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トランプのベネズエラ攻撃で習近平が困るのか? 中国エネルギー源全体のベネズエラ石油依存度は0.53%
トランプ大統領と習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

トランプのベネズエラ攻撃の目的の一つが、「ベネズエラから中国を締め出し中国への石油提供を断つためだ」という憶測が日本のネット・コメントで飛び交っている。その根拠になっているのが、「中国は石油輸入の多くをベネズエラに依存している」という「誤報」だ。こんな「誤報」は客観的なデータを調べれば一瞬で真偽が判明する。しかし、「トランプのベネズエラ攻撃は習近平を懲らしめるためだ」と言えば日本人が喜んで飛びつくので、その結果、「ほらね、やっぱり米中対立が根底にはあるんだ」と納得して、世界の動向を見誤る結果を招く。

そこで、実際に中国はエネルギー源として、どれくらいベネズエラ石油に依存しているのかをデータに基づいてチェックしてみた。その結果、別の問題点も浮かび上がってきたので考察を試みる。

◆中国のエネルギー源構成と輸入依存度

オクスフォード大学とも協力関係にあるイギリスの非営利団体Global Change Data LabのプロジェクトであるOur World in Dataによると、2024年の中国のエネルギー源は図表1のようになっている。

図表1:2024年 中国のエネルギー源構成

Our World in Dataのデータを基にグラフは筆者作成

石炭が52.81%と相変わらず多く、次は石油18.49%だ。

2024年の石炭の輸入依存度は2025年3月21日の<中国煤炭(石炭)報>のデータによれば10.2%程度で、2024年の石油の輸入依存度は2025年2月25日の<中国石油新聞センター>によれば、72.2%となっている。天然ガスに関しては2025年1月21日の<中国石化報>によれば2024年は40.9%だ。水力や風力などは輸入に依存しないことを考えると、上記のデータと図表1のエネルギー源構成から計算すると、結果的に、中国全体のエネルギー源の22.4%が輸入依存となっている。

◆中国原油の主要輸入先国

では、問題となっている石油の輸入先国はどうなっているだろうか。

まず、中国税関総署の検索システムで検索した結果得たデータに基づいて、原油の主要輸入先国をグラフ化すると、図表2のようになる。

図表2:2024年 中国原油の主要輸入先

中国税務総署のデータに基づきグラフは筆者作成

2024年の税関総署データに基づくと、ベネズエラのシェアは0.25%で、2025年1月~11月だとベネズエラのシェアは0.06%と、ほとんどゼロに近い。図表2に表したのは2024年のデータだ。

しかし、ベネズエラはアメリカから制裁を受けているために迂回ルートを通して中国に輸出している可能性があり、これに関して2025年12月15日のロイター(何度かアクセスすると有料になる場合もある)が「4%」と推測しているので、念のため図表3にロイターの推測値で補正した輸入先国のシェアを表してみた。

図表3:2024年 中国原油の主要輸入先

中国税務総署とロイター推測値のデータに基づきグラフは筆者作成

図表2と図表3を比較していただくと、図表3の方が、ベネズエラ(推測値)がそれなりに視覚的に「存在感」を表しているように見える。そうは言っても全体の4%。これらのデータに基づいて計算すると、全体から見たベネズエラからの石油が占める「エネルギー源のシェア」はわずか「0.53%」程度に過ぎない

したがって、ベネズエラからの石油が入ってこなくなっても、中国は困らないはずだ。

◆ベネズエラ原油に投融資していた中国

ところが複雑な事情がある。

実はアメリカとベネズエラは1970年代半ばまでは仲が良かった。

早くも1912年頃からアメリカはベネズエラ石油の一部利権を持っており、1920年代からは本格的な大規模開発に入っている。ベネズエラの原油をアメリカが安値で買い、アメリカの石油企業がそれを精製して販売し、アメリカは大きな利益を得ていた。原油を掘削するためにもアメリカは多額の資金を投資したが、ベネズエラ産石油は重質油といって非常に粘度が高く、特殊な設備投資をし、特殊な技術を使って精製しないと市場で使える形にまで持っていけない。それでもアメリカはベネズエラに投資し、利益を上げていた。

ところが1976年になると、ベネズエラ政府が国内の油田の国有化を宣言し、政府の100%出資でペトローレオス・デ・ベネスエラ(PDVSA)という石油会社を設立した。この頃からアメリカとの軋轢が始まり、それに代わって中国が1980年代辺りからベネズエラと石油関係で接触を持ち始めた。中国が石油に関して本格的な協力・投資を始めたのは2007年からである。原油だけでなくインフラ建設を含めると、中国は2005年以降に合計600億ドルの投融資をすると決めている。その投融資に対する見返りは、「原油を提供する」という形で行なうことが約束されていた。

もっとも、2005年から徐々に投融資してきたものの、2016年頃になると回収するリスクがあまりに大きいと認識して、それ以降は追加投資をあまりせずに回収を重視するようになっている。それにより未回収金額が徐々に減って、現在では未回収額が100億ドル強になっている。

すなわち現状では、500億ドル近くは既に「原油提供」という形でベネズエラは中国に返還していることになるが、まだ100億ドルほどは返還されていないということだ。まだ「原油を提供して終わっていない」ということになる。

この段階でトランプがベネズエラを攻撃し、1月4日の論考<ベネズエラを攻撃したトランプ 習近平より先にトランプに会おうとした高市総理は梯子を外された>に書いたように、国家運営もしばらくはアメリカが担うとトランプは言っているので、中国の投資分100億ドルほどは消えていくことになる。但し、同論考で書いたように、トランプは「中国には販売するから問題はない」と言い、「習近平との関係が非常に良い(ので問題は生じない)」と前々から何かにつけて言っている。

中国はアメリカが精製した石油を購入することになるのか、あるいは100億ドルは「溝(どぶ)に捨てた」と思って他国から輸入するかなど、いくつかの選択の道はあるだろう。いずれにしても、中国が損をするとすれば、この程度のことだ。図表3をご覧いただければ、それほど大きな痛手があるとは思いにくい。

くり返すが、ベネズエラの原油は重質油で質が悪いので、中国でも購入している企業は、今では数社の小さな民間会社くらいで、国有の大企業は購入していない。ベネズエラには世界一と言われる原油の埋蔵量があるとされているが、何しろ粘度が非常に高い重質油なので価格は安いが精製が大変だからだ。

◆トランプの今後の可能性

アメリカにはかつてベネズエラから原油を購入してアメリカもしくはメキシコ湾などベネズエラ以外の地で精製していた石油会社が少なからずある。1976年にベネズエラにあるアメリカの石油会社が国有化されたものの、その後もアメリカはベネズエラから原油を輸入し続けていた。輸入量は2000年前後がピークになっているほどだ。しかし2019年1月、トランプ1.0で、トランプは完全にベネズエラからの石油の輸入を禁止し、徹底したPDVSA制裁に入った。アメリカには既にシェールガスを産出するようになったことも影響しているだろう。

いずれにせよ、アメリカの場合は、ベネズエラの重質油精製のために、それほど大きな設備投資を新たにしなければならないということはない。それでもトランプはインフラ建設を含めて数十億ドルの投資をすると言っている。

原油の掘削やパイプラインなどの保全もあるだろうが、これは中国が2007年頃から本格的に投資して保全してきているので、最近では中国も手を退き始めてはいるものの、ここは痛み分けで、アメリカが損をする部分ではない。一方では、果たして、いくつのアメリカの石油会社がリスクを負う可能性があるか、今のところ何とも言えない。

トランプは今後、メキシコやキューバあるいはコロンビアなどにも(軍事的?)圧力をかけて南米の覇権をわが手に入れようとしているようだが、それがアメリカの繁栄のためになるのか否かは疑問だ。

植民地時代ではあるまいし、そのような選択を世界が許すのか、またアメリカ国民が許すのか否かも疑わしい。

アメリカの民主党が早速「打倒トランプ」のための選挙運動を始めているようだし(選挙民にレターを発送している文面を入手しているので、証拠はある)、また南米のその他の国々を含めたグローバルサウス諸国がアメリカから離れ、中国を選択する傾向に動かないとも限らない。

少なくとも中国のネットでは、トランプのこのたびのベネズエラ攻撃と大統領の拘束連行という蛮行に喜んでいる者が数多く見られる。「これで中国(大陸)が台湾を統一しても、アメリカは何も言えなくなる」と拍手喝采だ。

中露や北朝鮮などを、この方向に持って行かれないようにするためにも、日本の真っ当な判断が期待される。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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