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長崎「南京大虐殺」を「南京事件」に―中国共産党に批判する資格はない 毛沢東が無視したことを忘れたか?
長崎原爆資料館(写真:ロイター/アフロ)

8月16日、中国政府の通信社である新華網が<いかにして長崎で「南京大虐殺」が「南京事件」に改ざんされたのか>という「新聞調査」特集を組み、長崎の原爆資料館にある「南京大虐殺」という文字が消え「南京事件」に変えられることを批判している。新華社は同じ8月16日に<南京大虐殺と日本の侵略年表が長崎原爆資料館から削除される>という見出しで報道するなどして、「南京大虐殺」の事実を日本が消そうとしていることに抗議している。

しかし、実際に、中国で言うところの「南京大虐殺」が1937年12月13日に南京で起きた時、毛沢東は「これで蒋介石にも痛手になるだろう」と喜んだほどだ。だから毛沢東はこの「南京大虐殺」を「南京陥落」とその日の日記に書いただけで、一生涯、ただの一度も「南京大虐殺」に関して批判したことがないし、むしろそのことに触れさせなかったという事実がある。

嘘と思うなら、中国政府および中国共産党は、毛沢東が「南京大虐殺」を非難したことがある事実を探し出すと良い。出てこないだろう。むしろ毛沢東が「南京大虐殺を非難したことがない」という事実をこそ、中国政府および中国共産党は直視すべきではないだろうか。

 

◆長崎原爆資料館が「南京大虐殺」を「南京事件」に変更

これは早くから言われていたことで、最近では今年6月4日に「令和8年度第1回長崎原爆資料館運営審議会」が開催され、6月5日に<「南京大虐殺」から「南京事件」への見直しは維持 原爆資料館展示案 旧日本軍の「侵略」明記 | 長崎ニュース | NCC長崎文化放送>と報道されたことは日本では広く知られている。その報道によれば、長崎原爆資料館の展示のリニューアルをめぐり、長崎市は、「南京大虐殺」の表記を「南京事件」とした上で、日中戦争について旧日本軍の「侵略」と明記する案を示した。これに対し、市民団体などからは、加害の歴史を矮小化しないよう、見直しを求める意見が出されていた。しかし、今回の修正案では日中戦争について、「南京事件」の表記は維持した上で、原因を旧日本軍の関東軍の「侵略」と記載しているとのこと。

その後、長崎市は今年7月28日に長崎原爆資料館の運営審議会を開き、展示パネルの最終案を委員らに提示した。南京に関する記述については、「大虐殺」を使わず、「多数の民間人や捕虜を殺害する南京事件」とする従来案を維持。また、関東軍による華北への「侵略」とする表現も維持した。市は8月末までに原稿を確定し、9月から段階的に展示更新工事を始める予定で、2027年3月の完成を見込んでいると、7月28日に報道された

 

◆中国における批判と抗議

中国における批判も早くからあり、たとえば今年6月5日の中国外交部の記者会見で、毛寧報道官は貴社の質問に対して以下のように回答している。

  • 南京大虐殺は、日本軍国主義によって犯された残虐な犯罪であり、歪曲不可能な確固たる証拠が存在する。極東国際軍事裁判(東京裁判)は、日本軍が南京で犯した残虐行為を、いわゆる「事件」ではなく「虐殺」と明確に認定した。
  • 極東国際軍事裁判は、「南京における日本軍の残虐行為」に関する章を設け、多数の生存者の証言、第三者である外国人の記録、そして日本軍の公文書を用いて、国際司法の判決により、侵略してきた日本軍による南京大虐殺の凶悪な犯罪を立証した。南京大虐殺の主犯格である松井岩根は、A級戦犯として絞首刑に処された。
  • 歴史は改ざんすることはできない。日本の原爆被害者、長崎の市民団体、そして洞察力のある個人の方々が、加害者である日本の軍国主義の犯罪と歴史を正しく、そして完全に検証するよう求めていることを私は認識している。私たちは日本に対し、戦争犯罪を深く反省し、軍国主義との関係を完全に断ち切るよう強く求める。(外交部記者会見概要は以上)

今年6月25日の国防部の記者会見で記者の質問に答える形で批判しており、張暁剛報道官は外交部の毛寧報道官とほぼ同様のことを言っている。

7月7日には中国共産党機関紙の「人民日報」が<歴史は改ざんされてはならず、正義は冒涜されてはならない>という見出しで同様の論考を載せ、7月8日には解放軍報が<日本の残虐な侵略行為という歴史的事実は絶対に改ざんできない>と抗議した。

8月9日になると中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVが<南京大虐殺は絶対に改ざんされてはならない歴史的真相 記者観察:日本の長崎は「南京大虐殺」を「南京事件」に変更しようとしている>と報道したのをきっかけとして、再度、数多くのウェブサイトが同じニュースを報道した。

こうして本稿文頭に書いた新華網の報道が、8月15日の日本敗戦に絡めて、中国のネットに爆発的に現れたのである。

 

◆毛沢東は「南京大虐殺」を無視し、「南京陥落」としか言わなかった

2015年10月13日、筆者は<毛沢東は「南京大虐殺」を避けてきた>というコラムを公開した。その年10月に、ユネスコが「南京大虐殺文書」を世界記憶遺産に登録することを決めたからだ。ここではそのコラムを一部引用しながら解説する。

建国の父、毛沢東は「南京大虐殺」を教科書で教えることも、口にすることも嫌がった。毛沢東は生きている間、それを貫いている。

なぜなら日本軍と戦っていたのは「中華民国」のリーダー蒋介石率いる国民党軍であり、毛沢東は何としても蒋介石を倒して天下を取りたいと国民党軍の弱体化を図っていたからだ。日本軍が北上してくるのを恐れた(当時の)ソ連のスターリンは国共が合作して日本軍を中国大陸に閉じ込めておくことを望んだが、毛沢東は国共合作が政策的に進められている間も、自分が天下を取ろうとして、国民党軍が日本軍にやっつけられることを喜んだ。

だから「南京大虐殺」が起きた1937年12月13日、陝西省延安の山岳地帯に立て籠もっていた毛沢東は、「南京事件」が起きると、むしろ「祝杯を挙げて喜んだ」と少なからぬ元紅軍にいた軍人が書いていると、中国大陸以外のネットにはある。毛沢東に裏切られて紅軍から離脱した人たちなので、それに近い現象はあっただろうが、そこまでのことを言ったのかと、信憑性を疑う人はいるだろう。その気持ちは理解できる。

しかし少なくとも1938年4月4日まで延安にいた(共産党軍の)紅第四方面軍の軍事委員会主席・張国とう(とう:壽の下に点4つ)は『我的回憶(我が回想)』で、1937年7月7日に起きた盧溝橋事件(日中戦争が本格化した事件)に関して、毛沢東は「これで国民党軍の力が弱まると喜んだ」という趣旨のことを言っていたと記録している。この手の記録はいくつかあるが、それでもそのような個人の記録は信用できないと思われる読者もおられるかもしれない。

そこで、中国で最も権威のある中共中央文献研究室が編纂した『毛沢東年譜』をご紹介したい。ここには毛沢東の日々の言動が事細かく記録してあるが、「1937年12月13日」の日付の欄には、ただひとこと「南京失陥」(南京陥落)という4文字があるだけだ。その前後は1ページを割いて1937年12月9日から12月14日まで開催していた中共中央政治局拡大会議のことが書いてあり、13日に4文字あったあと、14日からはまた雑務がたくさん書いてある。

「南京大虐殺」に関しては「ひとことも!」触れていない。

『毛沢東年譜』は毛沢東の全生涯にわたって全巻で9冊あり、各冊およそ700頁ほどなので、合計では6000頁以上にわたる膨大な資料だが、この全体を通して「南京大虐殺」という文字は出てこない。1937年12月13日の欄に、わずか「南京失陥」という4文字があるのみである。以下、図表1に『毛沢東年譜』中巻p.43にあるページをスキャンして筆者が赤線囲みと日本語訳を入れた画面を示す。

 

図表1:1937年12月13日の記録にある「南京失陥(南京陥落)」の4文字

『毛沢東年譜』中巻p.43をスキャンし、筆者が赤線囲みと和訳を付加

翌年も、翌翌年も、そして他界するまで、毛沢東はただの一度も「1937年12月13日」の出来事に触れたことはなく、この「南京失陥」という4文字さえ、その後、二度と出て来ない。

毛沢東は「南京大虐殺」を完全に無視したのだ。

前掲のコラム<毛沢東は「南京大虐殺」を避けてきた>を見ると、2015年時点の中国大陸のネット空間には、「なぜ毛沢東は南京大虐殺を教えたがらなかったのだろうか?」とか「なぜ毛沢東は南京大虐殺を隠したがったのだろうか?」といった項目が数多く出てくいる。

たとえば大陸の百度(baidu)で検索した場合、「毛沢東 南京大虐殺」と入れると、日によって異なるが200万項目ほどヒットした。そのほとんどは、この疑問への投げかけだ。中にはきちんと中国建国以来、いつまで南京大虐殺を隠し続けたかを調べた人もいる。この種の記事は、2015年当時はまだ多かったが、今ではほぼ全て中国政府によって削除されている。そこで、既に削除されているが、前掲のコラムで書いた事例を、ここで再度列挙してみよう。

2014年12月31日付の西陸網(www.xilu.com)(中国軍事第一ポータルサイト)で「毛沢東時代はなぜ南京大虐殺に触れなかったのか――恐るべき真相)」というタイトルで陳中禹(う)という人がブログを書いている(今では完全に削除)。陳氏は1958年版の『中学歴史教師指導要領』の中の「中学歴史大事年表」の1937年の欄には、ただ単に「日本軍が南京を占領し、国民政府が重慶に遷都した」とあるのみで、一文字たりとも「南京大虐殺」の文字はないと書いている。この状況は1975年版の教科書『新編中国史』の「歴史年表」まで続くという。ちなみに、毛沢東が逝去したのは1976年。陳氏によれば、1979年になって、ようやく中学の歴史教科書に「南京大虐殺」という文字が初めて出てくるとのことだ。

2015年当時の他の情報によれば、「1957年の中学教科書にはあったが、60年版では削除されていた」とのこと。実際、(2015年当時に)確認してみたが、たしかにその時期、南京大虐殺を書いた教科書が江蘇人民出版社から出たことがある。しかし、その後消えてしまっている。

2015年時点で200万項目ほどヒットした関連情報の中には、「1980年代に入ると日本の歴史教科書改ざん(美化)問題があったため、中国の一般人民は初めて南京で日本人による大虐殺があったことを広く認識し始めた」というのが見られた。それによれば人民日報が初めて「南京大虐殺」に関して詳細に解説したのは1982年8月で、その書き出しは「日本の文部省の歴史教科書改ざん問題」から始まっているとのこと。

そのため大陸の多くのネットユーザーは、「中国人民は日本の右翼に感謝しないとねぇ。なんたって、彼らがこうやって歴史歪曲を始めようとしなかったら、中国人民は永遠に南京大虐殺のことを知らないまま、生きていたのかもしれないんだから」と、皮肉を込めて書いている。

ちなみに、「南京大虐殺記念館(中国名:侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館)」は、日中戦争勝利40周年記念に当たる1985年8月15日になって、ようやく建立された。

 

これが現実だ。

嘘だというのなら、中国政府および中国共産党はその証拠を見せてほしい。

むしろ、その反証があるのなら、是非とも知りたい。

2015年にあった中国大陸のネット情報さえ削除してしまったのはなぜか?

それも答えてほしい。

日本軍が中国大陸を「侵略」したのは事実だが(それを高市総理のように「あれは、自衛のための行為だった」と主張して「侵略の事実」をさえ否定しようとはは思ってないが)、毛沢東が「日本軍の中国侵略」を「蒋介石の国民党軍を弱体化させる行為だ」として喜び、「南京大虐殺」を「蒋介石が戦った証し」として言及を避けてきたのは事実ではないのか?

 

なお、毛沢東が「南京大虐殺」を知らせなかった事実は、毛沢東が日本軍と共謀した事実と共に『毛沢東 日本軍と共謀した男』で詳述した。一方、台湾側の機密解除された戦場における手書きの軍事機密情報は、共産党軍がいかに日本軍と結託していたかを余すところなく記録しており、拙著『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』では、ロシアで機密解除されたコミンテルン情報とともに、その真相を考察した。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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