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遂につかんだ! ベルリンの壁崩壊もソ連崩壊も、背後にNED(全米民主主義基金)が!
1989年、ベルリンの壁崩壊に歓喜する人々(写真:ロイター/アフロ)
1989年、ベルリンの壁崩壊に歓喜する人々(写真:ロイター/アフロ)

これまでベルリンの壁崩壊やソ連崩壊の背後にNED(全米民主主義基金)がいると書いてきたが、このたびNEDの年次報告書を入手し、その具体的なデータと全貌を遂に明らかにすることができた。本邦初公開だ。世界でも初めてかもしれない。

本稿では特に、NEDの理事もしていたブレジンスキーが史上初めてポーランド人をローマ教皇に就任させて「宗教」を通して「無宗教」である共産主義を打倒する手段としたことにも焦点を当てる。本考察を通して、日本の対中姿勢の異様さが改めて浮き彫りになるだろう。

◆NEDが提供した旧ソ連衛星国などに対する民主化運動への支援金リスト

NED(全米民主主義基金)が発表している1985年から2021年までの年次報告書の中から、旧ソ連とその衛星国への民主化運動のための支援金の金額を拾い上げ、一覧表を作成してみた。ソ連崩壊後に独立した旧ソ連圏諸国に関するデータまで一気に分析しようとすると、一回のコラムではとても扱い切れる分量ではなくなるので、今般はまず、ソ連崩壊までのデータに限定して分析する。

一覧表が横に長いので、3枚ほどに区分し、縦につなげたものを図表1に示す。

NED年次報告書の分類(ヨーロッパ)に従い、一部は東欧だけでなく、スペインやフランスなどにも提供しているようなので、ありのままの国名と金額を年次別に列挙した。

図表1:ソ連崩壊までにNEDが東欧諸国などに提供した民主化運動支援金リスト

 

NED年次報告書に基づき筆者作成

NED年次報告書に基づき筆者作成

 

国名順に全て分析するのは文字数的に困難なので、比較的提供金額や件数が多い国を黄色マーカーで塗り、ソ連に関しては赤色で示した。

金額が圧倒的に多いのがポーランドなので、ポーランドを中心にソ連の共産主義体制を崩壊させようとしていたのだということが、このリストからも見て取れる。

そもそもアメリカのネオコン(新保守主義)は、世界最大の共産主義国家としてアメリカに脅威を与えていたソ連を打倒するためにNEDを1983年に結成したようなものだから、「ベルリンの壁崩壊」と「ソ連崩壊」のプロセスで、ネオコンあるいはNEDが何をしたかをつぶさに考察することは、現在のウクライナ戦争や、巨大化した中国を潰すためにアメリカが唱える「台湾有事」を分析するのには欠かせないエレメントだ。

◆NEDのソ連衛星国やソ連に対する民主化運動支援金提供の推移

図表1で示した数値の内、やや金額が大きい国(黄色マーカーで塗りつぶした国)やソ連そのものをピックアップして、提供金額の推移を図表2に示してみた。

図表2:NEDのソ連衛星国&ソ連における活動金額の推移

 

NED年次報告書に基づき筆者作成

NED年次報告書に基づき筆者作成

 

すべて点線で示したのは、たとえば1990-1991年の金額推移が、ルーマニアとブルガリアで一致するので重なってしまい、何が何だかわからなくなってしまうからである。ソ連は1991年12月25日に崩壊したためか、NED年次報告書にはソ連に関する1991年のデータはない。

ソ連崩壊に向かって1990年は一気に支援を加速しており、どの国のデータも1990年にピークを迎えている。中でもポーランドだけが特別に金額が多いのはなぜなのだろうか?

それを分析するには、ソ連崩壊のために何が動いたのかに関する、もっと大きな枠組みを考察する必要が出て来る。

◆ソ連崩壊のためにポーランド人をローマ教皇にしたブレジンスキー元米大統領補佐官

NEDが創設されるのは1983年だが、その設立を主導したネオコンは1960年代辺りからアメリカ政界で活動し始めている。その中の一人にズビグネフ・ブレジンスキー(1928-2017年)元米大統領補佐官(カーター政権時代、国家安全保障問題担当)がいる(1988年から1997年の間はNEDの理事)。ポーランド貴族だったブレジンスキー家の高貴な血筋を受け継いでおり、ポーランドに生まれたブレジンスキーは外交官だった父親に伴われてベルリンで(1931-1935年)アドルフ・ヒトラーの台頭を目撃し、その後父親のモスクワ赴任に伴いヨシフ・スターリンの大粛清を経験。1938年のカナダ赴任によりカナダで育ち、最終的にアメリカに定住することとなった。ブレジンスキーは祖国ポーランドがドイツに侵略されただけでなく、第二次世界大戦後は今度はソ連体制下に置かれていることから、ソ連を心の底から憎み、何としてもソ連を打倒したいという強烈な意志に燃えていた。

その怨念を、ポーランドの大司教をローマ教皇にするという史上初めての試みを通して晴らすのだから、スケールの大きさが違う。

1976年、ブレジンスキーはポーランドのカロル・ヴォイティラ大司教をアメリカに招き、同じポーランド人として意気投合して、アメリカで「お茶の時間」を楽しんだ。ここからのスリリングな物語は長くなりすぎるので省略するが、ブレジンスキーはこの「お茶の時間」を「強烈な兵器」として、ヴォイティラ大司教を、なんとローマ教皇に就任させるという曲芸をやってのけるのである。ブレジンスキーが推薦と当選を操ったことは彼自身が語っているので、まちがいのないことだろう。

ポーランド人のヴォイティラ大司教は、1978年10月16日、ヨハネ・パウロ2世としてローマ教皇に正式に就任し、翌1979年6月にポーランドを訪問している。ソ連の衛星国の一つとして共産主義体制下に置かれていたポーランド人の98%以上が本来はカトリック教徒なので、歴史上初めてポーランド人がローマ教皇になっただけでも信じられないことなのに、その本人がポーランドを訪問したのだから、それはもう抑えきれないほどの熱気で、まさに熱狂的に歓迎した。

この熱狂が、民主化への最初の結晶成長の「核」を成すポーランドでの独立自主管理労働組合「連帯」を生むのだから、ブレジンスキーの計算は見事だ。労働者の組合という共産主義国家に沿う名称ではあるものの、これこそはれっきとした「反共組織」で、ベルリンの壁崩壊もソ連崩壊も、この瞬間から始まる。

ヨハネ・パウロ2世は「空飛ぶ教皇」と呼ばれたほど、100ヵ国にのぼる国々を訪問しているが、それはソ連の衛星国を訪問することを「政治的目的がある」と言われないためのカモフラージュだったのではないかと推測される。

2020年6月に書かれた<ヨハネ・パウロ2世と共産主義に対する精神的勝利>では、ポーランド訪問を終えたあと、ヨハネ・パウロ2世はハンガリーやチェコスロバキア、ルーマニア…など、多くのソ連衛星国の教会の神父や牧師に影響を与え、「自由と平和への運動」を加速させたと書いてある。

1983年にはルター派の会議にも参加したのは、ドイツはもともとルター派が多いので、東ドイツにも影響を与えるためだったのだろう。ベルリンの壁崩壊に向けて積極的に動いたのはルター派教会のフューラ牧師だった。

共産主義が「無宗教」であることと、ヨーロッパの人々の信仰心の篤さというギャップに存在する「心の隙間と渇望」に目を付け、「宗教」によって「民主化運動」を貫かせようとしたブレジンスキーのアイディアには脱帽だ。実に鋭い頭脳の持ち主だったにちがいない。 

ソ連の統治が長かったので、若者たちの中にはすでに信仰心は失せていたかもしれないが、若者は逆に言論と行動が厳しい制限を受ける抑圧的な制度に我慢ならなかっただろうから、導火線に火が付きさえすれば、一気に燃え上がっていったものと思う。

人々の不満が鬱積していただけでなく、ゴルバチョフのペレストロイカ(改革・再構築)やグラスノスチ(情報公開)政策の失敗や1986年4月に起きたチェルノブイリ原発事故なども重なり、崩壊へのカウントダウンは多方面において存在していたものの、ポーランド人司教をローマ教皇に就かせるというブレジンスキーの鋭い手法と、市民を扇動するNEDの活躍は大きく功を奏した。 

かくしてベルリンの壁は崩壊し、ソ連も崩壊したのである。

そこまでの経緯を時系列的に示したのが図表3だ。

その間に中国では天安門事件が起きているので、図表3では、「日本が何をしたのか」を痛感して頂くために、赤文字で中国に関しても時系列の中に入れてある。

図表3で黄色に染めたのは、図表1と対応させるためで、NEDの支援金が多かった国を軸にしながらソ連が崩壊していったことが時系列表からも見て取れるための工夫だ。

図表3:ベルリンの壁とソ連の崩壊に向けて動いた民主化運動や政権崩壊関連の時系列

 

筆者作成

筆者作成

 

◆共産中国の崩壊を必死で留めた日本の異様さと台湾有事

図表3から浮かび上がるのは、1989年6月4日に起きた天安門事件に対する日本の行動の異常さだ。共産主義体制がここまで大きな枠組みの中でつぎつぎと崩壊していったのに、中国だけが生き残ったのは、日本が崩壊させてはならないと必死で手を差し伸べたからだ。今では日本の経済力を遥かに上回るだけでなく、アメリカに脅威を与えるようになったので、アメリカに追随して「台湾有事」を叫んでいる。その異様さを図表3は容赦ない形で突きつけてくる。

拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳述したように「台湾有事」を創り出しているのは「第二のCIA」であるNEDだ。ブレジンスキーはソ連崩壊に関してはかなりハイレベルのスマートな手段を使ったが、彼とて基本的にはネオコンの軍産複合体に根差しており、NATOの東方拡大には賛成だという好戦的姿勢だった。

ブレジンスキーの思想はオバマ政権とバイデン政権にバイブルのように受け継がれているので、NEDはどんなことでも仕掛けてくる可能性を秘めている。(ロシアを倒すための)ウクライナ戦争自身が、その中の一つだ(これに関しては折を見てNEDのデータを示しながら分析する)。

日本が大切にして残した共産中国を、「台湾有事」を理由にして打倒する仕組みなど、NEDなら容易に仕掛けてくるだろう。それを見極める目を「アメリカ脳化」されてしまった日本人は持てるか?

それが試されている。

なお、「アメリカ脳」に関しては8月10日のコラム<アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳>で述べ、日本政府の異様な媚中姿勢に関しては8月13日のコラム<日本人の戦争贖罪意識もGHQが植え付けた その結果生まれた自民党の対米奴隷化と媚中>で考察した。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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