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米中の力関係が微妙に逆転? ガザ紛争が招いた紅海危機問題で
米中関係(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
米中関係(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

1月26~27日、アメリカのサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と王毅(中央政治局委員、中央外事工作委員会弁公室主任兼)外交部部長(外相)がタイのバンコクで会談した。イエメンの反政府勢力「フーシ派」の紅海における船舶への攻撃をアメリカは阻止しようとしたが効果なく、背後にいるイランがフーシ派への支援をやめるよう「イランを説得してくれ」と、アメリカが中国に頼んでいるからだ。しかし中国は台湾問題への内政干渉をアメリカがやめることが先決問題だとして強気の姿勢を崩していない。バイデン大統領は大統領選があるため台湾の民進党に「独立色を減色せよ」(中国を刺激するな)という趣旨の指示を出す傾向にある。

そもそもタイで会談したのは、王毅がタイとの査証相互免除締結など多くの協力協定を結ぶためにタイに行ったからで、サリバンはその王毅に「会ってもらうため」にのみタイまで行った段階で、米中の立場が逆転している。

アメリカは大統領選があるので国際的信用を回復するために、暫定的ではあっても、中国に譲歩し、台湾有事が起きない方向に舵取りをする可能性がある。日本は梯子を外されないように気を付けなければならない。

◆王毅とサリバンの会談

1月26日から27日にかけて、王毅とサリバンがタイのバンコクで会談したと中国の外交部が伝えている

それによれば米中は昨年サンフランシスコで両首脳が約束した事項に沿って話し合いを緊密に持つとのこと。王毅は「今年は米中国交正常化45周年。双方は対等な立場で話し合うべきで、相手国の核心的利益に決定的な損害を与えるような内政干渉をしてはならない」として台湾問題を最優先事項とする姿勢を崩さず、「他国の発展を阻止するような行動は取ってはならない」とも主張した。

その上で、「外交、軍隊、経済、金融、商務、気候変動」あるいは麻薬取締などの領域で協力し合うとしている。二人は中東、ウクライナ、朝鮮半島および南シナ海などの国際問題に関しても話し合ったと、外交部はいたって包括的で無難な報道しかしていない。

◆紅海危機でアメリカの矛盾を酷評した「環球時報」社評

しかし、実際は12時間にも及ぶ話し合いの内容は熾烈なもので、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は1月26日の社評で<アメリカは紅海に関して中国に頼みごとがあり、まずはキチンと話し合いを>という見出しで、相当に辛辣なことを書いている。長いので概要を個条書きすると以下のようになろうか。

●アメリカは紅海で1ヵ月以上にわたり同盟国の船舶の武装護衛を組織し、半月以上にわたってフーシ派武装勢力を武力攻撃してきたが、効果は見られなかった。紅海で挫折したアメリカは、あたかも背後に中国がいるかのような国際世論誘導を謀って「中国責任論」を展開しながら、一方では中国に「どうか、フーシ派の背後にいるイランを説得してほしい」と懇願してきた。動機が不純だ。

●紅海は物品やエネルギーの重要な国際貿易ルートなので、紅海危機以来、中国はあらゆる関係者と緊密な意思疎通を維持し、緊張緩和に積極的に取り組んできた。中国は民間船舶への攻撃の停止を求めており、関係者に対し紅海の緊張を高めることを避け、紅海の水路の安全を共同で維持するよう求めている。

●アメリカが紅海危機の平和的解決を共同で促進するために中国の協力を得たいと望むのであれば、下心を排除して虚心坦懐に話し合いをすればいいだけのことだ。中国とイランは経済協力をしているが、中国とイランのいかなる関係もアメリカにとっては好ましくないようだ。

●今回のパレスチナ・イスラエル紛争勃発以来、アメリカ当局者らは中国に対し、中国にイランを説得してくれと頼んでいるが、アメリカの同盟国船舶護送が成功しないと、すぐさま「中国責任論」を掲げて中国を非難する。この自己矛盾は、国際舞台における米国の利己主義とダブルスタンダードを最もよく反映している。

●多くの西側メディアさえ、軍事攻撃は逆効果でしかないとコメントし、アメリカの 国防総省当局も、フーシ派と戦う軍事計画は「機能しない」と認めた。アメリカが護衛作戦を開始した際に思い描いていた「繁栄の守護者」のリーダー像は消え、紅海での対応に疲れ、ますます受動的になったアメリカの姿だけが残った。

民間船を攻撃しているのは確かにフーシ派だが、危機の根本原因はガザ紛争の波及にあり、すべての当事者は一刻も早くパレスチナとイスラエルの間の停戦を実現し、戦争を終わらせるという基本に立ち返り、実行する必要がある。しかしアメリカはガザ攻撃をするための強烈な武器をイスラエルに提供し続けている。

●ウクライナでも成功していないアメリカは、地域危機に対する責任を可能な限り中国に転嫁したいという考えにとりつかれている。これは地域危機に対応できないアメリカの常習犯的な行動でもある。

●アメリカは中東に残したいわゆる「力の空白」を中国が埋めることを常に懸念しており、そのため中国と地域諸国との正常な協力を絶えず悪者扱いし、中東における中国の「影響力」を抹殺しようと、あらゆる手段を試みてきた。(引用以上)

◆ガザ紛争、直近のキッカケは中国によるイラン・サウジ和解

「環球時報」の最後の項目にある「力の空白」とは、アフガニスタン撤退の際にみっともない姿を見せてしまったアメリカが「中東に及ぼす力を無くしてしまった」ことを指しており、2023年3月10日に中国がイランとサウジアラビア(以下、サウジ)を和解させたことをアメリカが妬んでいるということを指す。

そのため、2023年10月11日のコラム<ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置>で指摘したように、バイデンはサウジをイスラエルと仲良くさせることを試み、サウジを甘い言葉で誘惑してイスラエルと国交を樹立させるべく背後で動いていた。

イスラエル建国の時には全ての中東諸国が一致団結してアラブ地域を守るべく中東戦争を起こした。しかしその後、アメリカの数多くの謀(はかりごと)により、いくつかのアラブ諸国がイスラエルと国交を樹立し、それによって踏みにじられてきたパレスチナの苦悩が忘れられていくことをパレスチナは怖れた。アラブの盟主であるようなサウジまでがイスラエルと国交を樹立すれば、パレスチナの凄惨な状況を世界が気にしなくなっていくだろうことを怖れて、ハマスの奇襲があったと位置付けることができる。だからハマスの奇襲があった後サウジは直ぐに「イスラエルとは国交を樹立しない」と表明し、中東諸国を団結させ一丸となって、イスラエルのガザ攻撃をやめさせようとしている。

◆紅海でのアメリカの無力は、中国に有利に働く

2023年10月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か? 露ウに民主化運動を仕掛け続けた全米民主主義基金NED PartⅠ>から、飛び飛びだが、2023年12月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartⅣ 2016-2022 台湾有事を招くNEDの正体を知るため>に詳細に書いてきたので、ウクライナ戦争の原因はアメリカ、特にバイデンが創ってきたことは既に明らかだろう。そして最も得をしているのは中国で、実はガザ紛争に関しても、中国には有利に働いている。

中国はウクライナ戦争に何らかの形で参画しているわけではないし、ガザ紛争においても「イランとサウジを和解させた」という事実があり、「イランとは経済的に他の国同様に結びついている」というだけで、中国が得をするのはなぜか?

それは、中国は「アメリカから制裁を受けている国」としてロシアやイランと同じ立場にあるからだ。アメリカにとってロシアやイランは敵国以外の何ものでもないので話し合いなどできないが、中国となら話ができる。だからウクライナ戦争やガザ紛争でアメリカに不利な要素が出て来ると、中国を通してロシアやイランを説得してもらおうと、アメリカが中国に低姿勢にならざるを得ない状況に来ている。

だからサリバンがわざわざ王毅のスケジュールに合わせてタイまで飛んでいくという力関係が米中間に生まれているのだ。

ハマスの奇襲もバイデンが原因を創っているので、バイデンが招いた戦争で「習近平が笑う」という構図が生まれつつある。

◆アメリカがハシゴを外すかもしれない台湾問題

中国はここぞとばかりに、「フーシ派に関してイランに掛け合ってくれなどと頼む前に、台湾問題に関して内政干渉をするな!」と居丈高だ。「台湾問題が先だ!」と一歩も譲らない。

だからバイデンは大統領選もあるので、アメリカの弱さを見せるわけにはいかないので、「習近平とは常に意思疎通をしている」という口実を設けて格好をつけ、実は習近平に「頼むから紅海問題でイランを説得してくれ」と腰を低くしているのである。

そのため台湾の総統選で民進党の頼清徳氏が勝った時に、バイデンはすかさず「アメリカは台湾の独立を支持しない」と表明したし、民進党側にそれとなく「独立を叫ぶ方向に動くな」とクギを刺している

となれば、台湾有事は、よほどの突発的なことでもない限り起きにくいことになる。

日本はハシゴを外されないように気を付けた方がいいだろう。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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