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台湾総統選政見放送第二弾 民進党・頼清徳候補の最後の言葉が印象的
中華民国の国旗(写真:ロイター/アフロ)
中華民国の国旗(写真:ロイター/アフロ)

12月26日午後2時から、台湾総統選候補者の政見放送第二弾がライブで行われた。民衆党の柯文哲候補、国民党の侯友宜候補、民進党の頼清徳候補の3候補が順番に10分ずつ3回にわたって政権表明をしたが、何よりもインパクトがあったのは頼清徳候補の最後の一言だった。

◆台湾総統選政見放送第二弾

12月26日の午後2時から台湾総統選立候補者の政見放送があった。1人1回10分間の制限内で、3回政見を発表できる。2回目以降は1回目における他の2人の意見に対する反論をすることもできる形になっており、公平感があるように見えるが、3回目の最後の候補者の意見に対して反論する機会はないので、3番目に話す人が一番有利だということになる。

1月13日の選挙当日における「総統+副総統」ペアに関しては、間違えないように念のため「番号札」のようなものが付いていて、民衆党の「柯文哲ペア」が「1番札」、民進党の「頼清徳ペア」が「2番札」、国民党の「侯友宜ペア」が「3番札」に抽選で当たった。

総統候補の政見放送第一弾は12月20日に行われ、副総統候補者の政見放送も12月22日に行われて、総統候補者政見放送の最終回である第3弾は12月28日の午後7時から開催されることになっている。

今般の政見放送を最初から最後まで視聴したが、実に理路整然としていて見ごたえがあり、どの候補者も優劣がつけがたいほどに立派だという印象を持った。しかも時間をピタリと合わせて1秒の狂いもなくスピーチを終わらせる辺りは、さすがに東洋文化的で感心してしまった。

一度は野党一本化「藍(国民党)白(民衆党)合作」に同意する書面に同意のサインをしておきながら、それを自ら破った柯文哲に関しては「信用がならない」ということから、その後の支持率がひたすら下落し、総統選からは落伍したという印象を与えたが、これがなかなか。いざ、総統への意気込みを込めてスピーチをすると、聡明さが前に出て、悪くない。かなり若者を惹きつけただろうという印象を抱いた。

侯友宜も警察官僚なのだから「お固い」というイメージを持つが、どうやら11月26日のコラム<台湾総統選、国民党支持率急上昇の謎が解けた>に書いた政治評論番組の司会者として人気者の趙少康(国民党の副総統候補)からスピーチの特訓を受けたらしく、堂に入った話しっぷりになっている。

頼清徳は与党現役だけあって一番慣れている上に柔和な面持ちでもあるので、結局のところ、3回目の3番目という「その後の反論が存在しない」スピーチに恵まれ、相手を罵倒しっぱなしとも言えなくはない「インパクトのある名言」を最後に残して総統選第二弾政見放送は終わった。

◆頼清徳が最後に言った言葉「国民党は蒋経国にすまないと思わないのか!」

政見放送は主として、トップバッターの柯文哲が「1回目:教育と体育問題」、「2回目:少子化と人材養成問題」、「3回目:経済問題」を論じたのに対し、2番目に話した侯友宜は「1回目:詐欺撲滅政策(民進党政権は台湾を詐欺の島にした)」、「2回目:農業推進や貿易交流推進(民進党は中台関係の悪化により農水産業者に損害を与えた)」、「3回目:社会における女性の役割の重要性(副総裁に女性を選んでいないのは国民党のみであることに対する批判に対して)」を話し、ラストの頼清徳は「1回目:一般的概念論やバラマキ政策」、「2回目:半導体やAI、太陽光問題」などを話した後、3回目すなわち政見放送の最後に力を込めて「国民党は蒋経国にすまないと思わないのか!」と激しく国民党を批判して締めくくった。

どういう意味かというと、台湾が一つの政権を持つようになったのは、もともと台湾をも含めて中国全土を統治していた国民党の蒋介石総統が、日本敗戦後に始まった国共内戦で敗北し、台湾に「中華民国」の拠点を置くことになったからだ。そのため「国共内戦はまだ終わってない」として、蒋介石は「大陸奪還」を目指し、中国共産党の毛沢東が北京で宣言した「中華人民共和国」を認めず、「大陸を含めた中華民国」の正当性を主張してきた。

いつかは絶対に叶えると闘志を燃やしていた「大陸奪還」の夢は、アメリカが「中華人民共和国」を「中国を代表する唯一の国家」として「一つの中国」を認め、1972年10月25日に「中華人民共和国」が「中国を代表する唯一の国家」として国連に加盟し、「中華民国」台湾が国連を脱退せざるを得ないところに追い詰められた瞬間に潰(つい)えてしまった。

日米などが率先して断交した「中華民国」台湾との国交断絶は全世界に波及し、国連加盟国のほとんどが中華民国と断交する中、蔣介石の息子・蒋経国は「大陸奪還」の夢を捨てて、台湾に根を下ろした十大建設など経済に重きを置き、台湾を復興させていった。

「蒋介石と蒋経国が、どれだけ無念の思いで宿敵・中国共産党への復讐を諦め、台湾の台湾化に舵を切ったのかを忘れたのか!」という意味が頼清徳の最後の言葉「蔣経国にすまないと思わないのか!」に込められている。

それは「中国共産党こそが最大の政敵であったはずの国民党が、なぜいま親中になっているのか」という非難であり、筆者の胸には他の主張などどうでもいいほどに深く刺さった。

◆かつての敵国と親密になる国や政党

もし、かつての敵国と親密になるという意味では、日本こそが最大の例として挙げられるだろう。日本の無辜の民に原子爆弾を投下し東京大空襲で無差別爆撃を行った最大の敵「鬼畜米英」に敗けた日本はいま、アメリカと親密になるどころか隷属していると言っても過言ではない。アメリカのCIAによる思想工作を80年近くにわたって受けてきた日本の精神は、完全にアメリカ脳化してしまい、戦争ビジネスで国家運営をしているアメリカを客観視する目さえ持ってはならないところにまで飼いならされてしまった(詳細は『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【終章 「アメリカ脳」から抜け出さないと日本は戦争に巻き込まれる】)。

台湾の場合も、国連脱退に持って行ったアメリカを、蒋介石は全ての魂を込めて「裏切者!」と恨んだが、現在台湾を統治している民進党政権はアメリカの支援と支持に頼り切っている。

ならば、現在の台湾の国民党が、仇敵の中国共産党が統治する中国(中華人民共和国)と仲良くしようとしていることくらいは、よくあることと言えるかもしれない。

しかし筆者にとっては「国共(国民党・共産党)内戦」の中、筆者が住んでいた長春を中国共産党軍によって食糧封鎖され、家族も次々と餓死し、自分自身は共産党軍の流れ弾で負傷し身障者になっただけでなく餓死体の上で野宿させられ恐怖のあまり記憶喪失になった経験は、今もなお人生の原点になっている。

その実体験を書いた『卡子(チャーズ) 出口なき大地』(1984年出版)(その後何度も絶版になり、その都度復刻版を出し、現在は『もう一つのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』)は直ぐに中国語に翻訳したが、中国大陸では出版を許可してくれることはなかった。台湾では国民党軍が無辜の民のために戦ってはくれなかったことからか、やはり出版許可が下りなかったのだが、2014年になって「自分が間で尽力したことが中国大陸に知られるとまずいので口外するな」という条件で、ようやく台湾で中国語版の出版にこぎつけた経緯がある。

それくらい、国民党と台湾と中国共産党との関係は紆余曲折を経ながらこんにちに至っている。そのため、民進党の頼清徳の最後の言葉は、他のどの発言よりも深く印象に残ったのだ。

しかし中国からすれば、今回の候補者はみな「反中だ」と思っている。

◆今回の台湾総統選候補者はみな「反中」

 今年11月12日のRFI(Radio France Internationale)は台湾の学者の<今回の総統候補は何れも統一反対派(反中)だ>という発言を載せている。

事実、国民党の侯友宜は、中国との経済的融和は唱えるものの、決して「中国との平和統一」に賛成してはいないし、「一国二制度」にも賛成したことは一度もない。独立に反対しているだけである。国民党副総統候補の趙少康などは、かつてアメリカの永住権を持っていたほど、むしろ親米だ。

その意味で、頼清徳の最後の「捨て台詞」は当たっていないとも言える。

その証拠に国民党の副総統候補である趙少康は、「中国共産党は永遠に国民党の敵だ!」と激しく言い切っている(発言は12月22日の台湾副総統立候補者による政見放送の時のもの)。「事実、李登輝は“中華民国”国旗を降ろしたことさえあるじゃないか!国民党はただの一度も“中華民国”国旗を降ろしたことがない。”中華民国”のために戦い続けているのは国民党だ!」と趙少康の主張は一歩も退かない勢いだ。

趙少康のこの発言は12月26日の台湾総統選政見放送第二弾以前のものだが、趙少康が頼清徳の最後の一言に予め回答していたと言えるのかも知れない。

選挙は前日まで、どのようなアクシデントがあるかもしれないので何とも言えないが、それでもなお、全体の支持率趨勢としては、頼清徳が2位に落ちる可能性は今のところ見当たりそうにない。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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