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「習近平訪米の計算式」Ⅲ 中東・アフリカの要衝に王手! エジプトと軍事演習
今年9月1日、習近平国家主席がエジプトを訪問した時にカイロの街の至るところに掲げられた「シシ大統領と習近平国家主席」の巨大な映像(写真:ロイター/アフロ)

8月21日、中国とエジプトが連合軍事演習「文明の鷲」を行った際、中国は戦闘機を6000km以上、9時間かけてエジプトまで飛行させ「遠征能力」を実証した。そのエジプトに習近平国家主席が降り立ったのは9月1日、キルギスでのSCO(上海協力機構)首脳会談を終えたその夜のことだ。

習近平が狙っているのは「中東とアフリカをつなぐ要衝」エジプトを掌握することである。ホルムズ海峡が米イスラエルによるイラン急襲で通航困難となった以上、スエズ運河や紅海を結ぶエジプトは、ユーラシア大陸を制覇するために欠かせない「要衝」だ。

肝心なのは習近平がエジプトと緊密になることにトランプがどう反応するかだが、実はアメリカが先にエジプトを軍事的に軽視してきた事情がある。

短期的にはトランプを刺激しないようにしながら、長期的には「トランプに有無を言わせぬ実力」を隠然と見せつける。非常に細かく計算された習近平の訪米計算式を、今回はエジプトに焦点を当てて考察する。

 

◆エジプトを訪問した習近平

9月2日、習近平は訪問先のカイロの太陽宮でシシ大統領と会談した。今年は中国とエジプトの国交樹立70周年記念ということもあり、カイロの街の至るところに「習近平国家主席とシシ大統領」の巨大な映像が掲げられ、エジプトにとって習近平を迎える重要性を浮き彫りにしている。

会談でも習近平は冒頭で国交樹立に関して切り出し、さまざまな面での協力を呼び掛けたあとに、主として以下のように言っている。

  • 国連やBRICSなどの多国間協力を強化し、中国・アラブ諸国および中国・アフリカ協力フォーラムの建設を共同で推進し、一極主義的な「いじめ」に共同で反対し、より公正で合理的なグローバルガバナンス体制の構築を推進したい。
  • 中東の人々が自らの問題を掌握するという原則を堅持し、外部干渉に反対し、地域諸国の平和と安全保障対話の強化を支援し、地域の安全保障枠組みの再構築を模索し、自らの未来と運命を独自に掌握することが重要だ。(習近平の発言の抜粋は以上)

習近平は「安全保障」という言葉に踏みとどまっているが、それ対してシシが「軍事・安全保障」と、「軍事」という言葉を使って一歩踏み込んだというのが注目点だろう。

シシは以下のように述べている。

  • エジプトは一つの中国原則を堅く支持し、両国間の包括的な戦略的パートナーシップをさらに推進することにコミットしています。 エジプトは中国と協力し、貿易・投資、製造業、インフラ建設、金融、技術、新エネルギー分野で協力を強化し、軍事・安全保障の交流を強化し、人材交流を促進し、両国の人々に利益をもたらし、地域の発展と繁栄に貢献する意向がある。 (シシの発言の抜粋は以上)

 

二人の発言は、もちろん両国間会話の一部を抜き出したものだが、やはり軍事に関してエジプト側が積極的であることが注目される。

 

◆中国との軍事協力に積極的に動いたエジプトの事情

エジプトはもともと米露の兵器を購入していたのだが、なぜ中国に手を広げるに至ったのか。それは米露それぞれとの間に複雑な事情を抱えていたからだ。

●米国製武器に関する事情

まず米国製武器に関してだが、最大の問題は「エジプトが欲しいと思う武器を、米国が必ずしも売ってくれるわけではない」という事情があることだ。米国の中東向け武器輸出は、常に、イスラエルの「質的軍事優位(QME)」を維持するという制約を受けている。まずイスラエルの要求を満たしてからでないと、それ以外に国への武器輸出には手を付けないという事情がある。

エジプトは長年にわたって、「F-16用の長射程AIM-120 AMRAAM」など、高度な空対空能力を備えた武器の購入を米国に求めてきたが、米国から供与を拒まれてきた。F-35も入手できなかった。さらに2013年には政治情勢を理由にF-16などの供与が一時停止され、カイロ側に「米国だけに依存するのは危険だ」という認識を強くする結果を招いた。
●ロシア製武器に関する事情

そこでエジプトは2018年ごろ、ロシア製のSu-35を約20億ドルで購入しようとしたのだが、米国がエジプトに制裁を警告し、結局この取引は頓挫してしまった。その後ロシアはウクライナ戦争に入って行ってしまったので、ロシア自身の武器輸出能力が急低下しているのが現状だ。

 

これは米露製武器を購入することに関する複雑な事情だが、その一方、エジプトは2024年1月1日にBRICSに加盟した。それに伴い、2024年5月28~31日、シシ大統領は中国を国賓として訪問し、5月29日に習近平と会談した。シシは北京で開催される「第10回中国・アラブ国家協力フォーラム」に出席するために訪中していたのだが、そのとき習近平は同時にシシを国賓としても特別に招聘していたのである。

その後、エジプト側が積極的に動き始めた。

2024年7月、エジプト空軍司令官が訪中し、中国の空軍司令官と会談した。その2ヵ月後の2024年9月、エジプト初の国際航空ショーに中国が招待され、中国は戦闘機「J-10(殲-10)」7機と輸送機Y-20(運-20)」が参加して航空ショーを展開した。

軍事的な親密さが濃くなっていく速度は速く、2025年4月17日~5月4日には中国・エジプト空軍間で、第1回「文明の鷲」合同軍事演習を行なうに至ったのである。

エジプトには米軍基地もあり、米国の主要な防衛パートナーでもある。米国からはから年間約13億ドルの軍事援助も受けているので、米国にも「良い顔」を見せなければならない。事実、その4ヵ月後の2025年8月28日~9月10日に、エジプトは、今度は米軍との軍事演習Bright Star 25を実施した。

この時点で、エジプトに対して「お前、よくも中国と軍事演習などしたな!」というクレームが米国から来ていないというところが肝心だろう。

こうして冒頭に述べた第2回中国・エジプト軍事演習「文明の鷲」が今年もまた展開されるに至ったわけだ。

ここまで見てくると、あたかも一方的にエジプトが積極的なように見えるが、地政学的視点から見るならば、習近平政権誕生と同時に動き始めた巨大経済圏構想「一帯一路」が習近平にはあり、それを背景としながらエジプトの積極的な姿勢が生まれてきたということが言える。

 

◆習近平が狙うアラブ・アフリカ諸国を含めた戦略地図

拙著『G2構想 勝つのは米国か中国か』で多数にわたり一帯一路構想と習近平の中東戦略に関するマップを描いているが、本稿ではその中の一部を抜き取って、少し違った視点から習近平のアラブ・アフリカの要衝であるエジプトに焦点を当てた戦略地図を描いてみた。まずは図表1をご覧いただきたい。

図表1:中東諸国とアフリカ諸国の接続点になっているエジプト

公開されている情報に基づき筆者作成

 

図表1から一目瞭然。エジプトは中東アラブ諸国とアフリカ大陸54ヵ国の接続点となっており、地中海と紅海をつなぐスエズ運河があるだけでなく、パレスチナ問題やイスラエル問題など民族・宗教的な紛争が交差する、地政学的には極めて重要な要衝である。

習近平政権誕生以来動かしてきた「一帯一路」構想に沿い、習近平は2017年にジプチに軍港を設立している。アメリカが全世界に分類の仕方によって、「128ヵ所」あるいは「562ヵ所」などの米軍基地を持っているのに対して、中国はここ「ジプチ1ヵ所」にしか軍事基地を持っていない。それも軍港を持っているに過ぎない。

それでもなぜ「ジプチ」なのか?

それはジプチの傍にあるパブ・エル・マンデブ海峡を通ってスエズ運河を経由し、地中海に出ることができるからだ。このたびの米イスラエルによるイラン攻撃の結果、ホルムズ海峡が封鎖されるような事態になった時も、サウジアラビアからの石油ならば海路で運ぶ際の一つの安全弁の役割を果たす。

図表2に、習近平が8月末日から9月中旬にかけて訪問したキルギス(ビシュケク)、エジプト、ニューデリーの地点を含めた地図を描いたが、図表2を見れば、習近平が「ユーラシア大陸」とともにアラブ・アフリカ諸国を中国の影響下に置いて、グローバルサウスを味方に付けながら世界地図を塗り替えようとしている世界戦略が明確に見えてくる。(キルギスに関しては9月12日の論考<「習近平訪米の計算式」Ⅱ 世界人口の42%を占める上海協力機構 習近平「イランとの距離の取り方」>をご覧いただきたい。ニューデリーは、9月12日に習近平はBRICS首脳会議に出席するために訪問しており、これに関しては追って考察するつもりだ。)

 

図表2:習近平が訪米前に訪問した拠点と戦略的構想

公開されている情報に基づき筆者作成

 

図表2をご覧いただくと、エジプトの西北側にはイスラエルやパレスチナ、イラク、イラン・・・など、政情が不安定な地域が密集していることがわかる。したがって習近平としては鉄路をエジプトまで延長するわけにはいかない。そのため中国・エジプト軍事演習は「空軍」に焦点を当てるという選択をしているということも注目すべきか。中国との兄弟国・パキスタンに鉄路がないのは山岳地帯が多いからで、そのため「中パ経済回廊」を賑々しく形成していることは『G2構想 勝つのは米国か中国か』で詳述した。

なお、前掲の9月12日の論考<「習近平訪米の計算式」Ⅱ 世界人口の42%を占める上海協力機構 習近平「イランとの距離の取り方」>や9月11日の論考<「習近平訪米の計算式」Ⅰ トランプに会っても国連総会は欠席するわけ>に書いたように、習近平は訪米に当たり、トランプの気分を害さぬように慎重に動いてはいる。それは「台湾統一」を実現させたいと思っているからだ。

しかし一方では逆に、「自分はこれだけの地球上の人類に影響を与える力を持っているのだ」ということを暗にトランプに見せつけることによって、トランプにある意味での心理的圧力をかけているのだということもできる。この力にトランプは難癖を付けてくるのはできないことも、習近平はきっと計算済みにちがいない。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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