追記:日本がひたすらアメリカに言われるままに動いている間に、中国は「米一極から多極化」への巨大な地殻変動を起こしつつある。アメリカに盲従する日本人の多くには、それが見えない。しかし、その真相を見極めないと、私たちは言論弾圧をする中国が構築する世界新秩序の中で生きていかなければならなくなってしまう。それを避けるために、日本には日本国民のための、日本独自の政策があっていいはずだと思うのである。
この論考はYahooから転載しました。
岸田首相は、「中国・サウジ接近にくさび」を打つために、日本国内の山積した問題を放置して中東に行ったのだという。アメリカが中東で弱体化したのでバイデン大統領の指示を受けての行動だろうが、日本の首相は何の為にいるのか? バイデンに奉仕するためなのか、日本国民を守るためなのか?日本国民の血税の無駄遣いをすべきではない。
7月16日付の産経新聞が<岸田首相、中国のサウジ接近にくさび 3年半ぶり中東訪問>というタイトルの報道をしていることに驚いた。そこには概ね以下のようなことが書いてある。
●岸田首相は戦略的パートナーと位置付けるサウジとエネルギー分野での協力などを通じて関係を強化し、中国の接近にくさびを打ち込みたい考えだ。
●サウジは脱炭素社会に向けた技術協力などで日本への期待は大きい。
●日本としては首脳会談を通じ、「トップレベルで関係を構築して国際的な連携につなげていく」(外務省幹部)考えだ。(産経新聞の概略は以上)
今年2月19日のウェブサイトvisualcapitalist.comでは、<How China Became Saudi Arabia’s Largest Trading Partner(中国はどのようにしてサウジ最大の貿易相手国になったのか)>というタイトルで、サウジの「中国、EU、アメリカ」との貿易額に関する推移を発表している。以下のグラフを描いたのはEhsan Soltani (イーサン・ソルタニ)氏で、WTO(世界貿易機関) のデータを使用してデザイン的に描いたのだという。
図表1:サウジの貿易相手国が中国に移っていく推移
グラフが少し読みにくいかもしれないが、赤は中国の絶対量の推移で、黄色がEU(現27ヵ国)の絶対量の推移、紺色がアメリカの絶対量の推移だ。幅が、その絶対量を表しているという、非常にユニークな表現を採用している。
2001年の時点では、中国は「EUとアメリカを合わせた額」のわずか10%程度でしかなかった。しかし2011年までに、中国はサウジアラビアとの二国間貿易額で初めてアメリカを上回り、2012年の石油価格高騰時期に中国はEUやアメリカと同等のところまでのし上がり、現在2021年データでは、「EU+アメリカ」よりも、中国の方が大きいという所まで至っているのである。すなわち、
中国:87.3B(ビリオン)ドル/EU:53.1Bドル/アメリカ:25.1Bドル
という数値にまで至っているという。
このような状況で、中国・サウジのどこに「くさび」を打とうというのだろうか?
産経新聞の記事は「外務省幹部」も取材したような跡があるので、日本政府が類似のことを言っていたので、それに呼応して「中国にくさび」という文言を使ったのかもしれない。もしそうだとすれば、日本政府の認識は甘いと言わざるを得ない。
7月8日のコラム<加速する習近平の「米一極から多極化へ」戦略 イランが上海協力機構に正式加盟、インドにはプレッシャーか>で書いたように、中国はいま圧倒的な力で上海協力機構にOPECプラスを中心とした中東諸国を惹きつけている。上海協力機構には、人類のほぼ半分が、何らかの形で関わっているのは、そのコラムにも書いた通りだ。念のためもう一度、その巨大な構図を図表2に示しておこう。
図表2:OPECプラス、上海協力機構およびBRICSの相関図(5月17日時点)
既に築かれているこの巨大枠組みの中で、日本がどのようにして「くさび」を打つなどできると思っているのだろう。
中国がサウジとの間で「内政干渉をしない」と誓い合っているのは、上海協力機構憲章の第二条に「内政干渉をしない」という項目があるだけでなく、さらに習近平が昨年12月にサウジを訪問したときにも共同声明の中で、互いに相手国の国情を重んじ、内政干渉をしないということが謳われている。したがって日本の他の大手メディアが述べているような「ロシアや中国の動向なども念頭に、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化する重要性も重ねて訴える方針だ」などということは、実情にそぐわないと言っていいだろう。
習近平が昨年12月7日にサウジの空港に着いた時には、史上空前の出迎えであったとサウジ側は述べている(たとえば『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』のp.60~65など)。
中国側情報としては、12月7日、習近平が乗った専用機がサウジの領空に突入したあとの様子はこちらの動画で確認することができる。出迎えもファイサル外務大臣、中国担当大臣、その他の王室の主要メンバーと政府高官がいたが、2022年7月のバイデン大統領のサウジ訪問時には、出迎えが駐米サウジ大使や州知事だけで、タラップを降りた後も閑散としていた。
バイデンのときはマッカ州の州知事だったが、岸田首相の時は同じくマッカ州の州副知事だったようなので、さらにランクが落ちている。
これくらいの扱いしか受けていない岸田首相が、いま日本に山積している問題を放置して中東に行く切羽詰まった理由は、どこにあるのだろうか?
産経新聞にも書いてある通り、昨年11月のムハンマド皇太子の来日も「サウジ側の日程の都合」(政府関係者)で直前に中止になった。韓国まで来ておきながら予定していた訪日を突如、中止したのだ。サウジにとって、日本はその程度の位置づけである。
「脱炭素社会に向けた技術協力などで日本への期待は大きい」と日本メディアでは岸田首相の中東訪問を正当化しているが、中国の脱炭素技術は進んでおり、事実、今年5月1日に<中国企業は、サウジに世界初の脱炭素の全プロセス厚板工場を共同建設する契約に署名した>とあり、技術移転をするだけでなく、実際にサウジに工場を建設することが約束されている。
またサウジは将来石油だけに頼らない経済計画「サウジ2030」と一帯一路を組み合わせたプロジェクトを34項目にわたって契約している(たとえば<中国企業がサウジのグリーンシティ建設を支援 「一帯一路」を共同建設>)。
もちろん日本にも技術はあるので、サウジとしては漁夫の利は頂くだろうが、いま日本国民の諸問題を放置してまで中東に行く裏には、アメリカが弱体化した部分を、日本に補わせようというバイデンの思惑が透けて見えるのである。岸田首相が韓国と仲良くする方向に舵を切るのも、7月14日のコラム<NATO東京事務所設立案 岸田首相は日本国民を戦争に巻き込みたいのか?>で書いたような事情があるからではないだろうか。
日本の首相は他国の利益のために行動するのではなく、日本国民のために、日本人の血税を有効的に使ってほしいと切望する。サウジのムハンマド皇太子は「サウジはもう、アメリカのために自国の利益を犠牲にする気は皆無だ!」と述べて、脱米と脱米ドルへと動いている。
脱米とは言わないが、日本にも「日本はもう、アメリカのために自国の利益を犠牲にする気は皆無だ!」と言える日が来ることを願ってやまない。
追記:日本がひたすらアメリカに言われるままに動いている間に、中国は「米一極から多極化」への巨大な地殻変動を起こしつつある。アメリカに盲従する日本人の多くには、それが見えない。しかし、その真相を見極めないと、私たちは言論弾圧をする中国が構築する世界新秩序の中で生きていかなければならなくなってしまう。それを避けるために、日本には日本国民のための、日本独自の政策があっていいはずだと思うのである。
この論考はYahooから転載しました。