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習近平の思惑_その1 「対高市エール投稿」により対中ディールで失点し、習近平に譲歩するトランプ
習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2月10日の論考<高市圧勝、中国の反応とトランプの絶賛に潜む危機>の末尾に書いたように、習近平はトランプが「高市圧勝」への祝賀メッセージを2月9日にTruthに投稿したあと、反応を見せていない。

むしろ沈黙を続けることによって、トランプに無言の圧力を掛けているように見える。

トランプは、習近平が今もっとも敵対している高市早苗に、選挙中にエールを送り、かつ圧勝後には絶賛の祝辞を送ったのだから、習近平とのディールに関しては大きな失点を稼いでいることは十分に理解しているはずだ。

事実、トランプはその後、さまざまな形で「習近平の神経を逆なでしたことへの回復」を試み、譲歩をし始めた。

習近平が待っていたのは、この「譲歩の姿勢」だ。

トランプがどこまで譲歩するのか?

習近平がそれによって手にしたトランプに対する「新たなカード」をどのように切るのか?

この暗黙のせめぎ合いが、今後の世界の方向性を決めていく。

本論考では「習近平の思惑_その1」、「習近平の思惑_その2」・・・という形で、「習近平が何を考えているか」を少しずつ解き明かしていきたい。

 

◆「トランプの譲歩」その1:米財務長官ベッセントのXでの投稿

米財務長官ベッセントは2月10日(日本時間)、Xに投稿し、米財政部のスタッフが先週訪中し、次のベッセントと何立峰(中国の副首相)との会談の準備などを議論したことを発表した。そこには以下のように書いている。

――先週、コミュニケーションのチャンネルを強化し、(米中)両国間の対話を前進させるため、(米財政部)のスタッフが中国を訪問した。 訪問中、私たちのチームは私と何立峰副首相との間で行われる次回の米中貿易に関するハイレベル会合の準備について議論した。私たちは、(米中)双方の間で建設的な対話が継続されることを期待しており、次回の直接対話に向けて今後数週間にわたり前向きな勢いを維持していきたいと考えている。(以上)

 

ベッセントの部下たちが訪中して何立峰の部下たちと話し合ったのは「先週」とのことなので、トランプがTruthに「高市圧勝祝賀」に関する投稿をした2月9日の前のことになる。

それでもトランプのTruthにおける投稿の後にベッセントがわざわざ「先週」の出来事を取り上げて「米中両国間の友好的状況」をXに投稿したのは、明らかにトランプの、習近平とのディールにおける失点を補おうとした証拠と見ていいだろう。

ベッセントはXでの投稿のみならず、アメリカ時間の2月10日にも、<米中は非常に生産的な関係を築けると発言した>とロイター電(有料)が伝えている。

 

◆「トランプの譲歩」その2:米国務長官ルビオがミュンヘンで

2月13日、ドイツのミュンヘンで開催された安全保障会議で<米国務長官ルビオは中国の王毅外相(中共中央政治局委員)と会談し>、「会談は前向きで建設的なものとなった」と米国務省のウェブサイトは報道している。その上でルビオは「(米中)二国間、地域、そして世界的な課題における成果重視のコミュニケーションと協力の重要性を強調した。また、(米中)両者はトランプ大統領の4月の中国訪問についても協議した」とのこと。

ここにある「成果重視のコミュニケーション」とは、前述したベッセントのXに投稿された内容を指すとみなしていいだろう。

ルビオもまた、ベッセント同様、米中二国間の友好的関係を強調し、トランプの訪中に関して協議したことを明示している。これはすなわち、「トランプが高市礼賛の投稿をTruthでしたからと言って、米中関係は崩れていないよね。習近平がトランプの訪中を拒絶したりするようなこともないよね」という「習近平への呼びかけ」を暗示しているものと解釈することができる。

これに対して王毅の方はおおむね以下のように述べていると、2月14日の中国外交部は報道している

  • 習近平とトランプは米中関係の発展に戦略的な指針を示してきた。
  • 両首脳が達成した重要な共通認識を共に実行に移し、2026年を米中が相互尊重、平和共存、協力・ウィンウィンの道を歩む年にしなければならない。
  • 米中双方は協力し合い、「協力分野のリストを継続的に拡大し、問題点のリストを削減すること」で、米中関係が安定的かつ持続可能な発展の軌道に乗り、世界により前向きなメッセージを送ることができるようにすべきだ。
  • 双方は、今回の会談が前向きで建設的であったことで一致した。また両国間のハイレベル交流を促進し、各分野での対話と協力を強化し、米中関係の安定的発展を促進することで合意した。(以上)

 

王毅のこのメッセージはすなわち、習近平が何を考えているかを表しているので、これは習近平のトランプへのメッセージと受け止めることができる。

ルビオと王毅の立ち位置の一端をのぞかせている写真があるので、それを図表1で示したい。もちろん中国側としては、この瞬間を狙って撮影したものと思われるが、それにしても一貫してルビオが王毅にニコニコと笑顔を振りまき、王毅はそれに対して失礼にはならない程度とは言え、笑顔を見せる場面が少なかった。これが現在の米中の「ディールにおける力関係」を表している。

王毅は習近平に深く信頼されている閣僚の一人なので、この表情を「習近平の心情」と置き換えて読み解いていいだろう。

図表1:ミュンヘン会議におけるルビオと王毅

中国外交部報道官林剣がXで投稿した画像を筆者がトリミングして掲載

ミュンヘンではその後、ルビオも王毅もそれぞれ講演をするが、先に講演したルビオは、講演後、「中国に関する質問」に対して、おおむね以下のように回答している

  • 中国と対話をしないことは地政学的な失策となる。
  • われわれの利益が一致する分野では、世界に良い影響を与えるために協力できると考えており、また彼ら(中国)と協力する機会を常に模索している。
  • 中国との関係性を保つことは不可欠である。
  • 今日ここに代表として出席しているどの国も、中国との関係性を維持していかなければならない。(以上)

このようにルビオは、中国との対話による関係を重視すべきだと強調しており、これは「日本の高市政権だけが間違った方向に動いている」ということを暗示するものとして、少なからぬ世界の人々に受け止められている。

これはトランプの「対習近平ディール」における失点を補うにあまりある。

これ以上のトランプの譲歩はないだろうと思われるほどのメッセージだ。

習近平はトランプのこの姿勢をジーッと見ている。

これによって世界の動向が決まっていく「米中のせめぎ合い」だ。日本にも直接関係してくるので、ここを見誤ってはならない。

(なお、講演した王毅は講演後に「日中関係に関する質問」を受け激しい回答をしているが、この内容は本稿のテーマと少し外れるし、そのあまりの激しさは慎重に分析しなければならないので、別途詳細に考察する。)

 

◆「トランプの譲歩」その3:対中テク規制、暫時停止

2月12日、ワシントン発ロイター電は独占記事として、<トランプ、習近平との首脳会談を前に対中テク規制を一時停止」>(Trump pauses China tech bans ahead of Xi summit)というタイトルのスクープを報じた。

トランプは今年4月の訪中を前に、「北京を標的とした、主要な技術安全保障対策のいくつかを棚上げにした」というのである。ロイター電は以下のように説明している。

――トランプ政権は、4月に予定されている米中首脳会談を前に、中国に対する主要な技術セキュリティ対策を複数棚上げした。関係筋によると、これらの対策には、中国電信(チャイナテレコム)の米国事業の禁止や、米国データセンター向け中国製機器の販売制限などが含まれる。また、米国はTP-Link、中国聯通(チャイナユニコム)、中国移動(チャイナモバイル)の米国インターネット事業が製造するルーターの米国内販売禁止案、そして中国製電気トラック・バスの米国での販売を禁止する措置も保留したと、匿名を条件に関係者4人が明らかにした。(以上)

 

この一時停止に対して、民主党議員が「これは対中宥和政策だ」、「なぜトランプ政権は北京の意向にこれほど熱心に従おうとするのか?」などと激しく批判している

しかしトランプは「対中ディールにおける失点」を挽回するために、頑として動かないだろう。

その証拠に2月16日にはCNNが<中国の自動車メーカーがアメリカに来たいと考えている。彼ら(中国)はかなり近いうちに来るかもしれない>という情報を発信している。つまり中国車のアメリカ参入が近く認められるということになる。

それを裏付けるかのように、<トランプ大統領、中国自動車メーカーの米自動車産業参入の可能性を検討 >と、スペイン・メディアの「エル・パイス (El País)」が英語で報道している。それによれば、フォードのCEOジム・ファーリーは、中国自動車メーカーが米国市場に参入できる枠組みを模索するため、トランプ政権の高官と協議したとのことだ。

 

◆「トランプの譲歩」その4:ルビオが「米中が交流しないのは正気の沙汰ではない」と発言

長くなったが、最後にもう一つ付け加えさせていただきたい。

米東部時間2月16日(日本時間2月17日)、米国務省ウェブサイトは<マルコ・ルビオ国務長官とハンガリー首相ヴィクトル・オルバンが共同記者会見に出席>という見出しで記者会見の模様を報道した。

その中に、米国務省のYouTubeチャンネルにアップロードされた動画が埋め込まれている。その動画を詳細に観察したが、記者からの「なぜアメリカはスペインに対して、中国との協力関係を減らすよう要求しないのか」という質問に対して、ルビオはおおむね以下のように回答している。

  • トランプ大統領の下では、地球上のすべての国が自国の利益のために行動することが期待されている。
  • 私たちは世界のどの国にも誰からも孤立するよう求めているわけではない。
  • アメリカと中国が関係を持たず交流しないのは、正気の沙汰ではない

                             (以上)

この瞬間をキャプチャーしてルビオが喋っている英語とその和訳を付加して図表2にお示しする。

図表2:記者会見で回答するルビオ

米国務省YouTubeチャンネルの動画の画面キャプチャーに筆者が日本語訳を追加

トランプの対中譲歩は何処までも続きそうだ。

以上、現段階におけるトランプの対習近平譲歩を見てみた。

今後のさらなる進展や、他の側面からの考察は「習近平の思惑」シリーズで深めていく所存だ。

日本はこの客観的なファクトを無視しない方が良いだろう。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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