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習近平驚喜か? トランプ&マスクによるUSAID解体は中国の大敵NED瓦解に等しい
USAIDの旗(写真:ロイター/アフロ)
USAIDの旗(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領は就任直後、イーロン・マスクDOGE(政府効率化省)長官に命じてUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)の徹底調査をさせている。事実上のUSAID解体だ。

 USAIDはNED(全米民主主義基金)を財政的に支えている組織で、USAIDが解体されればNEDの活動は瓦解する。中国から見れば香港デモや台湾独立を煽り、中国大陸にまで手を伸ばして白紙運動を展開させていたNEDをトランプとイーロン・マスクが解体してくれるのなら、こんな嬉しいことはないだろう。

 これにより、中国政府転覆のための活動が困難になるからだ。

 関税など、どうでもいいほど習近平にとってはありがたい事態にちがいない。

◆USAIDとNEDとの関係

 USAIDはその全称であるUnited States Agency for International Developmentの頭文字を取ったもので、日本語的には「ユーエス・エイド」と読む。「USエイド」と表現した方が分かりやすいかもしれないが、最近ではUSAIDの注目度が高くなってきて目に馴染んでおられる方も多いと思われるので、ここでもUSAIDを用いて論じることにする。

 アメリカのMediumという、Twitterの共同創設者であるエヴァン・ウィリアムズ氏が創設したプラットフォームには、衝撃的な図表が載っている。それを図表1として、まずご覧に入れたい。

図表1:USAIDとNEDとCIAの関係

 

出典:Medium

出典:Medium

 

 図表1を日本人にとって、より分かりやすくするために和訳した上で、多少の工夫をした図表2を別途作成した。

図表2:USAIDとNEDとCIAの関係の日本語版

 

Mediumにある図表を和訳するな工夫して、筆者作成

Mediumにある図表を和訳するなど工夫して、筆者作成

 

 今さらではあるが、NEDとは何かを簡潔にご説明したい。

 まず、NEDは英文全称はNational Endowment for Democracyの頭文字を取ったものだ。世界中に「アメリカ流民主主義」を流布させるために、それを実行していない国や政府があると、NEDスタッフを派遣して現地の民主主義志向団体を育成し、トレーニングを経て政府転覆の動きを助ける(煽る?)という働きをしてきた。詳細は拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の第六章で書いたが、この時はまだNEDという名前が知られていなかったので、NEDが「第二のCIA」と呼ばれていることから、「CIA」という単語によって「NED」を代表させていた。今ではかなり知られるようになったのは、ありがたいことだ。

 そのNEDに関して、図表1ではCIAだけでなく、USAIDが大きく関係していることが明示してある。CIAはNEDと「戦略的連携」をしているが、財政的支援はUSAIDがしていることが示してある。筆者はコラムでも拙著でも、何度も「米議会を通して連邦政府から財政的支援を受けている」と書いてきたのだが、その具体的な組織がUSAIDだったことになる。

 図表2を使ってもう少し詳細に説明すると、NEDの下にIRI(国際共和研究所)、NDI(全米民主国際研究所)、CIPE(国際民間企業センター)という3つの中核機関がある。

 図表2の左端に書いた「政策介入や資金提供を正当化するための、政治的自由と人権に関する報道や論説の拡散」のための組織として「フリーダムハウス」やジョージ・ソロスが創立した「オープン・ソサエティ財団」がある。この二つの組織が左下に「=」で書いてある「訓練、資金、物流」以外にメディア報道をコントロールする。メディアのコントロールは、もちろん日本の隅々にまでわたっているので、NEDに関する情報を書くと、日本では「陰謀論者」として排除して、ファクトを見るのを避けようとする傾向にある。

 昨年11月12日のコラム<日本はなぜトランプ圧勝の予測を誤ったのか? 日本を誤導する者の正体>の「図表1」をご覧になると、アメリカでもNEDによるマインド・コントロールが行きわたっていることが見て取れる。

 トランプはNEDがコントロールする社会認識と政府構造をまとめてDeep State(ディープステート、闇の政府)と称し、根本から体制変革(レジーム・チェンジ)を断行しようとしているのだと思われる。

 日本では、あまりにマインド・コントロールされてしまっているために、トランプの主張あるいはNEDの暗躍を論じる者を、陰謀論とか陰謀論者と片付けて、真に思考すること避ける(思考停止する)傾向にある。思考を避けるのは、「人間であることを避けるに等しい」と言っても過言ではないだろう。

 トランプ&イーロン・マスクは、西側諸国の主軸となってしまっているような精神構造を変えてしまうという大変革を断行しようとしているのだから、習近平が喜ばないはずがないのである。

◆中国に圧倒的に有利に働くトランプ&イーロン・マスクの決断

 アメリカがUSAIDを瓦解させるということは、NEDの活動が困難になるということになるので、中国は大喜びだ。なぜなら冒頭にも書いたように、NEDは香港に拠点を置いて香港の民主化デモを煽り、台湾にも支部を設立して台湾独立を煽り続けているからだ。

 これら、NEDが中国政府転覆を狙って起こしてきた行動は、2023年8月6日のコラム<中国政府転覆のためのNED(全米民主主義基金)の中国潜伏推移>でも触れた。

 香港デモは今では一休止しているが、台湾に関しては独立を煽る運動は未だ盛んで、NEDは中国大陸内でも(ネットを使って指示を出し)白紙運動を起こさせ、何とか政府転覆の機会をうかがっている。そのNEDが活動できないとなると、習近平にとっての国内の治安維持が楽になるだけでなく、最大の関心事である台湾問題が暫時安泰となる可能性がある。

 中国大陸のネットではUSAID解体に向かうトランプ&イーロン・マスクへの礼賛が絶え間なく湧き出ている。どれを選択すればいいか、多すぎて迷うほどだ。読者の中には大陸発の情報だと疑念を抱く方もおられるかもしれない。

 そこで逆に、台湾側の反応をご紹介したいと思う。

 たとえば、2月10日の聯合新聞網は<なぜトランプのUSAID撤廃は台湾の外交関係に不利になるのか?>というタイトルでUSAID解体を嘆いている。

 そこには「昨年、共和党のアンディ・バー下院議員と共和党と民主党の議員数人は、中国本土が台湾を孤立化させようとする試みに対抗して、台湾と他国との関係を強化するために、USAIDに年間4000万ドルの追加予算を提案した」と書いてある。しかし、そういった予算が凍結されると、台湾はどうなってしまうのかという懸念を表明している。

 また2月6日の中央社CNAは<トランプはUSAIDを始末してしまおうとしている 専門家:未公開計画によると台湾への緊急対応と救助が含まれている>というタイトルで報道している。その専門家として、一部NEDに染まった米ハドソン研究所の研究員の証言を挙げているので、藁(わら)をもつかむ気持ちが表れている。興味深いのは、その研究員は「過去8年間、USAIDは目覚ましい反中国共産党プログラムを静かに実施してきた」と述べていることだ。つまりUSAIDは「反共」のために尽力していることを証言していることになる。

 それが活動できなくなるので、習近平にとって悪くないに決まっている。

◆トランプと習近平は意気投合か?

 トランプは1月23日に開催されたダボス会議にオンライン参加をしたのだが、参加者の前でトランプは「私は習近平が大好きだ。ずっと好きだった。私たちはいつもとても良い関係だった。武漢から新型コロナウイルスが出てきたときは、関係は緊張したが、しかし私たちはいつも素晴らしい関係を築いてきた。私は中国とうまくやっていき、仲良くしていきたいと思っている」と言っている。

 ここまで「凄い」、「習近平愛」を告白した首脳は見たことがないほどだ。

 その後も習近平とは「秘かに」会話をしているらしい。

 2月11日のロイター電は、トランプが1月20日の就任以来、習近平と話をしたと伝えている。フォックスニュースで放映されたインタビューで、「大統領就任以来、中国の指導者と話したかどうか」と尋ねられたときに漏らしたらしい。そこでも、「私たちは非常に良好な個人的関係を築いている」とトランプは付け加えたとのこと。電話会談がいつ行われたのか、何が話し合われたのかについての詳細は明らかにしなかったようだ。

 トランプのことだから、いつ何がコロッと変わるかは分からないが、しかし「習近平愛」は隠せないようだし、今般のUSAID解体が、習近平にどれほど大きなメリットをもたらすかは、誰よりもわかっているはずだ。

 NED論を陰謀論と片付けたがる日本は、思わぬところで梯子を外されないように気を付けた方がいいかもしれない。

 この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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