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東京五輪開催に反対する人は反日なのか?
安倍晋三前首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
安倍晋三前首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

安倍前首相が月刊誌で「反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対している」と言っているが、そうだろうか?反対しているのは主としてコロナ感染が広がり日本人の命が脅かされるのを心配しているからではないのか?偶然、同月号に厳しく中国を非難する論考を書きながら、一方ではコロナ禍での東京五輪開催には反対している者として私見を述べたい。

◆安倍前首相の主張

安倍前首相が月刊誌『Hanada』における対談で、「東京五輪を政治利用する野党に向けた発言」という流れの中で、以下のように言っている。

――極めて政治的な意図を感じざるを得ませんね。彼らは、日本でオリンピックが成功することに不快感を持っているのではないか。共産党に代表されるように、歴史認識などにおいても一部から反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対しています。朝日新聞なども明確に反対を表明しました。(引用ここまで)

野党が東京五輪(東京オリンピック・パラリンピック)開催に反対しているのは、「菅政権を引きずり降ろすために、五輪を政治利用している」のであって、これは「極めて政治的意図」に基づいたもので、共産党(遠藤注:日本共産党)や朝日新聞などの「反日的人たちが五輪開催に強く反対している」と言っているという流れになっている。

たしかに一部の党派やメディアが歴史認識において日本を誤導し、結果反日的となっていることは否定しない。しかし627日のコラム<河野太郎の父・河野洋平等が建党百年に祝電――中国共産党万歳!>にも書いたように、自民党の中にも「河野談話」といった歴史的に反日的論説を述べ、世界的に大きな影響を与えている人もいるので、党派で決めるわけにはいかないかもしれない。

私はたまたま同月号に<米中「悪魔の密約」ウイグルジェノサイド>という、極めて強く中国を批判する論考を掲載して頂いているので、同じ雑誌で安倍氏がこのようなことを仰っておられることに関しては興味を抱く。

月刊誌『Hanada』は、日本の国益に沿う内容であるならば、さまざまな角度からの主張を広く網羅するという寛容さがあり、同じ雑誌の中で真逆の主張であっても、同時に掲載されている場合も頻繁に見受けられる。私はこの編集姿勢を高く評価しているし、特に担当編集者の強い正義感と公平さには頭が下がる。

この視点を基本とした上で、以下の論考を展開する。

◆私が東京五輪開催に反対する理由

私自身はコロナ禍における東京五輪の開催には反対だ。

一つには、開催すればコロナ感染が拡大することは十分に予測されることで、日本人の命がより多く失われることが懸念されるからだ。

私の友人のご親族はコロナに罹ったが高齢のために入院させてもらえず、すなわち入院患者のベッド数が足りないので命の選択をされてしまい、亡くなられた。

このように医療資源が逼迫している中、五輪選手やその関係者のために多くの医者や看護師が動員され、そうでなくとも足りなくなっている日本の医療資源を奪っていく。

ワクチンに関しても日本では他国に比べて出足が遅かったために、今も行きわたっておらず、自治体などの接種体制は準備されてもワクチンがないために接種ができない状態が続いている。その数少ないワクチンを、五輪関係者には優先的に配分していくというのは、やはりある種の命の格差化で非人道的である。だから反対している。

これは反日とか親日といった政治的感情とは全く別の問題だ。

次に反対している理由は、政治的判断に属するかもしれないが、それは「反日とは真逆」の判断であり、「中国に有利になるので、日本の国益を優先すべきだ」という考えに基づく。

なぜなら中国が東京五輪開催を支援する裏を知っているからだ。

そのため、たとえば5月28日にはコラム<バッハとテドロスは習近平と同じ船に:漕ぎ手は「玉砕」日本>を書き、また5月26日にはコラム<バッハ会長らの日本侮辱発言の裏に習近平との緊密さ>などを書いて、コロナ禍における東京五輪開催に反対してきた。

もし東京大会が開催されないことになれば、それはコロナのせい以外の何ものでもないので、当然のこととして、最初に武漢のコロナ感染の外流を防げなかった習近平に責任追及の矛先がいく。

その理由に関しては2020年1月31日のコラム<習近平とWHO事務局長の「仲」が人類に危機をもたらす>や2020年1月24日のコラム<新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?>で書いた事実があるからだ。

もし日本が東京五輪を開催すれば、習近平は非難を免れ、おまけに北京冬季五輪のボイコットを日本が叫べなくなるので、習近平としては何としても東京五輪を開催してほしいのである。

そういう視点からも、コロナ禍における東京五輪の開催には反対している。 

◆毎日新聞などの報道

一方、毎日新聞などは安倍氏の「反日的な人が五輪開催に強く反対」という所だけを切り取って報道している

見出しを書くときにはどうしても短く一部分だけを切り取らざるを得ないのは(私自身も最も苦労するところなので)十分に理解できるが、その見出しが誤解を招き、逆に政治利用されているような側面も否めない。よく読めば、毎日新聞の本文ではきちんと「具体的には共産党や5月の社説で中止を求めた朝日新聞を挙げた」と書いてはある。

多くの週刊誌も安倍発言をさまざまな角度から非難しており、その際、毎日新聞同様、「一部を切り取っている側面」は、否定はしない。しかし、これだけ多くの人たちが毎日新聞や多くの週刊誌の主張に賛同の意を表すのは、安倍氏自身に問題があるからではないだろうか。

◆安倍氏こそ親中により日本国民の利益を損ねている

私はもともと安倍首相の支援者だった。どちらかと言うと心から支援していた。

しかし2018年以降、自分を国賓として中国に招聘してもらうために二階幹事長に親書を持たせて習近平に会わせ、一帯一路協力を交換条件として国賓としての訪中を成し遂げたあたりから支援できなくなっていた。特にその見返りに習近平を国賓として日本に招聘するという約束を習近平と交わしてからは、「絶対に反対である」という考え方を揺ぎないものとして貫いてきた。

田原総一朗氏との対談『日中と習近平国賓』という本を出版して猛反対したほどだ。

田原氏は対談で、田原氏ご自身が二階幹事長や当時の安倍首相に「習近平を国賓として招聘するよう、私が進言しました」と述べ、「中国とは仲良くすべき! 何が悪いんですか?」をくり返された。向かう私は「「習近平を国賓として招くべきではない! 」」として、習近平の国賓来日がなぜ日本に不利益をもたらすかを主張し続けた。

これがあるから現在の菅政権がG7とともに「対中包囲網」を形成しようとしても内実は非常に緩く、実際にやっている政治は「親中的」なので、中国に有利な状況をもたらしていると多くのコラムに書き続けている。

7月2日のコラム<中山服をトップのみが着るのは中国政治の基本:建党100周年大会の構成と習近平演説を解剖>においてさえ、末尾部分で「あまり効力の高くない対中包囲網だとすると、アメリカは結局、中国人民の党への忠誠心を増強させる結果を招くだけになる。一党支配体制強化につながるのだ。だから私は日頃から、バイデン政権の『実際には効力のない、表面上の対中包囲網』に対して警鐘を鳴らし続けているのである」と書いたほどだ。

こういった視点に基づく主張は首尾一貫しており、2020年2月20日のコラム<習近平国賓訪日への忖度が招いた日本の「水際失敗」>や2020年3月6日のコラム<今さら!水際、中国全土を対象――習近平国賓来日延期と抱き合わせ>あるいは3月9日のコラム<コロナ禍は人災>などを書いてきた。

安倍氏は体調を崩されて退任なさったので、もう責任追求はやめておこうと思っていたのだが、今般、このような発言をなさっているのを見ると、何も反省しておられないし、事態が分かっておられないというのを痛感して考えを述べた次第だ。

もっとも、私は同じように反対しているからと言って、野党とは全く考えを異にする者なので、政治利用はしないようにして頂きたい。

結論から言えば開催を反対している者の中には反日的な人もいるかもしれないが、開催に反対している人が「反日」とは限らないということである。しかも「反日」という表現も適切でなく、「反政府」ではないのだろうか。

自民党の今のやり方に反対したら「反日」だというのでは、まるで香港で「国安法」により多くの「反香港政府者」を逮捕させている習近平のようで、これは民主主義社会の考え方ではないということになる。

私たち日本人は、普通に日本人の命を守ろうと思う権利を持っている。

そのことだけは警告しておきたい。

(なお、本論とは外れるが、ウイグル問題に関して制裁できる根拠となるマグニツキー法を今国会で審議さえさせなかったのは、自民党の二階幹事長周辺や公明党という与党であることを付言しておく。これが親中でなくて、何であろう!これこそが「反日」ではないのか?)

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.