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反中フィリピンはいつまで続くか? デンマーク世論調査「中国を最大脅威としたのは世界で日本のみ」
フィリピン大統領が国賓来日(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

5月28日、高市総理は国賓として訪日したフィリピンのマルコス・ジュニア大統領と会談し、両国関係を「包括的・戦略的パートナー」と引き上げるとした。共通の狙いは中国の脅威に対する防衛協力で、台湾問題に関しても両国は軍事的に協力を深めることになる。

いうまでもなく中国は激しく抗議したが、果たしてフィリピン政府の反中的姿勢はいつまで続けることができるのか?マルコス大統領の支持率は「-15%」(支持率が不支持を15%下回る)とのこと。周りを親中派が固めている。

また5月9日に発表されたデンマークの世論調査Global Pulse2026では、フィリピンは中国を最大脅威とは見ておらず、世界中で日本のみが中国を最大脅威と見ているという結果が出ている。この現実を日本は無視してはならない。

 

◆激動するフィリピン政界

今年5月26日、フィリピン最大の英文新聞であるMANILA BULLETIN(マニラ・ブレティン)は、<SWS( Social Weather Stations)の調査によると、マルコス大統領の支持率は2026年第1四半期に、過去最低の「-15」にまで低下した>という見出しで、マルコス大統領の劇的な支持率低下を報道した。

調査は3月24日から31日にかけて実施されたが、マルコス大統領に対する国民の満足度は過去最低を記録し、支持する人よりも不支持のほうが「15%」も多いことが明らかになったとのこと。この差異を同紙は支持率「-15%」という形で表現している。

報道内容をよく見てみると、フィリピンの成人人口(選挙民)のうち、マルコス大統領の業績に「満足しているのは33%」、「どちらとも言えないのは18%」、「不満は49%」だったという。正確には「不支持率-支持率=16%」だが、四捨五入した結果「15%」となったようだ。

同じSWSは同時期にロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の娘で、現マルコス政権の副大統領になっているサラ・ドゥテルテ(副大統領)に関する世論調査を行なっているが、サラ・ドゥテルテに対する評価は「満足54%、不満25%」で、「満足率から不満足率を差し引いた値」は「+29%」になっている。すなわち「支持率が「+29」という意味で、マルコス大統領の「-15%」とは比較のしようもないほど差が付いている。

マルコス派は反中傾向にあり、ドゥテルテ派は親中傾向にある。

フィリピンでは大統領の再選制度はないので、マルコスが2028年で再出馬することはできない。だというのにめぼしいマルコス派後継者が今のところいない。となると、このままいけば、サラ・ドゥテルテが次期大統領になるのは目に見えている。

それを阻止するために、マルコス派はサラ・ドゥテルテを「機密費を不正利用した疑い」などを理由に弾劾訴追して、強制的に出馬できないように動いた。

5月11日、下院では訴追に必要となる下院数の3分の1を超える議員が賛成したが、上院ではドゥテルテ派が多数いる上に、同日、ドゥテルテ寄りの新議長が誕生したので、マルコス派にとって、サラ・ドゥテルテ弾劾のために必要な票を集めるのはほぼ困難だと見られている。

一方、マルコス大統領は何としてもサラ・ドゥテルテを当選させまいとして、事前に父親のロドリゴ・ドゥテルテ前大統領を逮捕している。容疑はフィリピン麻薬戦争における人道に対する罪で、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出されていた。しかしフィリピンは2019年3月に、ICCから脱退したのでICCに従う必要はない。そこでマルコスはロドリゴ・ドゥテルテが2025年3月、香港での政治集会に出席した後、3月11日にフィリピンへ帰国すべくニノイ・アキノ国際空港に着いた瞬間に税関を通る寸前に逮捕しICCに移送した。

このやり方に、マルコスの姉のアイミー・マルコス(上院議員)が激怒し、弟のマルコス大統領のやり方を「狂っていて邪悪」と批判し、マルコス派から離反している。

この4人の登場人物の中で反中あるいは対中強硬派寄りなのはマルコス大統領一人だけで、他はすべて「やや中国寄り」なのである。それを図表に相関図として示した。

 

図表:フィリピン政争の主要人物相関図

公開された情報に基づき相関図は筆者作成(顔のイラストはAIに作成させた)

図表から明らかなように、マルコス以外の3人ともマルコスと対立。すべて「やや親中的」な姿勢だ。マルコス一人が「やや赤色」に囲まれ、しかも支持率が「-15」。

おまけに前述したようにマルコス大統領を支持するマルコス派には、これといった候補者が今のところはいないので、次期大統領選で対中強硬派が消えて、対中融和政権が誕生するであろうとフィリピンのメディアは盛んに予測している。

 

◆マルコス大統領自身、イラン攻撃で実は中国に接近

今年5月25日のBusiness World Onlineは、<フィリピンは2040年までにクリーンエネルギー目標を達成するために、20GWの新規再生可能エネルギーを必要としている>と報道している。

米イスラエルがイラン攻撃などを始めたために、世界のエネルギー市場が混乱し、燃料輸入国の脆弱性が露呈した中で、フィリピンは正に再生可能エネルギー資源の需要に迫られ、中国に頼らざるを得ない状況に追い込まれた。

そこで今年3月と4月、フィリピンは中国の太陽光パネルを大量に購入するに至っている。5月29日のフィリピンのメディアInquirer Businessは、<フィリピンが中国にとって太陽光パネルの第2位市場に>という見出しの報道をしている。

それによれば、「電気料金の高騰と停電の脅威が高まる中、より多くのフィリピン人や企業が太陽光パネル技術に投資するようになり、フィリピンは中国にとって2番目に大きな太陽光パネル輸出市場に浮上した」とのこと。イギリスに拠点を置くエネルギー・シンクタンクEmberの報告書によると、フィリピンでは太陽光パネルの輸入が「ごく最近急増」しており、これは現地市場における屋上太陽光発電設備の需要の高まりを示している。中国は3月と4月だけで、フィリピンに3,000メガワット(MW)の発電量に相当する太陽光パネルを輸出した」と書いている。「この輸出急増により、フィリピンはオランダに次ぐ世界第2位の太陽光パネル市場となった」とある。

その経緯の中で、結局のところ「フィリピンと中国は協力関係に移行している」という情報が、4月16日のフィリピンのメディアRapplerで報道されている。イラン攻撃を受けて、フィリピンの企業と中国の企業が共同でガス開発し、中国側がフィリピン側技術者を訓練するという「仲の良さ」も見せているようだ。

さらに3月25日には、同じくRapplerが<マルコス大統領:石油危機はフィリピンと中国の共同ガス開発の「起爆剤」となる可能性>と、報道さえしている。 

対中強硬と見られているマルコス大統領は、一方では中国と「仲良く」やっているだけでなく、「北京との関係のリセットは確実に起こる」とさえ述べているのは驚くべきことだ。

 

◆Global Pulse 2026世論調査で「中国が最大脅威」と回答した国は日本だけ!

デンマークに根拠地を置くシンクタンクAlliance of Democracies(アライアンス・オブ・デモクラシーズ)が、ドイツの世論調査会社Nira Data(ニラ・データ)の協力を得て、今年5月9日、Global Pulse(グローバル・パルス)2026)という世論調査結果を発表した。調査期間は2026年3月19日~4月21日で、対象は98ヵ国、94146人だ。

その中で「あなたは世界にとってどの国が最大の脅威となっていると思いますか?」という質問があり、世界中で「日本一国のみが、中国を最大の脅威と見なしている」という調査結果が出ている。

驚くべきは、調査対象国の中にはフィリピンも入っており、フィリピンは「世界にとって最大の脅威はアメリカだ」と回答している人が最も多いことだ。フィリピン人から見れば世界にとって「中国が最大の脅威」ではないのである。

この厳然たる事実を考えると、今般の日本フィリピン首脳会談で、高市総理が「中国を念頭に」、フィリピンとの関係を「包括的・戦略的パートナー」に引き上げ、軍事的にも提携を強化していくのは、果たして賢明な選択だったのだろうか?

トランプ大統領でさえ、5月14日の米中首脳会談で習近平国家主席を「偉大なる指導者」として二度も礼賛し、対中融和姿勢を示している。昨年10月30日の韓国での米中首脳会談の後、トランプは「中国を倒すのではなく、協力することによって、アメリカは強くなる」という名台詞を表明し、世界の秩序を米中二極化「G2構想」へと転換しようとしている。

高市総理だけが、起きないかもしれない台湾への武力攻撃を大前提に外交を展開していけば、いつかは梯子を外されることになりはしないか。

日本の防衛力を強化すること自体は悪いことではない。

しかし世界のどの国も「中国こそが最大の脅威とは思っていない」という調査結果が出ている。「中国を最大脅威とみなしているのは日本だけだ」という現実を、日本国民は無視しない方がいいのではないだろうか。

(なお、Global Pulse 2026に関する調査結果の詳細は7月2日に出版される『G2構想 勝つのは米国か中国か』で書いた。この本を執筆するために、なかなか論考を書く時間が取れないことを読者にお詫びしたい。申し訳ありません。)

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』(4月17日出版予定)、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
台湾機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相
『台湾機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』

遠藤誉著(新潮社)、4月17日出版予定
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『CHINA STORED THE POWER TO SAY "NO!"-U.S.-China New Industrial War』

by Homare Endo(Bouden House)
Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army
『Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army』

by Homare Endo(Bouden House)
米中新産業WAR トランプは習近平に勝てるのか?
『米中新産業WAR トランプは習近平に勝てるのか?』

遠藤誉著(ビジネス社)
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遠藤 誉 (著)、PHP新書
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遠藤 誉 (著)、PHP
ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元
裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐

遠藤 誉 (著)、ビジネス社
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遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)
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Homare Endo (著), Michael Brase (翻訳)
米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く
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(遠藤誉著、毎日新聞出版)
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(遠藤誉著、PHP研究所) 毛沢東 日本軍と共謀した男
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