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習近平が喜ぶ岸田政権の対中政策
岸田文雄首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
岸田文雄首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

岸田首相は対中政策として対話と交流を強調し、習近平にも来年の日中国交回復50周年記念を契機に日中友好を深めたいと伝えた。習近平の狙い通りの政策だ。自民党内からは連立相手である媚中・公明党への批判さえ出ている。野党連立を批判できるのか?

◆王毅外相が「岸田‐習近平」電話会談に言及

10月25日に開催された第17回「北京‐東京フォーラム」の開幕式に、中国の王毅外相(兼国務委員)はリモートでスピーチを寄せ、以下のように語った

――習近平は少し前に岸田文雄首相の要請に応じて電話会談をし、双方は来年の中日国交正常化50周年を契機として、新時代の要求に応じた中日関係を構築することで意見が一致した。両国指導者は、互いに積極的に交流し、日中関係の新たな今日工面への幕開け推進するために、両国関係の次なるステップへの大きな方向性を明確にした。(引用ここまで)

もし岸田首相が本当にそのようなことを言ったとすれば、来年のコロナ感染状況によっては、習近平の国賓来日を岸田首相は容認する可能性が出てくる。

それは全人類に未曽有のコロナ感染を広げたという習近平の初期対応の責任を問わないことにつながり、ウイグルの人権問題も南シナ海問題も香港問題も「日本は容認します」というメッセージを世界に発信するに等しい。

◆実際、岸田外相は習近平国家主席に何と言ったのか?

では、岸田首相は果たして習近平国家主席に電話会談でどのように言ったのだろうか。まずは日本側の言い分として日本の外務省のウェブサイトを見てみよう。

今年10月8日の「日中首脳電話会談」によれば、岸田首相は以下のように言っているとのこと(「3」のみを下に記す)。

――岸田総理大臣は、日中国交正常化50周年である来年を契機に、上記のような考え方に基づき、建設的かつ安定的な関係を共に構築していかなければならない旨述べました。習主席からは、そうした考え方に対する賛意と共に日中関係を発展させていくことへの意欲が示されました。また両首脳は両国間の経済・国民交流を後押ししていくことで一致しました。(引用ここまで)

なるほど。王毅外相が10月25日に言ったこととほぼ一致している。

しかし、引用文の最後の部分「両首脳は両国間の経済・国民交流を後押ししていくことで一致しました」は、少しニュアンスが異なる。

中国外交部のウェブサイトによれば、岸田首相は以下のように発言しているとある。

――岸田文雄は、中国の国慶節(10月1日の建国記念日)にお祝いの言葉を述べた。 岸田氏は、「現在の国際・地域情勢の下で、日中関係はまさに新時代を迎えようとしている。 日本は、日中関係の歴史問題から重要な教訓をくみ取り、来年の日中国交正常化50周年を契機として、新時代の要請に応じた建設的で安定した日中関係を構築するために、中国と軌を一にして協力していきたい」と述べた。 双方ともに、対話を通して相違点を解決する必要がある。 また岸田氏は「日本は、中国との経済協力や民間交流を引き続き強化し、新型肺炎対策や気候変動などの国際的・地域的な重要課題について、緊密に意思疎通を図り、協力していきたいと考えている」と述べた。さらに「日本は、北京冬季オリンピックの成功を期待している」とも述べた。(引用ここまで)

つまり、日本の外務省にある「両首脳は両国間の経済・国民交流を後押ししていくことで一致しました」は、やや不正確なのである。

これはあくまでも岸田首相が習近平に対して積極的に自ら言った言葉で、「両国が一致した」と書くと、岸田首相が習近平に自らそのように呼び掛けた事実が見えなくなってしまう。

しかし、ここは非常に重要なポイントだ。

◆中国の思うつぼ

岸田首相は対中政策に関する多くの日本のメディアの取材に対して、概ね以下のように回答している。

  • 安定が重要。
  • 首脳間の対話を含めて対話こそが重要。
  • 政治外交だけでなく、経済や文化を含めた日中交流が重要。
  • 言うべきことは言う。

習近平にとって、これほど喜ばしい又とないと言っても過言ではないほど、ありがたい姿勢だ。

最後の「言うべきことは言う」などは「言わない」に等しく、ただ口頭で「遺憾である」と言ってみても、具体的行動はしないのだから、中国にとっては痛くも痒くもない。

それよりも「対話が重要である」こと、さらには「経済や文化を含めた日中交流が重要である」ことなどは、まさに、習近平が主張したい内容で、それによって日本の政財界を中国に引き付けようとしている最中ではないか。

◆台湾TPP加盟で試される岸田首相の度胸

岸田首相は経済安全保障担当大臣のポストを内閣官房に新たに設け、省庁は所管せずに総理大臣を補佐する。「経済安全保障」を重視するのは良いことだとしても、それが真の対中政策として機能するか否かに関しては非常に疑問だ。

なぜなら上述したように岸田首相の対中政策の基本姿勢がそもそも習近平を喜ばす方向でしかないので、どんなに形式を整えてみたところで、経済安全の「防衛力」にはなり得ないだろう。

岸田首相の本気度が試されるのは、台湾のTPP(正確にはCPTPP=環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)加盟だ。

現在の議長国は日本なので、何としてもTPPに加盟したいと思っている台湾は、10月14日、台湾の半導体製造大手TSMCの日本工場を建設すると発表した。

まだトランプ時代の2020年5月に、トランプの要請でTSMCを日本に誘致する話が出たことがあり、2021年2月の時点でもつくば市に誘致する話が出ていた。しかしそれらはあくまでも「研究開発」のみで、実際の半導体製造という生産ラインまでは導入する話ではなかった。しかし今般は実際の生産ラインを整備する。

と言っても最先端の半導体を製造するのではなく、22~28nm(ナノメーター)のプロセッサーという、何世代も前の半導体で、投資規模は約8,000億円の内の半分である4,000億円を日本政府が出資するという。

中国問題グローバル研究所の台湾代表の研究員は、台湾がどれだけTPPに加盟したがっているかを切々と綴ってくれた。TSMC日本工場建設への決意は、その表れの一つであると言っても過言ではない。

半導体不足に苦しむ日本は、車などに必要な22~28nm程度の半導体製造に投資する。これを受け入れたからには、9月24日のコラム<中台TPP加盟申請は世界情勢の分岐点――日本は選択を誤るな>で書いたように、日本は何が何でも台湾を先にTPPに加盟させるべく力を注がなければならない。

しかし、そのようなことをしたら、習近平の激怒を招くことは論を俟(ま)たない。さまざまな脅しをしてきて、日本を震え上がらせるようなことくらいは臆面もなくやるだろう。

問題は、岸田首相が果たして、習近平の激怒と脅迫を恐れずに、台湾を優先的にTPP加盟させるべく積極的に動くか否かだ。

岸田首相にそれだけの度胸があるとは思えないのである。

◆突然中国批判をしてみせる公明党

10月7日のコラム<「公明党から国交大臣」に喜ぶ中国――「尖閣問題は安泰」と>にも書いたように、公明党の媚中ぶりは世界的に有名だ。その公明党と組んで、国交大臣には必ず公明党議員に就いてもらい、「尖閣問題」に関して「遺憾」としか言わない口実を公明党に求めるという、実に「小賢(こざか)しい」真似を自民党はやり続けてきた。

ところが何と、選挙のために、公明党が突如、中国批判をして見せたのだ。

そのような付け焼刃(やきば)的なことに国民が騙されるとでも思っているのだろうか?

10月26日の「デイリー新潮」が<公明党が初めて中国批判をした背景 「媚中」に自民党内部から不満、選挙対策の側面も>という報道の中で「ハリボテの対中批判は通用するか」と書いているが、まさにその通りだ。

ウイグルの人権問題を取り締まることができるマグニツキー法制定の邪魔をしたのは公明党であることは筆者自身がリアルタイムで関連の自民党議員から逐次報告を受けている(6月16日のコラム<G7「対中包囲網」で賛否両論、一時ネットを遮断>の最後のパラグラフ【◆今国会で成立しなかった「日本版マグニツキー法」】に書いた通りだ)。

岸田首相の最大にして唯一の功績は、あの親中派の二階元幹事長を追い出したことだろう。それ以外は評価できないし、信用もできない。

果たして自公連立をしているためなのか、それとも岸田首相自身の考え方なのかは分からないが、少なくとも野党が連立を組んでいることを「野合」と批判する資格はないだろう。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.