
習近平国家主席は9月24日に訪米し、ワシントンでトランプ大統領と首脳会談を行うが、そのときニューヨークで開催されている国連総会には参加しない。
それはなぜなのか?
本論考では「習近平訪米の計算式」をⅠ、Ⅱ、Ⅲ・・・シリーズで考察する。
◆習近平訪米は5月のトランプ訪中の「お返し」
このたび習近平が国賓として訪米するのは、あくまでも今年5月14、15日にトランプが国賓として訪中した「お返し」であって、国連総会に参加するためではない。トランプが習近平をワシントンに招聘した日時が9月24日で、たまたまその時期に国連総会が同時進行しているだけであって、もしトランプによる国賓招聘がなかったら、訪米などしていない。
そもそも習近平は2015年に一度だけ国連で演説したことがあるが、その後は実際にニューヨークに赴いて国連総会に参加したことも演説したこともなく、2020年と2021年の「コロナ時代」にオンラインを通したビデオ演説をしたことがあるだけだ。中国の代表として実際にニューヨークに赴き国連総会に参加したのは、ここのところ「2022年:王毅、2023年:韓正、2024年:王毅、2025年:李強」という感じで、例年通り、習近平の名前が出たことはない。したがって今年も出席しないのは異例のことではない。
もちろん、今年はイラン戦争問題があり、国連総会で演説すればイラン攻撃を仕掛けたトランプとイスラエルのネタニエフ(首相)を非難しないわけにはいかないので「欠席することにしたにちがいない」と判断する人たちもいるだろう。それはそれで正しい側面があるが、アメリカが他国に戦争を仕掛けるのは日常茶飯事だ。第二次世界大戦後アメリカは絶え間なく「親米的でない国」に、「理由を捏造」しては戦争を仕掛け続けてきた(その一覧表は拙著『G2構想 勝つのは米国か中国か』のp.192~p.195に羅列してある)。アメリカの戦争行為を非米側諸国のために「非難してあげる」というのなら、毎年非難していなければならなくなる。したがって、イラン戦争非難のために出席するようなことはないと考えていいだろう。
特にトランプ2.0のトランプは、習近平に対して非常に友好的で、台湾問題に関して「習近平の味方」と言っても過言でないほど習近平に寄り添っている。
習近平の外交行動の目的の全ては「台湾統一」にあると断言していい。
したがってトランプの対台湾姿勢にわずかでも変化をもたらすような行動は、習近平としては全て慎重に避ける。
そのトランプが気に入るやり方で、習近平はこのたびの訪米においてトランプ同様、異例の大手企業を引き連れていく。
トランプの対台湾姿勢を維持するためなら、何でもすると言ってもいいだろう。
◆トランプの対台湾発言は厳しさを増すばかり
今年5月15日に北京における米中首脳会談を終えたトランプは、台湾問題に関する記者の取材に応じて、以下の二つの重大な回答をしている。
- (台湾が)正式な独立宣言をしないように警告。
- (米軍が)戦争のために9,500マイルも旅をすることを望んでいない(=台湾有事に米軍が台湾に援軍に行くことを望んでいない)。
習近平にとっては、これ以上に嬉しい回答はないというほどの「習近平側に立った対台湾姿勢」をトランプは吐露している。帰国後も、その姿勢に変わりはない。いや、変わらないどころか、トランプの対台湾問題に対する言動は激しさを増すばかりだ。その事例をいくつか列挙したい。
1.9月9日
トランプは中間選挙向けなのに異例の共和党大会をダラスで開催した。その共和党大会におけるスピーチがRoll Callによって忠実に文字化されている。この文字化されたスピーチには時間も明示されているので、台湾や習近平に関する部分だけ拾い上げて、念のため時間を示しながら以下に列挙したいと思う。
●00:51:06-00:51:28
インテルは素晴らしい会社だ。しかし、愚かな大統領たちが半導体産業を我が国から台湾へ流出させてしまった。実に愚かだ。関税を課すだけで、流出は防げたはずだ。つまり、「台湾よ、アメリカに半導体を売るなら、100%、200%、50%・・・、何でもいいから関税を払わなければならない」ということだ。(筆者注:こちらは明らかに中間選挙を意識して、私の関税によって台湾に盗まれた半導体を取り戻したと、アピールしようとしたと思われる。)
●00:55:15-00:55:45
ご存知の通り、2週間後に中国の国家主席が来られるが、私は彼ととても仲が良い。とても良い関係を築いている。それは良いことだ。悪いことではない。中には「ひどい」と言う人もいるが、これはとても良いことなんだ。
●00:55:45-00:56:01
(一部略)中国に行ったとき、人民大会堂という建物があった。それは荘厳なホール
だった。ここ(会場のスタジアム)も非常に大きなホールだが、私たちはそれを超えるつもりだ。
2.9月7日
トランプはTruthに投稿し、以下のように書いている。
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テレビで愚かな「アメリカ進歩の欠如センター」を代表するチャンドラ・ホールは、「今や再び偉大になったワシントンDCを含む都市に州兵を追加しても犯罪には何の影響もない」と述べた。
なんて馬鹿げた発言だろう。ホールは激しい反論に直面した。この報告書は、「ジョージ・ソロス、ビルとメリンダ・ゲイツ、グーグル、アップル、ビザ、ゴールドマン・サックス、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカ、ウォルマート、トヨタ、T-モバイル、NBCユニバーサルなど」、この狂人集団に資金を提供している人々と同様に、過激左派の詐欺に過ぎない。
外国からの支援には、「日本大使館、韓国国際交流財団、台北経済文化代表処(台湾)、アラブ首長国連邦大使館」が含まれる。
民主党はこれを気に入り、「トランプに関すること」なら何でも反対している。これらの人々は我が国にとって非常に有害だ。彼らの公言する方針は、「トランプを憎んだり貶めたりすること」だ。これに対して訴訟を起こすつもりで、現在準備中である。この偽組織への貢献者の一部を追放することも真剣に検討している。私が大統領に就任して以来、犯罪は大幅に減少しており、彼らもそれを知っている。このレベルの嘘つきは責任を問われなければならない! ドナルド・J・トランプ大統領
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以上がトランプのTruthからの引用である。
トランプが激しく攻撃する個人や組織の中に「トヨタ」や「日本大使館」があるのは注目に値するが、本稿では習近平と台湾問題に焦点を当てているので、ここでは攻撃対象の中に「台北経済文化代表処(台湾)」があることだけに焦点を当てたい。
なぜ「台北経済文化代表処(台湾)」が激しい非難の対象となったのかに関して、一連の出来事の経緯、あるいは事件の発端を少し考察してみよう。
7月13日、CAP(Center for American Progress)のチャンドラ・ホールは、トランプ政権によるワシントンDC、ロサンゼルス、メンフィスなどへの州兵派遣を分析し、「州兵派遣によって暴力犯罪、殺人、銃犯罪が減少したという測定可能な証拠はない 」と結論づけた。しかも「犯罪減少はトランプ就任前から始まっていたので、トランプが自分の政策成果として横取りしている」というかなり厳しい内容まで含んでいる。
その後は以下のような流れとなった。
- 8月10日:ホールがテレビで説明、トランプがTruth Socialで攻撃
- 8月17日前後:トランプの弁護士がCAPに撤回要求
- 8月21日:撤回しなければ50億ドルの名誉毀損訴訟と通告、CAP拒否
- 9月7日:トランプが再びTruthに投稿し、CAPへの資金提供者を強く攻撃
この9月7日におけるTruthでの「資金提供者批判」の中に、資金提供者として「台北経済文化代表処(台湾)」が含まれていたという流れだ。
この流れは、習近平にとっては、「絶対に崩したくない現状」にちがいない。
そうでなくとも国連などでは意思表示せず、静かに水面下に潜ってグローバルサウスなどを、経済貿易を通してまとめ上げ巨大な市場ネットワークを構築している習近平にとっては、このような姿勢に入ったトランプは「光り輝く黄金」のごとく貴重な存在だ。国連など目立つところでは微動だにせず、トランプの思考・感覚を乱すようなことは何ひとつしない。
次の瞬間にどう豹変するか分からないトランプを目前にして、習近平は今や台湾統一に向けた道を慎重にも慎重を重ねて、「抜き足、差し足」で一歩ずつ、しかし「まっしぐらに」前に進んでいるというところにちがいない。
なお、習近平の目的の全ては「台湾統一」に収斂(しゅうれん)するというファクトは、拙著『G2構想 勝つのは米国か中国か』で徹底して分析している。
この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。
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