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トランプ訪中延期から見える習近平の思惑と米中首脳の力関係
2026年3月、全国人民代表大会にける習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

3月14日、トランプ大統領はイランが封鎖しているホルムズ海峡航行再開に向けて中国にも護衛艦派遣などの協力を求めた。3月15日のフィナンシャルタイムズのインタビューによると「協力しなければ訪中を延期する可能性がある」と「脅し」をかけていたくらいだ。

しかし16日(日本時間17日)になると一転。トランプは「交戦中にホワイトハウスを空けるのは良くない」という理由で訪中延期を宣言し、「中国が護衛艦派遣に積極的でないこと」には、ひとことも触れなかった。

この時点で米中どちらが首脳会談をしたがっているかが見えてくる。

習近平国家主席にとっては、友好国イランを攻撃している最中の国の大統領を歓迎するわけにはいかない。トランプが訪中を延期してくれたのはありがたいことだ。イラン攻撃停戦後でないと、トランプを北京に向かえるわけにはいかないのが本音だろう。

一方で習近平は、トランプ訪中の際に「台湾統一」に関してトランプに是認を迫ろうとしていたはずだ。そのために護衛艦派遣に関しても、回答を出していない。米中の「腹の探り合い」と習近平の思惑を考察したい。

 

◆トランプ、「中国、フランス、日本、⁠韓国、英国などに艦船派遣」を要求

トランプは(日本時間)3月10日9:30、「イランがもしホルムズ海峡を封鎖するならば20倍の打撃を与える。これは中国と全てのホルムズ海峡を頻繁に利用する国へのプレゼントだ」と述べた。

(日本時間)3月14日22:04には、トランプは「アメリカは既にイランの軍事能力を完全に破壊したが、ホルムズ海峡封鎖の影響を受ける中国・フランス・日本・韓国・イギリスと他の国がアメリカと一緒に軍艦派遣してほしい」と呼び掛けた。

さらに日本時間3月15日2:58になると、「ホルムズ海峡経由で石油を輸入する国は一団となって通路の安全を守るべきだ」と、一歩進んで語調を強めている。

一方では、すぐさま賛同を示さない国が多いことを知ると、トランプは3月15日、フィナンシャルタイムズ(FT)のインタビューに対して(有料)、「中国は石油の90%を(ホルムズ)海峡から得ているのだから、中国も協力すべきだと思う」、「(米中)首脳会談まで待つのは遅すぎる」とした上で、「それまでに知りたい。2週間は長い。中国訪問が延期される可能性もある」と、中国に「脅し」をかけるトーンに変わっていった。

「90%」はオーバー・エスティメイトで実際は30~40%に過ぎないし、また3月6日の論考<イラン「ホルムズ海峡通行、中露には許可」>という事実を知らなかったのか、3月16日になると、トランプは突然「脅し」のトーンを変えた。「交戦中にホワイトハウスを空けるのは良くない」という理由で訪中を延期し、「中国が護衛艦派遣に積極的でないこと」には、ひとことも触れなかったのである。

 

この時点で、トランプと習近平の力関係が決まったようなものだ。

習近平は何も言わずに、時々刻々変わっていくトランプの言動を静観しているだけだが、トランプは正直に、そのときどきに思うことをぺらぺらと喋り、自らのSNSであるTruthにも思いつくままに書き綴る。まるでプライベートな日記のような投稿を、国家の意思決定として発信するので、心が変わるごとに信用を無くしていく。「正直な人」という点においては好意的に受け止めることもできるが、議会を通さずに、自分の頭の中で思いついたことを気ままに断行していくという点から見ると、独断的で刹那的ではある。

一方の黙して語らない習近平は、それなら「何を企んでいるのか」?

 

◆習近平の頭の中には「台湾統一」のタイミングしかない

習近平がトランプ訪中と米中首脳会談を重視しているのは「台湾統一」という一点においてしかない。

2025年11月5日の論考<トランプが「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言! これで戦争が避けられる!>で書いたように、習近平とトランプの「蜜月度」はこの時から具体性を持ち始めた。特に昨年12月5日にNSS(国家安全保障戦略)を発表したトランプは、続けて「習近平が台湾を中国の一部だとみなしているのなら、「台湾をどうするかは)習近平次第さ」という趣旨のことまで言うに至っている。

習近平としては、千載一遇のチャンスだと思っていただろう。

今年1月3日のトランプによるベネズエラ攻撃と大統領夫妻の拘束連行は、それをさらに後押しした。あれだけ「力による変更」として中国を非難してきたアメリカ(バイデン政権)が、トランプ2・0になった途端、民主主義の衣を脱ぎ捨てて、まるで植民地時代に戻ったように武力による他国への侵攻を堂々と断行する。しかも議会を経ない独断だ。

もし習近平が、中国百年の悲願である中華民族同士の台湾統一を成し遂げたとしても、どの国も中国を非難することはないだろう。

習近平はそう思ったにちがいない。

ましてやNSSで「西半球はトランプが、東半球は習近平が統治する」と言わんばかりの「ドンロー主義+G2構想(米中二大国で世界を統治)」を唱えたトランプが、今年2月28日になって、突然、西半球ではないイランを襲撃し、最高指導者ハメネイ師まで殺害した。

これが世界最大の民主主義国家がやることなのか。

力に任せて他国を攻撃し殲滅しようとする。

まるで植民地時代の弱肉強食の原理で動いているではないか。

仕掛けたイスラエルのネタニヤフ首相は汚職で提訴されており、戦争を続けていないと逮捕される。だからエンドレスに戦争を仕掛けている。

片や、トランプは相互関税(トランプ関税)を議会を通さずに実行したことが違法となり、11月の中間選挙で負ければ議会で弾劾決議を受けるかもしれない。

いかがわしいエプスタイン事件にもかかわっているので、大統領権限で今は何とか抑え込んでいるが、大統領でなくなったら逮捕される可能性さえある。

そのような中、「自分が大統領になったら、無駄な戦争は全て終わらせる」と選挙演説で約束していたのに、戦争を終わらせるどころか、逆に次々と「人間であるならあり得ない(国際法では考えられない)」理不尽な戦争を次々にけしかけているではないか。

しかも攻撃されたのは中国の友好国だ。

中国のネットはもとより、日本のネットにさえ護衛線派遣を半ば強制的に求めるトランプに対して「戦争を始めたのはお前だろ!なんで俺たちの国がその尻拭いをしなければならないんだ」というコメントが数多く見られる。

しかし習近平は王毅(外相兼中共中央政治局委員)を通して、ひたすら「早期停戦」を呼びかけ、数多くの関係各国と連携を取らせてはいるが、それでいて、トランプを非難する言動を避けている。

ここが肝心だ。

習近平は習近平で、トランプン訪中を重んじているのである。

現在、アメリカ財務長官・ベッセントや中国の副首相・何国峰が、米中首脳会談のための赤絨毯を敷くべく会談を重ねている。

トランプは中国のレアアースと製造部品がなかったら、米軍の武器を製造することができない。

2015年から習近平が強烈な号令をかけて推し進めてきたハイテク国家戦略「中国製造2025」が、達成目標年の2025年を待たずに成果をあげ、今や米中力関係において効果を発揮し始めたのだ。

習近平が狙っているのは、レアアースを含めた中国新産業の力によって、アメリカの産業力を凌駕し、その現実を突きつけてアメリカに「台湾統一」を認めさせることにある。

いまその実現は目前に迫っている。

それも、トランプ政権内でないと実現が困難だ。

だから習近平としても、トランプのご機嫌を損ねたくない。

トランプとしては、せめて今ここで「中国とのディールに成功した」という成果でも出さなければ、中間選挙は乗り切れない。アメリカ国内でもイラン攻撃に賛同する人は少ない。中間選挙に敗ければ、議会を通していない上にあまりに非人道的なイラン攻撃を勝手に断行したとして追及される可能性もゼロではない。

そのトランプに手を差し伸べて、台湾統一に関しては譲歩していただく。

それが習近平の腹積もりである。

 

なお、たとえ大規模軍事演習によるエネルギー封鎖という手段であったとしても、台湾と共産中国が一体になるなどということを、台湾の世論が許すはずがないだろうと思われる読者はきっと多いことだろう。筆者もその一人だ。そこで機会があれば、台湾世論と北京政府の現在の動き方を詳細に考察し、読者とともに考えたいと思っている。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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