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「習近平に助けを求める」ゼレンスキー ウクライナを外した米露会談を受け
会見するウクライナのゼレンスキー大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
会見するウクライナのゼレンスキー大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2月18日、サウジアラビアでウクライナ停戦をめぐる米露政府高官による会談が行なわれた。戦争当事者であるウクライナ抜きだ。これに対してウクライナのゼレンスキー大統領(以下、ゼレンスキー)は激怒し、「中国が停戦交渉に参加することを排除しない」旨の発言をした。

 すると中国では早速その発言に対する論考などが数多く出されたが、中でも興味深いのは台湾のテレビ番組「新聞大白話」が「ゼレンスキーは習近平に助けを求めた」と報道したことだ。

 トランプ大統領(以下、トランプ)は「ウクライナ戦争はバイデンが起こした」と明言している。その上で米露政府高官だけによる停戦交渉を進めているということは、いかにバイデンが「ウクライナを道具として扱い、ロシアに戦争を仕向けたか」を如実に表していると言えよう。

 ようやくアメリカに、真実を見抜く目と、それを堂々と公言するリーダーが現れたということだ。

◆トランプ「ウクライナ戦争はバイデンが起こした」の言葉の重さ

 2月12日にロシアのプーチン大統領(以下、プーチン)と電話会談をしたあと、米露双方とも具体的な内容は明かさなかったものの、この電話会談を高く評価した。しかし、その方向性がどのようなものであったかは、2日後のトランプの発言によって推測される。

 2月14日になると、トランプは「ウクライナ戦争は、バイデンのせいで起きたのであり、ウクライナのNATO加盟に対するバイデンの姿勢が原因だ」と発言し、概ね以下の点を強調した。

 ●バイデンがウクライナのNATO加盟への願望を支持したことが、ロシアを挑発して紛争を開始させた。

 ●プーチンが大統領になる前からロシアはNATOの拡大に反対し続けてきた。しかしバイデンはウクライナのNATO加盟が可能だと公言した。彼はそんなことを言うべきではなかった。彼がそう言った瞬間、私は「うーむ、今から戦争が始まるぞ!」と思った。この点で、私の考えは正しかった。ウクライナ戦争は、私が大統領だったら絶対に起きなかった戦争だ。(以上)

 まったくその通りだと思う。

 筆者自身はトランプの言葉と同じ趣旨の事実を、たとえば2022年5月1日のコラム、<2014年、ウクライナにアメリカの傀儡政権を樹立させたバイデンと「クッキーを配るヌーランド」>や、2022年5月6日のコラム<遂につかんだ「バイデンの動かぬ証拠」――2014年ウクライナ親露政権打倒の首謀者>などで書いてきた。

 その後、以下のシリーズで「ウクライナ危機を生んだのは誰か?」を徹底して追究してきた。

 ●2023年10月4日:ウクライナ危機を生んだのは誰か? 露ウに民主化運動を仕掛け続けた全米民主主義基金NED PartⅠ

 ●2023年10月9日:ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartⅡ2000-2008 台湾有事を招くNEDの正体を知るために

 ●2023年11月29日:ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartⅢ 2009-2015 台湾有事を招くNEDの正体を知るため

 ●2023年12月4日:ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartⅣ 2016-2022 台湾有事を招くNEDの正体を知るため

 これらのコラムに書いてある事実は、このたびトランプが言った言葉と中心軸が一致している。

 さらに注目すべきはトランプが「プーチンが大統領になる前から」と言っていることで、バイデンの策略以前に、2023年8月21日のコラム<遂につかんだ! ベルリンの壁崩壊もソ連崩壊も、背後にNED(全米民主主義基金)が!>で書いた事実などを指しているものと考えられる。トランプはそれを知っているからこそ、今年2月12日のコラム<習近平驚喜か? トランプ&マスクによるUSAID解体は中国の大敵NED瓦解に等しい>に書いたように、ウクライナ戦争を起こさせた元凶であるNEDを資金的に支えているUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)の解体を命じたものと推測される。

 したがってウクライナ戦争はあくまでもバイデンが誘い込んだ「米露戦争」であって、トランプにはこの意味が分かっているので、ウクライナを外した米露による停戦交渉を始めたものと解釈できる。欧州を外したのも、あくまでもバイデンがNATOに対する統治力を強化するために仕組んだ罠であることをトランプは見抜いているのだろう。

 このようなリーダーがアメリカに現れ得るということこそが、アメリカの偉大さだ。日本をはじめとした米側陣営は、戦後80年間にわたり、CIAやNEDにコントロールされてきた精神性の中で生きてきたので、トランプの言動が「異様だ」としか映らない人が多いようだ。

◆絶望したゼレンスキーが「習近平に救いを求めた」!

 ウクライナ戦争の停戦交渉を、ウクライナ抜きで行なっていることは、ゼレンスキーにとっては、到底許しがたいことだろう。ゼレンスキーが激怒して、「ウクライナを除いたウクライナ戦争停戦交渉などあり得ない!」と、さまざまな表現を変えて表明していることは周知のことなので、ここではその件に関しては説明しない。

 それよりも日本であまり報道されていないゼレンスキーの中国に関する発言を詳細にご紹介したい。

 ウクライナ政府が運営しているメディアUNITED24は、2月17日、Zelenskyy Says China May Join Peace Talks if It Provides Security Guarantees for Ukraine(ゼレンスキーは「もしウクライナの安全保障を提供するなら、中国が和平交渉に参加することもあり得る) | UNITED24 Mediaという見出しの報道をした。

 ゼレンスキーは2月17日にUAE(アラブ首長国連邦)のアブダビを訪問した時に、オンライン形式の記者会見をした。そのときの様子はウクライナ国営通信社のURKINFORM(ウルクインフォルム)の日本語版報道:ウクライナはサウジでの米露交渉結果を認めない=ゼレンシキー宇大統領で観ることができる(「ゼレンシキー」は「ママ」)。念のため雰囲気が分かるように図表1に、オンライン記者会見の様子をご紹介する。

図表1:ゼレンスキーが開いたオンライン記者会見

 

出典:URKINFORM

出典:URKINFORM

 

 このオンライン記者会見でゼレンスキーはURKINFORMの記者から「ウクライナは中国を和平交渉に巻き込むことを検討しているか?」と聞かれた。するとゼレンスキーは概ね以下のように回答している。

 ――中国と交渉し、その影響力を使ってプーチンに戦争終結を迫ることが重要だ。中国からの関心が初めて高まっているが、これは主に世界的なプロセスが加速しているためだと思う。特にグローバルサウスの国々がウクライナを支援し、ロシアに戦争終結を迫る意思があるのだから、(プーチンは)この考えに反対することはできない。(中略)王毅外相とウクライナの外相との会談は重要だった。これはより高いレベルでのさらなる対話(=習近平との会談)への道を開く可能性がある。(以上)

 グローバルサウスの国々が、バイデン政権べったりだったウクライナを支援しているとは思いにくく、どちらかというと「非米側陣営」と位置付けられており、中露と仲がいい国々が多い。また「中国からの関心が初めて高まっている」というのも現実を反映していない。中国はウクライナ戦争が始まった時点から、非常に高い関心を払ってきたので、ゼレンスキーの世界を見る目には偏りがあるように感ぜられる。

 それはさておき、ゼレンスキーの発言を受けて、中国大陸のネットでは多くの論考が現れた。たとえば2月18日の観察者網の泽连斯基:不排除中国参与乌克兰问题和谈的可能性(ゼレンスキー:中国がウクライナ問題和平交渉に参加する可能性を排除しない)などがあるが、論理的で長いので、むしろ台湾の情報をご紹介したい。

 同じく2月18日、台湾のテレビ局TVBSの番組「新聞大白話」は<米露サウジ対談で欧州が危ない? ゼレンスキーは絶望して中国の助けを求めた>というタイトルで、豪胆にゼレンスキーを斬っている。

 この番組は女性キャスターの喋り方が豪快で早口。聞いていて痛快なムードがある。「白話」は「白話運動」でも知られるように、庶民の話し言葉の意味で、まさに「庶民目線」なのがいい。

 その中の画面の一つを切り取って日本語訳を付けたものを図表2に示す。

図表2:台湾のテレビ「ゼレンスキーは絶望して中国に助けを求めた」

台湾のテレビ番組「新聞大白話」のスクリーンショットに筆者が和訳加筆

台湾のテレビ番組「新聞大白話」のスクリーンショットに筆者が和訳加筆

 中国語圏のネットでは、ほぼすべて「ゼレンスキーが習近平に救いを求めた」という形で書かれている。中国は、これまで何度も書いてきたように、どこまでも対露関係では「軍冷経熱」(軍事行動には参加しないが、経済的には熱く連携する)の方針を貫いており、結局、これも今まで述べてきた通り「最後にはアメリカに見捨てられるゼレンスキー」が、最終的には習近平に救いを求めたというのでは、話にならないだろう。まさに『嗤(わら)う習近平の白い牙(きば)』で書いた通りの図式になってきたと言うほかはない。

◆トランプ:ゼレンスキーは選挙なき独裁者

 ゼレンスキーがあまりに米露会談を批判するので、トランプを怒らせてしまうという、最も愚かな方向に事態は動き始めた。2月20日、トランプは自身のTruth Details | Truth Socialで、遂にゼレンスキーを「選挙なき独裁者」とまで言うようになったのである。トランプが何を書いているか、以下、要点だけを列記する。

 ●コメディアンとしてそこそこに成功していたウォロディミール・ゼレンスキーは、アメリカに3500億ドルを費やすよう説得し、勝てない戦争、始める必要もなかった戦争、そして米国を、「トランプ」なしでは決着がつかない戦争に突入させたのだ。

 ●アメリカは、ヨーロッパより2000億ドルも多く費やしており、ヨーロッパのお金は保証されているが、アメリカには何も返ってこない。なぜスリーピー・ジョー・バイデンは、この戦争はわれわれよりもヨーロッパにとって遥かに重要であるという点で平等化を要求しなかったのか。

 ●ゼレンスキーはわれわれが彼に送ったお金の半分が「行方不明」であることを認めている(筆者注:腐敗で消えている)。

 ●ゼレンスキーは選挙を拒否し、ウクライナの世論調査では非常に低い支持率だ。選挙のない独裁者、ゼレンスキーは早く行動した方がいい。さもないと国は残らないだろう。

 ●その間、われわれはロシアとの戦争を終わらせる交渉に成功している。これは「トランプ」とトランプ政権だけができることだと皆が認めている。バイデンは一度も試みず、ヨーロッパは平和をもたらすことに失敗し、ゼレンスキーはおそらく「ご馳走列車」を走らせ続けたいのだろう。(以上)

 これ以外にもトランプは、ゼレンスキーが停戦交渉に参加したいのなら、なぜこれまで何度も交渉のテーブルに着くことができたのに、それを自ら拒否したのかという類のこともくり返し述べている。

 それは、たとえば2022年4月24日のコラム<「いくつかのNATO国がウクライナ戦争継続を望んでいる」と、停戦仲介国トルコ外相>に書いたように、何度も停戦交渉のテーブルに着くことができたはずだが、そのチャンスをゼレンスキーはバイデンの意図に沿って放棄してきた。

 ようやく筆者がこんにちまで訴えてきたことの正当性が得られたようで、トランプの言葉一つ一つが筆者にはありがたくてならない。

 トランプは大統領就任演説で「常識の革命(revolution of common sense)」と言っている。この言葉の含意の一つにはバイデン政権などの民主党政権が「民主の名の下に他国干渉をしては戦争を起こしてきた」ところの「普遍的価値観」を内包していると解釈できる。拙著『米中新産業WAR』の終章でも触れたが、これは世界の「常識的秩序」の虚偽性を突いたものだ。

 それが理解できない人々には、トランプが世界の常識と秩序を乱すと映っているかもしれないが、むしろ、ようやく真実を見抜くことができる世界的リーダーが現れたのではないかと思われる。トランプにはとんでもない言動はあるが(したがってトランプのすべてを肯定できるわけではないが)、少なくともNEDに飼い馴らされた人たちには見えないであろう「巨大な変革」をトランプはもたらそうとしていることは確かなのではないだろうか。

 この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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