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NATO東京事務所設立案 岸田首相は日本国民を戦争に巻き込みたいのか?
NATO事務総長と岸田首相 出典:読売新聞=林陽一氏撮影
NATO事務総長と岸田首相 出典:読売新聞=林陽一氏撮影

7月12日に閉幕したNATOサミットでは、フランスなどの反対がありNATO東京事務所の今般の設立は否決されたが、今後検討するとNATO事務総長が述べている。NATOという軍事同盟を日本に引き込むのは、抑止力よりも日本が戦争に巻き込まれる危険性の方が大きく、戦争ビジネスを軸として動いているアメリカが創り出したい世界の冷戦構造を助長するだけではないのか?

◆NATO東京事務所「将来的に検討」と事務総長

7月13日のロイター電<NATO東京事務所「将来的に検討」と事務総長、仏は慎重姿勢>によれば、NATO(北大西洋条約機構)は12日にリトアニアで開催した首脳会議で、東京に連絡事務所を新設する案について合意できなかったという。

フランスのマクロン大統領は会議後の記者会見で、「NATOは北大西洋地域に重点を置くべきで、太平洋にまで地理的な拡大を望んでいるとの印象を与えてはならない」と述べ、NATOのストルテンベルグ事務総長は、「東京事務所の案は将来的に検討される」と述べた。

一方、中国の軍事力拡大を警戒するアメリカ(バイデン政権)は、NATOが「日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド」などアジア太平洋諸国との関係を強化していくべきだとの考えを、何度も表明している。その方向に忠実なNATO事務総長は「中国の軍備増強と核戦力の拡大をNATOは懸念している」とも述べている。

◆NATO東京事務所は中国包囲網構築のため

NATO東京事務所の新設目的は、明らかに中国包囲網を構築するのが目的で、それは今般の共同声明にも如実に表れている。たとえば7月12日付の読売新聞は<NATO共同声明、中国の覇権主義的行動に強い懸念…事務総長「国際秩序に挑戦している」>という見出しで報道している。

その報道によれば、NATO共同声明には「中国の野心と威圧的政策は、NATOの利益や安全、価値観への挑戦だ」と明記し、覇権主義的行動を続ける中国に強い懸念を表明したのこと。

声明では、中国が「幅広い政治的、経済的、軍事的手段」を用い、世界で着実に影響力を拡大させていると指摘し、重要技術や鉱物資源を「支配しようとしている」と警告した。中国は核兵器を急速に増強させているとして、核政策の透明性向上を強く求めた。NATO事務総長は記者会見で「中国はますますルールに基づく国際秩序に挑戦している」と述べた。

NATO東京事務所が、その意図に沿って新設されるのは明らかだ。今般もその主たるメンバーと予定されている「日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド」の首脳が招待されて参加している。

◆中国は猛反対

これら一連のことに対して、中国では猛烈な反対を表明している。

たとえば今年55日の中国共産党管轄下の中央テレビ局CCTV<アジア太平洋に向けて東方拡大し続ける!NATOは日本に連絡所を開設しようとしている。中国は厳重な警戒を呼びかける>いう見出しで、日本がNATO東京事務所を新設しようとしていることを激しく批判した。記事では、「今年1月にNATO事務総長が訪日して岸田首相と会い、東京事務所を新設する相談をしている」と書いている。そして「アジアは平和安定の高地であり、協力開発の熱土だ。地域紛争の場にしてはならない!」と、5月4日の外交部報道官の言葉を引用して抗議している。

また今年6月6日の中国外交部の定例記者会見で、ロイター通信記者の「フランスのマクロン大統領がNATOの連絡所を日本に開設することに反対していますが、外交部はどう思われますか?」という質問に対して、汪文斌報道官は概ね以下のように回答している。

●NATOは、地域同盟としての位置付けは変わっておらず、地理的突破口を求めていないと繰り返し公に述べてきた。アジアは北大西洋の地理的範囲には入っておらず、いわゆる「アジア太平洋版NATO」を設立する必要はない。

●だというのにNATOはアジア太平洋への東進に執着しており、地域諸国に干渉し、陣営間の対立を誘発しようとしている。その意図は何なのか?NATOのこういった動きは、国際社会、特にアジア諸国の高い警戒を引き起こしている。

●アジア地域のほとんどの国は、(西側陣営が)アジア地域内でさまざまな軍事グループを寄せ集めていることに反対し、NATOがアジアに触手を伸ばすことを歓迎してない。(東西)陣営の対立をアジアにコピーすることは絶対に受け入れることはできないし、いかなる冷戦も熱戦もアジアで再び繰り返されることを許さない。

●NATOはこの問題をしっかりと認識し、日本も地域の安定と発展のために正しい判断を下し、地域諸国間の相互信頼を破壊し地域の平和と安定を損なう行為を自制すべきだ。(報道官の回答は以上)

なお、マクロン大統領がNATOの東方拡大に反対しているのは、決して一般に言われているように「親中だから」といったような単純なことではなく、フランスはドゴール政権時代(1959年~1969年)から「絶対にアメリカに追従しない」という外交路線を貫いていた。そのため1966年にフランスはNATOから脱退したほどだ。2009年のサルコジ政権のときに復帰したが、トランプ前大統領が「NATOなど要らない!」と発言したこともあり、マクロンは「NATOは脳死している」とさえ言ったほどだ。この詳細は『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【第三章 「アメリカに追従するな!」――訪中したマクロン仏大統領の爆弾発言】で詳述した。

 

◆NATO東京事務所設立は日本国民を戦争に巻き込む

今年1月31日、岸田首相は首相官邸で来日していたストルテンベルグNATO事務総長と会談した。そのときの模様を読売新聞が<首相がNATO事務総長と会談、安保協力強化を確認「さらなる高みに引き上げていく」>という見出しで報道しているが、そこに掲載されている「林陽一」という写真家が撮影した写真のなんと見事なこと!冒頭で転載させて頂いたが、このときの岸田首相の表情を見てほしい。

それは今年5月9日にアメリカの『タイム』誌の表紙に載った表情と類似しており、『タイム』誌には「日本の選択――岸田首相は数十年の平和主義を捨て、日本を真の軍事力を持った国にしようとしている」というタイトルが付いている。

その写真を以下に貼り付ける。

出典:『タイム』誌の表紙

出典:『タイム』誌の表紙

このカメラマンも見事だ。

タイトルも、まさにその通りで、日本が抑止力として軍事力を持つことは悪くないにせよ、戦争に突き進むための準備をすることだけはやめてほしい。

しかし、この2枚の写真における岸田首相の表情には、日本がG7という「白人たちの仲間」に入れてもらったことの自己満足感と、NATOという欧米諸国の軍事同盟の仲間入りをする「満たされた虚栄心」のようなものが「軍靴の音」とともに滲み出ていて、まるで「脱亜入欧」時代を彷彿とさせ、空恐ろしいのである。

アメリカは第二次世界大戦後、つぎつぎと全世界で戦争ばかりを仕掛けてきた国だ。戦争によって世界を支配するとともに、アメリカの軍事ビジネスを繁盛させることが目的である。

拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』のp.236~p.237に書いたように、ベトナム戦争をやめなければならなくなった時にアメリカはラオスに史上空前の激しい空爆を始めたのだが、そのとき当時のニクソン大統領とキッシンジャー補佐官は、「アメリカの爆撃機を稼働させずに放置するわけにはいかなかったのだ」と言っている。この言葉は『マニュファクチャリング・コンセント』(トランスビュー、2007年)から引用した。

それくらい、アメリカは常にどこかに戦争を仕掛けては軍事産業を繁盛させてきた。アメリカが朝鮮戦争以降に仕掛けた戦争のリストを以下に示す。これは『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の図表6-2(p.234~p.235)に掲載したものだ。

朝鮮戦争以降にアメリカが起こした戦争

筆者作成(『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の図表6-2)

筆者作成(『習近平が狙う「米一極から多極化へ」台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の図表6-2)

戦争が2014年以降にないのは、トランプ政権になったからである。トランプは、バイデンのように戦争ビジネスで生きているネオコン(新保守主義者)ではないし、「第二のCIA」と呼ばれているNED(全米民主主義基金)とも関係していない。バイデンはネオコン一派でありNEDの信奉者だ。常に世界中に紛争を巻き起こし、戦争をさせている。武器が売れて、アメリカが一極支配を継続できれば、それでいいのである。

したがって今、バイデンの傀儡政権と化してしまった岸田首相の決断と選択は、日本国民を戦争へと導いていくであろうことを、心から憂うのである。

戦争だけは許せない。

中国でいくつもの戦争を実体験してきた者として、いま日本が何を選択しようとしているのかを、読者とともに考えていきたい。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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