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トランプ訪中へ
トランプ大統領と習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

※この論考は4月28日の<Trump Travels to Beijing>の翻訳です。

首脳会談

5月中旬、すべてが予定通りに進み、何も延期や中止の必要がなければ、ドナルド・トランプは北京を訪れて習近平・中国共産党総書記と会談する。当初は4月中旬に予定されていた両者の会談はトランプ2期目で2回目、通算5回目となる。一度延期されていることもあり、重要性を考えれば開催は確実視されるが、リアリティ番組さながらに展開が激しいトランプ大統領の2週間は非常に長い。何事も予断を許さないのが実情だ。

貿易慣行、技術窃取、地政学的脅威など、いかなる問題であれ中国に率直に意見するトランプ1期目の姿勢は、中国を巡る議論を根本から変えた。貿易慣行、スパイ活動、技術窃取のいずれにおいても中国が常に安全保障上のリスクをもたらしていることを専門家たちが知らなかったわけではない。しかし、経済的機会を期待して盲目的に中国と関わり続けてきた政治家たちはそうした懸念を軽視するか、あるいは完全に無視することが多かった。中国がもたらす危険性を理解していた国もある。日本とオーストラリアはどちらも中国から貿易規制の標的にされていたが、欧州の多くの国や米国は中国のリスクを十分に認識できず、当然ながら行動を起こすこともなかった。結果として中国とのデカップリングや関与縮小に動くことになる。サプライチェーンは中国への依存を減らすよう調整され、各国政府は中国の5G技術に依存しないよう通信ネットワークを再構築し、企業は上場廃止することになった。投資や関税の規制と相まって、米国の中国に対する姿勢は大きく変化した。トランプ政権1期目には貿易赤字の是正に向けた大規模な貿易協定が話題になったが、第1段階で合意に達したものの全体として進展はなく、より難しい問題は放置された。

関税措置や投資規制は厳格化され、バイデン政権下でも維持された。米国は、製造業を強化して持続可能なエネルギーの機会を促進するよう産業政策を見直したが、この方針はその後破棄された。トランプ2期目には中国に対して何度も関税のカードを切り、事態の打開や変化を促そうとしたが、結局失敗に終わった。表明された関税の多くは実施されなかったばかりか、その大多数が米国最高裁で違法と判断された。昨年の貿易戦争は、少なくとも短期的には、レアアースの輸出制限という形で中国に反撃の機会を与えることになった。

昨年10月に釜山で行われたトランプとの前回の会談で、習は中国がトランプ関税の混乱を概ね乗り切れたことに満足していたはずだ。今回の会談では、習は昨年よりも自分が強い立場にあると考えているだろう。トランプは短絡的に始めた対イラン戦争で世界経済に混乱をもたらし(回復には数年かかるだろう)、第二次世界大戦後の米国主導の世界秩序に事実上終止符を打った大統領として訪中することになる。

 

期待しすぎない

中国は昨年、どの国よりも高い関税を課されたにもかかわらず、貿易黒字が過去最高を記録した。米国の対中貿易赤字は減少したが、中国の輸出は直接取引でも第三国経由でも勢いよく拡大し続けている。トランプ政権は中国に対して強硬な姿勢を取っているはずだが、数字を見る限り、直接的な影響はほとんどないようだ。会談に臨む米国側の期待は驚くほど低い。昨年合意した中国への米国産農産物・エネルギー輸出拡大は間違いなく進めるだろうし、レアアースの供給を巡って続いている緊張を緩和し、ホルムズ海峡開放に向けたイランへの説得で中国の支持を得ようともするだろう。 しかし、これらの課題や問題はいずれもトランプの政策とその無謀な軍事行動に直接起因している。トランプは、自ら火をつけておいて消防隊を呼び、消火の手柄を自分のものにしようとする放火犯のようなものだ。スコット・ベッセント財務長官は、中国が経済の再均衡を図るのであれば何らかの大きな取引もあり得ると示唆しているが、実に笑止千万であり、一体誰がベッセントに助言しているのかと疑問に思わざるを得ない。今の中国を築き上げた習近平が、これを解体し、自国の経済安全保障をまったく不安定で信用できないトランプ政権に依存するような真似をするはずがない。

イランにホルムズ海峡開放を説得することに関しては、中国に一定の影響力があるかもしれない。しかし、仮にイランが同意して成功したとしても、そもそも問題を引き起こしておきながら最大のライバルである中国に解決を任せるというトランプ政権の行動は信じがたいほど愚かな過ちだ。 実際、ホルムズ海峡を巡るこの混乱は中国のパートナーであるイランを強化するだけでなく、中国がこの地域でより積極的な役割を果たす余地を与えることになる。

中国にとって最大の目的は、経済・安全保障環境の安定を回復することだ。米国と対等な存在として認められたいという願望は事実上すでに達成されている。トランプは強権的な指導者を好み、中国を批判する時でも習については繰り返し称賛している。トランプは自らが生み出す日々の混乱を大いに楽しんでおり、派手な演出で人々の注意をそらすことに長けた偉大なエンターテイナーだ。それがサーカスなら結構なことだが、超大国の指導者には相応しくない。狂人理論に基づくトランプの意思決定は、長期的な安定と計画性を重んじる中国政府には受け入れられない。より安定した関税・貿易環境が得られ、制裁や投資規制の脅威を軽減できれば、習は大いに満足するだろう。そのためには、ほぼ間違いなくレアアースの安定供給を約束するだろうし、交渉のテーブルに戻るようイランに働きかけることも約束するかもしれない。

ホルムズ海峡の封鎖は中国をはじめアジア地域のほとんどの国に直接影響しているが、少なくとも当面の間は、価格上昇と供給不安の両方を乗り切る上で中国は他国より有利な立場にある。とはいえ、米国が自ら混乱を招いたことを中国が喜んでいることも間違いない。米国国防総省は、すべての軍事目標を達成したと主張することはできる。イランの海軍、空軍、防空システムは破壊され、弾道ミサイルやドローンの能力も大きな打撃を受けたが、戦争とは結局のところ政治的要求を実行するための手段だ。ベトナム戦争についてもまったく同じ軍事的成果を主張することはできるが、米国が負けたのは明らかだ。重要なのは政治であり、米国の軍事行動は結果的に同盟関係を損ない、同盟国への攻撃を招き、イランに対する国際的な制裁体制をほぼ確実に弱体化させることになるほか、少なくとも短期的には政権による国の統治を強化することにもなる。だが中国もまた、台湾侵攻の可能性に対する米国の反応を見据え、過去2ヶ月間の米国の実際の軍事的成果と能力を研究しているはずだ。注目すべきことに、イランの膨大なドローン・ミサイル能力が与えた影響は驚くほど限定的だった。イスラエル・米軍基地への被害はほとんどない。特筆すべき成果はいくつかあるものの、米軍の戦闘能力はほとんど損なわれていない。この戦争を受けて中国政府が軍事行動に出るかはまったく不明だが、ウクライナが強大なロシアに対して善戦しているのと同様にイランも大国である米国に負けていない。

2023年、習がプーチンに「今、過去100年に見られなかったような変化が起きており、この変化を共に牽引しているのは我々だ」と話した時、習の真意は間違いなく、このように世界で米国の地位が低下していることにあった。だが、習もプーチンもトランプの失策を十分に利用しきれていない。

 

中国の進む道

中国は対米関係で経済・政治の安定を求めるだろうが、中国が自給自足を目指す一方で、他国が中国のサプライチェーンに依存する状況は変わっていない。中国当局はつい先日、MetaによるAI企業Manus(マナス)の買収を阻止した。Manusは中国人が中国で設立した企業だが、スタッフと知的財産を昨年シンガポールに移転している。今年に入り、中国政府は買収審査の過程でManusのスタッフ2人の中国出国を禁じた。企業関係者に対する中国政府の出国禁止措置は以前から行われていたが、他の幹部を威嚇する目的でなければ、その意図は必ずしも明確でないことが多い。

米国企業によるシンガポール企業の買収に中国がどのような管轄権を持つのかは不明だが、中国関連企業の買収に関しては、中国企業かどうかを問わずすべてのテック企業に警告を発しているのは明らかだ。シンガポールへの移転は、中国の干渉を受けずにこうした買収を可能にするための一環でもあった。

これに関して思い出すのが、長江和記実業(CKハチソン)がパナマ運河の港湾を含む港湾管理事業を売却しようとした計画に中国政府が干渉した問題だ。この件は依然として進展が見られず、CKハチソンは今なお売却を完了していない。

Manusの場合、その技術はすでにMetaが一部のソフトウェアアプリケーションに導入しており、ザッカーバーグがトランプと親しいことを考えると、米国側は首脳会談で間違いなくこの規制について取り上げるだろう。EUや英国の規制当局が米国テック企業の事業に対して課税、規制、または制限を示唆した際、米国は自国の企業に対して何らかの措置が取られれば関税を課すと脅してきた。トランプは中国に対しても同じ手を使うかもしれないが、中国が買収を阻止したのは単に首脳会談で他の分野での譲歩を引き出すためだという皮肉な見方もできるかもしれない。現代の高度な国際政治の本質とは、そのようなものだ。

 

一度は延期されたものの、首脳会談は予定通り開催される可能性が高い。トップ会談は常に重要であり、通常の外交活動に欠かせない要素だ。双方の期待値が低いことを考えれば、この会談は成功するか、あるいは少なくとも失敗することはないはずだ。どちらも相手が求めるものを持っているが、5月中旬に何らかの合意に至ったとしても、数週間のうちに忘れられるか無視される可能性が高い。中国はこれまで何度も農産物の大量購入を約束しながら、実行に移さなかった。トランプ1期目の経験が教訓になる。トランプに関しては、帰りの飛行機で前言を翻すことさえ珍しくない。

中国が近い将来に経済モデルを変える兆候はない。直近の5カ年計画は概ね既存の傾向の継続を規定している。また、米国が変更を促すような動機付けや大きな取引を提示できる兆候もない。中国は、トランプが取引を極めて重視する人物であることを理解している。トランプは実際の影響を意に介さず、勝利と呼べるような、大きな数字が絡む単純な取引を求めている。しかし、大豆や炭化水素の輸出を拡大するだけでは中国に対抗できない。中国の重商主義に効果的に対抗するには、各国が協力し、総力を結集させて中国に対処する必要がある。トランプはそのモデルを崩壊させた。米国が自国の利益だけを追求して限定的な取引にしか関心を持たないのであれば、中国に対して統一戦線を張ることは今や極めて困難になっている。

トップ会談は必要であり、トランプと政権スタッフは中国側と対話すべきだ。それは多くの欧州首脳が訪中した時と変わらないが、期待しすぎてはいけない。短期的な取引はありそうだが、大きな取引は想定されていない。最大の目的は安定した関係の回復だが、それが達成されたとしても両国の関係は今後も緊張に満ちたものとなるだろう。トランプはリアリティ番組の大統領のように振舞っており、たとえ訪中が順調に進んだとしても、劇的な展開や危機とは常に隣り合わせだ。

フレイザー・ハウイー(Howie, Fraser)|アナリスト。ケンブリッジ大学で物理を専攻し、北京語言文化大学で中国語を学んだのち、20年以上にわたりアジア株を中心に取引と分析、執筆活動を行う。この間、香港、北京、シンガポールでベアリングス銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー、中国国際金融(CICC)に勤務。2003年から2012年まではフランス系証券会社のCLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(シンガポール)で上場派生商品と疑似ストックオプション担当の代表取締役を務めた。「エコノミスト」誌2011年ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ブルームバーグのビジネス書トップ10に選ばれた“Red Capitalism : The Fragile Financial Foundations of China's Extraordinary Rise”(赤い資本主義:中国の並外れた成長と脆弱な金融基盤)をはじめ、3冊の共著書がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「フォーリン・ポリシー」、「チャイナ・エコノミック・クォータリー」、「日経アジアレビュー」に定期的に寄稿するほか、CNBC、ブルームバーグ、BBCにコメンテーターとして頻繫に登場している。 // Fraser Howie is co-author of three books on the Chinese financial system, Red Capitalism: The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise (named a Book of the Year 2011 by The Economist magazine and one of the top ten business books of the year by Bloomberg), Privatizing China: Inside China’s Stock Markets and “To Get Rich is Glorious” China’s Stock Market in the ‘80s and ‘90s. He studied Natural Sciences (Physics) at Cambridge University and Chinese at Beijing Language and Culture University and for over twenty years has been trading, analyzing and writing about Asian stock markets. During that time he has worked in Hong Kong Beijing and Singapore. He has worked for Baring Securities, Bankers Trust, Morgan Stanley, CICC and from 2003 to 2012 he worked at CLSA as a Managing Director in the Listed Derivatives and Synthetic Equity department. His work has been published in the Wall Street Journal, Foreign Policy, China Economic Quarterly and the Nikkei Asian Review, and is a regular commentator on CNBC, Bloomberg and the BBC.