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イラン爆撃により中国はダメージを受けるのか?
イラン攻撃を断行したトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

イランとアメリカが核開発問題に関して協議している最中であるにもかかわらず、アメリカとイスラエルはイランを爆撃し、ホメイニ師らを殺害した。これに関して、中国は即時停戦を求め激しく抗議しているが、イラン爆撃により中国がダメージを受けるかと言ったら、実利的なデータとしては、ほぼないと言っていい。

しかし、もし予定されているトランプ訪中時期(3月末)に至ってもなお、イラン攻撃が続いているとすれば、習近平としてはそのトランプを歓迎するわけにはいくまい。万一にも訪中取りやめとなったら、トランプとのディールにおいて、トランプに「台湾統一容認」を呑ませようとしていた習近平の目論見は叶わなくなる。

延期という選択もないではないが、習近平が受けるダメージはこちらの方が大きい。

したがって、トランプがいつ、どういう形でイラン攻撃をやめるかにかかっている。

◆中国の反応:政府見解とネットのコメント

2月28日夜、中国外交部は定例記者会見でアメリカとイスラエルによるイラン攻撃に関して質問を受け<即時の軍事行動停止を求める>と回答した。

中国政府の通信社である新華網は国連安保理において中国の国連大使・傅聡が<アメリカ・イスラエルがイランを攻撃したことに深い懸念を表明した>と報道した。

3月1日、中国の王毅外相(兼中共中央政治局委員)はロシアのラブロフ外相と電話会談し、その中で「アメリカとイランが交渉している最中なのに、アメリカとイスラエルがイラン攻撃したことは容認できない。主権国家の指導者の殺害や政府転覆の扇動も容認できない。これらの行為は国際法と国際関係の基本的規範に違反する」と抗議している。

王毅はさらに3月2日に、オマーン、イラン、フランスの外相とも会談したが、オマーンのバドル外相は「オマーンの仲介によるイランと米国の交渉は前例のない進展を遂げたが、アメリカとイスラエルがこれまでの交渉結果を放棄して戦争を開始した」と述べたと、中国の外交部は報道している。

 

中国のネットでは以下のようなコメントが多く見られる。

  • アメリカがイランと核開発に関する交渉をしたのは、「隠れみの」だ。
  • アメリカとイスラエルは、最初から戦争を仕掛けるつもりで、交渉はその時間稼ぎに過ぎない。
  • アメリカとイスラエルの本音は政府転覆でしかなく、その手段として軍事行動を最初から計画していた。交渉は外交上のカバーに過ぎない。
  • アメリカの「交渉」を信じるな!トランプは嘘つき野郎!
  • 空爆だけでは政権転覆はできない。
  • イランは核兵器がないからやりたい放題される
  • イランには最初からイスラエルのスパイだらけ

中国政府も中国のネットもアメリカ批判に満ちているが、しかし実際にイラン攻撃により中国が大きなダメージを受けたかと言うと、そうではない。

 

◆中国がイランから輸入する石油は全エネルギー源の「わずか1.6%」!

まず、エネルギー源という視点から見てみよう。

中国のエネルギー源の種類は、1月6日の論考<トランプのベネズエラ攻撃で習近平が困るのか? 中国エネルギー源全体のベネズエラ石油依存度は0.53%>に書いたように、図表1のようになっている。2025年データはまだ出ていないので、2024年データで示す。

図表1:2024年 中国のエネルギー源構成

Our World in Dataのデータを基にグラフは筆者作成

図表1で注目すべきは、中国のエネルギー源構成の中で、石油はわずか18.49%でしかないということだ。

次に見落としてならないのは、中国は国内でも石油を産出するので、輸入に頼っている割合は72%だということである。

最後に、その輸入の中で、イランの割合を産出してみよう。イランはアメリカの制裁を受けているので表面上は輸入していないことになっているため、中国の税関総署にはデータとして出てこない。

そこでフランスにある原材料·物流データ提供企業Kpler(ケプラー)のデータ(データ自体は有料)によると、中国は2025年平均1日約138万バレルをイランから輸入し、さらに税関総署のデータによると2025年には合計57,773万トンの原油を全世界から輸入している。したがってバレルに換算すると、イランからの原油輸入の割合は約12%程度になる。迂回ルートとしては主にマレーシアやインドネシアが挙げられる。

その結果を図表2に示す。

図表2:2025年 中国原油の主要輸入先

Kplerと税関総署のデータを基に、図表は筆者作成

 

以上をまとめると、以下の3つのデータが明らかとなる。

  • 中国のエネルギー源構成に占める石油の割合:18.49%(2024年参照)
  • 中国の石油の輸入依存度:約72%
  • 中国の石油輸入におけるイランの割合:約12%

したがって、中国のエネルギー源のイラン石油依存度は

        18.49% × 72% × 12% = 1.6%

となる。

つまり、中国のエネルギー源のイラン石油依存度は「わずか1.6%」でしかないのだ。

なお、中国は約4ヵ月分の原油を備蓄しているだけでなく、エネルギー源の52.81%を占める石炭は自国産が91%だ。しかも今ではEVの普及により、中国のガソリンや軽油の消費は減り始めている。

全エネルギー源から計算すれば「ベネズエラ石油:0.53%、イラン石油:1.6%」に過ぎない。これらが入ってこなくなったところで、エネルギー源全体に与える影響は誤差範囲内だ。

 

◆イランに対する中国の武器販売 2015年以降は「ゼロ」!

かつて江沢民時代には、中国はイランに大量の武器販売をした過去がある。しかし胡錦涛時代に入ると、2005年以降、イランと新しい武器販売契約を提携したことはない。2005年までの武器販売契約に基づく納品は2015年まで続いたが、2015年以降は、イランに武器を販売した記録は全く存在しない。ニューデリーに根拠地を持つObserver Research Foundation(OBF)は、2024年9月、<China’s Arms Transfer to Iran>(中国のイランへの武器移転)と題して、この状況をリポートしている。

したがって武器輸出国としての役割もゼロである。

その意味では、いかなる実利的(データ的)なダメージも受けていないと結論付けることができる。

 

◆トランプの訪中はどうなるのか?

だとすれば、トランプの訪中には影響しないのかと言ったら微妙だ。

少なくともイランは中国にとって、非西側陣営の友好国ではある。

そのイランをトランプが訪中時点(3月末日)でもまだ攻撃し続けているとしたら、中国としては歓迎するわけにはいかないだろう。

これまで何度も書いてきたように、習近平は確かにトランプが表明している「米中G2構想」を受け入れ、トランプ政権内なら台湾統一を実現できるかもしれないと計算していたにちがいない。

しかし、イラン攻撃が中国に直接のダメージは与えないからと言って、イランを壊滅的に攻撃し尽くそうとしているトランプを歓迎することは、あたかもイラン攻撃を肯定しているようで、受け入れられないだろう。

一方、トランプにしてもれば、これまで表明してきた「習近平との蜜月」を潰して、米中ディールにおいて、アメリカを不利な立場に追いやりたくないという計算はあるだろう。中間選挙のために米国民に見せる成果が、また一つなくなってしまうからだ。

訪中延期という選択肢もないではないが、両者の駆け引きと思惑は、トランプがどれくらい短期間にイラン攻撃を停止するか、どのような形で出口戦略を描くかにかかっている。

 

◆選挙のために他国を爆撃し指導者を殺害するのが民主主義国家なのか?

トランプのイラン爆撃の動機は、米国内における支持率の低下やエプスタイン疑惑から目を逸らす目的などが挙げられている。イスラエルのメタニェフ首相も、戦争をやめたら汚職で逮捕されてしまう可能性が高いので、ひたすら戦争を続けまくっている。ガザの虐殺が終わる暇もなく、イラン爆撃へと移行している。

「トランプが、戦争を止めた大統領としてノーベル平和賞を狙っていたこと」は、今では知らない者はいないはずだ。しかしそのノーベル平和賞を「逃した」(!)ことが明らかになって以降のトランプの蛮行は尋常ではない。

ともかく中間選挙に少しでも有利になるようにと必死だ。

ベネズエラ爆撃とマドゥロ大統領夫妻拘束連行は、12月5日に発表されたNSS(国家安全保障戦略)の「西半球はアメリカが統治する」という精神に基づけば、まだ「侵略・蛮行の論理」に整合性はある。しかしイランは西半球にはない。そのイランを爆撃するのは、在米ユダヤ人の票田が欲しいからという要素が大きいからではないのか。イスラエルに味方すれば、少なくとも在米ユダヤ人の票はいただける。

ただ、アメリカ世論はイラン攻撃に関して「反対:43%、賛成:27%」と、反対が賛成を上回っているので、トランプ支持者が増えて中間選挙に有利という方向に働いているとは限らない。

それにしても、選挙で勝つために他国を理不尽に爆撃し、他国の民を虫けらのように殺しまくるのが民主主義大国の論理だとすれば、民主主義の大義はどこに行ってしまったのか。それを批判しない同盟国の倫理も、民主主義の理念とは乖離している。矛盾だらけの世相の中で、人の命の平等と重みを求める声は押しつぶされているようで、心が痛む。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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