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どう出る、習近平? 台湾総統選、親米民進党勝利
台湾総統選 民進党の頼清徳氏の勝利宣言(写真:ロイター/アフロ)
台湾総統選 民進党の頼清徳氏の勝利宣言(写真:ロイター/アフロ)

台湾総統選で親米の民進党・頼清徳氏が勝利した。立法院に関しては国民党が議席を増やしたものの過半数に達せず、1議席しか民進党に勝っていない。「ねじれ国会」は民衆党が国民党側に付くか民進党側に付くかによって方向性が決まる。

中国は頼氏の得票率が40%でしかないことを以て、この選挙結果は台湾の主流世論ではないと主張。これまでの姿勢を変えない構えだ。

国民党の意外な敗因と今後の中台の動向を考察する。

◆総統選での民進党の勝利と立法院における議席

1月13日、台湾総統の選挙結果と立法院議員の選挙結果が出た。

先ず総統選の開票結果は

     民進党の頼清徳氏:558万6019票(40.05%)

     国民党の侯友宜氏:467万1021票(33.49%)

     民衆党の柯文哲氏:369万 466票(26.46%)

で、頼清徳が当選した。蔡英文総統の方針を受け継ぐと宣言し、圧倒的な親米路線を継続することになる。

一方、立法院の方は全議席113のうち、

     国民党:52議席(改選前より15議席増)

     民進党:51議席(改選前より11議席減)

     民衆党: 8議席(改選前より3議席増)

となり、いわゆる「ねじれ国会」状況となった。

国民党がここまで議席数を伸ばすことができたのは、内政に関する民進党に

対する不満があるからで、それは2022年11月に行われた、内政が問われる統一地方選挙で国民党が圧勝し、民進党が惨敗したことからも窺(うかが)われる。

しかし、対外政策が重視される総統選においては、親米寄りの民進党が勝利した。その背景には言うまでもなくアメリカの力があり、「第二のCIA」と呼ばれるNED(全米民主主義基金)は台湾にその支部である「台湾民主基金会」を2003年に設立しているほどだ(詳細は拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【図表6‐8 「第二のCIA」NEDの活動一覧表】など)。その浸透力は大きい。

その証拠に、2023年11月20日のコラム<米国在台湾協会は3回も台湾総統候補者を面接試験し、柯文哲は常に選挙状況を報告するよう要求されている>に書いたように、民衆党の柯文哲は野党一本化である「藍(国民党)白(民衆党)合作」に署名したことを発表した瞬間に、AIT(米国在台湾協会)から連絡が来て「おまえ、何するつもりだ?」と威嚇され、「藍白合作」は破局した。柯文哲自らが告白しているので間違いはないだろう。

もし、「藍白合作」が潰されていなかったら、得票率(頼清徳40.05%、侯友宜33.49%、柯文哲26.46%)から言って、野党連合は59.95%前後の票を獲得していた可能性があり、野党連合が圧勝したはずだ。

したがって、この選挙はアメリカと中国大陸との闘いでもあり、アメリカが戦略的に勝利したということもできる。

事実、頼清徳は勝利宣言のスピーチで、中国大陸の選挙活動介入を「外部勢力の介入」と批判しており、アメリカの介入は台湾に浸透しきっていて「内部勢力」と認識していることになる。

◆国民党の敗因は国民党自身に  「緑白合作」も?

もう一つの国民党の敗因は、国民党自身にある。

侯友宜は選挙期間中、「九二コンセンサス」とか「一つの中国」、ましてや「統一」などといった類の言葉を使わないように慎重に言葉を選んでいたのに、選挙直前(1月8日)になって、馬英九元総統が、DW(Deutsche Welle、ドイツの声)の取材に答えて<「九二コンセンサス」を讃えたり、習近平を信じるべきだと言ったり>などしたからだ。この情報が1月10日に公開された。

選挙民は一気に国民党から離れていったのは否めないだろう。

そのためもあってか、選挙後、頼清徳は<何なら民衆党と組む可能性もなくはない>と示唆しているので、「ねじれ国会」が解消される可能性もある。しかし、これで民衆党の柯文哲が今度は緑(民進党)と「緑白合作」という連立内閣を組むようなことをしたら、もう柯文哲の信用はガタ落ちになるのではないだろうか?

柯文哲はそもそも「民進党のやり方は絶対に許さない!」と叫んで民衆党の産声を上げたようなものだし、台北市長時代は<「両岸は一つの家族」と中国を讃えていた>のに、節操がなさ過ぎるだろう。

立法委員の任期は2月1日からなので、今年も2月1日に立法院の院長・副院長が選出される。今回、国民党と民進党はどちらも全議席の過半数に達してないので、民衆党がどちらに付くかによって、立法院の院長が国民党になるか、あるいは民進党になるかが決まる可能性が高い。したがって2月1日になれば、「緑白合作」という、あり得ないような状況の有無が明らかになるものと推測される。

◆中国の反応

では、今般の選挙結果に関して、中国はどのように反応しているのだろうか?

習近平にしてみれば、あまりに衝撃的な結果だったのでしばらく報道が規制されていたくらいだったが、いつまでもそうもいくまい。

夜中の22:46になって、最初に公的見解を発表したのは国務院台湾弁公室だった。その見解は概ね以下のようなものである。

 ●民進党が台湾の主流世論を代表しているわけではない。

 ●台湾は中国の台湾で、今回の選挙が両岸関係の基本的な発展の方向性を変えることは絶対にできない。祖国がいずれ、そして必然的に統一されるという大勢を阻止することはできない。

 ●台湾問題を解決し、祖国統一を成し遂げるという(中国の)姿勢は一貫しており、その意志は磐(いわお)のように揺るぎない。「一つの中国」原則を体現する「九二コンセンサス」を堅持し、「台湾独立」の分離主義行動と外部勢力の干渉に断固として反対し、台湾の関連政党、組織、各界の人民と協力して、両岸関係の平和的発展を促進し、祖国統一の偉業を前進させる。(以上)

頼清徳の得票率が40%であったため、残り60%の民意を合わせたものが「台湾の民意だ」という主張は、台湾内にもあるが、上記見解の冒頭部分は、そのことを指している。

同様の内容は13日夜、外務省報道官の意思表明にもあり、14日の中央テレビ局CCTVのお昼のニュースでも、ほぼ同じ文面で報道した。いずれも悔しさが滲み出ている。

◆習近平はどう出るのか? 腐敗で軍事力は弱ってないのか?

バイデン大統領は台湾総統選における民進党の勝利に関し、第一声として、<台湾の独立は支持しない>と言っている。台湾総統選の勝利に対し、先ず祝意を示さず、否定的なコメントを発するのは珍しい。2008年に親中の国民党・馬英九氏が総統に当選したときでさえ、時のブッシュ大統領は祝意を表している

しかし一方では同報道で、バイデン政権の高官が「バイデンは民進党政府への支持を示すため、台湾に非公式の代表団を派遣する予定だ」と言っているという。相変わらずの言行不一致だ。

非公式であるにせよ、米政界人が訪台したりなどすれば、中国は又もや軍事演習で威嚇するかもしれない。その威嚇は4年後の台湾総統選にプラスに働くとは思わないが、中国が軍事的威嚇をしないという保証はない。いや、するだろう。

しかし、1月10日のコラム<習近平に手痛い軍幹部大規模腐敗と中国全土の腐敗の実態>にも書いたように、ロケット軍を中心にこのような大規模腐敗があるようでは、中国の軍事力も大幅に衰退するのではないかと思うのが普通だろう。そこで関連データに当たってみたところ、当該コラムの図表4および図表5に示したように、案外に衰退していない。

タイムラグがあるからかもしれないとも考えたが、同じ疑問を持つ人はシンガポールにもいたようだ。

1月9日の聯合早報は<解放軍 組織ぐるみの刑事事件>という見出しで、「激しい腐敗は解放軍の戦力に影響を与えるのか」というテーマに関して考察している。聯合早報の駐北京記者は「腐敗があるということは投資が普通ではなく多いということで、腐敗があっても、それによって軍が弱体化するところまではいかず、習近平は軍の秩序を掌握している」というニュアンスの分析をしている。

筆者が前掲のコラムで示した図表4と図表5の関連データは、聯合早報の分析に近い状況を示しているので、当該コラムでも書いたように、江沢民時代のような腐敗全盛時代は、習近平政権になってからの反腐敗大運動で一定程度は鎮静化しており、それほどの大きな影響は受けないのかもしれない。

であるならば、今まで通り、いや、それ以上に軍事演習で威嚇する可能性がある。それでも、台湾が政府として独立を宣言しない限り、武力攻撃するという確率はやはり小さいだろう。中国にとってメリットがないからだ。

 ちなみに、昨年11月に訪米してサンフランシスコでバイデンに会った時に、習近平は<「2027年とか2035年に台湾を武力攻撃するなどという話は聞いたことがない」と言った>そうだ。拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で書いたことは正しかったことになろうか。

まずは2月1日の立法院の動きを待ちたい。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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