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中国がMAGAを肯定!
韓国で会談したトランプ大統領と習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

12月28日、中国共産党の機関紙「人民日報」は、「中国の発展」と「MAGA(アメリカを再び偉大にする)」は共存すると発表した。これは11月5日のコラム<トランプが「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言! これで戦争が避けられる!>と対をなすものであり、かつ12月26日のコラム<トランプが習近平と「台湾平和統一」で合意?>とも符合する。

世界が米中を中心に「台湾有事が起きない方向」に動いているときに、わが国日本の高市政権だけは「台湾有事は存立危機事態を招く」として一人「勇ましく突き進み」、「戦争の残虐性を知らない日本の若者たち」の心を躍らせている。

アメリカに梯子を外されるかもしれない日本は、どこに向かうのか?

◆人民日報がMAGAを肯定!

12月28日、人民日報は「鐘声」という社論コーナーの「大国外交2025年レビュー」で<小異を残して大同を求め、双方の相違を解決する>という見出しで「中国の発展とMAGAは矛盾しない」という旨の報道をした。そこでは主として、以下のような論を展開している。

  • 共通点を求める精神を守りつつ意見の違いを保留し、対立を対話で置き換え、違いを協力で解決し、全体的な状況との矛盾を管理することで、中国とアメリカは互いに発展を達成し、ともに繁栄することができる。
  • シカゴ・グローバル問題評議会が最近発表した世論調査によると、アメリカ人の53%がアメリカは中国と友好的な協力と交流を行うべきだと考えていることが分かった。一部メディアは、2019年以来初めて、アメリカ人の回答者の過半数が中国との協力・関与政策を支持したと指摘している。これは、米中関係の浮き沈みはあるものの、双方が合理的に相違点を管理することで、両国関係に関する合理的な理解が米国社会において徐々に深まりつつあることを示している。
  • 歴史はくり返し、中国とアメリカの間には乗り越えられない障害や管理できない問題は存在しないことを証明している。相互尊重、平和共存、そしてウィンウィンの協力関係が維持される限り、両国は必ずや安定的で持続可能な建設的な関係を築くことができる。長期的には、中国の発展と振興は、アメリカのMAGA(Make America Great Again、アメリカを再び偉大にする)という目標と矛盾するものではない。相違点を残しつつ共通点を求め、対立を対話に切り替え、協力によって相違点を解決し、全体的な視点で矛盾を管理するという精神を堅持することで、米中の二大国は必ず相互の成功と共通の繁栄を実現することができる。(以上)

中国語の原文には「求同存异」という言葉が用いられているが、これは「相違点は保留して、共通点を求める」という意味で、日本語的には「大同小異」に近い。これは中国の成句で、外交的には1955年に周恩来がアジア・アフリカ会議でスローガンとして使用して以来、広く用いられるようになった。

1972年2月21日にニクソン元大統領が訪中したときにも、周恩来は「求同存异」という言葉を用いて、新しい米中関係を定義した。

さらに田中角栄元総理が訪中し、周恩来と会談した時にも「求同存异」という言葉で、今後の日中関係を表現している。その記録は現在では中国のネットで見つけることができず、わずかに『周恩来選集 下巻』(人民出版社、1984年、P477-478)で見出すことができる。しかしこのURLにはアクセスできない可能性もあるので、その際はお許しいただきたい。

◆トランプの「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」は習近平の言葉を受けていた

ところで、今年10月30日に韓国で行なった米中首脳会談においても、実は習近平がMAGAを肯定する言葉を発していた。10月30日の新華網によると、習近平は以下のように言っている。

――中国の発展と振興はトランプ大統領の「アメリカを再び偉大にする(MAGA)」という目標と矛盾するものではなく、米中は必ず相互の成功と共通の繁栄を実現できる。米中はパートナーであり、友人であるべきだ。これは歴史の教訓であり、現実の必然である。私はトランプ大統領と引き続き協力し、米中関係の確固たる基盤を築き、両国の発展に好ましい環境を整備していきたいと考えている。(以上)

この言葉を発したのが、10月30日午前中だ。

一方、11月5日の論考<トランプが「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言!>で書いたように、トランプが「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言したのは、米東部時間31日に米メディアCBSの取材を受けたときのことだった。

すなわち、習近平からの「中国の発展と振興はトランプ大統領のMAGAという目標と矛盾するものではなく、米中は必ず相互の成功と共通の繁栄を実現できる」という言葉を聞いたあとのことなのである。

ということは、トランプのこの奇跡的とも言える言葉は、習近平の言葉を受けて出て来たということになる。

そのような中、12月26日の論考<トランプが習近平と「台湾平和統一」で合意?>で書いたような台湾の元国防部副部長の「トランプと習近平は台湾平和統一に関して合意する」という発言が12月19日にあったということは、世界は「台湾有事」に向かっているのではなく、少なくとも米中は「台湾平和統一」に向かって動こうしていることになる。

◆高市政権はアメリカに梯子を外される可能性

となると、高市政権はトランプに梯子を外されることになり、日本の防衛力強化の根拠を「台湾有事」に求めている高市政権は、宙に浮いてしまう。

「高市発言」の「台湾有事」に際して「アメリカの援軍が来た場合」という前提は、トランプ2.0においては完全に崩壊することを覚悟した方が良いのではないかと思う。

高市総理は、トランプが訪中して習近平と会談する前に、なんとかトランプと会談して、トランプの心を自分の側に惹きつけようとしているようだが、そのような小手先の動作で、翻(ひるがえ)るようなトランプの決意ではなさそうだ。

そのことは12月5日に発表されたトランプ2.0 における「国家安全保障戦略(National Security Strategy)を詳細に読み解けば理解できるが、それはまた別の機会に譲りたい。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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