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習近平の思惑_その3 「高市発言」を見せしめとして日本叩きを徹底し、台湾問題への介入を阻止する
習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2月10日の論考<高市圧勝、中国の反応とトランプの絶賛に潜む危機>に書いたように、2月8日の高市圧勝を受けて、中国外交部は再び「高市発言」の撤回を求めている。高市早苗首相が撤回などするはずがないので、「高市政権が続く限り日本叩きをやめない」と宣言したようなものだ。事実中国商務部は2月24日にも、新たな対日制裁リストを発表している。

一方、王毅外相兼中共中央政治局委員は2月14日、ミュンヘン安全保障会議で激しい対日批判を行った。このことは2月19日の論考<習近平の思惑_その1 「対高市エール投稿」により対中ディールで失点し、習近平に譲歩するトランプ>で「別途詳細に考察する」とお約束したので、本稿でその約束を果たしたい。

G7に対する徹底した「日本外し」からも、「高市発言」に対する習近平の戦略の本気度を読み取ることができる。

◆王毅の対日批判から見える「中国の言い分」

王毅はミュンヘンにおける「中国特集」での講演後に「日中関係に関する質問」を受け、激しい対日批判を展開したことは周知のことだ。いつもの中国の常套句だという気持ちがあり、あまり詳細に読もうという気にはなりにくい。しかし、勇気を出して「中国が何を考えているのか」を直視することは、日本を守ること、および未来展望にもつながるので、拒否感を抑えて分析を試みることとする。

2月14日、中国の外交部は<王毅、中日関係に関する厳正な立場を改めて表明>という見出しで、ミュンヘンにおける王毅の回答内容を紹介している。それによれば王毅はおおむね以下のように言っている。

  1. 日本の最近の危険な動きに警戒すべきだ。戦後80年ぶりに、日本の首相がこれほど過激な発言を公表し、中国の国家主権に直接挑戦し、台湾の戦後の国際秩序に直接挑戦した例はなく、日本の中国に対する政治的約束をここまで裏切った例もない。
  2. いま私(王毅)はドイツにいるのだから、日本とドイツの戦後処理に関して比較したいと思う。戦後ドイツはファシズムを完全に排除し、ナチズムの推進を禁止する法律を制定した。それに対して日本は今もA級戦犯を神社に祀り、日本の要人たちは彼らを「英霊」として崇拝し続けている。これが全てを象徴している。
  3. 台湾問題に関する日本の指導者の誤った発言が、日本の台湾侵略と植民地化の野望と、復活する軍国主義の名残りを露呈させた。
  4. 日本はかつて「存立危機事態」を理由に中国への侵攻を開始し、アメリカの真珠湾攻撃を行った。教訓を鑑とし悔い改めなければ、日本は必ず同じ過ちを繰り返すだろう。そしてあの時と同じように、日本は必ず再び敗北し、破滅への道を歩むことになるだろう。(以上)

「1」 に関してはほぼ文字通りで、特段の解説をする必要はないだろう。「2」~「4」にかけては、かなり長い考察を必要とする。

「2」に関して。

中国では早くから指摘されていたことなので解説を試みる。1980年代半ば、中国は来るべきWTO加盟に向けて「自家用車」の自国生産ができなければ中国の自動車産業は終わると焦っていた。そのため日米欧など当時の自動車先進国に呼びかけて、何とか助けてくれと必死で頼んだ。そのときに手を差し伸べたのがドイツのフォルクスワーゲンである。日本は東南アジアに目が向いていて、中国からの懇願を拒絶している。この時に、「ドイツと日本の戦後処理」に関する比較が盛んとなり、実は深いところで江沢民の「愛国主義教育」運動の後押しの一つにもつながった。

筆者は日米欧に呼びかける担当者でのちに長春市の市長になった人物や、長春にある自動車企業「一汽」の幹部を取材して『中国の自動車産業がニッポンを追い抜く日』という本を2004年に出版したことがある。中国経済の専門家は「何をおっしゃっているんですか。日本の自動車産業は確固たるもので、中国ごときが日本を追い抜くなんて、あり得ない話です。あなたは日本の自動車産業の実力を知らな過ぎる」と筆者をせせら笑ったものだ。しかし中国の自動車産業は「専門家」の予想と違い、瞬く間に日本を追い抜き、世界一に躍り出ている。

ことほど左様に、日本は中国の実態を体感していない。

このたびの王毅発言も、日本のメディアでは「今さらナチスと日本を比較するなど、お門(かど)違いだ」と「せせら笑う」傾向にあるが、一歩退いて、日本の過去の事実とドイツ(フォルクスワーゲン)の決断との差異が中国に与えた影響は認識しておいた方がいいだろう。

「3」に関して。

今さら言うまでもないが、清王朝時代の日清戦争に勝利した日本は、1895年に締結した下関条約により清国に台湾割譲を要求し、1945年の日本敗戦まで台湾を統治した。日本が台湾問題に関して、たとえ「米軍の援軍があり、米軍に対する武力行使を中国がした場合」と限定しても、「自衛隊を派遣する可能性がある」と明言したことは、中国からすれば、「あの侵略戦争を再びくり返す気なのか!」という反応になる。

もちろん日本からすれば、「中国が武力行使によって台湾を統一しようとすれば、日本の安全を脅かすので自衛隊が日本を防衛したいが、憲法の制約により出動できないため、米軍の援軍があり、中国が米軍に武力行使をした場合にのみ自衛隊を出動する」としたのは、当然のことだろう。

しかし、もし、「米軍が援軍を派遣しなかった場合」あるいは「中国が武力で台湾を統一するのではなく、軍事演習で台湾のエネルギー封鎖をした場合」、日本は自衛隊を出動させることができるかと言えば、それはできない。

だから憲法を改正すべきだとする前に、そもそも「米軍が援軍に来ない場合」と「中国が武力攻撃で台湾を統一するのではない場合」という想定を、日本は考えなければならない。

その考えに至らなかったのは、高市早苗の国際社会に対する認識が不足しているからかもしれない。あるいはバイデン政権時代の対中認識しかない可能性もある。もう一つには図表1に示すように、自民党総裁選挙の前のことだが、高市早苗は右傾化傾向を示して人気を集めるためなのか、「台湾独立」を支持する言動を取り続けてきたからではないのか。

図表1:高市早苗が総理総裁になる前に台湾独立を礼賛してきた経緯

公開されている情報に基づき筆者作成

図表1における黄色は「高市早苗個人の台湾との接触や台湾訪問」で、緑色は「台湾の頼清徳(総統)の動き」、薄い赤色は「頼清徳の言動に対する中国の動向」である。これらの言動をご覧になれば、「高市発言」は決して「うっかり発言」ではなく、明確に「台湾独立支持派」としての姿勢を貫いてきた結果であることが見えてくるだろう。

今さら、「中国との会話の窓口は開いている」などと言っても、そのようなことで誤魔化される中国でないことは肝に銘じるべきではないだろうか。

「4」に関して。

中国では「高市発言」後、さかんに【日本はかつて「存立危機事態」を理由に中国への侵攻を開始し、アメリカの真珠湾攻撃を行った】と言い続けている。これは何を指しているのか、ピンと来ない日本人は少なからずおられるのではないかと思われる。

これに関しては中国では非常に多くの民間や官側のウェブサイトなどが解説しているので、その一つ<日本は「存立危機」というたわごとを何度使うのか?>を見てみよう。そこには、日本が「存立危機」を口実に中国への侵略戦争を始めた例が書いてある。

●1931年(昭和6年)1月、帝国議会で政友会議員、松岡洋右(まつおか・ようすけ)が「満蒙(満州)は日本の生命線」というスローガンを掲げ、同年9月18日に日本軍は張作霖を爆殺し、九一八事変(満州事変)を引き起こした。

中国ではこの「満蒙(満州)は日本の生命線」「威胁日本存亡(日本の存亡を脅かす)」という中国語で表現している。「生命線」は「存亡の危機」ということになるからで、NHKも放送100年のアーカイブ「1931年」で、この「生命線」を強調し、当時この言葉が流行したと解説している。

●1937年に大日本帝国が中国への全面的な侵略戦争を始めたとき、日本は「中国事态已威胁日本存亡(中国の事態は既に日本の存亡を脅かす事態になっている)」という声明を出したと書いている。たしかにデータベース「世界と日本」の<蘆溝橋事件に關する政府聲明(芦溝橋事件に関する政府声明)>には「日本外交年表竝主要文書下巻、外務省、369-370頁」を出典として、1937年(昭和12年)8月15日に日本政府は「帝國臣民ノ生命財產旣(すで)ニ危殆(きたい)ニ瀕(ひん)シ」と宣言したという記録が明示してある。その前後の文章を書くと「此ノ如ク支那側カ帝國ヲ輕侮シ不法暴虐至ラサルナク全支ニ亙ル我カ居留民ノ生命財產危殆ニ陷ルニ及ンテハ、帝國トシテハ最早隱忍其ノ限度ニ達シ、支那軍ノ暴戾ヲ膺懲シ以テ南京政府ノ反省ヲ促ス爲今ヤ斷乎タル措置ヲトルノ已ムナキニ至レリ」となる。簡単に現代語に置き換えると「このように中国側が大日本敵国を軽侮し、中国における日本居留民(日本人)の生命財産を危機的事態に陥れている以上、日本帝国としてはこれ以上は我慢の限界に達しており、従って中国軍の暴挙を懲らしめるために南京政府(中華民国)に思い知らせる以外にない」という意味だ。

これは台湾有事が起きれば、日本国民を守るために「自衛隊が出動しなければならない」という「存立危機事態」に類似しているというのが、「中国側の言い分」だ。

以上が王毅によるミュンヘンでの日本批判の、真の意味である。

◆G7の中でも中国と険悪な関係にあるのは高市早苗(日本)のみ

本稿のタイトルにもあるように、習近平は「高市発言」を見せしめとして、世界で孤立させようとしている。その状況を、G7を例に取って図表2に表した。

図表2:G7首脳の習近平との関係と各首脳の台湾問題に対する姿勢

公開されている情報に基づき筆者作成


図表2は、2月6日の論考<トランプ「習近平との春節電話会談で蜜月演出」し、高市政権誕生にはエール 日本を対中ディールの材料に?>の図表3を更新したものである。

あまりに長くなりすぎたので、本稿図表2に関する詳細な状況は、また機会があれば考察するが、図表2から明らかなように、赤文字で書いた日本だけが中国と険悪な関係にある。これは台湾問題に関して「高市発言」のようなことを言う国があったら、中国は容赦なく孤立させまくるという、一種の見せしめのようなもので、どの国も「台湾統一」に関して口を挟むことは絶対に許さないという、習近平の強烈な意思を表したものでもある。

「習近平の思惑」の最大のものが本稿で扱った「高市発言」であり、「台湾統一を邪魔するようなことをすれば、どの国も高市政権のような目に遭うと心得よ!」という、全世界に対するメッセージだと解釈する以外にない。

この現実を見極め、高市政権は日本国民を守ることができる外交戦略と、それに伴う経済戦略を練っていくべきだと考える次第だ。

なお、トランプがいま追い込まれている窮地を考えると、トランプは高市早苗を最大限に利用し、案外に気が合う相手となる可能性は一方ではあることも、見落とさないようにしたい。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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