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恒大物業、株売却頓挫の舞台裏――習近平の厚意を蹴った恒大集団
経営危機中の恒大集団(写真:AP/アフロ)

習近平父子の大恩人と関係する不動産開発企業・合生創展集団が恒大集団傘下の恒大物業の株を買うべく契約が成立していたのに、恒大側に欲が出て、契約を破棄した。契約と破棄をめぐる舞台裏を追う。

◆合生創展と恒大物業との契約内容と破綻プロセス

10月14日のコラム<恒大救済企業の裏に習近平の大恩人の影が>で述べたように、「華南の五虎」と呼ばれる広東省のディベロッパーの一つである「合生創展集団」が恒大集団傘下の恒大物業の50.1%(当時は51%と言われていた)の株を購入する交渉が進んでいた。

10月20日の合生創展集団の告知によれば、10月1日に契約が締結されて10月12日から実行されることになっていたようだ。ところが契約が締結された後になってから、恒大集団側が「イチャモン」を付けてきたため、この売買契約は破綻してしまったという。

合生創展の告知に基づいて、契約内容と破綻した経緯を考察してみたい。

  1. この契約書は大きく分ければ合生創展集団と恒大集団との間で交わされたものだが、具体的には合生創展側はその傘下にある物業(不動産管理運営)関係の「合生活科技集団」が購入側に当たり、恒大側は、その完全子会社であるCEG Holdingsが当たった。恒大集団はCEG Holdingsの保証人となっている。肝心の恒大物業は「目標公司」(売買対象となる会社)という位置づけだ。
  2. 契約では、合生創展が約200億香港ドル(正確には20,040,000,350.70香港ドル)(約2,933億円)を恒大物業に支払うことになっていた。この際、1株3.70香港ドルとして計算された。
  3. 恒大物業は恒大集団およびその関連会社との間で未精算の貸し借りがあるので、この経費で全て清算して、借金のない(きれいになっている)恒大物業の株を合生創展が購入することになっていた。
  4. 恒大物業は、200億香港ドルの中から恒大集団とその関連企業に返済した残りの金額をCEG Holdingsに渡すことになっていた。
  5. ところが契約が締結されてから(10月1日を過ぎてから)、CEG Holdings(およびその保証人である恒大集団)が、合生創展は200億香港ドルを恒大物業にではなく、CEG Holdings(恒大集団)に直接支払えと言ってきた。
  6. それは契約に違反しており、CEG Holdingsに支払ったのでは、果たして購入時点で恒大物業が借金のない「きれいな企業」になっているか否か保証がないので、それは契約違反であると、合生創展側は受け付けなかった。
  7. しかし、 恒大側は10月12日までに恒大物業の株を合生創展に売らなかった。そこで合生創展は10月13日に恒大側に契約の履行を催促したが、恒大は同日、契約を解除もしくは中止すると返答してきた。
  8. 合生創展側は、契約書に則(のっと)って、違約金10億香港ドル(約148億円)を恒大側に請求した。

以上が概ねの経緯である。

◆恒大集団はなぜ契約破棄をしたのか?

せっかく習近平の水面下での働きかけで合生創展が恒大物業の株を購入することによって恒大集団の債務危機を救ってあげようとしたのに、なぜ恒大側はそれを蹴って、イチャモンを付けてきたのだろうか。

何か、もっと「儲かる」情報でもなければ、このようなことはしないはずだ。

そこで何か、契約締結あるいは契約交渉を始めた時期から後に恒大側に有利になり始めた要素はないか調べたところ、どうやら恒大物業の市場価格が、交渉を始める時期より上がり始めていたことを突き止めた。

Yahoo!financeにある恒大物業の株の市場価格の推移を示すと以下のようになる。

Yahoo!Financeにある恒大物業株の市場価格の推移

市場価格には当該企業の債務も含まれているが、合生創展が購入する恒大物業の株には債務が含まれていないことを、契約書において合生創展が要求している。

借金が無くなった、きれいさっぱりした恒大物業の株を1株3.70香港ドルで購入するという条件が契約書には書かれている。

契約は10月1日に締結され、10月4日から証券取引所での取引中止を宣言しているので、データは9月末までしかなく、また10月21日に取引を再開したので、21日のデータのみが載っている。

恒大集団が恒大物業(および自動車関連企業など)の株を売却する告知を出して購買者を募ったのは9月14日だ。

この9月14日の時点のデータに注目すると、市場価格は最低値になっていることがわかる。だから売ってしまおうと思ったのだろう。

ところが交渉を始めた翌日から、株価は上がり始めた。

契約が締結された前日である9月30日には5.12香港ドルまで上がっている。

「借金を完全になくした後で1株3.70香港ドルで売る」という契約内容と、「借金があっても構わず1株5.12ドルで売る」のとでは、当然のことながら後者の方が恒大側に有利だ。

そこで推測だが、恒大側は200億香港ドルを恒大物業に送金せずに、恒大集団の完全子会社であるCEG Holdingsに支払えば、恒大側としては恒大物業の借金を完全には清算しないまま、その株の50.1%を合生創展側に売ることができるので、3.70香港ドルという数値を変えることはできなくとも、支払先を変えることならできるだろうとして、契約締結後に恒大側がゴネ始めた、ということではないだろうか?

恒大集団の創始者で支配株主である許家印の一存ではなく、株主らが「そんな損な交易はするな」と糾弾した可能性も否定はできないが、倒産するかもしれないというこの緊急事態では株主利益を損なうか否かなど、言っていられないのではないのか。

もっとも、恒大集団の76.26%の株を許家印夫妻が持っているので、許家印の意思決定ということもできよう。だとすれば習近平の厚意を踏みにじった許家印夫妻に楽観できる運命が待っているとは思いにくい。

◆中国政府側の意思表明が意味するもの

中国人民銀行は10月15日の第三四半期金融統計発表会で「不動産業界の問題はコントロール可能である」ことと「恒大問題は個別の問題である」旨の回答をした。中国政府側が初めて恒大問題に関して意思表示をしたことになる。

続いて17日に開催された30ヵ国グループ国際銀行業界フォーラムで、中国人民銀行総裁は「中国経済は順調であり、中国恒大の債務問題の波及効果はコントロール可能である」と述べる一方で、やはり「恒大集団の問題は個別問題である」ことを鮮明にし、「消費者や住宅購入者の保護を最優先する」と強調している。

また中国の経済に関しては最高レベルの職位にいる劉鶴国務院副総理は10月20日に北京で開催された「2021年金融街フォーラム年次総会」に書面でスピーチを寄せ、金融リスクに関して以下のように述べている。

――リスクを解決するために中小金融機関の改革を推進し、一部の大企業のデフォルトリスクを処理すべきだ。 現在、不動産市場では個別の問題が発生しているが、リスクはおおむねコントロール可能であり、合理的な資金需要は満たされており、不動産市場の健全な発展という全体的な流れは変わらない。

こういった中国政府側の動きを見ると、中国政府は10月13日時点で、恒大集団が合生創展集団との契約を破棄していた情報を把握していたと考えていいだろう。

この救済策を恒大集団側が蹴ったとなれば、債務危機を深めていく恒大集団の住宅を購入している一般庶民(中間層)の恒大集団に対する怒りが膨れ上がるにちがいない。

それを抑えなければならないとする中国政府側の狙いと、不動産業界全体は制御可能でも、恒大集団の暴挙を看過するわけにはいかないという意図が、中国政府側の言動に透けて見える。

何と言っても、習近平が水面下で差し伸べた救済の手を恒大集団は「小さな利益」を追及して蹴ったのだから、如何なる運命が待ち構えているか、予断を許さない。

◆恒大集団創始者・許家印の罪と罰

実は恒大集団は10月9日に以下のような公告を出している。

すなわち 恒大集団の幹部6人が、恒大集団傘下にある理財商品などを売る恒大財富集団の理財商品を購入していたのだが、その6名は購入した理財商品が満期になる前に現金化して自分のポケットに入れた。それがばれてデモが起きたりネットで批判されたりしたので、政府からの指導も受け、恒大集団の指定口座に返還した。その上で、恒大集団はさらに6人に対して説明責任を問い処罰を与えていますという公告だ。

この6人の幹部の中には許家印の妻が現金化してポケットに入れようとした2300万人民元(約4億円)もある。

それ以外に、許家印は、恒大集団の多くの社員に対して自社の理財商品を購入することを強制してきた。この強制に対する恒大集団社員の不満は尋常ではなく、ネットには「自分が如何に高額の理財商品購入を強要されたか」や「購入しないと減給されたり、業務実績に関連付けて記録されたりする」といった不満が溢れている。

何よりもネットの怒りは、会社が危機状態にあるというのに、会社の上層部が我欲に走って自分だけ「逃げ得」をしようと、現金を集めることに奔走しているということだ。

許家印は高額の私財(2021年で3兆円)を持っているのだが、その私財を今の内に増やして私腹を肥やそうとしていると、ネットの批判は容赦ない。

実は著名な経済学者の任澤平氏は2017年12月から恒大集団のアドバイザー的役割をしていたが、今年3月に辞任したと、10月11日のWechatの「公衆号」で恒大集団の経営方法を激しく批判している。任澤平は何度も恒大集団CEOの許家印に「負債規模を減らすべきだ」とか「多元化経営に反対する」など拡張主義的乱脈経営に反対してきたが、許家印は全て聞き入れなかったので、辞任したのだと述べている。

許家印の身を叩けば、さまざまな埃(ほこり)が舞い立つだろう。

その埃の一つを取り上げて、習近平が許家印を逮捕しないとも限らない。

そして没収した私財を、被害を被った消費者に分配して社会の安定を保つという選択肢もないではないだろう。

いずれにせよ、私欲に走った許家印を無一文に持って行くまで、中国政府も消費者も、あるいは社員までが、許さないかもしれないと思うのである。

なお、中国の多くのディベロッパーは主として国有銀行(不良債権率平均1.45%)から融資してもらっているので、不動産バブル崩壊はなかなか起きにくい。

また恒大集団債務危機のきっかけとなった2020年8月の「3つのレッドライン」は、あくまでも中国人民銀行と10数社のディベロッパーとの間の座談会で示されたもので、条例ではない(参照:9月22日コラム<中国恒大・債務危機の着地点――背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題>)。

習近平による「調整」の余地はまだある。

 

 

 

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.