
12月29日から始まった中国人民解放軍東部戦区による台湾包囲軍事演習の主たる目的は「高市発言」への抗議だということがコードネームからわかる。
キーワードは「正義」。
その謎を解読する。
◆これまでに行われてきた台湾包囲軍事演習のコードネーム
台湾を包囲する形で行なわれる第一回目の大規模軍事演習は、2022年8月2日から始まった。誘発原因はペロシ元米下院議長の訪台だ。それ以降は、図表1に示したように、毎年2回の割合で行なわれている。
それも翌年の2023年までは具体的な漢字表現のコードネームだったが、2024年からは「2024A」、「2024B」のように、記号化したコードネームへと変わり、春と秋に行われる形に移行していった。
図表の2024年と2025年の赤文字の個所に注目していただくと、本来ならば今般の12月29日~30日まで行われる台湾包囲軍事演習のコードネームは「海峡雷霆—2025B」となるはずだ。ところが突然、「正義使命―2025」に変化した。
図表:台湾包囲軍事演習の頻度とコードネーム

公開されている情報に基づき筆者作成
つまり「海峡雷霆」の続きではなく、ここに大きな「不連続点」がある。
その「不連続性」は何か?
「正義使命―2025」の前までの「誘発原因」は「アメリカか頼清徳」である。
図表の赤い太線の上側をご覧いただきたい。頼清徳は台湾の総統なので、それを別とすれば、ターゲットは「アメリカ」だった。それらを青い文字で表示した。
その大きな「不連続性」はどこにあるのか?
今年11月以降、中国政府が最も激しい攻撃に集中したのは「高市発言」であって、中国のネットも「高市発言」に激しく燃え上がった。しばらくの間、ネットにおける頻出ワードのトップは「高市早苗」だったことからも、そのことをうかがい知ることができる。
日本への渡航自粛、留学自粛、日本人タレントのコンサート開催阻止、日本系コミケ参入の阻止、日本産海産物の輸入禁止・・・。数え上げればキリがないほど、中国の社会全体が連日連夜、「高市発言」抗議に満ち溢れた。
したがって、これだけでも今般の軍事演習の主たるターゲットは日本であり、誘発原因は「高市発言」だと言うことができるのだが、決定的な証拠になるキーワードが「正義」だ。
◆「高市発言」非難の時に頻出したキーワードは「正義」
数え上げればキリがないのだが、主たるものだけを拾い上げても、中国官側の「高市発言」に対する抗議には、必ずと言っていいほど「正義」という言葉が入っている。最近の目立った公式発表を列挙するだけでも、以下のようになる。
- 11月14日、環球時報:<社評:高市早苗の誤った言行から目を逸らしてはならない>の文中にある「これは国際正義を露骨に踏みにじり、戦後の国際秩序に対する公然たる挑発であるだけでなく、日中関係に深刻な損害を与えるものである」。
- 11月17日、新華網:<日本の戦略の危険な転換に警戒せよ>の文中にある「高市早苗の狂言は、歴史の正義に対する露骨な挑発だ」。
- 11月19日、新華網:<高市早苗の台湾に関する誤謬は、一線を越えて火遊びをしている以外の何物でもない>の文中にある「国際秩序と歴史的正義に対する公然とした挑戦だ」。
- 11月26日、人民網:<高市早苗の言行は歴史的正義を冒涜している>。
- 12月17日、新華網:<外交部:日本の軍国主義復活という危険な傾向は、地域諸国や国民の間で大きな警戒心を呼び起こしている>の文中にある「日本の高市早苗首相の台湾関連の誤謬(ごびゅう)は国際法および国際関係の基本規範に深刻に違反しており、第二次世界大戦の勝利と国際正義に公然と挑戦している」。(概ね以上)
これに対して、アメリカの台湾に対する武器販売計画発表に関しては、一切、「正義という言葉は使っていない」。その抗議頻度も非常に少なく控えめで、ネットも燃え上がってはいない。
それどころか、12月29日の論考<中国がMAGAを肯定!>に書いたように、軍事演習前日の12月28日の人民日報は、「中国の発展とMAGA(アメリカを再び偉大にする)は共存する」とさえ発表し、アメリカを礼賛している。
軍事演習が行われている最中の12月29日にも人民日報は「鐘声」コーナーで、28日と同様の「アメリカ礼賛」及び「米中友好」に溢れた社説を展開している。
これはこのたびの台湾包囲軍事演習が、決してアメリカを対象としたものでないことを証明する何よりの根拠だ。
その結果、今般の軍事演習コードネームが「正義使命―2025」となったのだということを結論付けることができる。
◆トランプ:中国軍軍事演習「懸念せず」
なお、トランプは今般の中国軍による台湾包囲軍事演習に関しては「懸念しない」と言っている。「中国はそこで20年間ほど軍事演習をしてきたし、私と習近平国家主席は素晴らしい関係にある」ともトランプは表明している。
また、ロイター社やAP社も、台湾包囲軍事演習の目的の一つには「高市発言」があると分析しており、台湾の「中天新聞網」に至っては、軍事演習「正義使命」の主な目的は「高市発言」に対する抗議だと、ストレートに書いている。
日本のメディアでは、今般の軍事演習に関して一斉に口を揃えたように「アメリカの台湾に対する武器販売が原因だ」と解説しているが、「証拠を出して分析しましょう」と言いたい。データこそが全てを語っている。
情緒的、感覚的、あるいは日本人感覚にできるだけ沿う形で「都合のいいように」世界の動向を分析し拡散することは、一つも日本国民のためにならない。そのことを警告したい。
追記:軍事演習は武力攻撃と、目的も手段も違い、中国は台湾島に武力攻撃することなく、2週間ほどの大規模軍事演習により台湾をエネルギー的に封鎖し、台湾が降参するのを待つという方針を早くから固めていた。軍事演習の間は船舶だけでなく民間航空の飛行機も飛ぶことができないなどの通告をするが、台湾への武力攻撃自体はしない。その区別は重要だ。
この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。















