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「いくつかのNATO国がウクライナ戦争継続を望んでいる」と、停戦仲介国トルコ外相
停戦交渉を担うトルコの外相(写真:Abaca/アフロ)
停戦交渉を担うトルコの外相(写真:Abaca/アフロ)

4月20日、停戦交渉を仲介しているトルコの外相が「いくつかのNATO加盟国が、ウクライナ戦争が続くことを望んでいる」と表明した。その国名は明示していないが、アメリカであることは歴然としているだろう。

◆トルコ外相が「NATOの中にはウクライナ戦争を長引かせたい国がある」

4月20日、トルコのメヴルト・チャヴシュオール外相は、CNN TurkのインタビューでSome NATO states want war in Ukraine to continue(いくつかのNATO加盟国が、ウクライナ戦争が続くことを望んでいる)と語った。

トルコはウクライナ戦争の停戦交渉を仲介する役割を果たしている、NATO加盟国の一つだ。

その外相が語った言葉なので、何よりも説得力があると言っていいだろう。

報道によれば、トルコのチャヴシュオール外相は「トルコは、ロシア-ウクライナ戦争が、イスタンブールでの和平交渉後、これほど長く続くとは思っていなかった」と述べた後に、以下のように語ったという。

――しかし、NATO外相会談を通して、私はある印象を抱くに至りました・・・つまり、いくつかのNATOメンバー国は、戦争が長引くことを望んでおり、戦争を長引かせることによってロシアを弱体化させようと思っている(=ロシアを弱体化させるためにウクライナ戦争を長引かせようとしている)ということです。

ここで言っているところの「いくつかのNATOメンバー国」とは、もちろん「アメリカ」であることは明らかだろう。複数形で言ったのは、「アメリカ」と明示したくないからかもしれないし、あるいはアメリカにより誘導されている「イギリス」もあると言いたかったのかもしれない。

事実、インドを訪問したイギリスのジョンソン首相は、4月22日、<ウクライナ戦争は2023年末まで続くかもしれない>と言っている。

筆者自身は、4月16日のコラム<「アメリカはウクライナ戦争を終わらせたくない」と米保守系ウェブサイトが>で、アメリカの本来の保守派が立ち上げているThe American Conservativeというウェブサイトに掲載された論説を紹介した。その内容はトルコ外相の言っていることと一致しているので、The American Conservativeの論説を陰謀論として片付けるのは、もはや誰にもできないのではないだろうか。

◆NATO拡大に燃えるバイデン大統領

トルコの外相が言及しているNATO外相会談とは、4月7日にベルギーで開催された会談で、NATO外相会談だというのに、日本の林外相が招待されて参加している(日本の外務省ウェブサイト)。そこには以下のような説明がある。

――今回のNATO外相会合への出席は、NATOからの招待を受けたものであり、日本の外務大臣による初めての出席です。林外務大臣が出席したNATOパートナーセッションには、NATO加盟国30か国及び招待を受けたパートナー(日本、豪州、フィンランド、ジョージア、韓国、ニュージーランド、スウェーデン、ウクライナ及びEU)の外相等が出席し、ウクライナ情勢や国際的な安全保障情勢等について議論が行われました。

(引用ここまで)

NATOは東西冷戦により、共産党圏の最大国家であった旧ソ連に対抗するものとして設立されたので、1991年末にソ連が崩壊したからには、不必要になったはずだが、NATOはひたすら「NATOの東方拡大」の方向にしか動いていない。

トランプ前大統領は「NATOなど要らない」と大統領選挙期間中から言い、危うくNATOを解散させようとしたほど、激しいNATO不要論を主張していた。

しかし、バイデン大統領は何としてもNATOの力を拡大させたいという強烈な意思を持っており、「国際社会に戻ってきた」と宣言した以上、なおさら後に引けない。

そもそも、NATOがなければ、アメリカの欧州における存在価値はなくなるので、NATOを強大化させようと、バイデンは必死なのである。

NATOを強大化させるには、NATOが共通に脅威を感じる「強烈な敵」がいなければならない。トランプはプーチンと仲が良かったが、アメリカのネオコン(Neo Conservative、新保守主義者)たちは、ロシアを「強烈な敵」に仕上げていった。

もともと中立化を望んでいたウクライナ国民に、何としても「NATO加盟」を強く呼びかけ煽っていったのは、副大統領時代のバイデンだ。

2009年7月からウクライナ入りして、「ウクライナがNATOに加盟すれば、アメリカはウクライナを強くサポートしていく」と演説した。その時にはウクライナ国民は「何を場違いなことを言っているのだろう」という反応しかなかったし、その1年ほど前の2008年4月に、当時のブッシュ大統領がウクライナを訪問してNATO加盟を奨励したところ、ウクライナ人が抗議デモを展開したほどである。

そこでバイデンは、副大統領の間に6回もウクライナを訪問してアメリカの言いなりに動く傀儡政権を樹立させ、今日に至っている。

親米の傀儡政権を樹立させるためにウクライナで起こした2013年の政府転覆のクーデター(マイダン革命)に関しては、アメリカが関与したと、2015年1月に、当時のオバマ大統領がCNNの取材を受けた際に認めている。

ウクライナ国民の平和と幸せを犠牲にして、バイデンは狂気のプーチンにウクライナ攻撃をさせるべく、ウクライナをNATO加盟申請に追い込み、今日に至っているのだ。

これらすべては、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第五章に掲載した年表を用いて、徹底して解明に努めた。

◆習近平・プーチン会談後に始まった停戦交渉をアメリカが阻止

残虐極まりないプーチンのウクライナ攻撃は、日本敗戦後に中国で経験したソ連軍の蛮行と、それに続く中国共産党による食糧封鎖により餓死体の上で野宿させられた経験を持つ筆者にとって、他人事(ひとごと)とは思えないほど許し難い。いかなる戦争に対しても、激しい憤りを覚える。

そのプーチンと蜜月関係にある習近平は、プーチンがウクライナ軍事侵攻に入った翌日の2月25日、プーチンと電話会談して、「話し合いによって解決してほしい」という要望を、プーチンに直接伝えた

ところが同日、バイデン政権のプライス報道官は、記者会見で、ロシア軍のウクライナからの完全撤退でもない限り「停戦交渉のオファーなどは無意味なので、受けるな」という趣旨のことを言っている。

会見は非常に長いので、そのときのプライス報道官の写真を張り付けたAFP報道のツイートが分かりやすいだろう。そこには「アメリカは、キーウ(キエフ)に話をしたいというモスクワのオファーをしりぞけた。それは現実的な外交ではないから」と書いてある。

AFP報道を見た2月26日のツイート
AFP報道を見た2月26日のツイート

このようにアメリカは、最初から停戦交渉を阻止しようとしてきたが、それでもトルコはアメリカの停戦交渉阻止に屈することなく、自ら停戦交渉の仲介を買って出て、今日に至っている。

◆私たちが望んでいるのは「停戦」

私たちが望んでいるのは、ひたすら一刻も早い「停戦」だ。

一刻も早く、この見るに堪えないような心の痛みを与える蛮行を中止させること以外にない。だから習近平に、プーチンと親しいのなら、もっと強烈に停戦を迫れと言いたい。

4月22日のコラム<ウクライナ戦争は中国の強大化を招く>に書いたように、習近平は圧倒的な経済的優位性を以て、プーチンに「早く停戦しないと経済的協力を中止するぞ」と脅迫してもいいくらいだ。

日本はまた、中国のハイテク製品のコアとなるパーツを中国に提供しているので、「一刻も早い停戦をプーチンに要求しないと、日本はパーツの提供を止めるぞ」というくらいの交換条件を出して、習近平に迫るくらいの気概を持ってほしい。

しかし親中議員によって成り立っているような岸田内閣にはそのような気概はなく、またウクライナ戦争によってアジア・ユーラシア経済圏形成に有利になってきた習近平は、穏やかにプーチンを習近平側に引き寄せたままにしていたい。

となると、トルコ外相が言っている「戦争を長引かせたい一部のNATO国」に、「長引かせる方向に動くのをやめろ」と働きかけるのが、日本にできる唯一の道かもしれない。

私たち一般庶民にもできるのは、戦争がないと困るアメリカの戦争ビジネスを支える軍産複合体(軍需産業や国防総省、議会が形成する経済的・軍事的・政治的な連合体)の存在に目を向けていくことではないだろうか。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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