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トランプG2構想「西半球はトランプ、東半球は習近平」に高市政権は耐えられるか? NSSから読み解く
トランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

ベネゼエラ攻撃は2025年12月5日に発表されたアメリカの国家安全保障戦略(National Security Strategy)(以下NSS)に沿って行われたものだ。NSSではモンロー主義(1820年代)のドナルド・トランプ版である「ドンロー主義」が貫かれている。そこから浮かび上がる「G2構想」は恐るべき現実を日本に突き付けている。

その現実に、高市総理的な対中姿勢を軸とした高市政権は持ちこたえられるのだろうか?

◆トランプG2構想の基礎にあるのはトランプの「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」発言

昨年10月30日に韓国におけるAPEC首脳会談開催中に行なわれた米中首脳会談でトランプ大統領はすでに「米中が世界を二分して統治するG2構想」を表明していた。

昨年11月5日の論考<トランプが「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言!>で示したように、トランプは米中首脳会談が始まる1時間ほど前に、自らのSNSであるTruthに<G2会議がまもなく始まるよ―!>と投稿した。それを図表1に示す。

図表1:トランプが世界で初めて明示したG2

Truthのスクリーンショットに筆者が赤枠と和訳を加筆

米中首脳会談を終え帰国した後の日本時間11月2日5時11分に、トランプはTruthに投稿し、再び<G2に言及した>。そこには「中国の習主席との、私のG2会談は、両国にとって素晴らしいものだった。この会談は永遠の平和と成功につながる。中国と米国の両国に神のご加護がありますように!」と書いてある。それを図表2に示す。

図表2:トランプが二度目に明示したG2


Truthのスクリーンショットに筆者が赤枠と和訳を加筆

かつて習近平がまだ国家副主席だった2012年2月13日にワシントン・ポストの取材を受け、「広大な太平洋の両岸には、中国と米国という二大大国を受け入れるのに十分な空間がある」と指摘したことがある。その後も何回かこの言葉をくり返し、たとえば2014年11月12日に訪中したオバマ大統領と会談し、同じ言葉を述べている。これは実際上G2を意味しており、中国語では「新型大国関係」と称する。これに対してオバマ政権では、やや冷笑的な対応があったため、習近平はその後二度とこの言葉を使わないようになった。

ところがこのたび、米国側から「G2」という言葉が出たのだ。

その背景にあるのはトランプの「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」という思考だ。昨年11月2日午後、CBSニュースは<トランプ大統領へのインタビューの全文はこちらからお読みください>という見出しで、60分間にわたる取材内容を文字で伝えている。そのうち「中国について」の項目には、以下のように書いてある。

――他の人たちと同じように、私たちもまた彼らにとって脅威だと思う…。中国と米国となると、とりわけ激しい競争の世界がそこにはある。私たちは常に彼らをウォッチしているし、彼らも常に私たちをウォッチしている。そうこうしている内に、私たちはすっかり仲良くなってしまっているし、まさに彼らをノックアウトしてしまうのではなく、むしろ逆に彼らと協力することによって、私たち(米国)は、より大きく、より良く、そしてより強くなれると私は思う。(CBSの引用はここまで)

◆NSSの枠組みと西半球の位置づけ

こうして12月5日に発表されたのがNSSだ。図表3に、NSSの表紙と目次を示す。

図表3:NSSの表紙と目次

NSS報告書から転載し筆者が和訳加筆

ⅣのThe Strategy(戦略)の3.The Regions(地域)の並び方をご覧いただきたい。最初のAにあるのが「西半球」だ。NSSでは1823年のモンロー主義(西半球とヨーロッパは互いに干渉せず、米国は西半球を統治する)が至るところで強調され、たとえば図表4のように説明されている。

図表4:西半球に関する位置づけ

NSSのp.15を転載し赤枠と和訳は筆者が加筆

西半球以外の国が西半球で力を発揮することを拒否し排除するという理論だ。それは中国やロシアであるだけでなく、デンマークなども含める。中国に限って言えば、西半球における中国の覇権は許さない。

しかし中国と仲たがいして「世界から中国を排除するのか」と言ったら、それは絶対にしない。中国とはむしろ仲良くして、G2構想の中で「米中が世界を二分して仲良く繁栄していく」と位置付けている。

◆NSSにおける中国の位置づけ

その証拠にNSSでは西半球の次にBとしてアジアを持ってきて、そこで中国を図表5のように位置付けている。

図表5:NSSにおける中国の位置づけ

NSSのp.20を転載し、赤線や黄色マーカーと和訳を筆者が加筆

図表5の前半では、米中が「ほぼ対等な関係になった」とし、また後半では「米中が真に互恵的な経済関係を維持していけば、アメリカが強くなる」としている。これは正に、昨年11月2日にCBSの取材を受けたときにトランプが言った「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」という思考そのものだ。同類のことはNSSの他の個所にもちりばめるように書かれている。

したがってNSSでは「G2」という言葉は用いていないものの、精神は「G2」そのものであると言っていいだろう。

◆NSSにおける日本・韓国の位置づけ

では肝心の日本や韓国は、NSSの中でどのように位置づけられているのかを図表6に示す。

図表6:NSSにおける日本や韓国の位置づけ

NSSのp.24を転載し、赤線や赤枠および和訳は筆者が加筆

図表6を、その前後も考えながら大雑把に言うならば、「第一列島線は重要ではあるものの、もし日本や韓国が脅威を覚えるならば、防衛費を増額したり駐留米軍に対する分担金を増やしたりして、自国の防衛は自分で守れ」というのが基本的スタンスだ。何ならアメリカの武器を多く買えという姿勢とも言える。

台湾に関しては、「理想的には米軍が軍事力の優位性を維持することにより、台湾をめぐる紛争を抑止することが優先事項ではある」と書くに留め、「理想的には」を入れることにより積極性を抑え、「優先事項」ともしていない。

バイデン政権時代のNSSは「中国に勝つことが最優先事項」と明記され、バイデン自身何度も「台湾有事には必ず米軍が援軍を出す」と言っていたのとは対照的だ。

トランプは「台湾有事」に関する取材に対して「習主席は、台湾は自国の一部と言っているので、彼(習近平)次第だ」と答えていると、今年1月8日のニューヨーク・タイムズは報道している(有料)。

◆NSSにおけるヨーロッパの位置づけ

ヨーロッパに関しては、もう、これ以上貶(けな)せないほど侮蔑に満ちている。そもそも地域として3番目の「C」に置かれていることからも、いかに格下げしているかが明瞭だ。念のため、一ヵ所だけ例を挙げると図表7のようになっている。

図表7:NSSにおけるヨーロッパの位置づけ


NSSのp.25を転載し、赤線や赤枠および和訳を筆者が加筆

「文明の消滅」とまで言い切っているのは、NSSがドンロー主義に満ちているからで、モンロー主義は「ヨーロッパを切り捨てる」のが主眼だった。モンロー主義に倣(なら)って、「ヨーロッパ発のリベラル的価値観を捨てる」のがNSSの特徴で、トランプが今年1月7日に66の国際組織からの脱退を宣言する大統領令に署名したことが、その何よりの証しだ。国際組織の多くは、ヨーロッパ的理念から発したものだからである。国際法も関係ないとトランプはベネズエラ攻撃の後に言っている。

NSSから「価値観外交」や「力による現状変更の排除」や「民主主義対専制主義」といったイデオロギー的なものは全て排除されている。

 

以上がNSSの概要だが、ベネズエラ攻撃はNSSの「A」の西半球制覇という考え方から出ているものだし、グリーンランド購入もこの基本方針に沿ったものだ。イランという例外があるのは、イランと敵対しているイスラエルの味方をして在米ユダヤ人という票田を確保するためだろう。

いずれにせよ、西半球から中露やヨーロッパを追い出すが、地球全体で見るならば、習近平とG2体制で世界を二分して統治しようとしているのだから、トランプのG2構想とは

  • 西半球はトランプが
  • 東半球は習近平が

統治するという考えに行き着いてしまう。

◆高市政権は持ちこたえられるのか

高市総理は1月19日に衆議院解散に関する説明をするとのことなので、次期政権まで持つか否か分からないが、仮に自民党が衆議院で過半数を獲得し高市政権が継続した場合、「高市発言」に見られるような対中姿勢で持ちこたえられるのか否か疑問だ。

頼みにしているトランプの心は習近平に向かっているし、トランプはG2構想で習近平と仲良く提携し世界を統治するつもりでいる。

習近平としては、「仲のいいトランプ」がベネズエラ攻撃などしてくれたので、トランプが大統領在任中に台湾を統一しようと思うかもしれない。

習近平としては2024年5月26日の論考<アメリカがやっと気づいた「中国は戦争をしなくても台湾統一ができる」という脅威>に書いたように、台湾を統一するとすれば「台湾包囲大規模軍事演習」の形によって統一を狙うものと考えることができる。2週間ほどの長期軍事演習をすれば、台湾のエネルギーが枯渇するからだ。しかも台湾島の陸上には一発たりとも発砲しないので、住民が殺傷されることもなく、TSMCの半導体製造設備が破損されることもない。台湾の住民に直接武力行使などしたら、統一した後に台湾の人々が北京政府に従ったりするはずがないので、それを避ける手段を用いるのが習近平の戦略だ。

トランプとしても、昨年12月26日の論考<トランプが習近平と「台湾平和統一」で合意?>に書いたように、そのような事態になったとき、台湾の頼清徳総統を威嚇して習近平の指示に従うよう圧力を掛ける可能性がある。

場合によっては、4月にトランプが訪中して習近平と首脳会談をしたときに、習近平の方から「西半球制覇に関するNSSの方針を全て認めるので、その代わりに中国の祖国統一のための百年の宿願である台湾統一を認めてくれ」と言い出す可能性も高い。

そうでなくともNSSに書いてあることは習近平にとっては歓迎すべきことばかりだ。

日本の衆議院に関しては選挙なので、結果がどう出るかは何とも言えない。

しかし、少なくとも断言できることが一つある。

それは、高市政権が続く限り、習近平は「日本叩き」を絶対にやめないということだ。アメリカにトランプが現れて、2.0では本稿で見たような、中国にとって有利なNSSに基づきG2構想で動こうとしている。高市政権の出現は「日本を叩く」には二度とない絶好のチャンスだ。かかるG2構想の中で高市政権は再選されたとしても持ちこたえられるのだろうか。考察を続けたい。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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