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台湾総統選、国民党支持率急上昇の謎が解けた
台湾総統選挙 国民党の侯友宜総統候補と趙少康副総統候補(写真:ロイター/アフロ)
台湾総統選挙 国民党の侯友宜総統候補と趙少康副総統候補(写真:ロイター/アフロ)

11月24日のコラム<台湾総統選「藍白合作」(野党連携)破局! なんと、国民党の支持率が民進党に僅差で迫る>で、なぜ国民党の支持率がこんなに上昇したのか、驚きを禁じ得ないと書いた。そのコラムで、今後、他の民意調査結果を見ながら慎重に考察を続けたいとも書いた。そのお約束を果たすために、あのあと何十本の記事を読み動画の論議を観たかしれない。

その結果、遂に「国民党支持率急上昇の謎」が解けた。

回答を先に書くと、国民党の侯友宜総統候補が副総統候補に「趙少康を選んだこと」に、その原因があった。

◆緑(民進党)藍(国民党)白(民衆党)の「総統候補&副総統候補」のペア

11月24日の総統選立候補者届け出最終日に判明した「総統候補&副総統候補」のペアは、以下のようになる。

     民進党:頼清徳&蕭美琴(しょう・びきん)

     国民党:侯友宜&趙少康(ちょう・しょうこう)

     民衆党:柯文哲&呉欣盈(ご・きんえい)

総統候補に関しては説明するまでもないだろうから、副総統候補に関して簡潔に人物紹介を試みてみよう。

●民進党の蕭美琴

以下に示す写真は、11月26日の台視新聞網に掲載されていた写真である。

出典:11月26日の台視新聞網

出典:11月26日の台視新聞網


蕭美琴(52歳)は「中華民国」元駐米代表で元立法委員(日本の国会議員に相当)。母親がアメリカ人であることからアメリカに留学してアメリカ国籍さえ持っていた。英語が堪能なため立法委員時代の2012年に立法院(国会)において英語で質疑応答を行った。相手(当時の馬英九政権時代の駐米代表)の英語力が低いことをさらけ出させて馬英九政権を批判する意図があったのかもしれないが、台湾の民衆は彼女に対して激しい批判を浴びせた。「自分の英語力をひけらかすために台湾人を辱め、台湾を侮辱した」というのが主たる批判内容で、中には「公用語でもない英語を、なぜ台湾の立法府で使うのか?立法府で台湾語(基本的には中国語)を使わないのはアメリカに媚び、台湾の尊厳を無視しているからだ!」というのがあり、一般庶民の受けは良くない。民進党には非常に気に入られている。

●国民党の趙少康

以下に示す写真は11月24日の聯合新聞網の記事で、蘇健忠記者が撮影した趙少康の写真である。

 

出典:11月24日の聯合新聞網 記者蘇健忠/攝影

出典:11月24日の聯合新聞網 記者蘇健忠/攝影

 

趙少康は1950年生まれの73歳。相当な高齢だ。しかし彼は何といっても現在もメディアで活躍しており、飛碟電台(ひちょう放送局、UFO RADIO)の社長としてテレビやラジオで政治評論番組の司会者をしていただけでなく、衛視中文台(衛星中文放送局)や東森新聞台(東森ニュース放送局)の「土曜”不”談政治」(土曜は政治を語らない)などで活躍してきた。

政治面に関しては元国民党の議員として改革グループを形成し、1992年の立法委員選挙に台北県区から立候補し、24万票の台湾最高得票数を獲得したことで名を馳せた。小選挙区制が導入された台湾では、前代未聞の金字塔的数字となっている。ただ、1994年に台北市長選挙で陳水扁に敗れた後は政治の表舞台から消え始めたので、同年に国民党から除籍されている。除籍された後のメディアでの活躍ぶりが尋常ではなくなり、人気が落ちてきた国民党としては国民的人気の高い趙少康が欲しくなったのだろう。2021年に国民党に復党した。

政治信条としては、実は「極端な親米」なのである。

ここが彼の際立った側面で、「反中ではなく親米」という、台湾人にかなり受け入れられやすい政治信条を持っている。たとえば台湾メディアの「壹苹新聞網(nextapple)」は<今回の各陣営副総統は3人ともアメリカ国籍か在米グリーン・カード(永住権)を持っていて、史上最も親米>という趣旨の記事を書いている。

●民衆党の呉欣盈

以下の写真は11月25日の中時新聞網に載っていた呉欣盈の写真である。

 

出典:11月25日の中時新聞網

出典:11月25日の中時新聞網

 

呉欣盈は1978年生まれの45歳。台湾の大財閥の中の一つ新光集団関連企業三代目のお嬢さん。早くからアメリカに留学し、アメリカ国家放送協会に勤務したり、イギリス留学中には保守党の副党首のアシスタントとして働いたりしている。卒業後はロンドンのメリルリンチで投資アナリストとして勤務。2003年には新光生命慈善基金会のCEOに就任し、2019年に柯文哲に声を掛けられ、台湾民衆党の比例代表(第7位)として指名されたが、2020年1月11日の立法委員選挙で民衆党は5議席しか取れなかったので落選。しかし2022年10月14日、その5人の中の一人が辞任したので、それに伴う繰上げ投票で呉欣盈は立法委員となったわけである。

以上が緑藍白の副総統候補の紹介である。

◆台湾のETtodayが発表した民意調査の驚くべき結果

11月24日に、台湾のETtodayニュース・クラウドが行った民意調査の結果が、11月25日に発表された。見出しは<ET民意調査/趙少康の出馬により30%を突破 「侯友宜・趙少康」ペア支持率が32.5%へと急上昇>。その調査結果の一部を転載する。先ず、図表1と図表2を比較することによって全てが読み取れる。

図表1:各党正副総統ペアの支持率

 

出典:ETtoday

出典:ETtoday

 

緑が民進党の「総統&副総統」ペアに対する支持率(34.8%)で、藍が国民党の「総統&副総統」ペアに対する支持率(32.5%)、そして明るい水色が民衆党の「総統&副総統」ペアに対する支持率(21.2%)である。

国民党ペアの支持率が急上昇し、民進党ペアに迫っている。

片や民衆党ペアは、どんなにお金持ちのお嬢さんを引っ張って資金源にしても、人気がない。

ところが、総統候補個人の支持率を見ると、様相が一転する。

図表2:総統候補個人の支持率

 

出典:ETtoday

出典:ETtoday

 

図表2をご覧いただければ一目瞭然。

侯友宜と柯文哲の支持率は、「藍白合作」破局前と、あまり変わらないことが分かる。

となると、国民党ペアの支持率急上昇に貢献しているのは、ほかならぬ副総統候補の「趙少康」であることが明確になったことになる。

趙少康、恐るべし。

彼を選んだ侯友宜も、なかなかに見くびることはできないということにもなろうか。

◆立法委員(国会議員)の党別支持率も国民党が一位

念のため、同時に行われる立法委員(国会議員)の党別支持率も見ておこう。

図表3:地域立法委員の党別支持率

 

出典:ETtoday

出典:ETtoday

 

図表4:比例代表立法委員の党別支持率

 

出典:ETtoday

出典:ETtoday

 

所属党からの個人による立候補と党の比例代表による選挙のどちらにおいても、国民党がトップだ。民進党を5%以上、引き離している。

柯文哲は「藍白合作」を蹴って、後悔しているのではないだろうか。

◆「藍白合作」破局の責任は誰にあるか?

ETtodayは11月25日、もう一つの興味深い民意調査の結果も発表している。前述の調査結果と重なる部分が多いが、その中で最も興味深いのは図表5に示した「藍白合作破局は誰が最も大きな責任を負うべきか」という調査データである。

図表5:藍白合作破局は誰が最も大きな責任を負うべきか

 

出典:ETtoday

出典:ETtoday

 

責任は柯文哲にありとする人たちが44.1%もいるのには、驚いた。

筆者は、どこまでも顔を出す国民党の馬英九と朱立倫の動きに義憤を覚えたと11月24日のコラム<台湾総統選「藍白合作」(野党連携)破局! なんと、国民党の支持率が民進党に僅差で迫る>で書いた。立候補者3人だけで話し合おうと呼びかける柯文哲と郭台銘に対して、侯友宜は一人で参加すればいいものを、馬英九と朱立倫が「随行」した。そのようなことをすれば、国民党が圧力を掛けているとしか思えないではないか。その場にいた郭台銘は話し合いの途中で「ちょっと失礼(=トイレに)」と言って退席し、ホテルの喫茶店で、女優で作家の副総統候補とともにコーヒーを飲んでいた。「やってられない」とこぼしていたとネットのあちこちに書いてある。

しかし台湾の選挙民は、柯文哲が11月15日に「藍白合作」に署名し同意したのに、途中から揺らぐのは無責任だと思っているようだ。米国在台湾協会に「お前、何やってんだ!大陸が関係しているんじゃないだろうな」と脅されて委縮し、ファンからも「副総統なら応援しない」と言われて、破局に導くようでは信用ができない、といった書き込みや記事が数多く見られる。

筆者はむしろ、朱立倫の行動が不愉快だった。

馬英九は「藍白合作」の仲介を申し出た元総統として立会人という役目だと弁明することは出来るかもしれないが、朱立倫は現役の国民党党首だ。しゃしゃり出るべきではない。2021年9月に国民党主席に選ばれたわけだから、党内でそれなりに支持されていたことになる。その現役党首は「国民党を代表することになるので」、出るべきではなかったと今も思っている。3人の総統立候補者だけが話し合ってこそ対等でいられるからだ。「合作」(野党連携)は対等でなければ成立し得ない。

1946年から筆者は長春で国民党軍の中で育ってきた。1947年から48年にかけては中国共産党軍に食糧封鎖されて家族を餓死で失い、最後には餓死体の上で野宿させられた原体験を持つ(詳細は『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』)。

毛沢東の哲理は「兵不血刃(ひょうふけつじん)」(刃に血塗らずして勝つ)なので、武力を使わずに食糧封鎖で国民党を降伏させた。その国民党軍が台湾に根拠地を持ち、大陸奪還を狙っていたのに、今は親中になっている。

習近平の外交戦略も「兵不血刃」であることを、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳述したが、習近平も武器を使わずに経済でからめ取って勝つ(いつかは台湾統一を成し遂げる)つもりだ。

幼いころに餓死体の上で野宿させられた原体験は、意識のある限り、筆者を「国共内戦」の連続線上へと引き戻す。その執着が筆者を台湾情勢への分析に駆り立てている。力尽きるまで、考察は続ける覚悟だ。

(ガザの人々の絶望的な惨状を見ると、自ずと「チャーズ」を連想させ、PTSDを呼び起こすので苦しい。)

追記:台湾最大の民意調査機関である(財団法人)「台湾民意基金会」は27日に総統選に関する民意調査結果を発表した。それによれば柯文哲の支持率がトップで31.9%、頼清徳がそれに続き29.2%、侯友宜は3位の23.6%でしかないとのこと。

 他の民意調査が続々と出てきている中で民意基金会のデータだけが他と異なり、「柯文哲が1位」になっている。整合性がないのでよくよく調べたら、なんと、民意基金会の調査期間は藍白合作が破局する以前の「11月19日~21日」で、副総統候補も発表されてなければ、郭台銘もまだ総統立候補を取り消していない状況でのデータであったことが判明した。

 なぜそれを藍白合作が破局した24日の3日後の27日になって発表するのか?

 世論を攪乱させて、無責任極まりない。

 台湾のネットでも、「なんで破局前のデータを、破局後に発表するんだ!」、「何の意味があるのか?」、「実に紛らわしい!」といった批判が続出している。全くその通りで同感だ。読者の方々の中にも「変だ」と思われる方がおられるかもしれないので、念のため補足する。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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