
今年8月31日から9月1日にかけて、キルギスの首都ビシュケクで上海協力機構(SCO)首脳会議および「SCO+」会議も開催され、パートナー国や国際機関も参加した。中心となったのは創設国のトップである習近平国家主席だが、問題はアメリカと対立しているイランとの距離の取り方だ。
シリーズⅡではSCO首脳会議を舞台として、訪米を控えている習近平が「イランとの距離」をどのように取ったかを中心に考察する。
◆世界人口の42%を占めるSCOとその性格
SCOは1996年に中露を中心として開催された上海ファイブを発端として、2001年に設立された。年々加盟国を増やしていき、現在では以下のような構成になっている。事務局は上海にあり、国名の出現順は事務局に書かれている加盟順に準じた。
- 正式加盟国:中国、ロシア、カザフスタン、キルギス(議長国)、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタン、イラン、ベラルーシ
- オブザーバー:モンゴル、アフガニスタン(前政権、参加なし)
- 対話パートナー:アゼルバイジャン、アルメニア、エジプト、ラオス、トルコ、バーレーン、カンボジア、カタール、クウェート、モルディブ、ミャンマー、ネパール、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、スリランカ
(2025年の天津宣言では「オブザーバー国」と「対話パートナー国」の区別をなくし、全て「パートナー国」に統一したが、現時点でもまだ事務手続き上これまでの分類に従っているので、ここではそれに準じた。)
現時点で、これらの国の総人口は34.7億人で、世界総人口の42%を占めており、これが世界総人口の半数を占めるようになるのは時間の問題であると言っていいだろう。
正式加盟国以外の国々や議長国が随意招聘した国も併せて、その都度「SCO+」として定義されている。また年一回の首脳会議開催時には「国連、 CIS(独立国家共同体)、CSTO(集団安全保障条約機構)、EEU(ユーラシア経済連合)、CICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)」などの国際組織や地域機構なども参加する。
2025年9月1日には天津でSCO首脳会議が開催されたが、9月3日には、インドを除くSCO加盟国首脳が北京に移動して「抗日戦争勝利記念日80周年記念式典」に参加したことを考えると、SCOの性格が自ずと見えてくるのではないだろうか。
いうまでもなく「非米側陣営」の巨大な塊で、最近では加盟国間で軍事演習も行なうので、いわばNATOの中露版という性格を、わずかだが帯びていないとも言えない。
◆SCOキルギス(ビシュケク)会議
冒頭に書いた今年8月31日から9月1日にかけてキルギスを議長国として開催されたビシュケクSCO首脳会議(ビシュケク:開催地の地名)では、議長国が「ベトナム、トーゴ」を招待し、対話パートナーのうち、「アゼルバイジャン、アルメニア、エジプト、ラオス、トルコ」が出席した。その状況を、上海協力機構の構成とともに図表1に示した。
図表1:上海協力機構の構成とビシュケク会議出席状況

公開されている情報に基づき筆者作成
明らかに中露を中心として「非西側諸国」から構成されており、グローバルサウスをも包含していることがわかる。特に目立つのはイランが正式加盟国の中に入っており、かつサウジアラビアなどの中東諸国が対話パートナー国(現在はパートナー国)として少なからず入っているということだ。
この背景には2023年に習近平がイランとサウジアラビアを和解させ、中東に和解雪崩現象をもたらしたことが深く影響している(この経緯は『G2構想 勝つのは米国か中国か』に詳述)。
習近平が中東諸国間の紛争を何としても和解させたいと思った「狙い」はここにあり、今では人類の42%を占めるに至っているSCOを「非西側諸国の経済共同体」として拡大させていきたいという野望を垣間見ることができる。
問題はトランプ大統領との関係において、イランをどう位置付けるのか、ここが習近平の悩みどころにちがいない。
◆SCO首脳会談における習近平の演説:「イラン」に触れず!
習近平はSCO首脳会議で「発展を優先し、貿易・投資、交通・物流、エネルギーに加え、AI、デジタル経済、グリーン産業などで協力を拡大する」とした上で、「安全保障を重視し、テロ、組織犯罪、麻薬、サイバー犯罪などに共同で対応する」という趣旨の演説をしている。また、「ウクライナ、中東、アフガニスタンなどについても、SCO加盟国間の意思疎通を強化し、政治的解決を推進する」と主張しているが、注目すべきは「イラン」という言葉が出てきていないということだ。
「SCO+」会議での演説においても、「秩序ある世界の多極化」と「公正で合理的なグローバル・ガバナンスの実現」に焦点が絞られ、そのために「国連の権威と活力を再び高める必要がある」とは言っているが、しかしやはり「イラン」を特定した話題は話していない。「イラン大統領」という、他の国の出席者に対する表敬のために他の国の首脳と並列に名前が出てきただけだ。
◆SCOビシュケク宣言とイラン
ところがSCO首脳会議宣言すなわちビシュケク宣言となると、突然事情が変わってくる。宣言では「イランに対する支持」を明確に打ち出し、イラン周辺情勢について「重大な懸念」を表明し、「イラン領内に対する軍事攻撃を明確に非難」している。
米イスラエルによる突然の軍事攻撃についても「国連憲章および国際法の原則と規範に違反し、世界の平和、安全、安定に重大な危険をもたらす」と明記し、殺害されたイラン最高指導者アリー・ハメネイ師についてイラン政府と国民に弔意を表した上で以下のように書いている。
- イランの主権と領土保全を支持する。
- 紛争は政治・外交手段によって解決すべきである。
- 地域情勢の緩和につながる努力を歓迎する。
などである。
核問題についても、「平和目的で核エネルギーを研究・生産・利用することはすべての国の奪うことのできない権利」であり、この分野で国際法に反する制限措置を行うべきではないと主張している。
即ち、イランはSCOの正式加盟国なのだから、当然のことながら「SCO全体としてはイランを政治的・外交的に非常に強く擁護している」という結果を見ることができるのだ。
ここが習近平の「強(したた)かな」ところで、個人としては「トランプの逆鱗(げきりん)に触れるのを避け」、SCO全体としては「総意」として「イラン擁護」=「米イスラエル非難」の形を取ったということになる。
◆習近平とイラン首脳との対話を表面化させず、トランプの非難を避ける
イラン大統領府は9月1日、「SCO首脳会議関連行事の合間に習近平とイランのペゼシジヤン大統領が数分間の短い対話をした」として、その証拠写真まで掲載している。図表2に示すのは、イラン大統領府のウェブサイトが掲載している証拠写真だ。
図表2:「会議の合間にふと声を掛けられ立ち話をする風情」の習近平国家主席とペゼシジャン大統領

イラン大統領府ウェブサイトから転載
図表2から明らかなように、習近平も王毅(外相)も笑顔を見せないようにしている。目さえ合わせていないような「風情」を演出している。習近平と王毅の目の置き所が、あまりに不自然ではないか。知り合いにふと出くわした時の目ではない。
おそらく、証拠写真をトランプが見ることはわかっているので、「相手(イラン)が、ふと、話しかけてきたので(いやいやながら)立ち話に応じただけだ」という弁明ができるように、最初から周到に計算されていたとしか思えない。あまりにパーフェクトにでき過ぎているとも言えるが、逆にあまりに不自然で、分析する側にとっては絶好の「証拠写真」としか言いようがない。
このような「面白い」あるいは「興味深い」写真はめったにお目にかかれない。貴重なこの一枚は、習近平の思惑とジレンマを、余すところなく如実に表している。
◆それでもイラン経済は見捨てていない習近平
それでもなお、アメリカによる経済制裁と無差別攻撃によるイランのダメージを、習近平は「こっそり」支えようとしている。
9月10日、ロイター通信が、<イラン、物々交換に似た仕組みで中国製品購入 制裁回避=関係筋(ロイター) – Yahoo!ニュース>という形で、中国の巧みな制裁逃れを報じている。
イラン産原油の代金を通常の国際金融システムを経由して直接支払うのではなく、中国製品を購入するためのクレジットなどに振り替える仕組みで、イラン側は制裁下でも中国製品を入手でき、中国側は割安なイラン原油を確保しながら、中国の銀行や輸出企業が米国の二次制裁を受けるリスクを抑えることができる。
もともと中国はアメリカによる対イラン制裁を、国連決議ではないのだから従う必要はないとして、不当なものと位置付けてきた。だからあの手この手でイランからの原油を購入してイラン経済を支えてきたのだが、米イスラエルによるイラン攻撃後、泥沼化したイラン戦争から抜け出せなくなっているトランプは、さらなる厳格な制裁を科し、貿易相手国にも厳しい措置を取ると息巻いている。
訪米を目前に控えた習近平としては、「台湾統一問題」があるので、9月11日のコラム<「習近平訪米の計算式」Ⅰ トランプに会っても国連総会は欠席するわけ>に書いたように、できるだけトランプを刺激したくないのだが、イランに徹底的なダメージは与えたくない。したがって「イラン経済をなんとか維持しつつ、中国自身の主要金融機関や企業を米国の制裁から隔離する仕組み」まで考えたという事情が、ロイター通信の背景にはあるとみなしていいだろう。
かくして「習近平訪米の計算式」は、エジプトとの軍事演習やインドにおけるBRICS首脳会議へとつながっていく。
この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。
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