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バイデン大統領「中国気球、安全保障上の重大な違反はない(≒大きなスパイ活動をしていない)」と発言
アメリカのバイデン大統領(写真:ロイター/アフロ)
アメリカのバイデン大統領(写真:ロイター/アフロ)

バイデン大統領は「中国の偵察気球、安全保障上の重大な違反はなかった」と発言したが、ということは「中国気球」はスパイ行動をほぼしていなかったことになる。日本人は如何に行動し、何に注意すべきなのか?

◆バイデン大統領の発言

ロイター電によると、2月9日、バイデン大統領は「中国の偵察気球、安全保障上の重大な違反はなかった」と発言したとのこと。それによると、バイデンはスペイン語放送局テレムンドのインタビューで「重大な安全保障上の違反ではない」と述べ、その上で「国際法に違反する。米国の領空だ。いったん領空に入れば、われわれはそれを自由にできる」と語ったという。

念のため英語の原文はBiden says Chinese spy balloon not a major security breachとなっており、確実にsecurity(安全保障上の)という言葉がある。すなわち、「スパイ活動ではない」ということを意味する。

気球が中国製のものであることは中国外交部も認めているので、中国製気球が他国アメリカの上空に無断で「飛来あるいは漂流」してきたとすれば、領空侵犯になるので、撃墜する権利がアメリカにはある。

したがってアメリカが「中国気球」を撃墜したのは正しかったと、2月5日のコラム<習近平完敗か? 気球めぐり>で書いた。

◆気球の「航路」を制御するのは限界

しかし、気球の「航路」を長時間かつ遠距離にわたって制御するのは困難で、その証拠に優秀なスタッフが揃っているアメリカのNASAでさえ、気球の「航路」を制御できなかったことを、2月7日のコラム<「中国気球」の正体を「NASA気球」の軌跡から読み解く>で書いた。

筆者自身、中国がいったい何をやっているのかを、どうしても確認したかったので、2月9日には<プロペラが付いている「中国気球」に操縦能力はあるか?>を四苦八苦しながら考察することを試みた。

しかし、どこからどう見ても、気球に「航路を制御する」能力はないことが判明してきた。

となると、気球がアメリカ上空に飛来したのは「航路」ではなく「風に流されて漂流」していたことになり、「飛来」とか「航路」とかといった単語で気球の「滞在」を表現することができず、正確には「漂流」という単語でしか、正確には存在を表現できないことが徐々に明確になった。

バイデンが「安全保障上の重大な違反はなかった」と表明したことは、アメリカ政府としても、「中国気球」が「スパイ行動を目的としてアメリカの上空にいたとみなすことはできない」と宣言したことを意味する。

もし、あのような巨大な気球をアメリカ上空に飛ばして偵察行動を操縦できる能力が中国のハイテクにあるということになれば、中国は全世界の誰も追随できないほどの高い能力を持っていることを認めたことになる。

しかし、実際、中国は「宇宙空間」に関してはアメリカを凌ぐ力を持っているが、高高度の成層圏におけるハイテク能力は非常に低く、そのような力は持っていない。

そのことを、奇しくもバイデンの言葉が証言したことになる。

◆宇宙空間における中国の力と偵察活動 陽動作戦に騙されるな

拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』【第四章 決戦場は宇宙に】で書いたように、宇宙空間における中国の量子通信衛星など、どのようなことでも中国はできるし、既に実行している。このことは2月10日に公開されたJBpressで受けた取材<習近平の新体制と国家戦略から何が見えるか、日本に与える脅威を読み解く>の後半部分でも述べた通りだ(特に動画の中で指摘した)。

中国は「誰にも分らない方法」で、「偵察活動」を思う存分実行している。

そこから得られる情報で十分なので、あのような、誰にでも見つかる「ど派手な!」巨体で「漂流」する必要などはない。

筆者が日本人の方々に気づいてほしいのは、「あなたの隣で」スパイ活動をしている人には留意しないで、「ど派手な気球」に注意を注いでいる間に、日本は中国の発展に貢献していることを見落としてしまうということなのである。それこそ、中国の陽動作戦(敵の注目をそらすために、真の計画を覆い隠し、まったく別の大げさで派手な行動をとる軍事作戦)に引っかかってしまうことになる。

◆習近平の凄まじい国家戦略「軍民融合」に貢献している日本人

中国は実際には「軍民融合」国家戦略によって、ほとんどすべての民間企業をはじめ、大学や研究所と緊密にタイアップしているので、日本は企業界でも学術界でも中国にこの上なく貢献している。

そのことは、くり返して申し訳ないが、前掲の『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第四章 決戦場は宇宙に】やJBpressの<習近平の新体制と国家戦略から何が見えるか、日本に与える脅威を読み解く>の後半部分(特に動画)でも述べ、日本初公開の「軍民融合ネットワーク」の組織図を披露した。

それだけではなく、筆者は他のスクープ情報も持っており、それは2月下旬に発売される月刊Hanadaにスクープ記事として掲載することになっている。

筆者としては、日本全体が、どれだけ中国の軍民融合に貢献しているかを、より多くの日本人に認識してほしいのである。このスクープ情報は、事前に書いてしまうと月刊Hanadaに悪いので、発売が近づいたら、このコラムでも公開したいと思っている。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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