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「公明党から国交大臣」に喜ぶ中国――「尖閣問題は安泰」と
発足した岸田内閣(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
発足した岸田内閣(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

尖閣や海保を管轄する国交大臣に必ず親中の公明党議員を充てることによって自公政権は中国にひざまずき、中国を安心させてきた。岸田内閣が対中強硬を装っても国交大臣が公明党である限り対中友好姿勢は変わらない。

◆民主党政権時代に大荒れとなった尖閣問題

国土交通省(国交省)が設立されたのは2001年で、尖閣諸島や海上保安庁(海保)などの管轄は国交省の下に置かれるようになった。

国交省設立以来、2009年9月に(当時の)民主党政権が誕生するまでは、尖閣諸島に関して大きな問題は起きいていなかったが、民主党政権になった翌年の2010年9月7日に尖閣諸島漁船衝突事件が起こり、中国各地で大規模な反日デモが展開された。

日本でも2010年2月2日に、田母神敏雄氏や水島総らを中心として結成されていた「頑張れ日本!全国行動委員会結成大会」が反中デモを起こしていた。

以下、「国土交通大臣と尖閣諸島問題」に関して時系列を作成してみたので、それをご覧いただきながら、考察したい。

図表:「国土交通大臣と尖閣諸島問題」に関する時系列

公の事実に基づいて筆者作成

2012年4月17日、東京都石原(元)知事は訪問先のワシントンにおける講演で、「所有者の同意を得て東京都が尖閣諸島を購入する予定である」と突然言い出して世界を驚かせた。これを受けて、当時の民主党政権であった野田政権の内閣官房長官は、「尖閣諸島について必要があれば(東京都ではなく)国が購入する可能性がある」と表明し、野田首相も4月18日の衆議院予算委員会で「国有化についてあらゆる検討をしたい」と答弁した。

すると中国政府から激しい抗議が外交問題として燃え上がったのだが、8月15日に香港の活動家が尖閣に上陸し日本政府に逮捕されたことをきっかけに8月19日から中国各地で大規模なデモへと発展していった。

そのような中、9月11日に、それまで私有地であった尖閣諸島の3島(魚釣島、北小島、南小島)が、日本政府に20億5000万円で購入され、「国有化」が正式に決まった。

そのあとに中国で展開された反日デモの激しさは、まだ記憶に新しいものと思う。

同年11月、習近平(当時はまだ国家副主席)は第18回党大会で中共中央総書記および中央軍事委員会主席に選出されることになっていたのだが、このままでは党大会開催も危ぶまれるほど、天安門広場もデモ隊で溢れた。

当時の胡錦涛国家主席は、デモが「反政府」に向かい始めたとして強引にデモの鎮圧に出て、なんとか党大会を開催できたものの、中国はその代わりに中国公船を大量に尖閣諸島接続水域や尖閣諸島領海内に派遣した。こうでもしなければ、反日デモに参加した若者たちを黙らせることができなかったからだ。

一方、日本では政権交代が起こり、自公連立政権が誕生した。

◆中国、「親中の公明党が国交大臣になったので、これで安心」

2012年12月24日に安倍晋三氏が内閣総理大臣に選出され、26日に組閣が発表された。その前日の12月24日あるいは25日に、中国は一斉に「安倍は親中の政治家を入閣させるようだ 釣魚島問題(尖閣問題)の情勢を緩和させたいのだろう」という見出しで、公明党の太田昭宏氏が国土交通大臣に指名されるだろうことを「喜び」を以て報じた。

中国共産党の機関紙「人民日報」の電子版「人民網」や「人民日報」傘下の「環球時報」の電子版「環球網」をはじめ、中央テレビ局CCTVもニュースの時間に取り上げている。

中国の主張は概ね以下のようなものだ。

――日本のメディアによれば、自民党総裁の安倍晋三は26日に組閣される新内閣で、自民党と連立を組む公明党の前党首太田昭宏を国土交通大臣に指名すると内定したとのこと。太田昭宏は親中の政治家で、しかも国土交通大臣の職位は、海上保安庁を主管するので、これは釣魚島(尖閣諸島)問題で悪化した日中関係を緩和させるための措置と位置付けることができる。これにより安倍政権は中国との(事前の)話し合いを強化していくつもりだろう。

さすがに明確には書いてないが、まるで「これで尖閣問題に関して、中国はもう安心だ」と言わんばかりだ。

◆公明党が国交大臣になってから「日本は抵抗せず」

中国が喜んだ通り、自公連立政権においては、ひたすら公明党議員が国交大臣になり続けている。

再び図表をご覧いただきたい。

2012年以来、まるで「国交大臣は公明党議員がなるもの」ということが決定事項であるかのように、公明党議員以外が国交大臣になったことがない。

だから、図表の右端2列をご覧いただくとわかるように、どんなに中国公船の月平均の尖閣諸島接続水域内入域隻数や領域侵入隻数が増えようと、日本政府は「遺憾である」という意思表明をする以外に、国家として具体的な阻止行動に出たことがない。

もちろん海保は必死だろうが、そしてもっと果敢に動きたいと思っているだろうが、国交大臣からの指示がなければ海保としても、それ以上のことはできない。

自民党としては、「連立を組んでいる公明党の大臣がそう言うのだから仕方がない」と、中国に遠慮した無為無策の対応への口実を見出すことが出来る。

そのために、わざわざ公明党議員を国交大臣にして自己弁護をするのである。

中国にとっては、こんなに喜ばしい内閣はない。

ウイグル問題に関する制裁を可能にするマグニツキー法も、二階元幹事長以外に、何と言っても公明党の反対に遭い、成立させることが出来なかった。

野党に政権交代されたくはないと中国は思っているだろう。 

しかし「中国に歓迎され、喜ばれる内閣」とは、どういう内閣なのか?

それが日本国民の利益に適うのか?

誰が考えても答えは自明だろう。

尖閣諸島の接続水域や領海内に侵入する中国の不法行為は常態化している。

それでも日本の最大貿易国である中国に実際には何もできないのが日本だ。

対中強硬的な発言だけをして、また対中強硬策を実施するための新しい大臣を任命したりなどしているようだが、国交大臣に公明党を据えている限り、残念ながら岸田内閣の対中友好姿勢は変わらないであろうことを憂う。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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