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敗北
中国の習近平国家主席と米国のドナルド・トランプ大統領が、北京の天壇を訪問した際に祈年殿の前でポーズをとった(写真:ホワイトハウス)

※この論考は5月31日の< Defeat>の翻訳です。

期待薄そのままの成果

我々は素晴らしい関係を築いてきた。うまくやっている。問題があったときも解決してきた。私が電話すれば、あなたも電話をくれる。あまり知られていないが、問題が生じるたびに我々は速やかに解決してきた。

我々は共に素晴らしい未来を築いていくことになるだろう。私は中国に敬意を持っているし、あなたが成し遂げてきたことにも敬意を持っている。あなたは偉大な指導者だ。皆に言っていることだが、あなたは偉大な指導者だ。私がそう言うのを嫌がる人もいるが、それでも言う。それが真実だからだ。私は真実しか言わない。それから、我々の素晴らしい代表団全員に代わって言いたいのだが、ここには最高のビジネスマンが揃っている。

その一人一人があなたと中国に敬意を表すためにここに来ており、貿易やビジネスをすることを楽しみにしている。

2026年5月、ドナルド・トランプから習近平に向けた会談冒頭の発言抜粋

米国にとって最大の問題は中国だと述べた大統領のものとは思えない発言だ。トランプ1期目の中国に関する率直な物言いは、経済・貿易・安全保障における対中強硬策で広く超党派の支持を得た。中国は依然として共和党と民主党を結束させ得る唯一の問題と言えるが、トランプの訪中の成果は乏しかった。だがトランプは絶えず嘘をつき、発言の途中でも態度を変える人物だということを忘れてはならない。そのため習への称賛はすべて、特にイランに関して中国側からより有利な条件を引き出すためだけになされたかもしれない。とはいえ何の効果もなかった。中国側はホルムズ海峡の開放を望んでいるとの発言を繰り返した。その海峡封鎖はトランプの無謀な戦争のせいだ。中国はイランに武器を供与しないと約束したが、中国は武器システムに転用可能な部品をイランやロシアに頻繁に供給しており、そうした約束の効果は限定的だ。戦争が始まる前、中国はイランの主要な経済支援国だったが、その状況は変わっていない。変わったのは、最終的にどのような和平合意や停戦協定が結ばれるにせよ、中国のパートナーであるイランの立場が強まったということだ。

中国は米国の農産物購入を増やすと言明し、双方は機微性の低い通商問題を協議する貿易委員会と、投資関連の問題を協議する投資委員会を設置することで合意した。これらの問題について米国政府から公表されたのは、おおむねこれくらいだ。だが率直に言ってそれに何の意味があるのだろう?米国から中国への農産物輸出が減少したのは、トランプの無謀な貿易政策と関税という強硬策が原因だ。これらの委員会はどちらも、両国の根本的な緊張関係を解消する上で何の役にも立たない。

一方、習の最大の関心事は台湾だ。新華社によると、非公開協議の場で習はトランプに対し、「対応を誤れば両国は衝突し、紛争に至る可能性もあり、中米関係全体を極めて危険な状況に追い込むことになる」と警告したという。ルビオ国務長官は会談後も米国の台湾政策に変更はないと述べたが、保留している140億ドル規模の台湾への武器売却を承認するかどうかがトランプの対応を見極める最大の判断材料になるだろう。

トランプが北京を去って数日後、同じレッドカーペットと兵士たちが再び配置され、ウラジーミル・プーチンを出迎えた。米露両大統領の相次ぐ訪中は、対中関係が間違いなく大国間政治の鍵を握る要素であることを示しているが、新たな多極的世界秩序について美辞麗句を並べたプーチンもまた、大きな成果を上げることはできなかった。プーチンの目的はガスパイプライン「​シベリアの​力2」について中国の正式な確約を得ることだったが、中国側は確約を避けた。ウクライナ戦争が5年目に突入し、ロシアは政治的にも経済的にも中国への依存を一段と強めている。両首脳は、トランプが米国の国際的評価を大きく損ない、国内制度をも崩壊させている状況を喜んでいるに違いないが、中露間の緊張は根強く、消えることはない。習とプーチンは友好関係を口にするが、習もプーチンもトランプも友人などではない。他の指導者が直面する課題や不安の中に自分自身を重ねて見ることはあるかもしれないが、そこに普通の意味での友情はない。

したがってトランプもプーチンも、今回の訪中でその称賛や友情に見合う成果はほとんど得られなかった。これは習が中国の未来について独自の計画を持つことを如実に表し、その内容は5カ年計画の中でも改めて明確に示されている。中国の自給率を高め、他国がローテク・ハイテク製品や重要素材の製造拠点として中国に依存する未来だ。

 

戦争での敗北

トランプが認めずとも習にとって明らかなのは、米国がイランでの戦争に負けたという現実だ。確かに封鎖は続いており、爆撃や攻撃がまだあるかもしれないが、イラン戦争は米国にとって完全な戦略的失敗だった。トランプは今になって、目的はイランに核爆弾を持たせないことだと主張するかもしれないが、米国とイスラエルは昨年の時点でイランの核能力を完全に破壊している――そうトランプは言っていたはずだ。イラン最高指導部の排除を狙ってイスラエルが主導した攻撃は成功したが、体制変革にはつながらず、むしろイラン指導部の強硬派をさらに勢いづかせ、イランがホルムズ海峡を封鎖すれば最小限の負担で容易に世界経済を危機に追い込めることを証明してしまった。

トランプの狂気の戦争はイランに変化をもたらすどころか、米国の同盟関係、特に欧州の同盟国との関係を致命的に弱体化させた。また、特にアジアのパートナー諸国は経済的に大きな打撃を受けた。中東地域でのイランの立場を強めたほか、台湾防衛に必要な膨大なハイテク軍事力を浪費している。さらには、議会が(その意思がないために)大統領府を監視も抑制もできないという点で、米国の政治体制が完全に機能不全であることを露呈した。2026年2月28日以前の世界はもう戻らない。「パックス・アメリカーナ」は死んだ。

本稿執筆時点では、停戦合意が間近との期待がやや高まっている。トランプは必死で出口戦略を探っているが、イラン側はそれに応じず、より有利な条件を要求し続けている。トランプはまた、イランが米国の条件を黙って受け入れないなら「片を付ける」(それが何を意味するかは不明だが)よう求める米国内の伝統的な対イラン強硬派からの圧力にさらされている。合意という言葉さえ、実態を誇張しているように思える。米国側はわずか1ページの覚書で基本合意することを目指しており、詳細は後回しだ。一方、供給網への打撃を考えると、経済的混乱は2028年まで続くだろう。

 

勝者は中国か?

トランプは本気でイランから撤退したがっている。うんざりしているのは明らかで、話題を逸らしたがっているが、この問題から何の教訓も得ていない。トランプはこれまでの人生で、自らの過ちに責任を取る必要に迫られたことが一度もなく、どのような状況でも常に他者に責任転嫁してきた。イランでの悲劇的な戦略的敗北も例外ではなく、責任を取ることはないだろう。すでにキューバでの軍事作戦に向けて準備を始めているほか、つい先日もまたグリーンランドを挑発するような投稿をしている。軍事介入を縮小する姿勢は見られないが、活動範囲が西半球に限定されると思えば、わずかでも慰めになるかもしれない。米国がならず者の超大国という立場に収まる一方、中国は世界秩序の発展を支える安定した軸として魅力を増しているように見える。各国がトランプの次の行動に懸念を抱き、これまでの行動への対応に苦慮する中、中国は南シナ海のみならず西太平洋でも影響力を及ぼすべく軍備を増強し、国内の経済や産業のレジリエンスを高める時間を稼いでいる。

しかしトランプが引き起こしている混乱の中で、中国は本当に勝者だろうか。ある意味ではそうだろう。世界的な世論調査によると、中国は米国より信頼できる大国と見なされている。世界各国の指導者たちはここ半年の間に競って訪中し、米国の関税への対策として、新たな貿易協定を締結し関係を強化しようとしている。中国政府はいかなる問題においても主張を変えていない。香港、チベット、新疆のどこであろうと自国民への弾圧を続けている。今や内モンゴルを「北疆(Northern Frontier:北部の辺境地)」と呼び始め、モンゴルの言語や文化を軽視し、最終的には根絶しようとしている。国内産業への補助金を継続し、海外市場に製品を安値で輸出することで実質的に海外の製造業を空洞化させている。最先端技術や科学的ノウハウを今なお手段を選ばず積極的に獲得している。中でも、レアアースの輸出規制を通じて経済制裁を課し、政治的影響力の拡大を図っている。また習の最近の発言が裏付けているように、中国は軍事力を用いて台湾を支配する意図を放棄していない。こうした政策を続けながらもなお中国が魅力的に映る現状は、破滅的なトランプ政権下で米国の評判がいかに失墜したかを示している。

とはいえ、中国がロシアとイランの強固な後ろ盾になっていることを忘れてはならない。ロシアは、中国の経済支援がなければ、経済制裁や近代化されたウクライナの軍事力に耐えられなかっただろう。イランもここ数年、生産が制限されている原油のほとんどを中国に輸出してきた。イランによる海峡封鎖の影響を最も受けているのはアジア諸国だが、イランの最大の支援国は中国であるため、イランに対する不満や怒りは、実質的に中国に対する怒りの代弁とも言える。

中国は米国を弱体化させる手段としてロシアを支援してきたが、2026年に入ってから米国はウクライナに直接的な支援を行っておらず、その大部分を欧州諸国が肩代わりしている。つまり、中国はロシアの対欧州戦争を支援していることになる。欧州の指導者たちはまだこのことを十分に理解しておらず、プーチンのせいにしがちだ。プーチンがロシア帝国の崩壊に強い不満を抱いているのは確かだが、ここ数年は中国の支援を受けている。つい先ごろ、多くのロシア製ドローンがルーマニア領土内の建物に墜落したことで、プーチンの軽率さが露呈したばかりだ。ルーマニアはNATO加盟国であり、NATOとロシアの全面戦争への懸念は無視できない。中国はそうした紛争を助長する立場にいながら、EUの指導者たちに甘い言葉をささやき、これまで通りビジネスを続けるよう求める気なのだろうか?

米国の一連の政治的・軍事的敗北を招いているのはトランプであり、ある著名な歴史家はこれを「超大国の自滅(superpower suicide)」と呼んでいる。こうした状況を受け、世界は80年に及ぶ米国主導の秩序を捨て去り、歴史的に馴染みのある多極世界に戻ろうとしているが、必ずしも中国が勝利する運命にあるとは限らない。中国は数十年にわたり矛盾する主張をしてきた。平和を説きながら、ロシアやイランを支援している。南シナ海を軍事化しないと約束しておきながら、あっさりとこれを破った。国家の主権を主張しながら、中国の政策に異議を唱えたり疑問を呈したりする国に対しては露骨に経済的・政治的圧力をかけている。

中国との間で「経済だけの関係」などあり得ない。あらゆる関与は政治的なものだ。長期にわたって信頼できるパートナーとして米国をまったく信用できなくなった今、より混沌とした世界がもたらす現実の脅威に立ち向かうには、他のすべての中堅国が協力することが不可欠だ。中国が描く進路は解決には至らず、むしろ問題を生み出すからだ。

 

 

 

フレイザー・ハウイー(Howie, Fraser)|アナリスト。ケンブリッジ大学で物理を専攻し、北京語言文化大学で中国語を学んだのち、20年以上にわたりアジア株を中心に取引と分析、執筆活動を行う。この間、香港、北京、シンガポールでベアリングス銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー、中国国際金融(CICC)に勤務。2003年から2012年まではフランス系証券会社のCLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(シンガポール)で上場派生商品と疑似ストックオプション担当の代表取締役を務めた。「エコノミスト」誌2011年ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ブルームバーグのビジネス書トップ10に選ばれた“Red Capitalism : The Fragile Financial Foundations of China's Extraordinary Rise”(赤い資本主義:中国の並外れた成長と脆弱な金融基盤)をはじめ、3冊の共著書がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「フォーリン・ポリシー」、「チャイナ・エコノミック・クォータリー」、「日経アジアレビュー」に定期的に寄稿するほか、CNBC、ブルームバーグ、BBCにコメンテーターとして頻繫に登場している。 // Fraser Howie is co-author of three books on the Chinese financial system, Red Capitalism: The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise (named a Book of the Year 2011 by The Economist magazine and one of the top ten business books of the year by Bloomberg), Privatizing China: Inside China’s Stock Markets and “To Get Rich is Glorious” China’s Stock Market in the ‘80s and ‘90s. He studied Natural Sciences (Physics) at Cambridge University and Chinese at Beijing Language and Culture University and for over twenty years has been trading, analyzing and writing about Asian stock markets. During that time he has worked in Hong Kong Beijing and Singapore. He has worked for Baring Securities, Bankers Trust, Morgan Stanley, CICC and from 2003 to 2012 he worked at CLSA as a Managing Director in the Listed Derivatives and Synthetic Equity department. His work has been published in the Wall Street Journal, Foreign Policy, China Economic Quarterly and the Nikkei Asian Review, and is a regular commentator on CNBC, Bloomberg and the BBC.