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台湾有事は遠のくのか? 立法院長に国民党が当選、民衆党の柯文哲は「民進党を訴える」と「柯文哲の乱」!
民衆党党首・柯文哲 中台の運命を左右する「柯文哲の乱」(写真:ロイター/アフロ)
民衆党党首・柯文哲 中台の運命を左右する「柯文哲の乱」(写真:ロイター/アフロ)

2月1日、台湾立法院(国会)の院長(議長)選挙で、対中融和的な国民党の韓国瑜氏が当選した。520日に発足する親米的な民進党の頼清徳政権にとっては「ねじれ国会」の「ねじれ度」がさらに強くなり、国防予算案などを通しにくくなるだろう。

一方、韓国瑜が当選したのは新立法委員(国会議員)の中にいる2名の無党派が国民党側に付いたからだが、今後の立法院運営(国会運営)では柯文哲氏が率いる民衆党委員(議員)8人が民進党の案に賛成するか国民党の案に賛成するかによって予算案の可否が決まる。

ところがなんと、その柯文哲が民進党を訴えると怒っていることが2月2日にわかった。となれば、予算案などは対中融和の方向で決まっていく可能性が高い。

何が起きているのだろうか?

「柯文哲の乱」を紐解こう。

◆国民党の韓国瑜が当選した背景

1月15日のコラム<どう出る、習近平? 台湾総統選、親米民進党勝利>に書いたように、総統選では民進党の頼清徳氏が勝ったが、立法院では全議席113のうち、「国民党:52議席、民進党:51議席、民衆党: 8議席、無党派2議席」となり、国民党が第一党となった。

そのコラムでは、2月1日に行われる立法院院長・副院長選挙で、ひょっとしたら「緑(民進党)白(民衆党)合作」があり得るかも知れず(頼清徳が示唆)、もし頼清徳の要望に応じたら、民衆党の柯文哲氏は完全に選挙民の信頼を失ってしまうだろうと懸念した。

柯文哲は、「藍(国民党)白合作」を破局させながら、民進党からのモーションに応じるというようなことは、さすがにしなかったようだ。結果的に柯文哲はどちらにも付かず「独自路線」を貫いた。

結果、2月1日の投票では民衆党も独自の立候補者を立てて、1回目の投票では以下のようになった。

   ●韓国瑜(国民党):54票(48.2%)

   ●游錫堃(民進党):51票(45.5%)

   ●黄珊珊(民衆党): 7票(6.3%)

院長に当選するには過半数(50%以上)を獲得していなければならないので、上位2位の立候補者に関する決選投票に入ることになった。このとき民衆党は退場して参加せず、国民党にも民進党にも投票しないという姿勢を貫いたことになる。

となると、民衆党議員を除いた議員による決選投票となり、無党派の2人を国民党が引き寄せるか民進党が取り込むかのどちらかによって結果が逆転するわけだが、無党派の2人は、共に国民党側に付いたので、結果として

   ●韓国瑜(国民党):54票(51.4%)

   ●游錫堃(民進党):51票(48.6%)

となり、韓国瑜が勝利したわけだ。

無党派の2人は陳超明氏高金素梅氏で、やや国民党寄りの傾向があり、1月13日に行われた立法院選挙においても国民党の支援を得ている。こういう時のために選挙期間中に支援するというのは、相当に周到であったということになろうか。

副院長も国民党の江啓臣氏(2020年3月9日~2021年10月5日の期間のみ国民党主席)が当選した。

◆「柯文哲の乱」――民衆党の柯文哲氏が民進党を訴えると激怒!

ここで問題になるのは、今後、行政院で民衆党がどう動くかだ。

そう思って柯文哲の動きを追っていたところ、なんと、2月2日の「09:38」にシンガポールの「聯合報」が、<(柯文哲が)民進党に電話して緑白合作を呼びかけたと報道され、柯文哲は「嘘八百だ!」と怒り、「午後、民進党を訴える」と批判>と報道しているのを知った。

このリンク先には柯文哲が激怒している動画があるので、ぜひリンク先をクリックして動画をご覧いただきたい。これ以上の証拠はなく、テロップも動画の画面に出て来るので、漢字や表情から概ねの内容は想像いただけるものと思う。

簡単に書くと、民進党(緑)の報道担当者(中国語では発言人)が、「柯文哲の方から民進党に電話してきて、緑白合作をしようと持ちかけてきた」と言ったとのこと。

それを知った柯文哲は激怒し、「何を言ってるんだ!連絡してきたのは民進党の方じゃないか!民進党から連絡があり、民進党関係の医療業界の長老に電話するようにと頼んできたので、長老だから(失礼がないように)言われた通りに返電するという形で連絡したに過ぎない。それを私(柯文哲)の方から緑白合作しようと持ちかけたなどというのは本末転倒!民進党はもう全く信用できん!もう、これ以上は我慢ならない!訴えてやる!」と反論。

頼清徳も元医者なら、柯文哲も元医者。

そこで頼清徳陣営が医者仲間の老練の大家の名前を出して、柯文哲が返電をしないわけにはいかない所に追い込みながら、柯文哲が自ら積極的に「緑白合作をしよう」と頼清徳陣営に持ちかけてきたのだと民進党が言い始めたのだ。柯文哲は激怒し、「こんな信用のできない、大ウソつきの民進党(特にその報道官と記者)は、今日の午後にも訴えてやる!見てろよ!」と威勢よく激しい。

それに対して民進党も「おお!結構!法廷で会おう!」と強気の構えだ。

この「事件」に関しては、どうやら台湾の中時新聞網が先に報道しているようで、時間を見ると2月2日の「04:10」。ただ、中時新聞には動画がないので、聯合報をご覧になる方が、分かりやすいかもしれない。

いずれにせよ、立法院で民衆党が民進党の提案に賛成するという可能性は、これで無くなったと言っていいだろう。

◆台湾有事は遠のくのか?

したがって立法院では、対中融和路線の中で国防予算等の議決がなされるようになるだろうから、たとえばアメリカから大量の兵器を購入するとか、米軍による軍事訓練を増やすといった種類の予算案は否決される傾向に動くだろう。

そうでなくとも、1月30日のコラム<米中の力関係が微妙に逆転? ガザ紛争が招いた紅海危機問題で>で書いたように、ガザ紛争以来イランと対峙しているアメリカは、アメリカ自身が中東戦争に直接参戦することは避けたいという事情もあり、中国にイランを説得するよう動いてほしいために、中国に対して低姿勢だ。

当該コラムで書いたように、台湾総統選で民進党の頼清徳氏が勝った時に、バイデン大統領はすかさず「アメリカは台湾の独立を支持しない」と表明したし、ウクライナだけでなく中東と台湾での三面戦争に関与することができないことから、昨年12月の時点ですでに米国在台湾協会(AIT)は民進党に「アメリカは台湾独立に反対し、一方的に現状を(台湾が)変更することに反対する」と言い渡した。EUも「台湾は一方的に独立を宣言すべきではない」と表明している。そのため12月1日の台湾の中時新聞は<アメリカが釘を刺した 頼清徳は台湾独立を謳った民進党綱領(の是正)を回避できない>という見出しで、民進党が身動きできない状況を報道している。

あらゆる面から見て、アメリカは今では「台湾有事を誘発させるな!」という趣旨のシグナルを民進党に対して発しているのである。

となれば台湾の方から中国の武力侵攻を誘発する行動には出ないことになるので、習近平としても武力統一をする理由は皆無となる。そうでなくとも習近平は芳しくない国内の経済事情や恐るべき党内、特に軍部の大規模腐敗に直面し、何とか武力衝突が起きないように必死だ。あれだけ信用して抜擢した秦剛前外相などは、不倫を通して情報漏洩さえしているという恐ろしさ。どんなに厳重に身体検査をしても、怖くてなかなか任命できないという状況に習近平は苦しんでいるはずだ。

あらゆる側面から見て、台湾の立法院正副院長の選挙結果からも、「台湾有事は遠のいている」という結論に行きつくのではないだろうか。

日本は台湾有事を前提として、むしろ「勇ましくなり」、臨戦態勢に向かって「はしゃいでいる」ように見受けられる。

自民党の裏金問題など、長きにわたる日本政治の根本が揺らいでいるのに、そこから目を逸らさせ「外敵創り」によって保身を試みる自民党政権と同調圧力に騙されないように、日本国民は俯瞰的視点を持たなければならない。

そうでなければ、日本人は「自ら好んで」戦争に突入し、日本国民の命を奪う道を「自ら選択」する結果を招く。

日本が軍事力を強化することには反対しないが、自ら戦争を招く世論形成は避けねばならない。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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