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米軍武器の部品は中国製品! トランプ急遽その部品の関税免除
米ペンタゴン・メモリアル(写真:イメージマート)

日本時間4月12日(アメリカ時間4月11日夜半)、米税関・国境警備局(CBP)は、連邦政府が「スマホ、パソコン、チップおよび一部電子製品」を「相互関税」から免除することに合意したと発表した。

スマホはアップルの工場が中国にあるからであり、パソコンも中国から輸入しており、アメリカ国民の不満がトランプ政権に向かうことを避けたためだが、「一部電子製品」の中に、米軍武器を製造する際の「中国製品」が入っていることを見逃してはならない。

いやむしろ、米軍の武器のほとんどは、「中国製品」によって製造されているのだ。本稿は、この事実に注目して考察する。

◆米税関・国境警備局が急遽、一部の相互関税除外を発表

米税関・国境警備局(U.S. Customs and Border Protection=CBP)は、EDT(アメリカ東部夏時間)4月11日午後10時36分に、<特定の品目の相互関税除外>を速報で発表した。そこには長々と弁明が書かれ、かつ対象商品に関しては番号(たとえば「8473.30、8486、8517.13.00、8517.62.00、8523.51.00・・・など」が書いてあるだけなので明瞭ではない。ただその後に「輸入者は、相互関税の例外を申告せよ」といった趣旨のことが書いてある。

そこで4月12日23:52:29の中国政府の通信社である「新華網」の報道<アメリカは一部の品目を「相互関税」から除外>を読んでみると、冒頭に書いた「米税関・国境警備局(CBP)は11日夜、連邦政府がスマホ、パソコン、チップおよび一部の電子製品を相互関税から除去した」と書いてある。新華網はさらに以下のような点を報道している。

  • 相互関税を免除された製品は4月5日以降にアメリカに輸入された電子製品に適用され、すでに支払われた「相互関税」の払い戻しを求めることができる。
  • ブルームバーグは、この措置により、アメリカの消費者に対する価格圧力が一部緩和されると同時に、アップルやサムスン電子などの電子機器大手に利益をもたらす可能性があると報じた。
  • 金融アナリストは、これは米国政府の関税政策の「180度のUターン」を示していると指摘している。
  • 最近、アメリカ政府の広範で気まぐれな関税政策は、金融市場に混乱を引き起こし、マイク・ペンス元副大統領を含む共和党の重鎮から批判を浴びている。(以上、新華網)

不思議に思った。

なぜ新華網は、この「一部電子製品」に関して、その中に「米軍武器の製造に関わる中国製品が大量に入っていること」に触れなかったのだろうか?

これを公開しないことによって、「いざとなったら、この肝心の事実を公開するぞ」という、トランプ大統領への「無言の圧力」をかけているのだろうか?

◆米軍武器の多くは中国製品によって製造されている

2025年1月17日、アメリカの政治専門紙THE HILL(ザ・ヒル)は<米軍のサプライチェーンは中国に依存している>というショッキングな報道をしている。

その根拠となる詳細なデータは実はアメリカの防衛産業基盤の評価を提供しているGovini Insightsが出している「年次国家安全保障スコアカード」にあり、2024年6月にGovini Insightsが発表した<2024年国家安全保障スコアカード>のデータに基づいている。

Govini Insightsのデータに基づいて、ワシントンDCにある米軍を専門に報道するメディアDefense Oneが2024年6月13日に<米陸軍と海軍が「重要技術」の中国への依存度を減らす>という論考を発表している。その論考にある図表を基に、筆者なりの表示方法により、米軍の武器の中国依存度を、「米国国防総省全体、米陸軍、米海軍、米空軍」にわけて図表1~図表4に示すこととする。

本稿では、データのリストだけでなく、それが視覚的に見やすいように、そのリストに対応した円グラフを用いて表現することを試みた。以下、図表1~図表4では、左側に数値のリストを掲載し、右側にその数値に基づく円グラフを示して、感覚的に把握しやすい形を工夫した。

図表1:米国国防総省全体の米軍武器サプライチェーンの中国製品依存度

Govini Insightsのデータに基づいて筆者作成

なんと、中国をやっつけるはずの米軍の武器を製造する際の、外国から提供されている部品のうち、「30.6%が中国製品に依存」している!

しかも、中国から輸入する部品は2023年で前年比「38.2%増!」になっているではないか。

バイデン前大統領は、あれだけ対中包囲網を全ての同盟国&友好国に呼びかけ、あれだけ最先端半導体における厳しい対中制裁を同盟国や友好国を巻き込んで強化しておきながら、中国をやっつけるための武器の部品に関しては、中国からの輸入を「38.2%」も増加させているのである。

アメリカのこの矛盾。この欺瞞。

これでは対中高関税合戦は圧倒的に中国に有利で、中国が「米軍武器製造に使用する中国製部品は輸出しない」と宣言したら、米軍は成立しなくなり、軍隊の力で世界を圧倒していたアメリカが、完全にその権威を失ってしまうことになる。

トランプの節操がないほどの豹変ぶりの原因の一つは、この矛盾に起因しているのだということもできよう。

図表2:2023年 米陸軍武器サプライチェーンの中国製品依存度

Govini Insightsのデータに基づいて筆者作成

米陸軍においては中国製品依存度は「33.0%」と全体の平均値より高い。

しかも前年比では17.0%減となっているので、2022年ではもっと中国に依存していたことになる。 

なんということだ。

図表3:2023年 米海軍武器サプライチェーンの中国製品依存

Govini Insightsのデータに基づいて筆者作成

米海軍は、3月15日の論考<「米国の500倍の生産力を持つ中国の造船業」PartⅡ 中国の造船力はなぜ成長したのか?海軍力に影響>に書いたように、アメリカの造船力は中国の500分の1でしかないから、もう消滅寸前だ。したがって海軍力も中国に負けている。もう新しい軍艦や潜水艦を製造できる能力はアメリカにはないと言っても過言ではない。

拙著『米中新産業WAR』の序章に書いたように、そもそもアメリカにはエンジニアがいなくなってしまっているだけでなく、特に造船に関してはほぼ壊滅状態なので、軍艦製造計画を立てても、つぎつぎと延期するばかりで、製造には至らない。したがってニーズが無くなったので、サプライヤーの数は全ての国において前年比が減少している。それでも依然として中国に23.6%依存しており、哀れな現状を、このデータは示している。

図表4:2023年 米空軍武器サプライチェーンの中国製品依存度

Govini Insightsのデータに基づいて筆者作成

図表4を見ると、あれだけ対中高関税をかけながら、その実、米空軍の武器(戦闘機)に関しては、中国依存度が2023年で前年度比「68.8%も増加」している。ここまで中国製品に依存しないと、戦闘機が製造できないという状況にある。

それでいながら、対中関税を125%(計算ミスで実際は145%と追加発表)にまで引き上げたトランプは、この現実をどう見ているのか?

だからこそ慌てて、「一部電子製品を関税対象から除外する」と言っているわけではないのだろうか。

このような実態は、誰も直視しようとしないし、またあまり報道しようともしない。

こういった真相が指摘されると、不愉快になる日本人が少なからずいることは承知している。しかし、この事実はアメリカが認めているものなので、客観的事実として考察すべきだろう。

客観的に考察しなければ、日本がどういう位置にあるのか、日本の防衛をどのようにすればいいのかも見えてこない。

3月27日の論考<アメリカを圧倒する中国AIトップ人材 米「世界脅威年次報告書」>にも書いたように、世界トップと言われているアメリカのAIトップ企業を支えているAIトップ人材は、今ではアメリカ人よりも中国人の方が多いのが現実だ。

すなわち、世界を制覇していると言われているアメリカの軍事力もアメリカのAI産業も、それを支えているのは中国製品であり中国人材なのである。

このような中での対中高関税は滑稽ではないだろうか。

米中の技術力と関税競争を考えたとき『米中新産業WAR』で示した「中国製造業の圧倒的優位性」という事実を無視して議論することは無意味ではないかと思う次第だ。

追記:新たに以下のようなことが分かったので加筆したい。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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