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中露を軸とした「BRICS+」の狙い G7を超えて「米一極支配からの脱出」を図る
BRICS+首脳全体会議で話をする習近平国家主席とプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
BRICS+首脳全体会議で話をする習近平国家主席とプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

10月22日から24日にかけてロシアのカザンでBRICS(5か国)拡大後初めてのBRICS+(9か国)首脳会議2024が開催された。新たに加わった4か国を含め、共通するのは「パレスチナを国家として承認していること」と「対ロ制裁をしていないこと」、および「米国からの制裁を受けている国が多いこと」だ。その意味でG7を超える、「米一極支配からの脱却」を目指す「非米側陣営」の集まりであることが鮮明になっている。

BRICS+加盟国の世界人口比は45%。参加した加盟希望国(28か国)の構成を考えると、世界人口の大半以上を含む、中露を中心としたグローバル・サウス諸国が、非米側型すなわち非G7型の国際秩序という大きな流れを作りつつあると言える。それでも内部に潜む不協和音にも目を向けながら考察する。

◆「BRICS+」各国の人口構成とGDP&購買力平価GDP

その証拠に、新興5か国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と新加盟4か国(イラン、エジプト、UAE、エチオピア)を加えた「BRICS+」のGDP、購買力平価GDP、人口、パレスチナとの国交樹立の有無(パレスチナを独立国家として承認しているか否か)をまとめると、図表1のようになる。パレスチナとの国交樹立の有無以外のデータは全て2024年10月バージョンのWorld Economic Outlook Databaseに基づく。

図表1:「BRICS+」各国のGDP、購買力平価GDP、人口、パレスチナとの国交樹立の有無

 出典:World Economic Outlook Database

出典:World Economic Outlook Database


次に同じエレメントをG7に関して示したのが図2である。

図表2:G7各国のGDP、購買力平価GDP、人口、パレスチナとの国交樹立の有無

出典:World Economic Outlook Database

出典:World Economic Outlook Database


図表1と図表2を比較すると、GDPに関してはG7の方が大きいものの、購買力平価GDPに関してはBRICS+の方が大きい。それだけ経済活動が活発だということになる。

人口は圧倒的にBRICS+の方が多く、G7の世界人口比は約10%に過ぎない。人口が少なければ購買力も弱くなり、グローバル・サウスを中心として30か国近くが加盟を待機しているBRICS+と比較すると、圧倒的にBRICS+の方が将来性が高いということになろう。

◆グローバル・サウスとの交易隆盛を強調する習近平

10月24日の中国外交部のウェブサイトによると、習近平はBRICS+首脳会議で<磅礴(ほうはく)たる(雄大にして力強い)グローバル・サウスの力を結集し、人類運命共同体の構築を共に推進する>というタイトルで講演を行い、「グローバル発展イニシアチブを提起してから3年間で200億ドル近くの開発資金を調達し、1100件余りの事業を実施した」と述べた。

習近平の狙いはグローバル・サウスを抱き込んだ経済交易の隆盛を図り、BRICS+を中心として、プーチンとともに非米側陣営の経済を中心とした国際秩序を構築していくことである。

事実、中国の中央テレビ局CCTVは10月24日、≪今日关注≫(今日のフォーカス)という番組で<BRICSの5大新主張 「大BRICS協力」高質量発展の新局面>というタイトルでBRICS諸国間の交易の隆盛を語っている。

それによると「今年の初め、世界銀行は、2023年の世界のモノとサービスの貿易の成長率は約0.2%になるとの試算を発表した。これは、1975 年、1982 年、1991 年、2009 年を含む、世界銀行が半世紀で特定した世界経済不況の年次サイクルであり、最も成長が鈍化した年でもある。対照的に、BRICS 諸国間の協力貿易量は 2017 年から 2022 年にかけて 56% 増加した」とのこと。

年次はずれているものの、大きなつかみで言って、なぜ「かたや0.2%、かたや56%」という違いが出ているのかに関して、番組のゲスト(中国社科院中後郁指揮現代化研究院BRICS研究員=教授、徐秀軍)は「少数の国(アメリカなど)が一国主義と保護貿易により、良好な国際経済貿易協力環境を破壊しているが、BRICS諸国間では開放・包容・ウィンウィンというBRICS精神に基づいて交易しているので、経済貿易規模が間断なくレベルアップしているからだ」と説明している。

◆ガザ問題とウクライナ問題

会議ではガザ問題が論議され、パレスチナを主権国家として認めて国連に加盟させるべきだという、イスラエルとの「二国家論」がクローズアップされた。

西側諸国ではイスラエルがガザを無差別攻撃しているのは、2023年10月にハマスの急襲があったからだという位置づけで、「悪いのはハマス」と断言するのが正義のようになっている。しかし実際は10月11日のコラム<ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置>に書いたように、中東和解に動いた習近平の力が中東で増すことを嫌ったアメリカのバイデン大統領が、中東の盟主であるようなサウジアラビアとイスラエルとの国交を樹立させようとしたことが直接のきっかけとなっている。このようなことになったら、そうでなくとも国際社会から置き去りにされているパレスチナ問題が、さらに忘れられてしまう。それをさせないために、何十年にもわたりイスラエルに蹂躙されてきたパレスチナの悲劇を国際社会に対して喚起すべく奇襲を行ったのが直接の原因だ。奇襲や人質などが良いはずはないが、これまで長きにわたりアメリカは、あまりに一方的にイスラエルだけを支援し、パレスチナという国家を虐めすぎてきた。

非米側陣営はそのことを身に染みて認識しているので、BRICS+では「イスラエルとアメリカ非難」で団結し、パレスチナを主権国家として認めて国連に加盟させるべきだという「二国家論」で認識を共有したのである。

このことは図表1と図表2の右端「パレスチナとの国交樹立の有無」を比較していただければ、一目瞭然だろう。

ウクライナ戦争に関しても非米陣営諸国はバイデンがNED(全米民主主義基金)を用いて2013年末から2014年にかけてマイダン革命をウクライナで起こさせ、ウクライナの親露政権を転覆させた事実を知っている。個人的私欲(息子ハンターのウクライナにおけるエネルギー資源利権)のために、何としてもロシアを倒そうとしたバイデンがプーチンをウクライナ侵攻へと追い詰めたということを認識しているのである。プーチンがウクライナを軍事侵攻したことには誰も賛同していないが、しかし、なぜアメリカがここまでの他国干渉をすることは許されていいのか?

アメリカによる一方的制裁を受けている国々が多いので、なぜ国連ではなく、アメリカには他国干渉し世界に指示を出す権利があるのかと、非米側陣営はアメリカが国連に代わってアメリカの都合のいいように振舞っていることに憤っているのだ。

グローバル・サウス諸国の多くは、かつてG7に相当する「西側先進諸国」の植民地支配に苦しんできたという歴史がある。その意味でもG7に追随する精神を基本的には持っていない。

一応「BRICS+はG7を対立軸としてはいない」と言ってはいるが、しかし中国はG7を「排他的なお金持ちサークル」と呼び、G7も入っているG20ではなく、G7と関係しない BRICS+で勝負しようとしている。

◆それでも潜(ひそ)む不協和音

それでも不協和音が聞こえてくるのは、インドやブラジルあるいは南アフリカなどが、「新規加盟国に、インド・ブラジル・南アフリカの国連安保理常任理事国入りを支持することを条件とする」的なニュアンスの発言をしていたからだ

そういった条件に抗議する国が増えて、一時はBRICS加盟国拡大を中止するしかないところに追い込まれたこともある。しかし今ではインド・ブラジル・南アフリカがそのような主張を引っ込めたので、なんとか穏便に収まりつつはある。

ならば不協和音はなくなったのかと言ったら、そうではない。

インドのモディ首相はインドに帰国するとすぐに、インドを訪問していたドイツのショルツ首相と首都ニューデリーで会談を行った。インドは旧ソ連時代から武器の購入をソ連に頼っており、旧ソ連が崩壊してロシア時代になっても保守などの関係もありロシアからの輸入を継続していた。そこでアメリカは露印の緊密さを遮断するために好条件をつけてアメリカからも武器輸入するように仕向け始めたのだが、ドイツはそこに割り込み、インドとの防衛・軍事関係強化を図っている。

そのためBRICS+会議では、モディは必要以上にプーチンに親愛の情を誇示し、「こんなにあなたを愛している」とばかりに熱烈なハグを演じて見せた。習近平とはふつうの握手だったのを見て、日本の一部のメディアは「プーチンが習近平に冷淡になった」と分析し、その理由を中露貿易量の減少に求めている。中露の貿易が減少したのは、あくまでもアメリカが今年の初春、中国に第二次制裁を科したせいで、中国の大手銀行がロシアとのクロスボーダー決済を中止せざるを得ないところに追い込まれたからだ。そういった背景も考慮せず、中露の間に溝ができたように分析して日本人読者を喜ばせるのは、何の役にも立たない。

また習近平とモディの仲も冷淡なわけではなく、二人はふつうに友好的に会談を行い、互いに国境からの兵を撤退することを約束し、すでに実行されている。

モディ首相はどの国とも同盟を結ばず、全方位外交を徹底しているが、何と言ってもBRICS+のメンバーであるだけでなく、中露が中心となっている上海協力機構のメンバー国でもある。インド太平洋枠組み(日米豪印、クワッド)があるからと言って、インドをアジア版NATOに誘い込めるという絵空事は考えない方がいい。独印首脳会談は、ドイツからのオファーであり、インドへの貿易投資を強化したいドイツ側のニーズがあるからでもある。

中露は実は「経済」を軸として「米一極支配から多極化へ」の転換を狙っている。グローバル・サウスとの連携強化は、あくまでも経済が中心だ。

ただここに来て、またもやアメリカが割込み、ブラジルを説得して一帯一路から脱退するように仕向けている。ブラジルの大統領選挙にもNEDが関与していたことをCIAが認めているが、米一極支配に対する非米側陣営の闘いは、NEDとの闘いであると言っても過言ではない。この話はまた機会があれば別途考察したい。 

少なくとも中国の場合は、アメリカからの制裁により逆に自力更生で新産業分野を開拓せざるを得ないところに追い込まれ、習近平政権になってからは、ほとんどの新産業分野で圧倒的に世界最先端を行くようになった。それがグローバル・サウスを惹きつけていることは見逃さない方がいいだろう。

筆者は『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』で加速する反日同調圧力を分析したが、その事実は、実は中国のハイテク産業国家戦略「中国製造2025」と表裏一体を成して進んできた。そのからくりを解明したのがこの本である。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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