
2月6日の論考<トランプ「習近平との春節電話会談で蜜月演出」し、高市政権誕生にはエール 日本を対中ディールの材料に?>で書いたように、2月4日の春節電話会談で習近平は「アメリカは台湾への武器販売を慎重に扱わなければならない」とクギを刺している。これに関してトランプが譲歩し始めているというアメリカ発の情報が2月18日頃から出始めていた。
そこに加えて2月20日、米連邦最高裁がトランプの相互関税は違法であるという判決を出した。習近平の立場は、ますます有利になっていきそうだ。
◆トランプ「訪中前の台湾への武器販売は習近平とのディールに不利」と判断か?
2月18日、ウォールストリート・ジャーナルは<中国からの圧力キャンペーンの中で、台湾への米国の武器販売が宙ぶらりんの状態にある>(有料)という見出しで、「一部の米国当局者は、(台湾との)武器取引の承認がトランプ大統領の北京訪問を頓挫させるのではないかと懸念している」と報じている。
ここで言うところの台湾への武器販売とは、アメリカ国防安全保障協力局が昨年12月17日に発表した過去最大規模の111億ドルの武器販売パッケージのことを指している。計8案件あり、その合計が111億ドルで、たとえば最も金額が大きい案件はこのページにある。
ウォールストリート・ジャーナルの報道で、「習近平からの圧力キャンペーン」とあるが、習近平は2月4日の春節電話会談で「アメリカは台湾への武器販売を慎重に扱わなければならない」とクギを刺しただけで、これを以て「圧力キャンペーン」というのはやや違和感がある。そう思って調べていたところ、どうやらフィナンシャルタイムズが2月6日に<中国は、米国の台湾への武器販売が4月のトランプ大統領の訪問を脅かす可能性があると警告>(有料)という見出しで、「トランプ政権は、昨年12月に発表した過去最高の111億ドル規模の武器購入パッケージに続き、台湾向けに4つのシステムからなる購入パッケージを開発中だと、事情に詳しい関係者8人が明らかにした。中国は、4月に予定されているトランプ大統領と習近平国家主席の会談を前に、このパッケージについて深刻な懸念を表明している。関係者3人によると、中国は米国に対し、武器販売によって訪米が頓挫する可能性があると伝えたという」と書いている。「関係者8人」の内の「関係者3人」とのことで、いずれも不特定の人物が言った形を取っており、信憑性が高くない。
というのも、習近平がそれくらいのことでトランプ訪中を拒絶するというような手段に出るとは考えにくいからだ。習近平の場合は、そのような短絡的な行動をせず、むしろ「~~をするなら、(台湾包囲大規模軍事演習による)台湾統一を認めろ」という「交換条件」を「水面下で」提示するだろう。
あるいは「名前を明かさない関係者」に、「台湾に武器を販売するなら訪中を拒絶する」と脅しをかけるような振りをしろという「プロパガンダ工作」はやっているかもしれない。それを知ったトランプが、どう出るかを確認するために。そいう可能性は、完全には否定できない。
フィナンシャルタイムズが適当な事を書いたのか、それとも中国側の「プロパガンダ工作」の一環なのかは分からないが、しかし案の定トランプ周辺は、フィナンシャルタイムズの「脅し」情報に引っかかってしまったのかもしれない。
2月16日になると、「台湾への武器販売を増やす計画があるか」と問われたトランプは、「この件について習主席と協議した」と述べたとウォールストリート・ジャーナルは書いている。トランプは「習主席と話し合っている。良い話し合いができた。近いうちに決定する」と記者団に語ったという。
さらに「習主席とは非常に良好な関係にある」とトランプは付け加えることを忘れていない。
◆台湾の立法院では野党が武器購入の予算案を阻止
一方、肝心の台湾では立法院(日本の国会に相当)において野党が何としてもアメリカからの武器購入を阻止しようと動いていた。
1月30日の民視新聞網は<速報/藍白が再び登場!1.25兆(ニュー台湾ドル)(約6.15兆円、400億ドル)の国防特別条例を阻止 民衆党版を共同で可決させた>と報道している。
行政院で与党・民進党が提出した国防特別条例の予算案を、立法院で国民党(藍)と民衆党(白)などが結束して否決したということである。
2023年2月1日の論考<「自由貿易は死んだ!」と嘆いた台湾TSMC創始者・張忠謀と習近平の仲が示唆する世界の趨勢>や同年2月12日の論考<習近平「台湾懐柔」のための「統一戦線」が本格稼働>で、筆者が台湾における「藍白合作」に関して書くと、おそらく在日の台湾人ジャーナリストと思われる方が「藍白合作など聞いたこともない!遠藤は台湾の事情を何も知らない!」という趣旨のことを書いて批判し、シンパらしい人たちが「そうだ、そうだ!」と同調して激しく筆者を罵倒したことがあった。
しかし実際には、同年11月16日の論考<「台湾有事」が消えるか? 台湾総統選で野党連携「藍白合作」が決定>で書いたように、台湾の総統選は「藍白合作」を中心に戦われた。「白」の党首・柯文哲の揺らぎにより破滅し、民進党の頼清徳が勝利してこんにちに至っている。
ここに来て再び「藍白合作」が勢いを見せ始めたのは、最後まで「藍白合作」を貫かなかった柯文哲の後悔が大きいだろうが、背後に「統一戦線」があることも見逃してはならない。「統一戦線」とは、言うまでもなく習近平が総書記として君臨している中共中央委員会の「統一戦線工作部」である。2021年には第十九回党大会六中全会で<中共中央、党の百年奮闘の重大成果および歴史経験の決議>が発表され、「統一戦線を堅持すること」が明記されている。
この「統一戦線」は国共内戦において「共産党や国民党など異なる党における統一した戦い」として大いに叫ばれたものであり、「統一戦線」がいま台湾で活動しているのは、「台湾問題が国共内戦の延長線上にある」という点において、中国大陸側としては、当然の動きだとみなしているのかもしれない。
◆37人の米議会超党派親台議員が台湾立法院へ圧力
そこで注目しなければならないのは、2月12日に米議会超党派親台超党派議員37人が台湾の立法院へ手紙を出して、「米軍武器購入を可能ならしめる国防特別予算案を支持せよ!」と圧力を掛けたことだ。
2月13日の台湾の国営通信社である中央社CNAは「34人」と書いているが、アメリカ側のオリジナル情報を見ると「37人」になっており、各議員の署名も別途あるので「37人」と見ていいだろう。
それに対して、2月16日に立法院長・韓国瑜(かん・こくゆ)(国民党)が<米議員の書簡に回答 韓国瑜:国防特別予算を最優先議案とする>という声明を出し、再審議すると発言している。
となると、台湾の立法院で米中が争っていることにもなるのだが、この37人の超党派親台議員たちとトランプとの関係を考えると、対台湾問題の立場は必ずしも一致していない。トランプの対中姿勢は「対中緩和に傾き過ぎている」と民主党議員らはトランプを批判しているくらいだ。
それでもなお、トランプの相互関税が違法であるという判決を受けた以上、トランプの習近平に対する姿勢は弱体化の方向へ動くので、習近平に対しては譲歩を重ねる以外にないのかもしれない。特に貿易研究機関グローバル・トレード・アラート(GTA)は、今般の相互関税に対する違法判決によって、ブラジルと中国が最も得をしていると分析している。したがってこの判決が習近平に有利に働いていることは確かだ。
しかし今年11月における中間選挙への影響を考えると、対中緩和を批判されるのも好ましくなく、トランプは板挟みになっていることが推測される。
習近平としては、トランプの弱点を突きたいところだろうが、ストレートにそれをやると、さすがのトランプも気を悪くして、台湾統一に対して厳しい態度に突然変わらないとも限らない。
その辺のニュアンスを微妙につかみながら、習近平はトランプ訪中の際には大歓迎をしながら、トランプを「台湾統一容認論」の方向へと、やんわりと導いていく可能性が高いのではないかと、この時点では判断される。
この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。
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