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中国では「碰瓷(当たり屋)」と嘲笑 日本が「対話があった」かのように報道する日中外相の通りすがり接触
2020年委訪日した時の王毅外相と茂木外相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

フィリピンのマニラで開催されていたASEAN会議の会場で、7月22日、日本の茂木外相と中国の王毅外相がすれ違った。通りすがりで一瞬挨拶を交わしただけなのに、日本ではあたかも「対話」があったかのような期待を寄せる報道がなされたため、中国政府は「対話は一切なかった」と全面否定。すると日本のネットでは今度は「中国が負け惜しみを言っている」かのようなコメントが湧いて出た。

そのため中国のネットではこれを「碰瓷(当たり屋)外交」という言葉で嘲笑している。

日本が「通りすがりの知人同士の一瞬の挨拶」を「ついに中国側が折れた会談」であるかのように報じる裏には、もちろん「高市発言」によって悪化した日中関係の雪解けを期待する思いがあるだろうが、それ以上にルビオ米国務長官の「日中関係悪化を嘆く声」があったのを見逃すことができない。

それを気にしたためか、茂木外相の記者会見での、まるで「ペテン師」のような回答の仕方が決定的だったように思う。

 

◆通りすがりの挨拶を「会談か」と期待した日本のメディア

出現順番から言うと、たとえば2026年7月23日午後8:20、FNNプライムオンラインの<茂木外務大臣が中国・王毅外相と会話 関係悪化以降初めて>を始め、数多くの情報があるが、大きいのはやはり明確に「期待」という言葉を出したNHKニュースだろう。7月24日5:52、<日中外相が接触 中国側の出方を慎重に見極めへ 日本政府 | NHKニュース | 日中関係、高市内閣>とタイトルは慎重ながら、記事の内容では「日中関係が悪化して以降初めて」と書き、「日本政府内では関係改善のきっかけになるのではないかと期待する声がある」としている。さらに「政府内では前向きな動きだとして関係改善のきっかけになるのではないかと期待する声が出ています」と、「期待」の連続だ。

7月25日になると日本の共同通信が<王毅外相「茂木氏と会話せず」 中国国営メディアが投稿>と発信しているのに、7月26日になってもなお、時事ドットコムは<日中改善、道険しく 約9カ月ぶり外相対話>と、「昨年11月の高市早苗首相による台湾有事発言で日中関係が悪化してからは初めて」を強調している。さらに「それだけに日本政府内からは『短時間でもやりとりできたのは有意義だ』(関係者)との好意的な見方が広がった」と「期待感」を滲ませているのである。

 

◆茂木外相の臨時会見から見える実情と「期待」を抱かせた「犯人」

実際はどうだったのかを、茂木外相本人が7月23日に臨時会見をし、その模様を日本の外務省が文字化しているので、その頁から解読してみよう。以下Q&Aを略記して要点だけを列挙する。注目点に筆者が番号を付けた。

記者:日中外相間で「やり取り」があったのか?あったとすれば何を話したか?

茂木:会場内におきまして、王毅外交部長と短時間ですね、挨拶を任(ママ)す機会がありました。①二国間関係についてですね、話をしたところであります。これ以上については外交上のやり取りがありますから、コメントは差し控えたいと思います

記者:やり取りの時間は何分か?

茂木:時間は短時間でありました。

記者:対話が実現したことについての受け止めと、今後の展望は?

茂木:昨日たまたまですね、ちょうど一連の会合、②日ASEANの前が中ASEANの会合をやっていまして、そこですれ違うという形でですね、接触の機会、これがあったということであります。日本としては③これまでもですね、あらゆるレベルの対応についてはオープンである、④こういったことを申し上げてきました。同時に、地域の平和にとってですね、日本、中国は大きな役割を負っているわけでありまして、⑤しっかりこれからも対話を続けていくということは極めて重要だと、このように考えです

                      (外務省HPからの略記引用は以上)

 

この茂木氏の発言の仕方が曲者(くせもの)だ。

まず①をご覧いただきたい。「二国間関係について話をしたところであります」という表現だ。②にあるように異なる会議場から出てきた際に、会議場の出入り口がある会場ロビー辺りで「すれ違った」だけだ。これまで何度も会っていた仲だから、目が合えば「やあ、こんにちは」くらいは言うだろう。もちろん声を掛けたのは茂木氏の方。王毅はその前に別の会場で日本の「新型軍国主義」に関する批判演説をしているので、声を掛けられたくはなかっただろうが、声を掛けられたからには「ああ、どうも」くらいの返事はするだろう。そこで茂木氏は、たとえば「日中、うまくやりましょうや」くらいのことは挨拶として「ひとこと」言ったかもしれない。王毅はそれに対して「はぁ」くらいの程度で応じて立ち去って行ったということもあり得る。それを茂木氏は①で「二国間関係について話をしたところであります」と表現した。これはほぼ「ペテン」に近い表現だ。だから①の後半で「これ以上については外交上のやり取りがありますから、コメントは差し控えたいと思います」と逃げている。

③と④に注目していただくと「これまでも~と申し上げてきた」と、過去の話をしているだけなのに、よほど注意深く聞いてないと、あたかも「王毅外相に~と申し上げた」かのごとく聞こえてしまう。汚いやり口だ。

同様に⑤は、今後の希望に関して述べているだけなのに、まるで「すれ違いざまの挨拶」に含まれているかのような錯覚を与える。日本のメディアに「勘違いさせた犯人」はわが国の茂木外務大臣と言えなくはない。

こうした「まやかし」のような表現を駆使してまで、なぜ茂木氏は「あたかも王毅外相と日中問題に関して会話をした」かのようにアピールしなければならなかったのだろうか?

 

◆前日にルビオ米国務長官が「日中関係の悪化を懸念している」と表明

最も大きな原因の一つは、茂木氏が23日に臨時会見を行う前の日の22日夕刻に、ルビオ米国務長官が記者会見で「日中関係が良くないことを懸念する」という趣旨のことを「ひとこと」言ってしまった、ということにあるのではないだろうか。

7月22日夕刻、ルビオは王毅と長時間にわたって会談したことに関する記者会見を行なった。それは米国国務省のウェブサイトに詳細に掲載されている。記者会見の主たる目的は米中外相会談の内容に関してで、ルビオは「習近平国家主席を9月に米国に迎えるための基礎固めである」と明言している。つまり習近平訪米の赤絨毯を敷くための事前会談であったわけだ。ただ、その記者会見の中で「日中関係の悪化に関してどう見ているか?」という質問も出た。

そこでルビオが日米外相会談にも触れ、「日中関係の悪化を懸念している」と述べたわけだ。7月21日には日米外相会談も行なわれているが、日本の外務省のウェブサイトを見る限り、日中問題に関しては何も書かれていない。

茂木氏の臨時会見での発言は、ルビオの記者会見での懸念を拭おうとするあまり、まるで「ペテン師」まがいの表現になったのではないかと推測される。

 

◆中国のネットでは茂木氏の言動と日本メディア報道を「碰瓷(当たり屋)」と嘲笑

まず堅いところで言うならば、中国国営テレビ局CCTV系列のCGTNは7月25日、ウェイボー(weibo)に「王毅外相は日本側と会見するつもりもないし、対話も交わしてない」と書いている。

中国のネットでは茂木氏の言動と日本メディアの報道や日本のネットでのコメントを「碰瓷(peng ci)」という言葉を用いて嘲笑している。「碰瓷」とは「自ら車にぶつかってきて自動車事故に遭ったとして相手に賠償を要求する行動」で、日本語ではいわゆる「当たり屋」に相当する。街頭で自分の方から歩行者にぶつかっていきながら相手に因縁(いんねん)を付けて金をぼったくろうとする「ぶつかり男」の場合も、同じ「碰瓷」という漢字2文字で表す。

ASEANの会場で、うまいとこ王毅の姿を見つけたので、「それ!今だ!」とばかりに王毅に近づき「ぶつかり男」のように声をかけ、相手が何かしらの反応をしたので、その「一瞬」の「声を出した」という反応を以て「日中関係に関する対話をした」と喧伝(けんでん)する。

これを「当たり屋外交」と称して、茂木氏の記者会見における「思わせぶり表現」とそれに乗る日本のメディア報道を嘲笑しているのである。

いくつかの例を挙げると、以下のようなものがある。

 

この最後の例文にある「日中関係の冷え込みの責任を意図的に中国に押し付けた」というのが「当たり屋」の「難癖を付けて損害賠償を要求する」という部分に相当すると中国のネットではみなしているのだということは注目に値する。

その視点から見た「当たり屋外交」に関しては専門家の解説も数多く出ているが、長文になるのでウェイボーの事例紹介だけに留めたい。

 

◆日露外相に関しても「碰瓷(当たり屋)外交」

前掲の外務省ウェブサイトに載っている茂木外相の臨時会見で、茂木氏はロシアのラヴロフ外相との「接触」に関しても、類似の誇張をしている。

以下、茂木氏の実際の表現を見てみよう。

――ロシアでありますけど、一昨日の晩、ガラディナー、フィリピンの外相主催の夕食会がありまして、その際、短時間ですね、ラヴロフ外相とですね、挨拶を交わす機会がありました。旧知の中(ママ)でありまして、二国間関係であったり、地域情勢について話をしたところであります。(外務省ウェブサイトからの引用はここまで)

 

これに対して7月25日、ロシアのタス通信は、ザハロワ報道官のコメントを以下のように紹介している(概略)。

――実際のところ、何があったのかをお話ししましょう。日本の外相が、机に座っていたラヴロフ外相に(後ろから)近づいて挨拶をしたので、ラヴロフ外相は立ち上がらず、半身をひねって振り向き、形式的な言葉で応じました。それだけです。国際情勢や地域問題、二国間関係など、いかなる話し合いも一切ありませんでした。挨拶されれば、儀礼的に挨拶を返すわけで、それを「実質的な会話」と称するのは、奇妙としか言いようがありません。日本の外相の(記者会見における)解釈と説明には非常に驚いています!

                        (タス通信の引用はここまで)

中国のネットでは、日露外相に関する接触も「当たり屋外交だ!」と賑々しい。

 

日本はなぜ、「本当は中露との関係も悪くない」かのような「素振り」をしたがるのだろうか?

それはトランプと習近平が「やや蜜月的」でG2構想を構築しようとしていることを、日本も実は感じ取っているからではないだろうか?

トランプはプーチンのことも気に入っていて、「専制主義的な国の強い権力を持ったリーダー」を好む傾向にある。少なくともG2構想の軸となっている米中関係の阻害要因は排除したいという気持ちはあるだろう。

しかし日本は「高市発言」による日中関係の悪化を解きほぐそうとはしていないし、「高市発言」は正しかったということを日本国民に見せていかなければならない。

トランプの好まない方向に動いている日本の現実に対する弁明に茂木氏は躍起になっているようにも思われ、哀れというか、痛々しくさえ思う次第だ。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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