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ベネズエラを攻撃したトランプ 習近平より先にトランプに会おうとした高市総理は梯子を外された
米がベネズエラ攻撃・大統領拘束 トランプ大統領が会見(写真:ロイター/アフロ)

高市総理は自らの国会答弁(いわゆる「高市発言」)が招いた日中関係悪化による中国軍の台湾包囲軍事演習を、トランプ大統領にも一緒になって非難させようと、何とかトランプ大統領が訪中して習近平国家主席に会う前にトランプに会おうと必死だった。

しかし、昨年12月30日の論考<中国軍台湾包囲演習のターゲットは「高市発言」>に書いたように、そうでなくともトランプは中国軍の台湾包囲軍事演習に関して「懸念しない」と発表している。ましてや、1月3日、トランプはベネズエラを軍事攻撃しただけでなく、ベネズエラのマドゥロ大統領夫妻を拘束してアメリカに連行した。おまけに狙いは石油利権だと、日本時間1月4日未明に自ら話している。

ここまでの暴挙は見たことがない。そんなトランプにとっては、習近平の台湾包囲軍事演習など問題にもならないにちがいない。

高市総理は1月2日夜、トランプと電話会談し、「トランプから訪米のお誘いがありました」と満面の笑顔で発表していたが、トランプは高市政権に強引に懇願でもされなければ、とてもそんな精神的ゆとりはなかったはずだ。

翌日のベネズエラ攻撃と大統領連行という「国家テロ」的な「侵略行動」を控えて、トランプ自らが主導的に電話したわけでも訪米を要請したわけでもないことが、これで明確になった。

そもそも昨年12月5日に公表されたアメリカの国家安全保障戦略(National Security Strategy=NSS)(以下、NSS)には、トランプは西半球を重視することが明記されており、対中温和姿勢が随所に表れている。高市政権には、NSSを正確に読み解く力を持った側近もいないのだろうか。

「高市発言」のみならず、今般の「トランプ大統領からお誘いがありました」とベネズエラ攻撃前日に発表するなど、高市早苗の外交的戦略性の欠如が露呈したと言えるのではないだろうか。(以下、敬称はトランプ、習近平などに揃えて、初出以外は高市早苗の場合も省略する。)

◆トランプに拘束連行されたベネズエラ大統領

トランプは日本時間1月3日午後、自身のSNSであるTruthで、ベネズエラの首都カラカスを武力攻撃したのみならず、マドゥロ大統領夫妻を拘束したと発表した

またトランプはマドゥロ拘束の写真をTruthにアップロードした。その写真を図表1に示す。

図表1:米軍に拘束され連行されるマドゥロ大統領

Truthより転載

このようなことが許されるのだろうか?

これではまるで「国家的テロ」ではないか。

◆トランプの狙いはベネズエラの石油利権

さらに日本時間1月4日1時頃に発表されたトランプの記者会見President Trump Holds a Press Conference, Jan. 3, 2026によれば、トランプは「われわれは、世界最大のアメリカの巨大石油会社を(ベネズエラに)派遣し、数十億ドルを投じて、ひどく壊れた(ベネズエラの)インフラ、石油インフラを修復し、のために利益を上げることを始めるつもりだ」と言っている。その発言をしている場面をスクリーンショットして図表2に示し、和訳を付けた。

図表2:記者会見でベネズエラの石油利権に関して語るトランプ大統領

記者会見の場面をスクリーンショットし、そこにトランプが話している英文とその和訳を筆者が加筆

ところで、図表2にある英文の最後の言葉the country(国)は、どの国を指すのかを念のためチェックしてみた。この発言の前後には、トランプは以下のような事を言っている。

  • 周知の通り、ベネズエラの石油事業は長きにわたり、完全な破綻状態にあった。本来であれば採掘できたはずの量や、起こり得たであろう出来事と比べると、実際にはほとんど何も採掘できていなかったのだ。
  • さらに、ベネズエラは一方的にアメリカの石油、アメリカの資産、そしてアメリカのプラットフォームを押収し、売却し、われわれに数十億ドルもの損害を与えた。われわれはアメリカの才能、情熱、そして技術によってベネズエラの石油産業を築き上げた。しかし、社会主義政権は歴代政権下でそれをわれわれから盗み、しかも力ずくで盗んだのだ。
  • ご存知の通り、彼らはわれわれの石油を盗んだ。われわれはそこで石油産業を築き上げた。そして彼らは、まるで何もなかったかのようにそれを乗っ取った。(列挙は以上)

このように、トランプは同じ記者会見で、ベネズエラの石油産業はアメリカが作ったもので、ベネズエラ政府がそれを「盗んだ」とくり返し強調している。

したがって、この「国(the country)」は、表面上はベネズエラを指しているように見えるが、実質上はアメリカを指しているとも言える。

なぜなら、同じ記者会見でトランプは「当面の間は、アメリカがベネズエラという国家を運営する」とまで言っているからだ。その言葉を発している瞬間の映像を記者会見からスクリーンショットして図表3に示し、和訳を付けた。

図表3:トランプ「当面はアメリカがベネズエラの国家を運営する」

記者会見の場面をスクリーンショットし、そこにトランプが話している英文とその和訳を筆者が加筆

◆ベネズエラ攻撃と米中関係

ベネズエラの友好国である中国は、トランプのベネズエラに対する一連の行動を激しく非難している

しかしトランプは前述の記者会見の少し前にFox Newsの取材を受け、攻撃の数時間前に中国代表がマドゥロと面会したことに対して、「私と習近平との関係はいい。中国には石油を売るから問題ない」という趣旨の発言をしている。具体的には記者とトランプの問答は以下のようになっている。

記者(00:21:26-00:21:40,14 秒):大統領、空爆のわずか数時間前に中国代表団がニコラス・マドゥロ大統領と会談していたにもかかわらず、中国側から攻撃について何のコメントも得られていないという事実について、どうお考えですか?

トランプ(00:21:40-00:22:01, 21秒):えー、私はそれについては何も知りませんが、習近平国家主席とは非常に良好な関係を築いています。だから問題はないでしょう。彼ら(中国)は石油を手に入れるでしょう。私たちも人々に石油を供給します。しかし、昨夜このような信じられないことをしてしまった後では、誰かに権力を握らせて、また同じことをしなければならないような事態に陥るリスクを冒すことはできません。

                      (Fox Newsからの引用はここまで)

ちなみに、前掲の記者会見でもトランプは中国に関して少しだけ言及し(00:43:48-00:44:18)、「中国には引き続き石油を販売する。石油インフラをアメリカが修復するので、もっと多くの石油を販売することができるようになる」という趣旨のことを述べている。

◆トランプのベネズエラ攻撃と対中姿勢と高市早苗の言動

図表4にはトランプのベネズエラ攻撃に至るまでの一覧の時系列と、同時に進行しているトランプの対中姿勢を示唆する言動、および高市早苗の対中&対米言動をまとめてみた。

図表4:トランプのベネズエラ攻撃と対中姿勢と高市早苗の言動

公開された情報に基づき筆者作成

図表4の「トランプの対中言動」と「高市の対中言動」を比較すると、たとえば番号「4、5、6」などは、対中姿勢に関してトランプと高市では方向性が「真逆」であることがわかる。

番号「8、9」に関しては、昨年11月28日の論考<トランプ氏の習近平・高市両氏への電話目的は「対中ビジネス」 高市政権は未だバイデン政権の対中戦略の中>で書いたように、トランプはウォールストリート・ジャーナルの<トランプは高市に台湾巡り中国を刺激しないよう助言した>という報道を特に否定はしていない。また米報道を含めた、その他のどの報道にも、高市早苗が言っている「(トランプ大統領から)いつでも電話をしてほしいという話がございました」という情報は見当たらない。

トランプはそれどころではなく、番号「10~15」にあるように、ベネズエラ周辺の空域を全面封鎖したりベネズエラ近海でタンカー船を拿捕したりするのに没頭していたし、何よりも「12」にあるようにNSSを発表するのに忙しかっただろう。NSSには「西半球を重視する」ことと、対中姿勢に関する温和傾向と、台湾に対する冷淡さが滲み出ているので、高市氏の対中姿勢とは逆行する。

そのため「15」にあるように、ホワイトハウスの報道官が、わざわざ「(トランプ大統領は)強固な日米同盟関係は維持しつつ、中国とも良好な関係を築くべきだと考えている」という発言をしなければならないところに追い込まれたほどだ。

また、くり返しになるが、昨年12月30日の論考<中国軍台湾包囲演習のターゲットは「高市発言」>で書いたように、トランプは中国軍の台湾包囲軍事演習など「懸念していない」と回答している。

それでもトランプの支持を得たい高市早苗は、昨年末から「トランプ大統領側と緊密な連携を取っている」としながら、今年1月2日に、あたかもトランプの方から積極的に高市氏に電話を掛けてきて、「ぜひ訪米を」とトランプ側から積極的に「お誘いを受けた」かの如く発表しているが、トランプはそのとき、タイトロープを渡るような状況下で「米東部時間2日午後10時46分にベネズエラでのマドゥロ大統領拘束連行」という、史上まれに見る国際法に違反する作戦の実行を命じていたのである。だから、トランプ自らが高市早苗に電話を掛けたり、「是非とも訪米を」など「お誘い」をかけたり、そんな精神的ゆとりはないはずだ。それでも高市早苗からの懇願を聞いてあげる親切心はあったのだろう。

◆梯子を外された高市総理は、トランプのベネズエラ攻撃をどう位置付けるのか?

高市総理がトランプによって梯子を外されたのは、すでに弁明の余地はない。

トランプに会って「一緒に中国の台湾包囲軍事演習を非難してくださいよ」とせがむことは、もうできない。

なぜなら、トランプは中国軍の台湾包囲軍事演習を遥かに上回る、国際ルールとして「やってはならないこと」を断行してしまっているからだ。

むしろ、あれだけ中国軍の台湾包囲軍事演習を非難したのだから、その同じ立場でトランプのベネズエラ攻撃と大統領拘束連行という前代未聞の行動を非難しなければならないところに高市総理は追い込まれているはずだ。

台湾問題はむしろ、昨年12月23日の論考<中国にとって「台湾はまだ国共内戦」の延長線上>に書いたように、長きにわたる国共両軍の内戦の延長線上にある中華民族同士の問題であって、いきなり他国が他国を攻撃し占領するような話ではない。毛沢東が「100年かかってもいいから台湾を取り戻せ」と言って死んでいった、中華民族同士の悲願の問題だ。

トランプの場合は違う。

国連に加盟している、完全な独立国家であるベネゼエラに対する石油利権が絡んだ国家テロに近い侵略行為であって、もし高市総理が、これでトランプを非難しないのなら、台湾問題に関して中国(大陸側)を非難する資格はなくなるのではないのか。

筆者自身は、その国共内戦を体験し、一民間人として『毛沢東 日本軍と共謀した男』を、事実は事実として主張してきた。日中戦争中、毛沢東は日本軍と結託して国民党軍を倒そうとしたのだから、中国共産党には「日本軍の中国侵略」を攻める資格はない。それを主張できる立場にある。

しかし一国家の総理として、「高市発言」が事実を言っただけであっても、「事実は事実」として主張することが外交上賢明であるか否かを深く考えなければならない。その一方で、同盟国なら許されるとして矛盾した評価を出せば、対中批判の正当性が薄まる。

事態はすでにトランプが習近平に会う前に何とかトランプに会って、こちら側に抱き込もうという段階ではなく、国際社会の秩序を守るか否かに関する整合性のある回答を出せるか否かという段階に来ている。

同盟国であるという立場は理解できるものの、このたびのトランプの蛮行が中国やロシアに有利にならないためには、西側諸国のフェアな評価が求められる。その勇気があるのか否か、見守っていきたい。

追記:注目すべきは、2025年のNSSには中国に関するイデオロギー的な側面が全く書かれていないことだ。「民主主義対独裁主義」といった枠組みも、(バイデン政権の常套句だった)「ルールに基づく国際秩序の擁護」も、「価値観に基づく闘争」も存在しない。中国は、打ち負かすべきイデオロギー的な敵ではなく、対処すべき現実的な問題として扱われている。このことから類推するに、ベネズエラ攻撃は、決して独裁政権を打倒すことにあるのではなく、表面上は麻薬密輸問題だが、実際上はあくまでも石油利権というトランプの特徴的なビジネス上の問題が動機であることがうかがえる。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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