7月4日、上海協力機構のオンライン首脳会議があり、イランが正式加盟国になった。同機構はもともと反米・反NATO傾向にあるが、アメリカが敵視する中露と並んでイランが入るとその傾向が強まる。正式加盟国であるインドは微妙だ。
◆イランが上海協力機構の正式加盟国に
7月4日、上海協力機構はインドを議長国としてオンライン形式で首脳会議を開催し、イランの正式加盟が決議された。中国では、まるで勝利宣言のように多くのメディアが報道し、4日午後、北京ではイランの国旗掲揚式典が催されたほどだ。
2001年に、「中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン」の6ヵ国により設立された上海協力機構は、2017年にインドとパキスタンが正式に加盟し、今般のイラン正式加盟により、正式加盟国は9ヵ国になった。ベラルーシが正式加盟手続き中で、そのほか多くのオブザーバー国や対話パートナー国あるいは客員参加国・組織などが控えており、世界の全人口の約半分を占めるに至っている。
中国外交部のウェブサイトには習近平国家主席のスピーチの要約と動画が載っている。動画はリンク先の一番下にあるので、中国語ではあるが、興味のある方はクリックしてみていただきたい。習近平のスピーチの全文は、同じ外交部の別のページに載っている。
習近平はイランの正式加盟を祝賀するとともに、「大家族としての団結」を強調した。プーチン大統領も同様に「団結」を強調したのは、インドを意識してのことではないかと、中国のネットでは数多くの見解が発信されている。
たとえば、<拡大には成功したが上海協力機構の内部には微妙な変化 イラン加盟によりインドが最も大きなプレッシャーを受けている>などがある。
◆上海協力機構はもともと反米・反NATOの傾向が強い
上海協力機構は、もともと中国とロシアが中心になって提唱した組織なので、「親米」であるはずもないが、実は2005年にアメリカが加盟したいと言ってきたときには、中露ともに即断で「拒絶」している(詳細は『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』のp.82)。2018年の上海協力機構・青島サミットでは「G7の対抗軸」としてアピールしたこともある。
そのような機構にインドが入っているのは、非常に興味深いことだ。
その主たる理由は、パキスタンが入りたいと言ったからで、パキスタンと激しく対立しているインドは、自国も入りたいとして習近平やプーチンの協力を得て2017年にパキスタンと同時に上海協力機構に加盟した。
それでもアメリカがモディ首相にモーションをかけ、インドを西側に惹きつけようとするまでは、インドの立場は比較的安泰だった。
インドは旧ソ連時代から武器をソ連から購入しており、ロシアになってからもひたすらロシアから購入していたので、プーチンとモディは非常に仲が良かった。
ところが、トランプ政権時代のボルトン大統領補佐官が、「パキスタンとの間で紛争があった時には、国連安保理でインドに有利なように拒否権を使ってあげるから、アメリカから武器を買ってくれないか?」と持ちかけ、アメリカから一部購入するようになった。ウクライナ戦争でロシアの武器の在庫が不十分であることに目を付け、バイデン大統領がさらなる誘いをかけてきているので、モディとしては東西両陣営の間で、中立を今まで以上に保っていたいだろう。したがってアメリカから強烈に敵視され激しい制裁を受け続けているイランが正式加盟したとなると、上海協力機構の色彩が今まで以上に反米・反NATOに傾いていくので、インドは立場上、やりにくくなる側面が出て来るのは否めないにちがいない。
◆習近平にとっては「米一極から多極化への地殻変動」に追い風
しかし、習近平にとっては、インドの「米露」の狭間における葛藤は、そう大きな影響をもたらさない。それどころか、イランという中東の一国が上海協力機構に入ってくれたのは、何よりも心強いことだ。
というのも、今年3月10日に、中国の仲介によりイランとサウジアラビア(以下サウジ)を和解させたことにより、中東諸国が一気に和解外交のドミノ現象を起こしているからだ。
なによりサウジやアラブ首長国連邦などが上海協力機構の「対話パートナー」となってくれたのは、ありがたい限りだ。なぜなら石油生産国から成る組織OPECプラスが中国側に付いてくれることを意味するからだ。
以下に示すのは、OPECプラスと上海協力機構およびBRICSの相関図である。
拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』のp.80~p.81に掲載した図表だが、執筆時の「5月17日時点」のものなので、イランは「メンバー加盟手続き中」になっている。
図表:OPECプラス、上海協力機構およびBRICSの相関図(
これまで米ドルが強かったのは、1974年にアメリカがサウジの安全保障と引き換えに石油を米ドルで購入させるという「ペトロダラー」体制を創ったからだ。しかしサウジは今「自国の利益を犠牲にしてアメリカに奉仕する気は皆無だ!」として、人民元で取引をしようとしている。ほかにも非米陣営では自国通貨同士での取引や、BRICS通貨やアジア通貨基金などの提案もある。
したがってOPECプラスを味方に付けたというのは、脱「米一極支配」だけでなく「脱米ドル」へと向かわせる勢いを加速させるのである。
4月14日に習近平と北京で会談したブラジルのルーラ大統領は15日に会談後の記者会見で、「アメリカは、ウクライナ戦争を助長すべきではない」と呼びかけた。
中国は最近では南米における経済交易を大幅に拡大し、アメリカを抜いて南米大陸最大の貿易相手国となっている。
これは中国がBRICSメンバー国の主要な一員であることと深く関係している。
アフリカと中国との友好関係の歴史は毛沢東時代までさかのぼるほど堅固だ。
ウクライナ戦争による対露制裁に加わっていない国は全人類の85%にのぼる。それに相当する国が、ウクライナ戦争に対する「和平案」を提唱している中国側に付こうとしているので、実効性のないように見える「和平案」が、実はとんでもない力を発揮していることになる。
その背後にあるのは、習近平の行動哲理【兵不血刃(ひょうふけつじん)】(刃に血塗らずして勝つ)にある。これに関しては追ってまた解説したい。
なお、言論弾圧をする中国が「米一極から多極化への地殻変動」を成し遂げ、新たな世界新秩序を構築するようになると、私たちはその新秩序の中で生きていかなければならなくなる。それだけは避けたいと思うなら、この真相を見極める努力をする以外にないと思うのである。