参加せず、「反ファシスト戦争」が終結した4年後に誕生した「中華人民共和国」が主人公となって「反ファシスト戦争勝利記念」で巨大な「非米陣営」の塊を形成していく。

これをどう読み解くのか、【習近平・プーチン・金正恩】3者それぞれの思惑を、トランプ大統領の位置との関係において考察する。これを分岐点として世界の勢力マップに大きな地殻変動が起きるだろう。

◆習近平とプーチン

習近平は、プーチンがウクライナに対する軍事侵攻をしたことに賛成ではない。なぜならプーチンのウクライナ軍事侵攻の表面的な理由は「ウクライナ東部のドンバスなどの地域の住民が、ゼレンスキー政権によって(ウクライナ東部住民の母語であるロシア語を使ってはならないなどの)差別を受け弾圧されているので、ロシアに助けを求めたからだ」というものであった。

そんなことを理由にされたのでは、たとえば中国のウイグル自治区やチベット自治区などの住民が、「習近平政権に不当な弾圧を受けている」として他国に救いを求めたら、他国は中国に軍事侵攻していいことになる。クリミア半島併合に関しても、バイデン(当時副大統領)などがNED(全米民主主義基金)を使ってウクライナ西部地域の住民を焚きつけマイダン革命を起こさせて親露政権を転覆させたことへの仕返しだということは分かっていても、やはりクリミア半島の住民投票という手段を使って「民主的に」併合したという事実に対して、習近平は認めたくない。もし自国内のウイグル自治区の住民が自主的な住民投票によって反旗を翻したら中国から独立して他国に併合されていいという理屈につながるので、何れも賛同できないのである。

しかしながら、プーチンの決断が「アメリカに虐められた結果の反応」であるという意味においては、中国の発展を阻止するために「アメリカに虐められている中国」としては、「虐められている者同士」としてプーチンを応援したい。そうでなくとも中露関係は「非米陣営」として上海協力機構やBRICSなど独自の勢力圏を構築していたので、習近平としては「経済的にはプーチンを徹底して支援する」という立場を貫いてきた。今後もそれは強化されるにちがいない。

プーチン側からしても、習近平は世界で最も頼りになるリーダーだ。

たしかに習近平は軍事的には中立を保ち、決して軍事参加はしないものの、経済的には世界第二位で、ハイテク産業においては世界トップを行っている。プーチンとしては、その中国にはピタッと寄り添っていくつもりだ。

◆プーチンと金正恩

それでも習近平が軍事的にプーチンとは一定の距離を保ったまま、これを絶対に変えようとしないことをプーチンは十分に認識しており、何としても軍事的支援をしてくれる「仲間」が欲しい。

見れば、すぐ隣に「軍事的に秀でようと、一歩たりとも譲らない金正恩(キム・ジョンウン)」がいるではないか。

領土は狭いながらも、何としても核保有国として認められ、核保有によって自国を守ろうと、凄まじい気炎を吐いている金正恩の存在は、領土の狭さを超越して存在感を発揮している。おまけに仇敵の韓国が、米韓軍事同盟に基づき、北に圧力をかけようと軍事演習をやめようとはしない。

そこでプーチンは金正恩に声をかけ、核開発やミサイル開発などの技術支援をするので「ウクライナ戦争でロシア側に付いて支援しないか」と呼び掛けた。金正恩は二つ返事で承諾!これまでどの国からもそのような形で認めらたことのない金正恩は、きっと有頂天になり、積極的に兵力の支援を引き受けたにちがいない。

この金正恩の力をプーチンが頭を下げて求めてくる。金正恩の表情は日に日に自信を増すようになっている。

それからの露朝蜜月は、世界が唖然とするほど緊密なものとなった。

そして2024年6月19日、訪朝したプーチンは金正恩と会談し、両国が相互友好条約に署名する準備があることを発表し、11月9日、プーチンは北朝鮮との安全保障協力の拡大などを定めた「露朝包括的戦略パートナーシップ条約」をロシアが批准する法案に署名した。条約は、一方の国が武力攻撃を受けた場合に他方の国が軍事支援を行うことなどを規定し、事実上の露朝軍事同盟に相当する。期間は無期限だ。

◆金正恩と習近平

この二人の関係は実に複雑だ。

中国は1950年に始まった朝鮮戦争において、スターリンと金日成(キム・イルソン)の陰謀により、無理矢理に北朝鮮に中国人民志願軍を派遣する形で北朝鮮を軍事支援する形に追い込まれた歴史がある。中国は最大の犠牲者を出したというのに、金日成はあたかも北朝鮮軍が戦ったからこそ米帝を退けることができたかのように国内で宣伝し、中国人民志願軍の勇猛果敢な戦いと犠牲を軽んじる言動をした。この時点から中朝関係はしっくりしていなかったが、金日成はその「血の同盟」を良いことに、1961年5月16日に韓国の朴正煕(パク・チョンヒ)(のちの朴槿恵大統領の父)が軍事クーデターを起こして軍事政権を樹立した際に、中露に軍事同盟の締結を求めた。金日成は、米韓軍事同盟(米韓相互防衛条約)を結んでいる韓国がアメリカと組んで北を軍事攻撃することを危惧したからだ。

その結果、中国とは同年7月11日に「中朝友好協力相互援助条約」という軍事同盟を締結している。旧ソ連とも「ソ朝友好協力相互援助条約」という軍事同盟を締結したが、1991年末にソ連が崩壊しロシアになったあと、1996年9月に(アメリカに操られていた)エリツィン(大統領)が「ソ朝友好協力相互援助条約」を廃棄したため、露朝軍事同盟は消滅した。

改革開放が進んだ後の中国では、北朝鮮との軍事同盟は重荷で、20年ごとの契約更新時期が来ると、破棄しようとする動きが何度もあったが、結局のところ2021年に習近平は三度目の更新をしている。

なぜなら2017年に発足したトランプ1.0が対中制裁をかけてきたので、2015年に発布したハイテク国家戦略「中国製造2025」を完遂するには、アメリカによる中国の成長を阻止しようとする動きには、北朝鮮とも同盟を結んでおいた方が賢明だと判断したからだろう。

実は金正恩と習近平政権の間には金正恩政権誕生の時からいざこざがある。

2017年2月19日のコラム<金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者を直撃取材>に書いたように、金正恩の父親である金正日(キム・ジョンイル)政権の時の後継者争いの中で、金正日の長男である金正男(キム・ジョンナム)が「暗殺される危険があるので助けてくれ」と中国に助けを求めたことがある。金正日がまだ生きていた時のことだ。金正男は後継者になる気などは皆無だが、金正日と元在日朝鮮人の女性との間に生まれた金正恩(三男)は、自分こそが正当な後継者で、異母兄弟の長男・金正男を仇敵とみなしていた。

そんなわけで2011年に金正日が他界したあとは、事実上金正恩が最高指導者になった。

しかし、2012年に総書記になり、2013年に国家主席になった習近平に対して、金正男問題があるために、金正恩は最初から敵愾心を持っていた。

そのため2014年6月30日のコラム<習近平「訪韓」優先、その心は?――北朝鮮への見せしめ>に書いたように、中国が1992年8月に韓国と国交を正常化して以来、国家主席が北朝鮮を先に訪問しないで、韓国を先に訪問するようなことはやったことがない。しかし習近平は北朝鮮を訪問する前に韓国を訪問し、朴槿恵(パク・クネ)大統領と会い、2015年の抗日戦争勝利70周年記念には、天安門楼閣に朴槿恵と並んで祝賀したという、これまでになかった現象さえ見られた。

それが一転したのは、米朝首脳会談が行われることになったからだ。

トランプに会う前に、金正恩は毎回訪中して習近平に教えを乞うている。

金正恩が2018年3月に中国を訪問したのは、トップになったあと初めての公開外遊だった。そのお返しとして習近平は2019年6月に北朝鮮を訪問したが、中国の首脳が北朝鮮を訪問するのは2005年以来だ

ここで既に仲直りしているのであって、ウクライナ戦争後にプーチンが金正恩に近づいたことによって、中朝関係がギクシャクしているというようなことはない。

それよりも決定的なファクターは、トランプ関税だ。

トランプ関税が習近平と金正恩を接近させた

金正恩がプーチンにだけでなく、習近平にもなびいた方が良いと判断したのは、「トランプ関税により中国の圧倒的優位性が示されたからだ」と考えていいだろう。

4月13日の論考<米軍武器の部品は中国製品! トランプ急遽その部品の関税免除>や4月16日の論考<中国最強カードを切る! 「米軍武器製造用」レアアース凍結から見えるトランプ関税の神髄>で考察したように、トランプ関税は中国の製造業とレアアースの圧倒的な力を見せつける結果となり、相互関税に関して、トランプは対中国関税のみ「一時停止して11月10日まで延期する」と宣言している。習近平の機嫌を損ねて、「それなら中国製部品やレアアースを輸出しない」と言われたら、「米軍の武器を製造することはできないという事態に陥る」ということが判明したのだ。

すなわち「製造業を制する者が軍事力を制する」ということが判明したことになる。

となると、アメリカに対して何としても軍事的に負けられないために核を保有しようとしている金正恩は、習近平に接近し、中朝軍事同盟を明示しておいた方が有利になる。

◆トランプは「習近平にもプーチンにも金正恩にも」会いたがっている

トランプは8月25日の米韓首脳会談において、「金正恩に会いたい」という思いを吐露しており、「金正恩も自分に会いたがっているだろう」という趣旨のことを言っている。

金正恩としては、「北を追い詰めるための激しい米韓軍事演習を展開しておきながら、何を言っているか!」という憤りを持ちながらも、いざという時の米朝首脳会談のために、米軍兵器製造に関して圧倒的優位に立っている習近平と「一体なんだぞ」ということをトランプに見せつけておきたいだろう。

習近平としては、ひょっとしたら10月31日から11月1日にかけて韓国で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議でトランプと会談することになるかもしれず、そのときには11月10日がデッドラインとなっているトランプの対中相互関税に関して有利な方向に持って行きたいと考えているにちがいない。

そのときに、タイトル画像に描いたような【習近平・プーチン・金正恩】という非米陣営トリオが大きな塊として構えていることは、トランプにとっては少なからぬ圧力となり得るだろう。

トランプは常に「私は習近平が大好きだ。ずーっと好きだった」と言ってきた。

この大陸続きの非米陣営トリオの存在は、トランプにとって「ラブコールを送り続けてきた強いリーダー」であると同時に、今後の世界情勢の地殻変動をもたらすファクターを内在させていることに気がついているだろうか。指をくわえて「憧れの非米陣営トリオ」を見ている場合ではないかもしれない。

なお、「抗日戦争勝利記念」に必ず「反ファシスト戦争勝利記念」がペアで付くのは、8月26日の論考<日本政府が中国の抗日行事に「参加自粛」呼びかけたのは賞賛すべき もう一歩進んで具体的理由を示すべきか>で書いた、江沢民が1995年5月にモスクワで開催された「世界反ファシスト戦争勝利記念祭典」が、「抗日戦争勝利記念」を中国で全国レベルで行なうきっかけとなった何よりの証拠であることを最後に付言したい。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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