9月16日、中国が正式に『環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定』(CPTPP)加入を申請し、コロナ禍への対応に忙殺されてきた台湾政府の意識を突如として喚び醒ますことになった。なぜなら台湾にとって今回がもしかするとCPTPP加入申請の最後のチャンスかも知れないからである。これまでの受動から主動に転じて、台湾政府は22日夜、CPTPP申請書類を事務局であるニュージーランドに既に送付し、23日の記者会見で公開声明を発表する予定であると突如宣言した。
中国と台湾がここへ来て突然CPTPP加入を申請したことで、その背景にある動機、戦略地政学全体への波及効果、そしてCPTPPと『地域的な包括的経済連携協定』(RCEP)との競合関係について外部ではさまざまな臆測があふれかえった。
CPTPPは日本、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、シンガポール、ベトナム、ブルネイ、メキシコ、チリおよびペルーの11カ国が共同署名したものだ。この協定は2018年12月30日に正式に発効した。欧州連合(EU)離脱という現実を踏まえ、2021年1月31日、英国は同年度の議長国である日本に対し正式に加入申請を提出し、正式に加入申請した最初の「非発足国」となった。
中国、日米「反中同盟」切り崩しを企図
中国はCPTPPに加入申請した2番目の「非発足国」だ。表向きでは、中国が正式にCPTPP加入申請をしたのは、この世界第2位の経済大国の国際貿易における野心を示すためである。しかし外部の分析では、中国国内市場はCPTPPの掲げる自由市場経済の諸条件やルールに適合するものではなく、産業改革となれば国内で数々の抵抗に遭い、経済衰退の痛みも伴うと指摘される。
中国がCPTPP加入を宣言する前日、米国は英国およびオーストラリアと、インド太平洋地域で新たな安全保障枠組、先進的な防衛技術および情報を共有する「豪英米の安全保障協力」(AUKUS)を構築すると発表したばかりだった。オーストラリアが米国の原子力潜水艦を取得するとともに、数百億ドル相当のフランス設計の潜水艦取引を破棄したことで、国際的に注目を集めた。
外部の論評は以下の通りだ。中国国内市場の閉鎖性と経済環境では他の加盟国の同意を得るのは難しく、この日本提唱のCPTPPが中国の加入申請に対しどんな態度をとるのか試すことが中国の真の目的だと。このほかに中国が最近カナダやオーストラリアとの間でいずれも経済貿易上の確執を抱えており、2国間交渉を順調に通過できるとは言えないこと、そしてこの経済協力枠組に対する米国バイデン大統領の態度とをみて、日米が構築している現下の「反中同盟」を切り崩す機会を創り出そうと企んでいるのだと。
台湾は排除される危機を憂慮
中国が正式に加入申請を提出した後、台湾経済部の王美花部長(=大臣に相当)は、台湾がCPTPP加盟国との非公式な交渉を継続し、適切な時期をみて申請を提出すると表明していた。アジア諸国の中で、台湾はニュージーランドとシンガポールとのみ2国間自由貿易協定を締結している。長年にわたりRCEPまたはCPTPPという地域経済貿易協力枠組への加入に尽力してきたものの、台湾の主権問題に議論が及ぶと、他国が台湾と何らかの公式協定を結ぶことに中国が猛烈に反対するので、各国とも台湾との貿易協定を協議することに常に及び腰だ。
中国がCPTPPに加入したら、台湾が将来CPTPPに加入申請しようとする時の難度が大幅に増すことに台湾は思い当たった。台湾が「排除される」危機を憂慮し、行政院(=内閣に相当)は22日夜、台湾が既に加入申請書をニュージーランドへ送付したことを発表した。
行政院経貿談判弁公室(行政院経済貿易交渉オフィス)の鄧振中代表は、24日の記者会見で、台湾はWTO方式である「台湾・澎湖・金門・馬祖独立関税地域」の名義で申請するが、もしも中国が先に加盟したら、台湾の申請案にとって明らかなリスクになると指摘した。これは明確な事実だが、CPTPPで議論されるのは体制、開放性、そして各国が内容を遵守するか否かであり、台湾は完全なる市場経済を擁しかつ民主法治国家なので、CPTPPは別案件として審査すべきで、巻き添えにされるべきではないと政府は考えてきた。
新規加盟国がCPTPPに加入する際のルールによれば、新規加入申請する国はまず11カ国の加盟国の同意を得た上で、次の段階は加盟前交渉となり、2国間の懸念事項に対処しながら、交渉を続け、各国の懸念事項に逐一対処する。続いて大臣級会合が台湾の加入申請案に同意したら、次には交渉作業部会を設置して正式交渉に入り、11カ国と全て交渉した後、大臣級会合が交渉結果を採択して、はじめて加入手続きが終わる。
日本以外の国は、中国の「1つの中国」原則を気にかける恐れがある。台湾の加入を認めれば、中国政府の反発を招きかねない。従って中国よりも先か、あるいは中国と台湾を同時にCPTPPに加入させる必要がある。ただし、「台湾・澎湖・金門・馬祖独立関税地域」でCPTPPに加入申請したのであれば、世界貿易機関(WTO)の方式に従うので、台湾が主権独立国家であるという論争を避けることはできるが、国内で台湾が主権独立国家であると主張するまたは台湾の正名(=国名を中華民国から、より実態を表すものに正そうとする運動)を支持する民衆の不満を招く恐れがある。
CPTPP加入は台湾貿易戦略の重要選択肢
地域経済貿易協力枠組への参加は、台湾の対外貿易戦略の重要な選択肢であり、RCEP参加の誘因はCPTPPよりもさらに大きい。これは主に台湾の産業と貿易構造の大部分が中国、日本および東南アジア諸国を主としているからだ。インドが加入していなくとも、RCEPは世界第2位の経済大国である中国と、第3位の日本とを擁し、RCEP15のGDPは約24.4兆ドルに達する規模で、世界の約3割の人口と約28%の世界貿易総額とをカバーする。
一方CPTPPは台湾貿易戦略の優先的選択肢ではなかった。2016年まで、台湾の馬英九政権は中国の善意を期待し、RCEP調印後に中国の支援の下で、台湾もRCEPに加入させてもらおうと望んでいた。だが2020年11月15日、15カ国のRCEP締約国が正式に協定に署名した後も、台湾は依然としてRCEP加入の念願がかなっていない。
中国のアジア太平洋地域と全世界への影響力がますます増大する中で、蔡英文政権は積極的に「米台」と「日台」の2国間自由貿易協定(FTA)を推進してきた。経済規模が10.6兆ドルで、世界GDPの13.3%に達し、総人口が約5億人で、全世界の約7%を占め、貿易額が台湾の貿易総額の24%超を占めるCPTPPを軽視していたのだ。2016年におけるCPTPP加盟国の対台湾貿易総額の占める割合は25.25%に達する。中でも日本、シンガポール、マレーシアおよびベトナムの4加盟国は台湾の10大貿易パートナーである。
日本政府、台湾のCPTPP加入を歓迎
従前のTPPに適合し加入するべく、各種国内貿易体制の転換や知的財産法の見直しと改正で、台湾は大部分の法律修正を既に終えている。CPTPPは従来のTPPの基準に較べると緩やかで、貿易輸出志向の台湾の産業にとって比較的適応しやすく、また比較的容易に達成できる基準だ。台湾がもしもCPTPPに加入できれば、海外販売を主とする製造業が市場を開拓するのに有利である一方で、オーストラリアやカナダなどの農畜産品が、台湾の農業部門に打撃を与える可能性がある。
目下の国際的ムードおよび戦略地政学情勢は比較的に台湾に有利だ。中国の戦狼外交の姿勢と経済的圧迫を、世界の民主陣営は心に刻みつけたのだと言える。経済安全保障とリスク分散の下、あるいは政治と経済を完全に分離できない国際的現実の下で、自由で民主的なサプライチェーンにとっての台湾の価値と地位がより一層際立ってきたのだ。
日本の共同通信社の報道によると、台湾が正式にCPTPP申請書を送付した件に関し、ニューヨークを訪問中の茂木敏充外務大臣は23日メディアに対し、「歓迎したい。戦略的観点や国民の理解も踏まえて対応したい。」と表明した。権威主義と民主主義とが対立する状況において、日本、台湾、韓国がいずれも熾烈な競争に直面するこの時に、日本政府はより知恵を使って台湾を自陣営に取り込むべきだ。
日本福島産食品解禁の不確定要素
CPTPP加入では、日本の福島産食品の解禁が日台経済貿易交渉の鍵となる。24日の記者会見で、鄧振中氏は、「日本側が福島産食品問題をかなり懸念していることは知っている。申請提出後、続いて各国と協議交渉するが、仮に日本側がこの問題を提起してくれば、これに対処する必要がある。」と表明、ただし「国民の健康、科学的根拠、および国際規範、この三つの原則は、政府の福島産食品に対処する原則である。」と述べた。氏は「交渉過程で日本側とこの問題に対処する最善の方法を見いだせる。」との認識を示した。
福島産食品は「放射能汚染食品」でもなければ、「単なる放射能汚染食品」でもない。放射能汚染食品を自国で販売させ、輸出させる国は一国もない。現在は科学技術が非常に発達しており、何が放射能に汚染されたものか、極めて容易に調べることができる。鄧振中氏は「これは対処の容易でない問題」であることを認めた。「各国はいずれも国民の健康を守ることを、重要政策目標としている。台湾もこの原則にのっとり、輸入食品問題に対処する」。
米国が21日に福島などからの食品輸入を解禁したと発表したことに対し、鄧振中氏は「感覚として、米国は間違いなく科学的調査を経て、おおむね見込みがついたのだろう。これら過去にルール化された項目は、適切に対処できるし、放射能汚染を受けていないことを適切に確定して、より開放的な措置を採用できるはずだからだ。」と述べた。これらは日本側との交渉・談判の時に参考にできる。
米国も追随してCPTPPに加入するか?
地域経済協力枠組は米国の国益に合致しないと、少なくともトランプ前大統領は認識していた。ただし、バイデン大統領は、米国がアフガニスタンから撤退した後、アジア太平洋地域に焦点を絞るのと同時に、この機に乗じてCPTPP加入を提起するかどうかよく考えてみるべきだ。CPTPPは従前のTPPの内容や基準とは異なり、サービス業・ハイスタンダード・知的財産権を強調した米国の当初の主旨にあまり合致していない。しかし中国という世界第2位の経済大国が加入し、第3位の経済大国である日本と連合すれば、CPTPP全体の実力は米国を凌駕する。米国は、日本提唱の地域経済協力枠組を支持し、同じくアジア太平洋地域においてアセアンと中国が主導するRCEPと競い合おうとするのだろうか?
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