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今さら!水際、中国全土を対象――習近平国賓来日延期と抱き合わせ
2020年3月6日
新型ウイルス肺炎巡り記者会見で演出する安倍首相(写真:ロイター/アフロ)
新型ウイルス肺炎巡り記者会見で演出する安倍首相(提供:ロイター/アフロ)

安倍首相はようやく中国全土からの入国者全員を規制すると決断した。なんと、習近平国賓来日延期発表と同じ日にだ。今や中国での湖北以外の感染率はほぼゼロに近い。韓国まで抱き合わせる安倍政権の失政を考察する。

◆中韓からの入国制限

安倍首相は3月5日、新型コロナウイルス肺炎(新型コロナ)対策本部の会合で、中国と韓国からの入国者全員に対して政府指定の施設などで2週間待機することを要請し、中国と韓国にある日本大使館などが発行したビザの効力も停止すると表明した。期限は今月一杯とのこと。

それも「要請」であって「強制力は持たない」と厚労大臣は6日に説明している。

発行済みのビザの効力を停止するということは入国を拒否するということで、表現が二重になっているように見えるのは、中国や韓国からの入国者の中にはビザが要らない日本人や再入国外国人が含まれているからだろう。

また、中国と韓国からの航空便は到着空港を成田空港と関西国際空港に限定し、船舶は旅客運送を停止するように要請した。

安倍首相は早くから「やれることは何でもやる」と言っていたが、「やるべきことを、やるべきタイミングで全てやらなかった」と言っても過言ではない。

そのことは2月20日付のコラム<習近平国賓訪日への忖度が招いた日本の「水際失敗」>や3月1日付のコラム<中国人全面入国規制が決断できない安倍政権の「国家統治能力」>で書いた通りだ。

◆「湖北省以外の新規感染数はほぼゼロ!」になってから

以下に示すのは3月4日に「中国国家衛生健康委員会」が発表した新型コロナ新規感染者増加数の推移である。さまざまなデータがあるが、その中から「湖北省の新規感染者数」と「湖北省以外の新規感染者数」の対比を抜き出したグラフを遠藤が日本人に見やすいように再編集したものである。

これをご覧になると分かるように、最近では日々の新規感染者数は湖北省以外の中国全土で急激に減少しており、ここ数日では1日4人から20人程度になっている。

この状況に入ってから、「私は果敢にも中国全土を対象とすることにしました!」と言われても、ただ単に安倍首相の決断力演出以外の何ものでもなく、いかに時勢を見る目が欠如しているかを露呈するのみだ。

◆習近平国賓来日延期と抱き合わせ

決断しないよりはした方がいいかもしれないが、見え見えなのは、この水際決断発表が、なんと、「習近平を国賓として日本に招聘する時期を延期しました」と発表した日と同時に行われていることである。

多くの見識者や自民党内部からの反対もあり、安倍首相としては習近平を国賓として招くことが自分に有利に働かないことを認識し始めたであろう。

しかし、習近平に忖度して初動の水際対策に失敗しながら、今もなお国賓招聘は諦めず、延期などと考えている時点で、安倍政権の感染対策は必ず失敗する。重んじているものが違うからだ。

その証拠に、習近平のご機嫌を損ねないように、中国側が日本を感染警戒国としてマークし、山東省威海市や江蘇省蘇州市だけでなく、北京市、上海市、あるいは広東省の広州市や深セン市などが軒並み日本からの渡航者を自宅または指定施設で隔離する方針を取り始めたのを見てから、やっと「これなら習近平に嫌がられないかな」とばかりに「中国全土」に対象を広げたという「遠慮ぶり」なのである。

◆「韓国も抱き合わせだから許してね」というシグナル

たしかに韓国の発生率は急増しているものの、ここまで習近平に忖度しながら、どうやら韓国には相談もせずに突如この度の水際対策を決定したらしい。

既に多くの日本のメディアで報道されているが、たとえば3月6日付けの読売新聞は<韓国、日本の入国制限に「防疫と違う意図があるのでは」…対抗措置を示唆>という見出しで韓国側の不満を伝えている。

入国規制を中国全土に広げるのに、韓国まで巻き添えにしないと「習近平に申し訳が立たない」と安倍首相は思っているらしい。

強い者には跪(ひざまず)き、弱い者には強く出るという安倍政権の特徴が如実に表れており、この精神は変わらないのだから、今後も同様の「日本国民の命や安全を軽視し、習近平への忖度を重んじる」決定は続くだろう。

◆中国の「シャープパワー戦争」に「敗戦した」安倍政権

私たち日本国民はあの民主党政権時代への激しい失望から、安倍晋三氏を頂点とする自民党(実際は自公)政権に期待し、安倍首相にエールを送ってきた。

しかしそれは安倍首相が習近平を国賓として招聘すると決断したその日から崩れ始めた。

いま日本を恐怖のどん底に追いやっているのは、安倍政権のこの決断がもたらした災禍なのである。それを根本的に反省しない限り日本の悪夢は続く。

3月5日付けのViewpoint<コロナ禍招いた中国共産党体制、習主席の国賓来日は論外>で書いたように、安倍政権を陥落させたのは中国のシャープパワーである。日本の政権与党や経済界の要人、あるいはジャーナリストの論客を墜としていけば安倍政権は墜ちるという中国の強(したた)かな国家戦略がもたらしたものだ。

安倍政権は中国のその「シャープパワー戦争」に「敗戦した」のである

それが今日の日本であることに気が付かなければならない。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.