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バリ島での習近平・バイデン対面から見える力関係
インドネシアのバリ島で対面した米中首脳(写真:AP/アフロ)
インドネシアのバリ島で対面した米中首脳(写真:AP/アフロ)

11月14日、インドネシアのバリ島で習近平とバイデンが対談したが、最初の対面場面を詳細に考察すると、二人の力関係が見えてくる。日本ではカットされているケースが多いので、動画などを確認しながら考察する。

◆大きく違う飛行場での歓迎場面

11月14日、習近平国家主席とバイデン大統領は15日から開催されるG20 首脳会談に参加するために、インドネシアのバリ島にある国際飛行場に、それぞれ降り立った。飛行場における歓迎の熱烈さの度合いからして、ギョッとするほどの大きな違いがあった。

まず、習近平。

11月14日、習近平夫妻がタラップから降りてくると、歓迎のインドネシア政府要人以外に、儀仗隊の隊列が歩んできてタラップの左右にサッと並んだ。つぎに賑々しいリズムに合わせた男性群の民族舞踏と女性群の民族舞踏の歓迎があった。

そのあと展開した光景は、「唖然」とするほどの熱烈さで、なんと、飛行場から習近平が宿泊するホテルまで全ての沿道を群衆が埋め尽くし、手にしたインドネシアと中国の国旗を振り続けたのだ。このような光景は、さすがに見たことがない。

これに関しては多くの動画があるが、ここでは中国の中央テレビ局CCTVの報道をご覧いただきたいと思う。

ではバイデンの場合はどうだったのか。

迎える政府要人の数も少なく、儀仗隊は数人ほどが最初からタラップの脇に並んでいるだけで、女性群の舞踏が歓迎の意を表すと、あっさり終わってしまい、それだけだった。この様子は、こちらの動画で確認することができる。

◆インドネシアにおける米中の存在感の違い

こういった違いがどこから来るのかと言うと、やはり11月13日のコラム<アメリカの介入を阻む「全ASEANをカバーする中国の巨大鉄道網プロジェクト」>にも書いたように、インドネシアでは「ジャカルタ‐バンドン間の高速鉄道」を中国が落札していることが一番大きいだろう。11月16日には習近平とインドネシアのジョコ大統領が会談しているが、会談位はいる前に、まず試運転の映像を見るという念入りな演出をして見せた。

その動画は、こちらの報道の最後にあるので、興味のある方はこのページの最後の画面をクリックしてご覧いただきたい。

中国とインドネシアの間では他に25項目ほどの大型プロジェクトが進んでいるので、インドネシアに根付いた中国の力とアメリカのロングアームでは比較にならない。もちろん中国人が商売上手というか、やり方があくど過ぎて排華運動が起きることもしばしばあるが、華人華僑のインドネシアでの活躍には数百年以上前からの歴史があり、血統が混ざり合ってしまっているので、どこまでを範疇に入れていいか分からず、インドネシアにおける華人華僑系列住民の数を200万から2000万人と数える説もあるくらいだ。

◆習近平とバイデンの対面場面

極めつけは11月14日における米中首脳会談の会談場所と場面設定だと言っていいだろう。

会談場所は習近平が宿泊しているホテルで、習近平が対面の舞台で先に待ち、そこにバイデンが駆けつけて小走りに習近平に近づいていくという光景が全世界に報道された。

バイデンが大統領選挙のときに「自分が老化してはいない証拠」を見せるかのように、演台に着く時に、遠くからランニングのように走ってきてから演台の前で止まるという仕草を見せて「そこまで無理をしなくてもいいだろうに…」という「痛々しい」印象を与えたが、それが習慣になってしまったのか、なんとバイデンは舞台すそ野の方から、ランニングを始めたのだ。

その模様が中文メディアを賑わせたが、まずは、その最初の「ランニング」の場所をご覧いただきたい

次に展開する光景に関しては、世界中にさまざまな動画が溢れているが、シンガポールのニュース専門テレビ放送局CNAの動画が秀逸かもしれない。

習近平はほとんど不動のままバイデンを迎え、バイデンが満面の笑みをたたえて両手で握手したのに対し、習近平は右手で握手しながら左手はバイデンの背中に回して、早々と正面を向かせた。まるで「万一にもコロナが移ると困る」と言わんばかりだ。

事実、カンボジアでバイデンが「コロンビア首相」と言い間違えて会った「カンボジア首相」は、会議終了後コロナに罹っていたことが判明し、カンボジア首相と握手を交わした各国首脳はまるで「タイタニック号」状態で、そのタイタニックから抜け出してきたばかりのバイデンは、なんと、習近平と握手して終わった左手で鼻をこすったのである。

出典:CNAの報道

その鼻をこすった手で習近平の袖を肩から手先に向けてさすろうとしたが、さすがに「もしかしたら手先に付いているかもしれない(そしてカンボジア首相のコロナが移っているかもしれない)鼻汁を習近平の袖に擦り付けるのをためらってか」、あるいは習近平の「触るなよ」と言いそうな真正面を向いた姿勢に何かを感じたのか、バイデンは習近平の背広の袖から数センチ離した状態で自分の左手を習近平の肩から手先に向かって滑らせた。

動画をご覧いただければ、その様子を確認できるが、その場面の一つを静止画面でご覧に入れよう。

出典:CNAの報道

習近平はいかにも「触れられたくない」という表情で、バイデンと逆の方に顔を向けている。コロナ感染を警戒しているのだ。

世界中の中文系のテレビは、この一瞬の出来事をくり返しくり返し動画配信して大騒動だ。

会談の内容などそっちのけの熱量だが、会談で重要な点は二つある。

一つはバイデンが台湾に関していつもの呪文のように「アメリカは一つの中国原則を守り、台湾独立を決して認めない…」と誓ったが、それに対して習近平は「説一套、作一套」(言うことと、実際にやることが全く違う)と切り返したのだ。この「説一套、作一套」という言葉も中文系のネットを飛び交い、バイデンの「軽さ」というか「言動不一致」を浮き彫りにした。二人の会話に関しては習近平が強い語調で言った「中国のレッドラインを超えるな」という言葉に注目が行っているが、「説一套、作一套」が現状を表しているのではないだろうか。

二つめは制裁に関してで、習近平は「貿易戦争を仕掛け、科学技術に関する戦いを仕掛け、ディカップリングを仕掛けることは、市場経済の減速に完全に違反し、国際貿易の原則を破壊し、人類に損害を与えるのみだ。われわれは貿易や科学技術の発展を政治化し武器にし、冷戦体制を形成することに断固反対する」と主張。

これに対してバイデンは、「この競争が対立に転じてはならない。冷戦は望んでいない。中国の政治体制を変えようとは思ってない。しかし世界中の労働者と家族に損害を与えている中国の非市場化慣行を懸念する」と回答している。

バイデンの回答に関しては米中双方で発表内容が異なるので、双方の公式発表分を見比べながら和訳した。習近平の発言に関しては音声と動画による発表があるので、それを概略的に和訳した。

何を話そうと、どうせ「説一套、作一套」なので、あまり関係ないだろう。

それよりも、バイデンの習近平に接するこの姿勢が、今後の動向を見る上で参考になるという印象を受けた。

なお、詳細は12月中旬に出版する『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』に書いた。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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