言語別アーカイブ
基本操作
「台湾有事」が消えるか? 台湾総統選で野党連携「藍白合作」が決定
「藍白合作」(野党連携)を宣言する台湾総統選立候補者と国民党関係者(写真:ロイター/アフロ)
「藍白合作」(野党連携)を宣言する台湾総統選立候補者と国民党関係者(写真:ロイター/アフロ)

11月15日、台湾の総統選に関して、野党の国民党と台湾民衆党が連携することが決まった。国民党のシンボルカラー「藍」と台湾民衆党のシンボルカラー「白」を取って、これを「藍白合作」と称する。

今年2月1日のコラム<「自由貿易は死んだ!」と嘆いた台湾TSMC創始者・張忠謀と習近平の仲が示唆する世界の趨勢>や2月12日のコラム<習近平「台湾懐柔」のための「統一戦線」が本格稼働>で、「藍白合作」があり得るという趣旨のことを書いた時、在日の台湾人ジャーナリストを中心として「そんなことなど絶対にあり得な――い!」と激しく批判していて驚いた記憶がある。しかし実際には「藍白合作」が実現したのだから、批判していた人たちの主張は正しくなかったことになる。

今となっては「藍白合作」に関して数多くの情報が中国語のネット空間に出回っているが、その中の一つであるアメリカのメディアRFA(Radio Free Asia)中文は<台湾の野党勢力は統合に成功し、世論調査で総統と副総統の選出が決まる>というタイトルで、11月15日に決定内容の詳細を報道している。

それによれば、台湾の野党勢力である国民党と台湾民衆党は、馬英九前総統の仲介と調整の下、「藍白合作」を宣言した上で、「世論調査によって、連立野党の総統と副総統の候補者を選ぶことに合意した」とのこと。非常に合理的な決定だ。

立候補者は国民党の侯友宜氏と台湾民衆党の柯文哲氏だが、どちらが総統として立候補し、どちらが副総統になるかに関しては、内部で取り決めるのではなく、世論調査で決めるという。それなら内部でのもめ事がなく、決めやすいのかもしれない。

調査結果は、11月7日から11月17日にかけて調査専門家によって検討・評価され、18日(土)の朝、馬英九基金会が結果を発表することになっているという。

侯友宜氏は「結果がどうなろうとも、藍白が協力して台湾と人民を統一し、同時に人民の意思に合致し、政党の交代を実現し、腐敗した無能な民進党(民主進歩党)を排除し、台湾海峡の両岸が平和になり、台湾海峡が安定し、人民が安心できるようになることを願っている」と述べた。

柯文哲氏は「水曜日(15日)にはアメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席がサンフランシスコで会談するが、最も重要な議題は台湾問題だということは分かっている。だから今日は非常に機嫌が悪いんだ。台湾は世界で最も戦争が起こりやすい場所とされていて、その結果、ウクライナとイスラエルでさえ最も深刻な場所とは見なされなくなり、台湾は世界で最も危険性の高い場所になろうとしている」という趣旨のことを述べているが、過去に何度も「民進党が大っ嫌いだ!なぜなら民進党だと戦争が起きるからだ!」と述べたことがある。

台湾の一部では、「藍白合作」は中国側の要望であり、世論調査によって総統と副総統を決めるというアイディアも、中国が出したものだという批判もあるようだが、野党が複数分立していたら、当然、政権与党・民進党の頼清徳候補には勝てないことになるのは、誰の目にも明らかな論理だろう。それは、選挙のある国なら、どの国でも同じだ。

現在の総統選立候補者の支持率は、概ね以下のようになっている。概ねというのは、台湾には「民意調査機関(民間の小さな団体もある)」が非常に多く、どの機関・団体が調査したかによって、相当に違いが出て来るからだ。従って、それら多くの調査機関・団体の平均値を見るしかなく、「概ね」という幅のある値になる。以下に示すのは11月10日前後の平均値だ。

         ●民進党の頼清徳:約32.9%

         ●国民党の侯友宜:約23.9%

         ●民衆党の柯文哲:約23.1%

         ●無党派の郭台銘:約 5.0%

民進党のシンボルカラーは「緑」だが、頼清徳と「非緑陣営」を分けて調査したデータもある。それは必ずしも上記の合計と一致するわけではなく、

          ●緑の頼清徳:約35%

          ●非緑陣営 :約50.5%

となっている。また頼清徳と「侯友宜+柯文哲」とに分けた場合の調査もあり、その場合は平均として

          ●頼清徳:約39%

          ●侯友宜+柯文哲:約47.4%

という感じで、頼清徳氏はなかなかに強い。

侯友宜と柯文哲を比較すると、何れもわずかに侯友宜が高いので、侯友宜が総統候補、柯文哲が副総統候補として立候補することになる可能性もある。18日の午前中にはどうなるかがはっきりするようだ。

郭台銘氏も必要な推薦人29万人を遥かに上回る100万人以上の推薦人を得ているので、郭台銘にも立候補資格がある。ただ支持率が低いので、ひょっとしたら、たとえば「侯友宜が総統、柯文哲が副総統、郭台銘が首相(行政院長)」といった内閣が出来上がる可能性もなくはない。どうなるかに関しては、18日および届け出の締め切り日24日の結果を見て、さらに分析を深めたい。

さまざまな角度から見た民意の情況や「藍白合作」に関しては、拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で書いた。

台湾で起きている批判の通り、「非緑陣営」が連盟を結べば結ぶほど、中国には有利になる。親米ではなく、中立ではあるものの親中に傾いており、独立を叫ばないという点で一致しているからだ。独立さえ叫ばなければ戦争は起きない。すなわち「台湾有事」という事態にはなりにくい。「第二のCIA」と呼ばれているNED(全米民主主義基金)の活躍もしにくくなる。

そうなると、「日本有事」も起こらなくなるわけだが、日本人はどちらを望むのか。

真相を見極める複眼的視点が、日本人にも要求されている。

追記:1971年10月25日に、「中華民国」台湾はアメリカがリードして国連から追い出された。アメリカは「中国」を代表する国家は「中華人民共和国」(共産中国)一国しかないとして「一つの中国」を認め、「中華人民共和国」が国連に加盟する方向に強引に持って行った。その瞬間、中国が「台湾は中国の不可分の領土」とすることを、国連が認めたことになる。もしこれを覆したいのなら国連で再議決するしかない。平和裏になら統一することもアメリカは認めている。

国連で再議決する以外に台湾統一を阻止する方法は、唯一、中国が武力を行使したときである。したがって今となっては統一させたくないアメリカは、何としても台湾有事を創り出したいと考えている。

1946年から1948年にかけて戦われた国共内戦(国民党と中国共産党の内戦)で共産党軍により食糧封鎖され家族を餓死で亡くし、餓死体の上で野宿させられて恐怖のあまり記憶喪失になった筆者としては、どんなことがあっても、再び中国共産党と、当時の国民党が逃げた先である台湾との間に戦争が起きることだけは阻止したい。だから台湾が戦争をしない道を選ぶことを望んでいる。平和統一実現を望んでいるのではない。台湾の民意は「統一は反対だけど、戦争も反対」というのが主流だ。この状況で習近平は絶対に統一はできない。しかし戦争が起きないことは重要だ。その意図をご理解いただきたい。

この論考はYahooから転載しました。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

カテゴリー

最近の投稿

RSS