一、中国が主に国内の大きな循環を主体としつつ、国内と国外の双循環の戦略を提唱する客観的な必然性
一部の人達は、中国が国内循環を主体とする戦略を実施する原因は、米国の対中貿易包囲であると言う。この見解は一理あるが、すべてではない。中国は1980年代の改革開放から2010年まで、国外循環を主体とする戦略を約30年間実施してきた。2007年、中国の対外貿易依存度は73.50%まで達し、リーマンショック後の2010年は減少したが、それでも48.95%の依存度である。2006から2015年の間、WTOの貿易紛争案件の三分の一は中国に関するもので、それは中国の輸出の急増が他国の市場を占有し、貿易摩擦を引き起すためである。
2019年になると、中国の対外貿易依存度は33%未満にまで低下し、輸出依存度は18%未満にまで低下した。対外貿易依存度、特に輸出依存度の低下は、国内経済循環を主とする戦略に客観的な必然性を与えた。中国は膨大な人口、巨大な市場、完全な産業システムと強い農産物生産および供給能力を有しており、国内経済循環戦略を実施し実現する条件と能力を備えている。現時点で、中国の一人当たりGDPは1万ドルに達しており、マッキンゼーの『中国消費者調査2020』によると、「2035年までに、中国の消費者市場はヨーロッパとアメリカの合計を上回る」ことになる。その時には、中国もヨーロッパやアメリカなどの先進国と同じように、国内の経済循環が標準となっていく。先進国の発展規律を鑑みると、一人当たりGDPが1万ドルに達することは転換点であり、客観的に見ると輸出主体の発展モデルから、国内循環モデルへと徐々に移行しなければならない。
もちろん、中国の現在の地域経済発展は不均衡であり、国外循環を必要としている。しかし、米国の対中貿易包囲網と米中の戦略ゲームは、客観的に中国の国内循環を主体とする戦略を加速させた。長い目で見れば、人間万事塞翁が馬である。このような外部からの圧力は、中国の科学技術、産業、そのほかの産業構造を新たなレベルに引き上げるであろう。世界経済にとって利益になるかはわからないが、しかし確かに深い影響を与え、世界経済の構造を変える可能性すらある。
二、中国が国内循環を実施する苦境とそこから脱却する方略
2010年以降、中国はすでに国内循環を主体とする戦略を実施する基礎を備えており、既に国内循環を主体とする方向に転じ始めたが、実際国内経済循環を実現するには、まだ長い道のりがあり、多くの困難や制約がある。あるいは真の国内循環を実現するために、中国政府は多くの努力を払わなければならない点があり、これまで以上に深い内部改革を行わなければならない。
中国政府の最大苦境もしくは努力の目標は、現在の「工の字型」社会を「オリーブ型」社会に改造することである。中国の社会構造の観点から見ると、中国の社会階層は、大まかに「工の字」になっている。上の横棒は4億人で、主に第一線、第二線都市に住んでおり、自動車や住宅を保有し、支払い能力があり、中国の富裕層と中産階級に属している。世界の奢侈品の60%、自動車の50%及び中国の中高級住宅は全部この階層によって消費されている。真ん中の縦棒は1億人程度で、主に第二線、第三線都市に住んでおり、収入は中産階級と下流階級の間にある。一番下にある横棒はやや長くて、9億人の人口が含まれている。これらの人たちは主に農村、町や小都市に住んでおり、収入も消費能力も高くないが、中国の社会主義制度の下では最低限度の生活を営むことができる。中国は現在このような、一見簡単に見えるが、しかし実際はとても複雑な社会構造をもっている。上流階級の4億人の所得は先進国に相当するのに対して、下の9億人の所得はまだ発展途上国の水準である。この巨大な階層の所得と消費力の問題を解決することは、中国政府の目標であり、中国経済の国内循環に巨大な成長の余地にも繋がっている。この苦境を解決するために、「オリーブ型」社会を実現するための政策措置は、以下の6つがある:
- 低所得者の個人所得税を引き下げる。現在も実施されている個人所得税の最大45%の累進税率は1980年に制定されているため、すでに時代遅れになっている。その特徴は、控除額が低い、税率が低いが、最高税率が高いことにある。中国の個人所得税は、国の税収のわずか7%しか占めていない(中国はG20諸国の一つだが、G20諸国の平均は約20%であり、インド、東南アジア、フィリピンとロシアは15%である)。これは、中国の個人所得税(45%)が法人所得税(25%)より高いという状況を招いている。結果として、企業経営者は45%の個人所得税を避けるために、高い給料をもらわずに、25%の法人所得税のみ支払うことになる。そして企業の役員やホワイトカラーの給与も、できるだけ海外や香港に置いた会社から出すようにして、15%の個人所得税を支払うだけで済むように工夫している。最終的に企業経営者とホワイトカラーは節税できるようになり、結局個人所得税の主な課税対象が低所得者層となり、納税人口の70-80%を占めている。そして個人所得税が国の税収の7%しか占めていない結果になっている(先進国では、15%の富裕層が、個人所得税の70-80%を納めている。)したがって、個人所得税を引き下げることは、納税人口の拡大、富裕層の納税比率の増加、そして税収の増加につながる。同時に多くのサービス業、貿易企業が海外で企業登録することを防止し、企業所得の流出の阻止などに寄与するる。税収が増加すれば、個人所得税の所得分配の機能を発揮し、社会的公平性の目標を達成でき、同時に国内循環の成長を支える消費能力のある社会集団を育てることになる。
- 「工の字」の底にある9億の低所得者層の所得を増やし、特に農民の財産所得を増やす。調査によると、中国の都市部の人口の約30-50%の収入は財産所得であり、それに対して農民は3%でしかない。「農村の住宅地における利益と財産権を保護し、農村住宅地制度を改革改善し、試験的に試みながら、農民の住宅所有権の抵当、保証、流通を慎重かつ着実に推進し、農民の財産所得を増加する手段を探る」(中国共産党第18回中央委員会第3回全体会議、『改革の全面的な深化における若干の重要問題に関する中共中央の決定』より)。 農村住宅地の所有権、使用権および財産収益権の三権分離を実施し、住宅地の流通・抵当権・高付加価値の可能性が出てくれば、農民の財産所得を増やすことにつながる。現時点ではこれらの政策の細則は、まだ試験的な検討段階にある。
- 中小企業の発展を支援する。中国の中小企業は、社会資源の40%を占めており、税収の50%とGDPの60%を創出し、科学技術イノベーションの70%と雇用の80%を提供している。実際に、中国は2018年に中小企業所得税の優遇政策を導入した。「50万人民元相当の利益に関しては10%の所得税率で計算し、100万人民元相当の利潤に関しては20%の所得税率で計算する」としている。すなわち、中国の中小企業の所得税率は世界で最も低い税率である時期があった。しかし残念ながら、この税率は2020年12月31日までという短い期間の執行でしかなかったので、この政策に気づいていなかった地方があったり、期間があまりに短かかったため、そもそもきちんとは実施されなかったという地方もある。そのため、黄奇帆によると、この政策を中小企業の発展を支える基本的な国家政策にすると提案する専門家もいるとのことだ。その時に至れば、中国経済の国内循環と需要供給能力は、更に高い段階に登るであろう。
- 住宅コストを削減し、住民の消費能力を増やす。2019年、中国の平均消費支出は一人あたり23,000人民元で、その半分は住宅、教育、医療支出である。大きな政府の住宅、教育、医療などの公共サービスへの投入を増やし、国民のこの分野での支出を減らせば、国民の消費能力を向上させ、中国経済の国内循環を促進することができる。
- ミクロ経済的職場を活性化させる。ミクロ経済的企業は国全体の経済エコロジーの基盤であり、良好なビジネス環境を築くには、企業の税負担を効果的に軽減し、民間企業の資金調達困難と高コストの問題を解決し、公平な競争環境を構築し、知的財産の保護を強化し、政府を清廉化し、政府が企業を支援し、起業家の身の安全と財産安全を保護する必要がある。中国のビジネス環境を国際基準に合わせて、グローバル化、法制化、開放化と市場化を適切に実現する。
- イノベーションと正確な投資を奨励する有能な政府を作る。現時点で、中国のコア技術、ハイエンド技術、基礎科学の研究開発投資はGDPの2.1%に過ぎず、研究開発投資総額の5%未満である。それに対して、先進国のコア技術、ハイエンド技術、基礎科学の研究開発投資は、研究開発投資総額の約20%である。これは中国の弱点であり、投資の成長ポイントでもあり、同時に中国が国内循環戦略を実施する礎石である。政府投資は、民間の利益を奪うことではなく、教育、衛生、文化、年金、医療などの公共サービス領域に集中すべきである。政府の産業指導基金は、企業が集中的に5Gペースのビッグデータ、クラウドコンサルティング、人工知能、ブロックチェーン、IoTなどの新しいインフラに投資するように奨励すべきである。
三、中国の国内+海外経済循環は、中国及び世界に対して長期的な利益をもたらす。
まず、国内循環+国外循環は、中国の経済と、中国の国内循環に参入する外国の経済にとって有益である。改革開放初期の中国は、「三来一補(三来とは,原材料とサンプルの提供による委託加工およびノックダウンを,一補とは補償貿易を意味する)」と「両頭在外(原材料市場と販売市場の両方を国際市場に置く)」という加工貿易が主体であり、1000億の生産高のうち、中国の実質GDPは12%程度しかなく、80%の部品や原材料は海外由来のため、中国は10%程度の加工費用を稼ぐだけになっていた。もし原材料を国内から調達すれば、国内循環において、少なくとも生産高の30%から33%を占めることになるであろう。アップルが中国でスマホを製造しなければ、破産する可能性すらある。アップルのスマホの中国での売上は、全体の30%以上を占めている。外国の投資者に、中国の加工産業およびその製品は世界の市場シェアの約3分の1を占めていることを知らせると、外国資本は中国経済から脱却することができないであろう。なぜなら海外では、政府が企業を指揮するのではなく、資本が政府を主導するからである。誰が中国に来てこの市場に投資するかによって、市場シェアが誰に属するかが決まる。資本は利益を目的としているため、市場さえあれば、資本が来ないことを心配する必要などはない。だから、個人的見解では、どんなにアメリカ政府が妨害しても、資本が利益を追求するという本質が変わらない限り、中国市場を世界から完全に切り離すことは不可能であろう。
次に、国内循環を主体とする市場のポテンシャルを十分に発掘したら、輸入も中国にとって、より重要になるであろう。大量の輸入は、中国のグローバル化のレベル、国民の裕福レベルと世界の商品を消費する能力を表す一方、他方では、中国が世界の大国になるための基盤を築くことにもつながる。現在の先進国のうち、輸出志向型経済のみで先進国になる国は存在しない。内需は磁石のように、各国の資金と比較的優秀な製品を吸収消化し、ハイエンド産業やハイエンド製品を強化し、それによって大国・強国の基盤を築くことになる。アメリカは世界第1位の輸入国であり、2019年、アメリカのGNPは21.5兆ドルで、輸出は全体の19.5%に過ぎず、ここ十数年、アメリカはずっとこの水準を維持している。EU諸国はそれぞれ独立に計算すれば、輸出入は経済全体の60%を占めているが、EU内部の輸出入を内部循環だと考えれば、EUの外部への輸出は全体の22%しか占めていない。日本も50年代に輸出が経済の50%を占めた後、方向転換し、現在は25%程度に落ち着いている。
現段階では、中国経済の輸出志向はまだ高い。今後二、三十年で中国は世界経済大国になるであろう。中国が強国になる道は、鎖国して国内循環のみで実現するものではなく、開放した国内循環を主体とし、国外循環を補足とし、2つの循環の相互作用によって、対外開放とグローバル化を支える道である。他国の製品を大量に輸入することによって、中国の国際市場の地位が高くなり、貿易摩擦も少なくなり、世界での影響力も大きくなる。世界最大の買い手として、価格決定力、交渉力を持つことによって、人民元決済を実現することこそ、中国のグローバル化の目標である。そういう意味では、国内循環は国外循環の基礎であり、2つの循環の相互作用と結合こそ、中国の強国になる最終目標を導いてくれるであろう。
最後に、国内循環を主体とし、国外循環を補足とする戦略を実施することは、国民経済の独立性と安全性を高め、外部に支配されることがなくなる。そして企業の技術進歩を促進し、コアデバイス研究開発の主導権を握ることにもつながる。第四次産業革命のチャンスを捉え、新しいインフラを整備し、科学技術、特にコア産業、ハイテク産業、基礎科学の研究開発と製品化を強化しなければならない。
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