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台湾武力統一は中国共産党の一党支配体制を崩壊させる 「平和」という言葉に騙されるな
熱い握手を交わす習近平国家主席と馬英九総統(2015年)(写真:ロイター/アフロ)
熱い握手を交わす習近平国家主席と馬英九総統(2015年)(写真:ロイター/アフロ)

10月4日に<中国は台湾「平和統一」を狙い、アメリカは「武力攻撃」を願っている>というコラムを書いたところ少なからぬ読者が真意を誤解なさっているようなので、習近平が抱えているジレンマを改めて述べたい。

◆多くの誤解と石平太郎氏のツイッター

10月4日に<中国は台湾「平和統一」を狙い、アメリカは「武力攻撃」を願っている>というコラムを公開したところ、少なからぬ読者が誤解し、「中国が平和を望むなど、あり得るはずがないだろう!」という種類のコメントが散見された。

特に中国問題研究家の石平太郎氏は、ツイッターで以下のように書いておられる。

――この記事を読んで驚愕した。今からほんの2ヶ月前、中国は台湾恫喝の大規模な軍事演習を強行したばかりだ。「中国は平和統一しか望んでない」とは事実に反するまったくの妄想というしかない。遠藤さんは本当にそう思っておられるのでしょうか。(ツイッター引用ここまで)

筆者のコラムの内容をじっくり読んでいただければ、筆者はあくまでも、「中国が台湾を武力攻撃したら、中国共産党の一党支配体制は崩壊するので、習近平は厳しいジレンマに追い込まれている」ということを言いたかったのであり、かつ「平和統一の平和という言葉に騙されるな」と言っていることが、お分かりいただけるのではないかと思う。

この「平和」という言葉ほど恐ろしいものはなく、事実、香港も「一国二制度」という約束のもと、「平和的に」中華人民共和国特別行政区になった。しかし香港の現状がどうであるかは説明するまでもないだろう。

さらに台湾を「一国両制度」のもと「平和統一」すれば、中国(北京政府)は大勝利を収めることができ、中国の経済繁栄は圧倒的に強化され、安全な形でアメリカ経済を凌駕することができる。すなわち、言論弾圧をするあの中国が、世界制覇に成功することになるのである。

だから「平和」という言葉に騙されるな、と筆者は強調しているのだ。

この言葉に騙され続けているのが日本政府で、日本は未だに「平和統一」を可能ならしめる「中国経済の発展」に貢献しているではないかという警鐘を鳴らしたかったわけだ。

◆親中の馬英九政権時代は、中国は軍事演習で台湾を威嚇していない

「中華民国」総統に馬英九が就任していた期間は「2008年5月~2016年5月」で、習近平政権は言うまでもなく2013年3月に誕生している。

馬英九政権時代、特に習近平政権誕生後、中国は台湾に対して軍事演習を通して威嚇しているだろうか?

少なくとも中華民国政府国防部のウェブサイトを見る限り、一度もしていない。

拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』のp.98とp.99に詳述したが、念のため、ここにもう一度貼り付ける。

台湾周辺における中国の軍機・軍艦の軍事演習記録

出典:中華民国国防部報告書p.38

ご覧の通り、軍事演習を始めたのは蔡英文政権が誕生した後で(蔡英文政権:2016年5月~)、それまでは習近平政権と馬英九政権は蜜月を交わし、2015年11月には、下記の写真のように、国共両党の党首が約70ぶりに握手を交わしているくらいだ。

出典:当時の中華民国総統府のウェブサイト

◆習近平のジレンマ:武力攻撃したら一党支配体制が崩壊する

それでも選挙の結果、独立傾向の強い民進党の蔡英文が総統に選ばれた。

だからこそ、「独立を叫んだら武力攻撃するぞ!」と言わんばかりに、軍事演習を始めたのである。その事実を如実に表しているのが前掲の中華民国国防部の図表だ。

しかし、もし中国が台湾を武力攻撃したら、当然のことながら台湾には激しい、しかも一定の軍事力を持った反中反共勢力ができあがる。その形で台湾を統一したら、中国共産党の一党支配体制は激しく揺らぎ、一党支配体制の崩壊を招く可能性は非常に大きい。

だから習近平としては、何としても「平和統一」をしたいのである。

そうすれば中国共産党の一党支配体制は強大化し、世界制覇も夢ではなくなる。

10月4日のコラム<中国は台湾「平和統一」を狙い、アメリカは「武力攻撃」を願っている>は、このことに対する警鐘を鳴らしているだけだということがお分かりいただけただろうか。

筆者は7歳の時に中国共産党による食糧封鎖を受け、餓死体の上で野宿するという実体験を持った、数少ない生存者の一人だ。そのことは拙著『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』に詳述した。それをお読みいただければ、筆者がどれだけの闘魂を持って中国共産党の一党支配体制と生涯闘い続けているか、ご理解いただけるものと信じる。

そうは言っても、石平太郎氏のように、疑問に思ったことを率直に表明して下さるのはありがたいことではある。その疑念を共有している他の読者のためにも、説明の機会を与えてくれるからだ。

日本政府に言いたいのは、「平和」という言葉に騙されるな、ということである。それが日本政府に届くことを祈っている。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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